ILO基調講演ビデオ(日本語字幕)と、メッセージ文(日本語)のご案内

2018年ILO・労働CSRセミナー報告

ニュース記事 | Tokyo | 2018/03/07
3月6日に開催されました、「ILO・労働CSRセミナー: ILO多国籍企業宣言の改訂~アジアのサプライチェーンと企業・労使の対応~」は、多くのみなさまのご参加を得まして終了いたしました。今回のセミナーに向けてILOジュネーブ本部よりビデオメッセージによる基調講演をいただきました、ヴィック・ヴァン・ヴューレンILO企業局長によりますメッセージ動画を紹介いたします。ぜひご覧ください。

ヴィック・ヴァン・ヴューレンILO企業局長ビデオメッセージ


当日の会場、国連大学本部ビル1階 アネックススペース








ビデオメッセージ(日本語訳)

ジュネーブのILO本部からご挨拶申し上げます。ご承知のとおり、ILOは雇用と労働の問題を専門に扱う国連機関です。

私はヴィック・ヴァン・ヴューレンと申します。私が局長を務めている企業局では、持続可能な企業の発展を通じて、より多くのより良い仕事を確保することを任務としています。今回のILO労働CSRセミナーで皆様にお話できることを嬉しく思います。

グローバル・サプライチェーンにおいてディーセント・ワークを推進することは、持続可能な発展と包摂的成長の達成を後押しする一方で、最も複雑で難しいCSR分野の1つでもあります。

日本企業を初めとして、世界的に競争力のある企業の間では、生産的かつ効率的な経営のために労使の協力が不可欠であり、労働者の権利を尊重できる体制を整えることが重要という理解が進んでいます。

しかし、活動が他国へと及ぶ際には、課題が生じることもあります。例えば、日本企業がベトナムに生産拠点を構える場合には、法律、言語、慣習、さらに文化が異なってきます。

グローバル・サプライチェーンでは、こうした課題はますます複雑化します。仕入先との取引における情報量や統制の範囲には限界がありますが、これはサプライヤーが世界規模に拡大した場合にはなおさらです。

•    信頼性の高い情報を得るためには費用がかかります。
•    そうして得た情報の解釈の仕方は必ずしも明確ではありません。
•    問題解決の方法に関するサプライヤーとの話し合いは、繊細な問題を孕むことが多々あります。
•    改善のための費用を誰が負担するかについて交渉することは容易ではありません。
•    そして、異なる文化や言語に加えて、不慣れな法制度や現地の慣行のもとで社会的責任を管理しようとすると、先に挙げた問題はいっそう複雑化します。
•    そしてサプライチェーンの川下では、企業が生産に関わる下請業者や原材料の生産者と直接的な取引関係を有していないため、状況はますます不透明になります。

CSRの抱える大いなるジレンマは、企業は時に、プラス効果を発揮できる可能性が高いほど、それゆえに自らがほとんど直接コントロールできない部分について行動を迫られるプレッシャーも高まるという点です。

ILOは2016年の国際労働総会における議論で、グローバル・サプライチェーンにおいてディーセント・ワークを生み出すための機会と課題を取り上げました。総会の結論   では、数多くの多国籍企業が自社の管理するグローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークに大きく貢献している一方で、とるべき対策の実行が大幅に遅れている企業も多数存在していることを指摘しました。また、多少の進展があったとしても、ディーセント・ワークの不足は引き続き深刻で、特に結社の自由と団体交渉に関して問題がありました。

重要な点として、この総会の結論では、こうした(ディーセント・ワークの)不足の責任は企業が単独で負うものではなく、企業が第一次的に責任を追うものではないということも指摘しています。多国籍企業は、ILO多国籍企業宣言で示されている指針に基づいて行動を起こす必要があり、その力もあります。この指針は、多国籍企業やその他の企業の社会的責任について取り扱うILOの文書です。しかし、他方であらゆる政府が、その主権領域内のすべての労働者の権利を尊重するために、今よりも活動しなければならないのです。この中には、経済特区とも呼ばれる輸出加工区も含まれています。

輸出加工区   は、発展途上国と先進国の双方で、仕事の創出、技能開発、技術移転、工業化及び経済成長の原動力となっています。世界には5,000を超える輸出加工区が存在しており、その半数はアジア、特に中国、インド及び東南アジアに所在しています。

