論評:仕事の未来

ILO事務局長論評-科学技術が私たちの仕事を混乱させる中、痛みを利益に変えるにはまだ遅過ぎない

 ガイ・ライダーILO事務局長は、2018年9月17日に発表された、仕事の未来に関する世界経済フォーラムの報告書について論評し、労働者は技術革命を生き残るためには、「魔法の技能集合」が必要と論じました。

記事・論文 | 2018/10/22

 2018年9月17日に発表された『Future of jobs report 2018(仕事の未来報告書2018年版)』と題する世界経済フォーラムの報告書は、成長と雇用創出に科学技術が与える影響について企業がますます好意的な見方をするようになってきている状況を示しています。ガイ・ライダーILO事務局長は、同フォーラムのウェブサイト上に掲載された2018年10月22日付の英文論評で、この報告書は幾つかの元気づけられる要因になると評した上で、ILOでも創立100周年に際して「仕事の未来100周年記念イニシアチブ」を通じて同じ問題を検討中であることを紹介し、これに関連した政策と動向についてのILOの考えを要旨以下のように披露しました。

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 報告書は第4次産業革命と呼ばれる科学技術の変化の波が一部の産業部門や職業にマイナスの影響を与えつつも、直接・間接的に他の場所に多くの職を新たに生み出しており、総体としては雇用の減少につながっていない現状を確認しています。事務局長は、仕事の世界における科学技術の新たな現実がもたらしている多くの仕事の消滅や再設計は、新技術を支えるために必要な技能を含む新たな検討事項を、経済、法律、倫理、社会の諸側面に提起すると指摘しています。そして、科学技術による不平等の縮小を望むならば、技能は重要であると強調しています。

 人工知能(AI)の急速な発達は、置き換えられる業務の幅をますます拡大すると見られます。とりわけ、これまではあまり影響を受けてこなかった事務管理や交通運輸、保健医療といったサービス部門でも職務内容と仕事の機会が大きく変わると予想されます。しかし、自動化が適切に適用されたとしたら、中程度及び低い技能水準の労働者の生産条件や労働条件は引き上げられ、先進国では生産性の伸びが再開されると期待されます。このような潜在的な利益が実現するか否かは、労働者や企業の移行がどのように管理されるかにかかっていると考えられます。労働者はとりわけ、社会的スキル及び対人スキルというソフトスキルに焦点を当てて新たな技能を学んだり、再訓練を受ける必要が生じるでしょう。労働者の適応が迅速に行われれば、生産性の伸びの復活はさらに多くの仕事を生み、途上国を中心に、増大する新規労働力の吸収が可能になるかもしれません。この変化は賃金や生活水準の向上に寄与するだけでなく、環境に優しい形で進めることもできるでしょう。新技術は、生産性と競争力の点で相当の利益をもたらしつつ、エネルギーや資源の使用量を削減できるという二者両得の状況をもたらすことができます。

 技術改革を活用するために労働者に求められる技能集合には、技術力、分析力、情報通信技術(ICT)力といった基礎的な技能に加え、識字力や計算能力といった基盤となる強固な認知スキルが含まれます。加えて、創造性、問題解決力、批判的思考などの就業能力の中核となる一連のスキルを挙げることができます。対人スキル、コミュニケーションスキル、情緒スキル、リスクを評価して冒すスキル、変化やストレスを管理するスキルも一層重要になることでしょう。こういった機械に対する比較優位を人間に与えるスキルに教育制度はもっと注目する必要があります。

 そこから、科学技術を採用するのと同じくらいの熱意を持って最幼年期からの質の高い教育制度に情熱を傾けることが求められます。適切な技能セットを獲得した子どもたちは第5次、第6次革命にも対処できることでしょう。

 勤労人生の最初にその後の職歴を定めるたった一つの資格を得るだけで済む時代は終わりました。訓練制度を柔軟化して労働者が職業人生を通じて学び続けられるようにする必要があります。この生涯学習を官民両部門が拠出する革新的な財源による学習インセンティブで支える必要もあります。生涯学習は労働者が一生の間に経験する仕事の範囲の拡大を意味するものであるため、雇用流動性の上昇に対応するものとして、社会的保護を通じた新たな所得保障形態などといった一連の支援策・適応戦略、そして職業指導や職業マッチング業務の改革が求められるようになるでしょう。同じくらい重要なものとして、未来の仕事にとって適正な技能の習得に関しては、使用者団体や労働組合、教育訓練の設計者や提供者といった仕事の世界のあらゆる関係者が参加する官民パートナーシップと社会対話が決定的に重要になることでしょう。

 このように説いた上で、事務局長は、私たちに利するように科学技術を活用することを望むならば、生涯学習への移行が必要不可欠と強調しています。さらに、すべての人に利益が及ぶようにするためには、科学技術がより良い未来を形作る基盤を確保できるように、社会契約の概念を再検討し、刷新する必要があると結論づけています。