部門別会議

外国人漁業者関連問題三者構成会議

 漁業労働条約(第188号)勧告(第199号)が採択された2007年の第96回ILO総会では、4本の付帯決議が同時に採択されました。この一つである漁業者の福祉推進に関する決議は、十分な社会的保護及び社会保障の全ての人への提供は全世界的に受け入れられている開発目標であることを認め、漁業の特殊な性格と漁業従事者は特別の保護を要するとの事実を認識し、外国人漁業者に係わる問題などの漁業に関連する社会問題を事業計画・予算の一部として、費用効果的な形で適宜検討することを理事会を通じて事務局長に求めています。

 この決議に部分的に応える形で開かれる標記の会議には、労使各側代表各8人と37カ国の政府代表が参加して事務局の準備した討議資料『Decent work for migrant fishers(外国人漁業者のディーセント・ワーク・英語)』をたたき台に、自らが国籍または永住資格を有する国以外の船籍を有する漁船で働く、被用者と自営業者の両方を含む漁業者と定義される外国人漁業者に係わる問題を幅広く検討し、結論と決議を採択しました。日本からも労働者代表の一人として、全日本海員組合の高橋健二水産局長が参加しました。

 外国人漁業者のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の促進に関する結論文書は、移民労働者が強制労働のリスクや詐欺的な人材募集・斡旋などのディーセント・ワークの深刻な不足に直面する可能性が高い事実を認め、問題に効果的に取り組むには、問題の特定と実地調査のみならず、その根本原因の完全な理解が緊急に必要として、漁業における就労に係わる基本的な原則と権利の確保、例えば海上における安全に係わる法的要件や労働規定に沿っていない漁業政策、法律の定期的な監視や違反者に制裁が課されない場合が多いこと、多くの漁業者による人材斡旋・採用手数料の支払い、漁業者の権利を保護する役割を有する主要機関間の調整不足などの改善の余地がある分野を指摘した上で、外国人漁業者が直面するディーセント・ワークの不足に取り組む上で社会対話がいかに寄与するかを示し、ILO、政府、労使団体その他に対し、今後の行動を提案しています。漁業部門の政労使に対しては、外国人漁業者がディーセント・ワーク不足の可能性に対して弱いことの啓発などを、旗国、寄港国、労働力の送出国及び受入国、沿岸国、市場国に対しては、団結権、団体交渉権を含む外国人漁業者の就労に係わる基本的な原則と権利の尊重などを、ILOに対しては、「強制労働、現代の奴隷制、人身取引、児童労働の根絶に向けた世界的な連合(8.7連合)」において漁業部門に関するものを含み産業部門毎の取り組みを行うことなどを提案しています。

 外国人漁業者に係わる問題に関する決議は、多数の外国人漁業者が虐待に弱いことや移動の制限など、強制労働存在の可能性を指し示す手がかりに分類できる非難されるべき取り扱いを受けている現状を認めた上で、ILOに対しては、漁業部門における公正な労働市場関連サービス運営のため指針と一般原則の策定などを、加盟国に対しては、自国の漁業政策や第三国との漁場立ち入り協定が漁業者の研修と証明などに関する国際文書や国内法を考慮に入れるよう確保することなどを求めています。

 現在、漁業及び水産養殖業従事者は世界全体で5,660万人に上ると見られ、うち、捕獲漁業従事者は3,800万人と推定されます。世界人口の約12%の生活を支えている漁業ですが、従事者の9割近くが小規模漁業に従事しています。また、ILOの最新の推計では、世界全体で1億5,000万人を数える移民労働者のうち、11.1%近くが農林漁業に従事すると見られます。

 外国船舶における労働には、より高い給与や新たな技能・経験の取得、より良い労働条件などの利点もあるものの、募集・斡旋過程では、各種手数料の支払いや漁船所有者・使用者捜し、国外交通の手配など、船上では、差別や文化的・言語的問題、契約違反など、そして帰国後は、国内社会保障制度加入機会喪失などの問題に直面する可能性もあります。外国人漁業者のサービスを利用したいと考える漁船所有者側も、技能ミスマッチやビザ・就労許可の取得、言葉の違いなどの様々な課題を経験する可能性があります。

 準備された討議資料は、4章構成を取り、第1章で漁業の労働・生活条件を概説した後、第2章で機会や課題から許容できない労働条件や深刻な権利侵害まで外国人漁業者特有の問題を取り上げています。そして、第3章では第188号条約を中心とした国際労働基準や開発協力プロジェクトなどを通じたILOの、第4章ではILO以外の、外国人漁業者の保護に向けた活動事例を紹介しています。


詳しくは会議のウェブサイト(英語)へ---->
外国人漁船員関連問題三者構成会議