難民その他移動を強いられた人々の労働市場アクセス三者構成技術会議

 紛争や暴力、人権侵害などを理由として、故郷からの移動を強いられた人々は現在、世界全体で約6,100万人に達すると見られます。第2次世界大戦時に次ぐ多さのこの難民その他の移動を強いられた人々の中で、フォーマル(公式)経済の労働市場に参入する機会、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の機会、職場における満足いく雇用条件や権利保護を享受できている人はほんの少数に過ぎません。これらの人々の就労は法によって禁止されるか機会を制限される場合があり、何とか見つけた仕事も多くの場合、インフォーマル(非公式)経済におけるものになっています。このような不安定な状況はこれらの人々を差別的な行為に弱い立場に置き、強制労働や債務奴隷労働、児童労働といった、搾取や就労に係わる基本的な権利及び原則の否定につながる可能性があります。

 強制移動が経済や社会に与えている幅広い影響はこの課題に対する持続可能で適切な政策対応をいかに導くかに関する世界的な議論を引き起こしています。ILOでも2015年の第104回ILO総会におけるサイドイベント2015年秋の第325回理事会2016年春の第326回理事会の中でこの問題を検討しました。第326回理事会は、2016年9月に国連総会でこの問題に関するハイレベル会合が開かれることを見据え、これに対するILOからの情報投入の助けとなるような緊急会合を開くことを決定しました。

 政労使代表各8人が参加して開かれたこの会合では、国際労働基準や普遍的人権文書に含まれる関連基準に加え、現場で実施されている好事例についてのILO事務局の分析を基礎として、難民その他の移動を強いられた人々の労働市場へのアクセスに関する政策措置を導く原則を準備し、国内及び多国間における話し合いの場や対応に資することなどを目的として、そのようなILOの手引きを普及させ、実際的な効果を与える方法を提案することを目指して話し合いが行われました。会議では多数の難民を受け入れている加盟国の状況の多様性と相対的な危機対応能力、そして問題の複雑さを考慮に入れた検討が行われました。政府代表からは難民の再定着についてのものを中心とした、より公平な責任分担の必要性、そしてとりわけ労働市場への影響の点で最もニーズを有している加盟国を援助する十分な資金・資源の配分の必要性を巡る問題が提起されました。難民も支援する労働市場対応を策定する際に、ディーセント・ワークの機会を提供することによって自国労働者も保護し支援する必要性について関心が共有されました。たびたび留保を表明する政府代表もいましたが、国際的な対応に資するILOの手引きの重要性については認識が共有され、最終的に「難民その他移動を強いられた人々の労働市場アクセスに関する指導原則」が採択されました。指導原則は、A)労働市場のアクセスに関する統治の枠組み、B)包摂的な労働市場のための経済・雇用政策、C)労働者の権利と機会均等・平等待遇、D)パートナーシップ、協調、整合性、E)自主帰還と帰還民の再統合、F)追加的な労働力移動の道、の6節構成で、受入社会、難民、その他の移動を強いられた人々のニーズと期待を満足する対応の提供において加盟国を支援する諸原則を示しています。

 2016年11月の第328回理事会は、指導原則を含む会議成果物の刊行・普及をILO事務局長に許可するとと共に、9月に開かれた難民と移民に関する国連サミットのフォローアップの中でこの指導原則を活用することを提案しました。

 会議の背景資料として準備された報告書『The access of refugees and other forcibly displaced persons to the labour market(難民その他移動を強いられた人々の労働市場へのアクセス・英語)』は、4部構成を取り、第1部で難民及び移動を強いられた人々を巡る現状とその現象が提示する課題を検討する際の背景情報を示し、第2部で難民その他の移動を強いられた人々が労働市場に与える影響に取り組むILOの役割の背景となる規範や技術協力に関する情報を記した上で、労働市場へのアクセスと題した第3部で課題の診断、規範的な手引きの特定、好事例の例示を行い、以上の分析を踏まえて第4部で指導原則案を示しています。


詳しくは会議のウェブサイト(英語)へ---->
難民その他移動を強いられた人々の労働市場アクセス三者構成技術会議