G20労働雇用大臣会合

ILO事務局長及び副事務局長発表-勤労生活の長期化、男女平等、デジタル労働プラットフォーム

 愛媛で開かれた主要20カ国・地域(G20)の労働、雇用問題を担当する大臣の会合は、人口構造の変化(高齢労働者の就労と勤労生活の長期化、若者の就労、高齢化社会における新たな雇用機会-介護労働の未来)、男女平等、新たな働き方といったテーマを取り上げました。ILOはそのほぼ全てで発言し、ガイ・ライダー事務局長とデボラ・グリーンフィールド副事務局長が発表しました。

声明 | 2019/09/01
G20労働雇用大臣会合で発表するガイ・ライダーILO事務局長

 愛媛で開かれた主要20カ国・地域(G20)の労働、雇用問題を担当する大臣の会合は、人口構造の変化(高齢労働者の就労と勤労生活の長期化、若者の就労、高齢化社会における新たな雇用機会-介護労働の未来)、男女平等、新たな働き方といったテーマを取り上げました。ILOはそのほぼ全てで発言し、ガイ・ライダー事務局長とデボラ・グリーンフィールド副事務局長が発表しました。

* * *

長寿化に伴う勤労生活の選択肢増加の必要性

 会合1日目に行われた「人口構造の変化:高齢労働者の就労と勤労生活の長期化」のテーマを巡る議論において、ライダー事務局長は要旨以下のような発表(英語原文)を行い、多段階の勤労生活の必要性を説きました。

発表パワーポイント-スライド1枚目)

 今年6月に開かれたG20大阪サミットで採択されたG20大阪首脳宣言は、勤労生活長期化の見通しを示し、G20労働雇用大臣会合に向けてこの状況に応える政策優先事項を特定するよう提案しました。仕事の未来の中心に位置するこのテーマに関し、その助けとなる幾つかのアイデアを提示したいと思います。

発表パワーポイント-スライド2枚目)

 G20諸国で生まれた子どもたちは日本を始め、100歳まで生きる可能性がますます高くなってきています。もちろんG20諸国以外の状況は多様で、先週出席した第7回アフリカ開発会議(横浜・2019年8月28~30日)では、アフリカ諸国の人口転換は30年は遅れていることが明らかに示されました。国際機関として、私たちはそのような地球規模の現実の文脈から人口転換を論じる必要があります。

 長寿化は非常に良いニュースの一つですが、仕事の世界にとって最大の利益を引き出すには考慮すべき影響が多くあります。まず、2点挙げることにしましょう。一つ目は、長寿化は生活設計の変更をもたらすということです。住宅や貯蓄といった資産を蓄積する期間を長くする必要がありますし、残されている時間が長いといった理由から重要な決定を先送りすることがあるかもしれません。そこで、「多段階勤労生涯」とでも呼ぶべきものに移行するかもしれません。先ほど高校生たちから提案があった自己決定の概念とも一致しますが、人々が自らの勤労生活について選択を行う、あるいは自分の選んだ道を追求できる力を付与されることが重要になるでしょう。

 二つ目は、長寿化の利益を得るように社会が変化あるいは適応する必要があるということです。これは行動様式の点だけでなく、労働者自身、政府、企業も含む、あらゆる関係当事者の政策変更を伴います。

発表パワーポイント-スライド3枚目)

 このスライドは過去20年ほどの労働力率の推移を表しています。1998~2018年の期間に55~64歳層の労働力率はとりわけ女性が上昇し、65歳超層では女性が上がり、男性が下がっています。この変化はただし、現時点ではそれほど大きなものではありません。一方で、15~24歳の若年層の労働力率は大きく下がっていますが、これはもちろん主として教育に留まる期間が長くなったためです。

