年次総会(ジュネーブ・2016年5月30日~6月10日)

第105回ILO総会第5議題「平和、安全保障、災害に対する強さに向けたディーセント・ワーク」概要

会議文書 | 2016/06/06
1944年の雇用(戦時より平時への過渡期)勧告(第71号)の改正を検討する2回討議手続きに基づく基準設定の第1次討議である第105回ILO総会の第5議題「平和、安全保障、災害に対する強さに向けたディーセント・ワーク」の概要

第5議題「平和、安全保障、災害に対する強さに向けたディーセントワーク:1944年の雇用(戦時より平時への過渡期)勧告(第71号)の改正」

第5議題は、1944年に採択された第71号勧告を現代の危機の性質に適応させるべく修正を行うものであり、今回の第105回ILO総会において第一次討議が行われ、次回の第106回総会における第二次討議により勧告としての採択を目指すものである。

【新しい危機の背景と対応範囲の拡大】

ILO自体は、第一次世界大戦の原因を正すべく設立されたものであり、そして第71号勧告は、第二次世界大戦の終わりに採択され、ILOの対応をその戦争からの復興に向けさせた。しかし、第71号勧告の採択から70年以上が経過しており、国家間戦争とは異なる国家内部での紛争が紛争の中心になるなど、紛争の性質自体が変化し、今日の状況はより複雑なものとなっている。またILOが災害への対応を求められることもある。

さらに紛争状態に対する国際的な支援対応は、短期的な再構築を超えて、安定した社会、政府機関の構築、国家の調和の推進を目的とする。また、地震、津波、台風のような突発的な災害、干ばつ、壊滅的な衛生上の緊急事態のような遅発性現象においては、食料や医療支援などの迅速な人道支援が必要な一方で、そのような対応に限定せず、長期的な回復を促進し、そして支援への依存を避けるような方法で対応を構築することが重要である。このような危機の性質と内容の進化、そして対応の範囲の拡大が、第71号勧告の改正を導いた。

【紛争及び災害へのILOの対応:平和と強靭性(回復力、レジリエンス)のための雇用とディーセントワーク】

1944年に採択された第71号勧告は、第二次大戦後の混乱の中で、雇用に基づいた復興と再構築を通じて、平和と社会正義の推進のための役割を果たしたが、危機の性質の変化にも関わらず、この雇用に基づく取り組みは現在でも有用であり続ける。

紛争後などの環境では、不安定、不安全、貧困、不平等がその特徴として見られ、それは生計、収入源、職場、事業の破壊をもたらし、そして労働の分野において正義と適切な統治をもたらす機関の破壊につながる。また、社会的参画や適切な代表を欠くことから、一部の人々が意思決定の場から排除されるという問題もある。これらの要素が混乱と紛争をもたらし、紛争や災害などが、貧困、失業、インフォーマル雇用をさらに悪化させるというより深刻な脆弱性へとつながる悪循環をもたらす。

危機状況への対応として、ディーセントワークの実現と、児童労働、強制労働への対応、労働の分野での法整備、機関や手続きの強化を通じた政府の能力の向上などの多角的な政策の実行を通じた回復力の構築が、この悪循環を断ち切り、持続可能な経済と地域社会の構築のための基礎となる。またそこでは使用者と労働者を含む社会対話が状況改善の鍵である。

【国際的システムとILO】

過去15年間、ILOは、60以上の緊急状態にある国において、危機に見舞われた国におけるその重要な役割を飛躍的に拡大してきた。多くのILOの活動は、他機関との協力を通じてなされ、その際ILOは、専門家間のネットワークを構築し、得た知識を分配している。平和構築と社会経済の回復におけるILOの重要な役割は国際的な認知を得てきており、また、今日、平和とレジリエンス促進のための雇用とディーセントワークの重要性は疑いの余地なく国際社会において認識されている。

【危機対応における重点政策分野】

復興とレジリエンスのための雇用創出 危機状況においてILOが使用するアプローチは、収入保障と長期発展のための雇用機会の創出である。

教育、職業訓練、職業指導 長期化した危機状況の主な影響のひとつは、大部分の国民の学校や訓練課程へ参加する機会の喪失、就職のための数年の準備期間の喪失であり、これに対処するために教育制度の整備等の対応が必要である。

社会的保護 通常は政府のサポートに頼っている社会的保護の喪失は、紛争か災害によるものかに関わらず、危機状況のもっとも重要な影響のひとつである。特に老人、障害者、慢性疾患などを抱えた人々は、社会的保護の喪失によって大きな影響を受けることに留意する必要がある。

社会対話と使用者組織、労働者組織の役割 社会対話は、全ての分野でのILOの仕事の指導原理である。そして災害に対する準備と救済、復興においてもそれは同様であり、その活動が国民全体の要求を満たすためには、社会と経済の安定、回復、レジリエンスが社会対話を通じて促進されるべきである。また、危機状況の最前線に使用者と労働者の組織を関与させることにより、それらの組織の経験と特有の貢献を利用することができる。

労働法、労働行政、雇用サービス、労働市場情報 ディーセントワークの権利を補強するために、確実に労働立法が施行され適用されるようにすべきである。また、人々が、復興投資によって作り出された仕事の機会を得ることができるよう、強固な労働行政制度、そして緊急雇用サービスの設立が必要である。さらに労働市場の情報収集と照合作業を行う制度により、政府は、復興の過程において、資源や労力を適切に割り当てることができる。

(権利、平等、差別のないこと)危機状況においては、人権は極端に傷つきやすくなり、その保護の喪失は、平等の基本的観念の欠如から、労働者、使用者の権利の尊重の欠如、そして、強制労働や児童労働へと及ぶ可能性がある。危機対応においては、常に権利が尊重され、必要ならば修復されるようにすべきである。

難民、国内避難民、帰国者 紛争、災害のどちらによっても生じうる問題である。2015年の世界的な難民危機では、紛争によって非常に多くの人々が故郷から追いやられた。

【終わりに:第71号勧告の修正】

第71号勧告は、その基本的な目的は有効なままである一方で、強調されるべき点は、国家間紛争というものから、災害及び紛争からの復興の過程で直面する問題を処理するための方法へと変更されるべきである。第71号勧告の修正に関する最初の提案は、国家間紛争からの移行に専ら関連する条項の削除と修正であり、多くの場合、内紛、自然災害そして人災による、国家間紛争とは異なる種類の危機へとこれらの条項を置き換えることが必要である。また、第71号勧告採択当時、まだILOは人権組織として自らを見なしていなかったことから、人権の尊重もまた必要である。ジェンダーの平等に関するより現代的な関心を扱っていない第9章「婦人の雇用」の修正が必要である。また、少数民族、先住民、部族に対して特別な注意を向けた上での安定と経済の回復に言及がなされるべきである。使用者及び労働者の組織の設立と機能の強化をより積極的に促進することへの言及、そして今やILOの基本的概念である社会対話についての言及が第71号勧告では欠けている。最後に、第71号勧告では強制労働について言及がない。同勧告の採択当時、第29号条約(強制労働、1930年)が国家による強制労働に適用されると考えられたが、内紛においては、特に非政府的な存在によって強制労働がなされることが知られている。また今日のグローバル化された経済による影響、多国籍企業の復興における貢献が考慮されるべきである。