輸出加工区に所在する企業は、公式(フォーマル)経済の中で活動しており、若者、特に若い女性に公式な雇用への足掛かりを生み出すことが多くあります。それでも、労働者は一般に、団結権の行使に障壁を感じ、反組合的な差別待遇にも直面しています。団体交渉も依然としてあまりありません。女性労働者は職場でのハラスメントや差別の危険にさらされています。一部の事例では、労働者は賃金支払いの遅れや解雇時の未払いを経験しているほか、法律上の社会的保護が現実には必ずしも実現していないという事態にも直面しています。労働時間も長時間に及ぶ傾向があり、多くのノルマにより仕事のペースが激しさを増していることで、労働者の事故や負傷の危険が増加しています。強制的な残業が存在していることもあります。非標準的雇用形態が、労働者の権利を損なうこともあります。

輸出加工区に関して起こっていることは、発展途上国の政府が往々にして二者択一を迫られていると感じていることです。第一に経済発展、とりわけ工業化に焦点を当てるべきか、あるいは最初に、労働者の権利を含む社会の発展に力を注ぐべきだろうか、という選択です。実際にはこれが誤ったジレンマであるということを示す証拠がいくつもあります。経済と社会の発展は、両立し得るものなのです。しかし旧来型の思考は根深く、特に産業や財務を担う省庁が輸出加工区の設置を担当し、外国からの投資を促進しようとしている場合、労働を担当する省庁の出番はほとんどありません。

ILOは使用者、労働者及び政府の技術的専門家を一堂に集め、輸出加工区で経済的・社会的影響の双方を向上させる方法について議論しました。そこで専門家が確認したのは、企業の発展と労働者の権利の尊重は、互いを強化する関係にあるということです。そしてILOに対して、輸出加工区の設置と運営に当たって、政府と社会的パートナーを支援するための活動を増やすように要請しました。この例として、研究、政策提言、訓練及び政労使三者間での社会対話を促進する活動が挙げられました。

発展途上国には、日本の工業化、社会対話及び建設的な労使関係の成功の歴史から学べることが数多くあります。輸出加工区は日本の産業政策の不可分な要素となっており、日本の製造業のサプライチェーンの重要な特徴でもあります。さらに、日本政府は例えばミャンマーなどの海外で、新たな輸出加工区の設置を支援しています。

ILOは、政府、使用者及び労働者団体(経団連及び連合)を通じて、皆様の知識と経験を必要としています。そしてこれを輸出加工区の開発とグローバル・サプライチェーン全般の双方におけるディーセント・ワークの実現のための、政策提言と訓練ツールを開発する上で役立てたいと考えています。

これはまた、日本の政策決定者と多国籍企業にとっても、輸出加工区の開発とグローバル・サプライチェーンの管理に関して、他国の政府や多国籍企業の経験を学び、参考にすることで利益を受けることにつながると思います。

ILOは、日本政府がILOと日本企業との間でこれまで培った素晴らしい協力関係を高く評価しています。そしてこうした協力が継続することを願っています。

輸出加工区とグローバル・サプライチェーン全般の双方に関して、多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)は、企業が労働者の権利を尊重し、経済と社会全体の発展に貢献する上での指針となるものです。この宣言はまた、企業がディーセント・ワークと持続可能な開発全般に貢献しやすい環境を整える方法に関する政府の役割にも言及しています。

多国籍企業宣言で打ち出されている原則は、国際労働基準に基づいており、雇用、訓練、労働・生活条件及び労使関係に関する指針を提供しています。

多国籍企業宣言は2017年に改訂され、持続可能な開発目標(SDGs)を組み込みながら、社会と経済の発展に対する企業の積極的な貢献を最大化するために、企業が「法令遵守を超えて」前進することを促しています。

この改訂ではまた、様々なフォローアップの仕組みも取り入れています。日本企業にとって特に関心と関連性が高いと思われるものとして、ILOビジネスのためのヘルプデスク、企業・労組間対話及び各国担当窓口(ナショナル・フォーカルポイント)が挙げられます。