 この状況を囲むものとして様々な変化がありますが、その幾つかを挙げてみましょう。

  • パートタイム雇用の増加。これは自ら選択した自発的なものである場合、家族の世話や技能再習得の時間を与えるものです。
  • 臨時雇用の増加。例えば、この就労形態は現在、欧州連合(EU)の若年労働者の45%を占めています。
  • 若者の転職率。昔に比べて高くなっています。若者に比べると相当低いものの、転職率は25~54歳層でも上がっています。
  • 父親休暇がある国で、その休暇を取得する父親の増加。仕事と家庭の関わりにおける非常に重要な変化を構成している可能性があります。
  • 共稼ぎ世帯が標準になり、技能再取得や子ども、高齢者の世話などといった他の活動のために、パートナー同士が就労、非就労、パートタイム勤務を様々に組み合わせるようになっています。

発表パワーポイント-スライド4枚目)

 さて、多段階生涯ですが、最初に導かれる結論は、教育→仕事→引退という3段階モデルから転職や従業上の地位の変更、労働市場を出たり入ったりといったように、移行がますます増える多段階モデルへの移行です。この変化の増大は、寿命100歳が見込まれる世代の新たな期待に応えるものですが、当然に新たな課題、そして既存の政策及び制度・機構の再考、再設計を要請します。ただし、ここで同時に考えるに値するのは、この課題が本当に新しいものであるかという点です。単に暮らしていくためだけに複数の仕事が必要な非公式(インフォーマル)経済で働く人々や農業労働者の状況、不意の失業や仕事の不安定性に苦しめられる人々の状況を考えるだけでも分かるように、混沌としたキャリアや勤労生活を送る人々は常に存在してきました。これは常に私たちと共にあったものです。では、この潜在的にマイナスの状況をもっとプラスのものに変えるには何が必要でしょうか。

 多分、勤労生活最初の教育のような、生涯の特定の段階についての政策を考える代わりに、ライフサイクル全体を捕らえるアプローチを取るように政策と制度・機構を再設計する必要があるのではないでしょうか。これは教育だけでなく、租税や給付の制度についても該当するでしょう。移行を支える新たな規則や法律が必要になるかもしれません。要約すると、多段階アプローチを通じた、より長い生涯の支援には、このライフサイクルの視点を可能にする政策の策定を必要とするのです。

 したがって不平等を積極的に減らす支援措置を確保する必要があります。期待寿命の不平等原因への取り組み、劣悪な労働条件などによる早期引退を許す複層年金制度の採用、生涯の様々な段階への投資の増加などが考えられます。教育や保育だけでなく、生涯のどの段階でも学べるように成人教育や生涯学習にも投資することが重要です。

 今年6月に開かれたILO総会で採択された「100周年記念宣言」はこういった様々な移行期を通じて人々を支えるような制度・機構、政策、戦略への投資の増大を提案しています。宣言はまた、より長い勤労生活が選択肢となり、人々の願望に応えるような仕事の未来に向けて私たちを導く助けになり得ます。

発表パワーポイント-スライド5枚目)

 この新しい暮らし方、働き方への移行に際して私たちが直面している課題にはどのようなものがあるでしょうか。

 まず第一に、多くの場合、今日の教育訓練制度はこの多段階移行を奨励し、支えるようなものになっていません。生涯学習への投資は低く、世界全体で見ると成人訓練への公共支出はわずか1%に過ぎません。加えて、成人、とりわけ年齢が高い人々の生涯学習への参加率は低く、女性は成人訓練に参加しているものの、驚くほど狭い幅の技能に関するものとなる傾向があります。不利な集団の参加率は他よりも低いため、異なる形の生涯学習が必要です。

 第二に、社会保障制度は依然として古い3段階ライフサイクルモデルに依拠しており、移行期は全く給付の対象とならない高いリスクがあります。実際、既存の制度の適応は相当の課題となり、移行の回数やその多様性の増大を支えるための持続可能性確保の問題は私たちが共に取り組むべき問題です。

 第三に、他にも調整が必要な政策分野があります。高齢者に対する否定的なイメージがいまだに人々の態度や決定を支配しており、個人レベルでの移行の選択も企業レベルでの高齢労働者の採用や雇用維持も、一般にまだ機会とみられていませんが、実際にはそうなる可能性があります。職場や勤務体制も多様なライフサイクルを十分に支えるものとなっていません。労働市場政策が若者に重点を置くのは理解できますが、これは時に高齢労働者に不利になっています。そして、50歳超の人々が興した企業の方が若者の創業した企業よりも生存率がずっと高いにもかかわらず、起業家研修は主として若者を対象にして提供されています。

