ILO創立100周年

ILO事務局長演説-努力と偉業の100年間

 ジュネーブのILO本部で2019年1月22日に開かれたILO創立100周年公式開幕式典で行った演説で、ガイ・ライダーILO事務局長は、ILOの100年の歴史を振り返った上で今後の課題を示しました。

声明 | 2019/01/22
ILO創立100周年公式開幕式典模様(英語・1時間4分29秒)

 ジュネーブのILO本部で2019年1月22日に開かれたILO創立100周年公式開幕式典でガイ・ライダーILO事務局長は、スイス連邦議会議長やジュネーブ州・市の代表などを前に、ILOの100年の歴史を振り返り、今後の課題を見据え、要旨以下のような演説を行いました。

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 世界の永続する平和を左右するのは社会正義であるとの創立者の信念、そしてとりわけ国際労働基準の採択と適用監視によって、その大義のために共に活動するとの共通の決意に動かされて、世界中から政府、労働者、使用者がこの建物に集結するようになって既に100年が経過しました。当初は突飛な夢と表現されたものが、そうではないことが判明し、1世紀にわたる努力と偉業の過程でILOは社会進歩の原動力として活動し、平和の先駆者となってきました。

 このように前置いた上で、ライダー事務局長は、しかしながらこの旅はスムーズなものではなかったとして、たとえ歴史の展開が実際に正義の方向に向いたとしても、その過程では幾分の回り道も取られたと指摘し、ILOの歴史を振り返りました。

 1944年の創立25周年までの最大の業績はもしかするとその生き残りそのものであったかもしれません。創設時の加盟国は日本を含む42カ国でしたが、この頃までにほとんど増えず、25周年は49カ国で迎えました。でもその時までに、ILOは大恐慌、権威主義の暗黒時代、世界規模の紛争、残りの多国間制度の崩壊、そして亡命を生き抜き、国連の最初の専門機関という将来の成功の基礎が築かれました。創立20周年はジュネーブではなく、戦中の避難先であったモントリオールで迎えました。そして、壊滅的な紛争から立ち上がる世界の先見的な意思の表明といった点で1919年のILO憲章と同じくらい顕著で特別なものとして、フィラデルフィア宣言が採択されました。

 続く25年間は、植民地の消滅によって多くの人に自由と独立がもたらされたため、ILOは爆発的に成長し、加盟国数は2倍半近い増加を見せて119カ国になりました。新規加盟国の政府、使用者、労働者のニーズに対応するという課題に直面したILOは、技術協力計画でこれに対処しましたが、これは今日に至るILOの決定的に重要な行動手段となっています。1969年の創立50周年に際し、世界雇用計画を開始したのには単なる象徴以上の意味があり、雇用、貧困、基本的ニーズに重点を置いたこの計画は正に開発政策の分水嶺となり、その影響は今日の国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にも感じることができます。1969年にはまた、ノーベル平和賞を受賞しましたが、これは最初の50年間の業績の威光ある認定であっただけでなく、次の50年間に向けて強力に後押しするものでした。

 75周年を迎えた頃には、加盟国数はさらに55カ国増えて世界中ほとんどすべての国が参加するようになっていましたが、この頃、世界自体がグローバル化時代の際に立っていました。その時までに理念と政治体制が異なる二大陣営の対立は消滅し、人類はアパルトヘイトという犯罪的な人種隔離政策との戦いに勝利しましたが、ILOはその戦いにおいて十分な役割を演じました。普遍的市場経済の勝利による歴史の終焉を予想した人々もいましたが、実際にはこれはILOの歴史における新たな挑戦の章の幕開けであり、世界は貿易と投資の自由化によって推進され、連続的な技術革命によって活気づけられたグローバル化の時代に社会的側面を求めました。これに応えるものとして、ILOは「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」を成立させ、翌1999年に打ち出された「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)をすべての人に実現する」というディーセント・ワーク課題を誕生させました。職、社会的保護、政労使三者構成原則、権利を柱とするこの課題は今日、未来に向けた世界の行程表の中心に位置しています。

 この傑出した歴史から学べるものとして、ライダー事務局長は、「今から25年後のILOと世界について確信をもって予測するのは非常に勇敢な人あるいはもしかすると非常に愚かな人かもしれない」とした上で、「ここに示されている、より重要なことは、ILOは常に新たな課題や環境に適応しなくてはならず、そのたびにそれをとてもうまくやってこれた点」を挙げ、「そうでなかったとしたら、私たちがここで100周年を祝っていたか疑わしい」と指摘しました。

 これはデイビッド・モース第5代ILO事務局長が50年前にILOを代表してノーベル平和賞を受け取った際に言ったことですが、ILOがその時代の社会問題に対してうまい解決策を見つけるたびに、新たなしばしば予見されていなかった問題が現れるため、この機関は決してその栄光に座して安穏とすることができず、絶えず仕事の世界を再検討し、方法を見直し、時代に即したものであり続けるために自らを作り替える必要がありました。このメッセージを肝に銘じるものとして創立100周年に際し、仕事の未来世界委員会の報告書を発表し、6月のILO総会における100周年宣言の採択につながると信じる過程を開始するものであります。

 さらに、仕事が変容するほどに変化し、不確実性が大きく、仕事の未来が提示する地球規模の課題に信頼できる対応策を提供できる政策策定者の能力に対して一種の幻滅さえが見られる今日の時代において、確実にかつてないほど重要なのは、「ILOが再び刷新と再出発の能力を示すこと」と強調しました。

 100年前に形成されたアイデア、というより理想の中に、ILOはその決定を導く道徳上の羅針盤、そして仕事の世界のあらゆる変化を評価するための価値を備えています。眼前にある課題は、私たちの時代に現れつつある現実をこの価値に沿って形作ることであって、その逆ではありません。

 不動の普遍的な原則の明確さを、それを達成するために用いる道具の柔軟性や革新性と組み合わせることによって、ILOはこれまでにそうであったように今後も成功を収めることができるでしょう。前途の課題がどんなに大きく見えようとも、ILOの過去の関係者が立ち向かい、克服してきたものより大きいはずはありません。ただ、もしかすると一つの点で例外があるかもしれません。それは今日の私たちが、対話の意思と能力を失いつつあるように見えるという観測から生じるものですが、他人の意見に耳を傾け、その見解を自分自身の見解と誠実に比較考量し、寛容であり、自分の意思を押しつけるのではなく、むしろ妥協に至るのが、より難しいように見えます。この趨勢には抵抗する必要があります。なぜならば、このような傾向が一般的になれば、ILOは活動できなくなり、その価値は地に落ちるからです。

 こう説いた上で事務局長は、だからこそ、世界委員会の報告書の中心的なメッセージを繰り返したいとして演説を結びました。それは、現在187を数える加盟国政労使の代表及び私たちと連帯するすべてのものが至急行うべきこととして、ILOに付託された任務の中心にある社会契約の再活性化に力を注ぐこと、そして、すべての人に社会正義が得られ、誰も置き去りにされず、皆でILOのこの新しい100年間を歩んでいくために、自分自身の利害だけでなく他者の利害も擁護するように協働するという基本的な公約を行うことです。