社会対話

国境横断的社会対話専門家会合

 2013年のILO総会で行われた社会対話に関する反復討議の結果として採択された決議の中で、ILOは国境を横断する社会対話に関する専門家会議を開き、今日の経験、課題、趨勢、そしてILOの役割と付加価値について分析することを求められました。2016年のILO総会におけるグローバル・サプライチェーン(世界的供給網)におけるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する一般討議の結論でも、国内及び国境横断型の実効的な社会対話を促進し、その有効性と影響力に関する調査研究を行うことを求められました。さらに、2018年のILO総会で再び行われた社会対話に関する反復討議では、国境を横断する社会対話の重要性が繰り返し強調され、採択された結論では、グローバル・サプライチェーンの脆弱な労働者のニーズに重点を置き、国境を横断する社会対話を可能にする環境を提供するよう加盟国に対して呼びかけが行われました。ILOに対しては、とりわけILOが提供する知識と調査研究に基づいて行われる国境横断的な社会対話を通じて国際的な環境でより強力な役割を演じることが求められました。このような複数の総会決議を受けて、ILO理事会は、政労使各側8人ずつの専門家が出席し、国境横断的な社会対話のイニシアチブを特徴付けている現代の経験、課題、趨勢、そしてILOの役割と付加価値を分析すると共に、この分野におけるILOの今後の活動についての手引きを加盟国政労使から受けることを目的とした会合を開くことを承認しました。

 国境横断的社会対話の用語は、国際社会対話、グローバル社会対話、国境を越えた団体交渉など、様々な言葉で呼ばれている、一国の領域を越えて行われている複数の政労使間の対話を総称しています。このような社会対話は決して新しいものではありませんが、グローバル化と地域統合の進行に応える形でその余地と機会が増してきています。

 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」、ILOの「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業行動指針」など、多くの権威ある国際文書がサプライチェーン全体にわたるものなど、あらゆる形態の対話を推進しています。欧州連合(EU)を始めとした地域内における国境横断的社会対話も増大し、機構として確立されてきています。労働関連規定の実施において国内の労使団体との協議を想定する二国間・多国間貿易協定も存在します。主要20カ国・地域(G20)など国家間の取り決めの枠内で行われている国境横断的社会対話も見られます。

 ビジネスと人権に関する指導原則が定める、人権への影響評価などの人権デュー・ディリジェンス(相当なる注意)の考えは他の文書にも取り込まれ、フランスなど国内法にこれを反映している国も出てきています。こういった公的活動と並行して、多国籍企業を中心とした多くの企業が企業の社会的責任(CSR)や私的な遵守の取り組み(PCIs)などの名の下で、法令遵守や倫理的行動基準を確保するための様々な任意の取り組みを開始しています。多くの場合、この過程には幅広い利害関係者との協議が含まれますが、これらとは一線を画するものとして、個々の企業レベルでは、日本でもミズノ、高島屋、イオンなどが締結していますが、国際枠組み協約(グローバル枠組み協定)または地域枠組み協約といった、国境を越えた社会対話の仕組みも存在し、その数も内容も豊かになってきています。

 討議資料として作成された『国境横断的社会対話』と題する報告書は、第1章「背景説明」、第2章「多国間文書と国境横断的社会対話」、第3章「地域経済共同体、二国間・多国間貿易協定、地域間の取り決めに見られる国境横断的社会対話」、第4章「国境を越えた企業協約を通じた国境横断的社会対話」、第5章「企業の社会的責任、私的な法令等遵守の取り組み、国境横断的社会対話」、第6章「結びのことば」の6章構成で、このような様々な形態の国境横断的な社会対話を紹介しています。日本政府の任意資金拠出を受けてベトナムで実施された、ILOの多国籍企業宣言の適用を通じて国境横断的なものも含む社会対話の活用によるディーセント・ワーク欠如の是正に向けた取り組みなど、事例も複数紹介されています。


詳しくは会議のウェブサイト(英語)へ---->
国境横断的社会対話専門家会合