発表パワーポイント-スライド6枚目)

 結論として、人生100年が疑いなく良いニュースになるためには、移行の奨励を可能にする措置と不平等を縮小する支援的措置の両方が必要なのです。このための政策を構成する要素として次の3点を挙げることができます。

 一つ目は人々が自らのニーズや希望に応じて生涯を通じて教育訓練活動に参加するより多くのより良い機会を提供する技能生態系です。加えて、個人、企業、政府が生涯学習の責任を分担する必要があります。労働者、企業、教育訓練機関の全てに提供される拡大された新たな奨励金は上手に設計された場合、最も必要が感じられている産業部門や様々な集団に訓練を振り向ける助けになり得ます。

 二つ目は、インフォーマル経済や農山漁村地域で働く人々、自営業者、新たな就労形態の人々など既に存在する適用ギャップを埋めるような社会的保護制度と保護の継続を阻む障害を克服する制度です。高度な社会保険の仕組みと組み合わせた、より強力な税を財源とする資金措置は生涯を通じた保障を全ての人に確保することでしょう。

 最後は、積極的労働市場政策と公共職業安定業務の向上を通じた高齢労働者のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)です。高齢労働者や転職についての企業や使用者の認識の変更、活力ある高齢化を支えるフレックスタイムやパートタイムなどのような新たな時間関連措置や新技術の活用が求められます。

 これがうまくいけば、ILOのように様々な移行を伴う人生100年が生きがいのある人間らしい100年間の生活を一人一人にもたらしてくれることができるでしょう。

無償労働における大きな男女間格差への取り組みは可能

 2日目の男女平等をテーマとする討議において、働く女性に関するILOと経済協力開発機構(OECD)の共同発表に続き、ガイ・ライダー事務局長は、以下のように、男女平等の問題を時間的側面から取り上げる補足的な説明を行いました(英語原文)。

 世界中どこでも家事や家族の世話といった、いわゆる無償労働のほとんどを女性が担っています。これは1日平均4時間になります。オーストラリアやイタリア、トルコといった国では女性の無償労働が毎日5時間を超えています。男性が女性と同じくらいの長さを無償労働に費やしている国は世界には一カ国もなく、G20諸国では女性の方が男性よりも1日平均2時間半長く無償労働に費やしています。

 これの何が問題でしょうか。明らかに不公平であるといったことに加え、女性が学校に行ったり、家計を補助する収入を得たり、技能向上を図るといった他の重要なことに費やす時間がないという問題があります。無償労働に費やす時間が長いほど、女性が有償就労に充てることのできる時間は少なくなり、男女不平等が生まれます。

 女性はパートタイム就労を選ぶ傾向が高いのに対し、男性は超長時間労働を行う傾向が高くなっていますが、G20諸国でも軒並みそのような状況が見られます。有償労働に費やす時間の点での男女格差は第一子が生まれると開き始めます。男性の労働時間が幼い子どもの数に左右されないのに対し、女性の労働時間は減少します。

 幸運なことに、この問題に取り組める方法があります。これは、認識(Recognize)、削減(Reduce)、再配分(Redistribute)の3語に集約されます。英語の頭文字を取って3Rと呼んでいます。

 最初の「認識」は、男女の時間の使い方について存在する隠された仮定を露わにすることです。家事や育児、介護といったケアの提供を巡って存在する固定観念や規範を変えるには長い時間がかかりますが、キャンペーンや啓発活動が助けになる可能性があります。伝統的な手法とオンラインメディアを組み合わせてオーストラリアや韓国で実施された啓発キャンペーンは効果的であることが証明されました。男性のケア提供者に対する偏見を減らし、家計や国の国内総生産(GDP)に対して女性労働者が行っている相当の貢献に光を当てることができます。