国際労働基準に関するILOビジネスのためのヘルプデスクは、無料かつ相談内容非公開のサービスで、企業の活動が国際労働基準とよりよく整合する方法に関して情報と指針を提供しています。日本企業の方々は、ヘルプデスクに直接アクセスして情報を得ることもできますし、英語による問い合わせも可能です。日本語をご希望であれば、ILO駐日事務所のホームページをぜひご覧ください。ここではヘルプデスクのツールやその他の情報を分かりやすく日本語でご紹介しているほか、よくある個別の質問に対する日本語での回答も掲載しています。

企業・労組間対話の手続では、企業と組合が互いの懸念事項を議論する際に、中立的な場と技術的支援を提供します。

各国担当窓口(ナショナル・フォーカルポイント)は、多国籍企業宣言の原則を国レベルで積極的に促進するための各国別の三者構成機関です。各国担当窓口が行う活動には、政府省庁、多国籍企業及び労使団体間における多国籍企業宣言の原則についての意識向上、能力構築イベントの開催、並びにオンライン情報と対話プラットフォームの開発が挙げられます。

ここで、輸出加工区で活動する多国籍企業が圧倒的多数を占めるセクターにおいて、ユニークな協力関係を築くために、多国籍企業宣言を運営上の指針枠組みとして使用した事例を1つご紹介したいと思います。

日本政府の協力の下、ベトナムの電子産業における「More and Better Jobs through Socially Responsible Labour Practices (社会的責任ある労働慣行による、より多くのより良い仕事の創出)」プロジェクトでは、2面的アプローチ、すなわち企業の責任に関して企業とともに対話を行い、同時に労働監督を中心とした政府の労働行政を強化するというアプローチをとり、ディーセント・ワークを推進しています。

2017年10月、ベトナムの使用者団体と業界団体のイニシアティブとして、ILOの支援を受けて、「社会的責任ある労働慣行を促進するためのベトナム電子機器企業連合」が設立されました。この連合は、ベトナムの電子産業での生産性、競争力及び収益性を向上させるための新たなイニシアティブを例示して紹介することで、多国籍企業が社会的責任ある労働慣行を通じて、経済と社会の発展に積極的に貢献することを促しています。

こうした多国籍企業には、このセクターで果たす役割の重要性に加えて、長期的に持続可能な開発と包摂的成長にいっそう貢献できる多国籍企業ならではの潜在力があります。これらを認識した上で問題となったのは、「持続可能な」企業が、どのようにして、社会的責任ある労働及びビジネス慣行を通じて、ベトナムの電子産業においてより多くのより良い仕事を創出しつつ、同国の全体的な競争力を引き上げて維持できるかという点です。

サプライヤー企業の能力構築と法令遵守を促すことを多国籍企業が力強くコミットした理由は、多国籍企業にかかる社会的責任のプレッシャーが増したからではありませんでした。むしろ、日常的な対話から生まれ継続していたサプライヤーとの関わり合いこそが、多国籍企業のサプライチェーン全体の競争力向上の源泉の1つとなっていたからです。そしてこれはまた、社会的責任ある労働慣行と企業業績が両立可能であることを明確に実証していました。

ベトナムにおける社会的責任ある労働とビジネス慣行の模範事例として、多国籍企業、現地企業、そして労働者のいずれにとってもウィンウィン(win-win)な解決策を示したのは、日本の多国籍企業でした。ILOの研究では、労使の信頼関係構築と、対話の結果へのコミットに関して、本日登壇される企業の1つであるパナソニックの事例を調査しました。多国籍企業と現地企業との間でのこうした調和のとれたビジネス関係こそ、本質的に多国籍企業宣言が促進しているものであり、ILOがその拡大を願っているものです。また、先程の新たなベトナムCSR企業連合が、開発における協力とウィンウィンの取り組みの成功事例を共有するプラットフォームになることも期待しています。

企業、セクター、各国レベル、そして多国籍企業の本国と受入国との間で継続的に対話を進める中で目標となるのは、ディーセント・ワークを推進して持続可能な開発と包摂的成長を促すために、あらゆるステークホルダーの力を取り入れてウィンウィンの状況を生み出しやすくすることです。本日のセミナーはこの取り組みに当たって重要な道標になると考えています。

ILOは、日本の政労使の方々のほか、日本及び海外のその他のパートナーと継続的に関わることを楽しみにしています。ILOは皆様のお役に立つために、常に最適な支援と協力の方法を見いだそうとしています。そして近い将来に、皆様と直接関わる機会があることを心待ちにしています。本セミナーの成功をお祈りしています。