フィリピンの金鉱で働く児童労働への取組み

金の採掘場は僕の遊び場:金鉱での児童労働

小規模金鉱で働く労働者たちの労働条件を向上させつつ、気候変動や児童労働の影響に取り組むILOフィリピンのプロジェクトを紹介します。


2017531日 フィリピン・マニラ

家族の生計を支えるため、子どもたちは泥や水銀の中で砂金採りをします © ILO/M. Rimando

 

カマリネスノルテ州(フィリピン)は気候変動に伴い自然災害の危険性が高い地域です。毎年、強風と豪雨をもたらす台風は、洪水や土砂災害を引き起こし、人々は貧困に陥り、やむを得ず農業を離れ、小規模の砂金探しへと仕事を変えます。しかし金の採掘現場では、子どもたちも、暗い洞窟や深い穴の中で働いているのです。

このような泥と水銀から金を採る採掘場のひとつが、アーキーの遊び場です。11歳で初めて砂金の仕事を始めたころ、彼にって金を探すことは、楽しい、友達との遊び事にすぎませんでした。

ほとんどの子どもたちはカバンを背負って学校に行きますが、アーキーの背中は、45キロという、ほとんど自分の体重ほどの重さがある鉱石を背負うためのものです。1812時間も働いて、100ペソ(2米ドル以下)の収入しかありません。

「お金を稼ぎ始めた頃は、学校のことは忘れていました。はじめは、金鉱で働くことは楽しくて、友達とゲームや、泥を投げ合って遊んでいました」と話します。しかし、ある時、大雨で大きな土砂崩れが金鉱を襲いました。その結果たくさんの鉱山労働者が亡くなり、けが人もでました。今では、金鉱の仕事はまったく楽しいものではありません。怖い、つらい、苦しみにすぎません。

アーキーのように、ほかの子どもたちも、空気圧縮機を使った危険で、今は違法となっている採掘方法により、健康や生命の危機に直面しています。子どもたちは狭い入り口から無理やり穴に入り、やみくもに地面を奥深く掘って金を探します。水面下で働くことも多く、その際は地上からのディーゼルエンジン式空気圧縮機から送気ホースを介して送られてくる空気で、息をしています。穴は崩壊することもあり、子どもたちは有毒な化学物質にさらされることもあります。

家族経営の金鉱

三人兄弟で唯一の男の子であるアーキーは、家族を支えるしかほかに方法がありません。

金鉱で働くことは、アーキーと彼の家族にとって、何世代にも渡って受け継がれた、貧困を逃れるための生きる手段なのです。祖父も金鉱で働いていました。母親は14歳のときに砂金の選り分け法を学びました。

自分の子どもには同じ運命を背負ってほしくはなかったと母親はアーキーに言います。彼女は違う方法で収入を得る手段を探しました。販売、縫製、マッサージなど生活支援プログラムが提供する訓練にも参加しました。しかし金鉱はいまだに彼女の家族にとっての主な収入源であり、コミュニティーのほかの家族にとってもそうなのです。

裏庭の小規模金鉱 生活費を得るために必死で作業する家族 © ILO/M. Rimando

 

「貧困、脆弱性、災害、大人のディーセント・ワーク不足は、児童労働を引き起こす主な要因です。日々の食事や、家族が生きていくために最低限のものを揃える収入が十分にない家庭では、家族全員で生計を立てていかなければなりません」とILOフィリピン事務所長で、自身もアジアやアフリカ地域の児童労働問題に取り組むプロジェクトに係わってきたカリド・ハサン氏は言います。

小規模金鉱はフィリピンの金の産出量の約80%を占めています。およそ35万人の労働者のうち、18000人が女性や子どもです。ほとんどの事業がインフォーマルで不法に、貧しい家庭の裏庭などで行われています。

こうした金鉱での作業は子どもたちの健康や安全、成長に有害なものとなりがちです。彼らは長時間働き、水銀やシアン化物のような有害な化学物質にさらされています。重い荷物を運ぶため、これからの一生、体の変形や障害につながることもあります。水銀に過度にさらされると、腎臓や呼吸器系の衰弱、神経系の深刻な損傷、時には死に至ります。

児童労働の根本的な原因への取り組み

ILOはバン・トクシックスと協力して、児童労働問題に取り組み、小規模金鉱で働く労働者の労働条件の向上を図るためのケアリング・ゴールドプロジェクトを立ち上げました。アメリカ労働省の資金援助により行われている本プロジェクトは、問題の根本的原因である貧困、脆弱性、この種の仕事が公認されていないことへの取組みに努めています。

このプロジェクには、子どもに焦点をあてた対応にとどまらず、今後はインフォーマルからよりフォーマルな経済への移行、労働条件の向上、児童労働の撤廃への働きかけのできる重要な関係者も参加して行われる予定です。

小規模の金鉱における危険で悲惨な労働条件は、労働災害、けが、最悪な場合死に至る  © ILO/M. Rimando

 

アーキーの故郷であるカマリネスノルテ州では、モデルケースとなるパイロットプロジェクトが行われています。これらのモデル事業は法的基準を満たし、実行可能で、労働、環境、衛生基準に準拠しています。

アーキーは今は17歳となり、現在は、オルターナティブ・スクールに在籍し、基礎教育を終えるための実践的な科目を履修。フィリピンの教育制度に沿った教育を受けています。彼は読み書きが苦手のため、学校の勉強についていくのは大変です。しかし、良い教育を受ければディーセントな仕事(働きがいのある、人間らしい)に就くことができると信じています。

アーキーは言います。「僕は自分の身に降りかかるすべてのことを受け入れるつもりです。どんな機会にも挑戦するつもりです。人は勉強すればするほど、良い仕事に就くことができる可能性が増すことに気付いたのです。ただ僕にとってこの気付きが遅すぎないことを願うだけです」

 

英語原文はこちらより。

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Ms Minette RIMANDO

Senior Communication and Public Information Assistant

Tel.: +632 5809905

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