 「認識」とはまた、無償労働を含むあらゆる労働形態の価値を認めるために、それを測定することも意味します。この点で、より良い測定のためにもっとデータが必要です。時間利用調査実施頻度の増加、父親の休暇取得に関するデータ収集の改善、啓発キャンペーン前後の世論調査は、現状及び公共政策の影響力のモニタリング並びに評価にとりわけ有用となる可能性があります。加えて、無償労働の認識は、マクロ経済分析や意思決定においてこれが考慮に入れられることを要請します。これは一見、性に中立的なマクロ経済政策が男女に与えている影響を明らかにし、予算・租税政策における性別とケア提供に関する偏向を特定し、是正する助けになるでしょう。2008年の経済危機後に多くの国で見られたようにケア政策に関する公共支出の削減が女性に不均等に大きな影響を与えるような危機の時代には、そのような展開を防止する措置を執ることが可能になるでしょう。

 2番目のRは「削減」です。これは無償労働にかかる時間を減らすことを意味します。途上国の多くで主な問題であるように、女性が水汲みや薪拾いのために何マイルも歩かなくてはならないといったように家事に非常に時間がかかる場所では、水やエネルギー源の公的供給に対する投資によるそのような骨折り仕事の削減が優先事項です。これは基盤構造に対する投資増が男女不平等を縮小する可能性があることの一例です。

 加えて、子ども、とりわけ5歳未満の子どもがいると女性が無償労働に費やす時間が増えることがデータから示されています。G20諸国では就学前教育や託児施設に預けられる子どもの数と比例して幼い子どものいる女性の就業率が上昇することが判明しています。したがって、女性の無償労働責任を軽減するには幼児を預けることのできる公共施設の入手可能性、費用負担の可能性、質が決定的に重要になるのです。

 子どもが学校に入ったからといって育児の必要性がなくなるわけではなく、学童保育のサービスも必要です。質の高い手頃な料金の学童保育のサービスがないために多くの親(通常、母親)が労働時間を減らすか、個人で解決策を見つけることを強いられています。OECD諸国の中ではデンマークとスウェーデンの学童保育制度が最も進んでおり、6~11歳児のほぼ3分の2がそのような施設を利用しているのに対し、フランスや日本、英国では利用者が4人に1人にも満たない状況になっています。

 また、育児に限定すべきでもなく、誰もが質の高いケアサービスを利用できる権利はあらゆる分野にわたって保障される必要があります。就学前教育や介護サービス・介護給付、出産給付、障害給付、疾病給付、労働災害給付に対する公的支出が高いほど、女性が有償労働に就く可能性は高くなります。したがって、無償のケア労働に費やす時間を減らすには、質の高いケアサービスやケア政策、ケアに関連した基盤構造への投資が決定的に重要なのです。

 無償のケア提供者の労働市場への復帰を支援する積極的労働市場政策もまた同じくらい重要です。職業安定事業はケア責任を有する人々のニーズに配慮する必要があります。例えば、ロシアでは職業安定所が3歳未満の幼児のいる育児休業中の女性向けに、職業訓練や再訓練、技能向上、職業指導を提供しています。

 さらに、家族に優しい就労取り決めを全ての労働者が等しく利用できるようにすることも有償労働の就労率や継続率を高める上で決定的に重要な役割を演じる可能性があります。こういった取り決めはまた、ワーク・ライフ・バランスがうまくいかないことから生じる健康や福祉に対する悪影響を減らす助けにもなります。考えられる措置として、質の高いテレワーク、移動式情報通信機器を用いた就労形態やパートタイム労働、柔軟な取り決めの促進などを挙げることができます。

 3番目のRは「再配分」です。

 「再配分」とは、世帯内の無償労働を男女がもっと平等に分担することを意味します。男女が無償労働に費やす時間の差が小さければ小さいほど、女性の有償労働が増えることがデータから示されています。そこで、無償労働における男女格差を解消することができれば、女性をもっと有償労働に導くことができます。

 男女双方を対象にし、性差に配慮した、公的資金による休暇政策の達成には長い道のりが必要かもしれませんが、出産直後の分業に影響を与える重要な要素は有給育児休業です。ほとんどの有給休業政策が歴史的に女性を対象にしており、出産休暇は依然として母子の健康を守り、子どものいる女性労働者が出産後も労働市場との接触を保つ助けとして必要不可欠ですが、父親向けの、そして望むならば父親に取り置かれた有給休暇もまた重要です。休暇を取得する父親は、休暇期間後も長く育児活動に関与する可能性が高いことがOECD諸国全体から示されています。ますます多くのG20諸国で導入されている父親専用有給休暇は世帯内で育児に費やす時間をもっと平等にすることを父親に奨励しています。

 結論として申し上げたいことは、無償労働における大きな男女格差に取り組むのは可能であるということです。ここにご紹介した講じうる幾つかの措置は皆、男女の労働力率格差縮小に向けたG20ブリスベン・サミットの目標達成に寄与し得るものなのです。

デジタル労働プラットフォームの規制に関する議論が決定的に重要

 ガイ・ライダー事務局長は、2日目に行われた新たな働き方に関する討議において、「新たな働き方への政策対応」と題するOECDの発表に続いて以下のような発言(英語原文)を行い、デジタル労働プラットフォームの提示する課題に対処する政策の必要性を強調しました。

 インターネット経由で仕事の受発注を行うデジタル労働プラットフォームには様々なものが存在しますが、少なくとも二つの主な形態を区別することが必要不可欠です。一つ目は、タクシーや食品配達その他のサービスを現地で顧客に提供するネットワーク企業ですが、これは大いに注目を集めています。それほど注目を集めていない2番目のものは、多様な業務に関し、所在地と無関係に労働者を現実に採用することを許す、インターネットを基盤とした小規模業務についてのデジタル労働プラットフォームです。典型的な例として、情報技術(IT)プログラミング、ウェブサイト開発、グラフィックデザイン、コピーライティング、定例事務作業などを挙げることができます。しばしば複数の時間帯にわたって暮らす多数の労働者集団(クラウド)が日中あるいは夜間のどんな時間にでも大型プロジェクトを完成させる可能性を企業に提供しています。

 前者は、立地場所を基盤とするプラットフォーム経済であり、分類の問題も含み、各国の規制に服します。しかし、労働者が世界中に広がる2番目のインターネットを基盤としたデジタル労働プラットフォームの場合は状況が異なり、この種の労働を適切に規制するには、何らかの種類の国際的な統治の仕組みが求められるように思われます。

 これをもとに幾つかの考えを披露しましょう。

 OECDからの発表にあった通り、オックスフォード大学のインターネット研究所によれば、英語圏のインターネットを基盤とした5大労働プラットフォームの活動は2016年7月から2019年3月の期間で約1.3倍に膨らみました。英語圏の小規模業務を扱う5大プラットフォームについてのILOの調査研究からは、業務を請け負った労働者の国籍は75カ国に及ぶことが判明しています。これは仕事の地理的な広がりを証明するものです。

 では、このようなプラットフォームを巡るリスクと機会にはどのようなものがあるでしょうか。

 デジタル労働プラットフォームを用いた働き方の最大の利点はそれが提供する柔軟性です。労働者は自分がいつ、どこで、どのように働きたいかを選ぶことができます。結果として、障害者や育児、介護といったケア責任を担っている労働者、農山漁村地帯や景気が悪い地域に住む人々がクラウド労働者の多くを占めています。そこで、インターネットを基盤としたプラットフォームは重要な収入源になり得ると言えます。ILOの研究によれば、小規模業務を提供するプラットフォームを通じて得た収入が主たる収入源である労働者はこのような働き方をする労働者の3人に1人に達しています。

 しかし、このようなプラットフォームは数々の課題も提示しています。

 第1に、ILOの調査研究から判明したこととして、高い割合の労働者が居住地を管轄する法が定める最低賃金より低い賃金を得ています。プラットフォームによっては労働者に手数料やサービス料を請求しており、これはさらに実効的な収入を引き下げています。この低収入は少なくとも一部には、労働者の側で業務を継続的に得られないとか、適切な業務を見つけるのに時間がかかるといった理由にもよります。

 第2に、仕事が不規則にしか得られないという点があります。10人中9人までがもっと働きたいと答えており、その規模は平均して週に約12時間に達しています。

 第3に、デジタル労働プラットフォームは労働者を自営業者あるいは独立請負人に分類しているため、労働者保護や使用者が提供する社会保障給付が得られません。例えば、アマゾンメカニカルタークのプラットフォーム経由で従事するクラウドワークを本業とする米国人労働者のうち91%が社会保障費を支払っていません。

 ILOの調査からはまた、苦情提起あるいは紛争解決の仕組みが得られないことも明らかになっています。10人中9人までが提出した仕事を拒否された経験あるいは支払いを受けられなかった経験があることに鑑みるとこれは重要事項であり、苦情申し立ての仕組みがない以上、こういった人々は何らの救済策も得られない状態になっています。

 最後に、インターネットを基盤としたプラットフォームで仕事を見つける労働者の組織化、あるいはそのような人々の交渉過程への参加は難しく、現状ではほとんど見られません。

 こういった課題は何らかの形態の規制あるいは対応を要請します。しかし、ただいま申し上げたような労働者、そのプラットフォーム、顧客が地理的に拡散している状況では、純粋な国内的対応では困難であり、結果として、世界各国における判例の統一性の欠如、法の対立や遵守の問題が発生する可能性が高いと見られます。

 国家段階でのデジタル・プラットフォーム労働の規制は、裁判紛争に従事する当事者が最も好ましい法律事情の法域を探す「法廷ショッピング」の行動を奨励するようなことになる可能性があります。プラットフォーム自体が一方的に定めたオンライン・サービス条件の中に盛り込んだ条項で、自らの選択の適用を強いる可能性があります。現実には国内規制の実施だけでは、適用される労働者を適用されない場所に住む他の労働者と比べて競争劣位に置く危険性があります。

 国内レベルでデジタル労働プラットフォームを規制する取り組みから派生する困難を認め、ILOの仕事の未来世界委員会は、デジタル労働プラットフォームについて国際的な統治の仕組みの策定を呼びかけました。ただし、これはILOを構成する政労使の間で幾つかの論争の的になったことを申し上げなくてはなりません。

 国際的な観点からインターネットを基盤としたデジタル労働プラットフォームにおける労働を司るために用いることができる手段は既に幾つか存在しています。この問題に関連するILOの条約は二つあります。それは、「1949年の賃金保護条約(第95号)」、そして求職者への手数料請求を禁じる「1997年の民間職業仲介事業所条約(第181号)」です。加えて、「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」もこういった問題に取り組む際の有用な出発点となる可能性があります。

 既にドイツと英国に拠点を置き、他の欧州諸国にも法的拠点があり、世界を相手に業務を展開している八つのデジタル労働プラットフォームがクラウドソーシング行動規範と呼ばれる自主的な行動規範を締結しています。これはサービスの提供者、顧客、クラウドワーカーの信頼と公正な競争を促進することを目的に、基本的な10の指針を定めるものです。これには公正な支払いや明確な業務と妥当な締切、やる気と良い仕事などに関するものが含まれています。最後のものはアナログ世界で良い仕事とされるもののほとんどの側面がデジタル環境にも移行可能であるとの見解に基づいています。

 この行動規範を執行し、労働者の居住地と無関係に労働者と参加プラットフォームの紛争を解決するために、2017年にオンブズ局が設けられました。これは労働者1名、労働組合代表1名、プラットフォーム代表1名、クラウドソーシング協会代表1名、そして中立の議長という5人構成の委員会で構成されています。2019年1月現在、オンブズ局はオンライン苦情提起様式を通じて労働者から提起された22件の案件を解決に導いています。

 明らかに前途には大いなる議論が存在し、必要となるかもしれない政策の調査を始めるのが良いかもしれません。これには最低基準の設定、プラットフォームと顧客と労働者間の紛争を裁定する仕組み、社会保障制度に対する支払いを円滑化するために必要な基盤構造の開発、インターネットを基盤としたデジタル労働プラットフォーム経由で働く人々が集団的な代表性を達成できる方法の検討などを含むことができるでしょう。

 本件に関する皆様の意見を拝聴したいと思います。ILOはこの取り組みに対するご協力を惜しみません。