社会的保護の土台グローバル・ビジネス・ネットワーク

ILO事務局長挨拶-社会的保護へ投資を

 ジュネーブのILO本部で開かれたILOの「社会的保護の土台グローバル・ビジネス・ネットワーク」の第4回年次会合で挨拶したガイ・ライダーILO事務局長は、社会的保護をすべての人の現実とするのを手助けしてくれるようネットワーク参加企業に呼びかけました。

声明 | 2018/10/23
「社会的保護の土台グローバル・ビジネス・ネットワーク」の第4回年次会合の開会式で挨拶するガイ・ライダーILO事務局長

 社会保障の促進に注力する企業連合体として2015年に誕生したILOの「社会的保護の土台グローバル・ビジネス・ネットワーク」の第4回年次会合が2018年10月23日にジュネーブのILO本部で開かれました。会合には40人近い多国籍企業、使用者団体、社会保障機関の代表が出席し、自社の人事及びCSR(企業の社会的責任)ポリシーを通じて「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の社会的保護の側面に企業が貢献できる方法に関して意見交換を行いました。

 ガイ・ライダーILO事務局長は開会演説で、要旨以下のように、社会的保護をすべての人の現実とするのを手助けしてくれるようネットワーク参加企業に改めて呼びかけました。

 この機構は「生きたネットワーク」として、民間セクターが集い、社会的保護をすべての人に広げる方法について論じ、好事例を共有し、この理念を唱えることによって、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に非常に重要な貢献を行っています。

 ILOの最新の『社会的保護世界報告』が示すように、社会的保護の普及に関しては近年確かに著しい改善が見られるものの、いまだに子供を持つ女性の10人中6人が母性保護を受けられず、高齢者の10人中3人が現役を引退して年金を受給することができず、10人中4人が保健医療を受けることができずに暮らしています。このように世界人口の半分以上が暮らしのリスクに対して保護されていない状況で社会的保護に投資しなかった場合のコストについて事務局長は問いかけました。

 人的コストは非常に明確ですが、企業やそこで働く人にとっても、労働者の福祉が損なわれ、生産性にマイナスの影響があるというコストが存在するように見えます。このコストを一社に留めず、サプライチェーン(供給網)を通して見ると、多くの労働者が社会的保護に関する国の制度が十分でない国で暮らしているため、すべての労働者に基礎的な社会的保護の土台を保障する行動をとらなかった場合、企業は効率性低下と評判のリスクという少なくとも二つの種類のリスクに直面する可能性があります。社会的保護制度の欠如はまた、企業にとっての機会の喪失ともなり、社会的保護が未整備の国では貧困や不平等の問題が大きくなる傾向があり、国内需要や生産性・経済の伸びが抑制されます。一方で社会的保護への投資が国内需要の発展に寄与することは中国など多くの国の例が示しています。

 このような社会的保護に投資しなかった場合のコストは回避することができます。ILOは約100年前の設立当初から今まで、加盟国政労使及び多くの開発パートナーと共に、社会的保護への投資を続けてきました。国際基準の設定や政府の社会的保護制度整備に対する支援を通じて、ILOは常に、社会的保護を負担ではなく、人、経済、社会への健全な投資と捉えてきました。うまく運営されている社会的保護制度や社会的保護の土台はライフサイクル上のリスクが人々に与える影響を減じ、バリューチェーン(価値連鎖)を通じた否定的な影響を最小限に抑え、企業が活動しやすい環境を形成します。ILOは「すべての人のための社会的保護の土台構築グローバル旗艦計画」を通じて政府が国の社会的保護制度及び社会的保護の土台を構築し、保護の対象を広げるのを支援しています。2030アジェンダは持続可能な開発目標(SDGs)の達成における非政府組織の決定的に重要な役割を明確に認めることによって新たなパートナーにこの企てに参加する扉を開きました。

 このように説明した上で、事務局長は、年次会合に参加している企業を「すべての人への社会的保護を現実のものとする前衛部隊の一部」と呼び、この会合は、ILOと共に世界中でディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を前進させることへの民間セクターの貢献を最大化する具体的な行動について決定し、それを形づくり、ILOと協力して社会の責任ある使用者、責任ある購買者、責任あるリーダーとしての役割を増すまたとない機会を提供すると呼びかけました。そして、この会合への参加自体が既にそのような行動を取っている証拠になっているとして、企業の包括的社会的保護給付に関する議論における積極的役割、ILOの基準に沿って、模範として主導する意欲、企業同士の好事例共有への参加及び他の企業への参加奨励、企業による社会的保護の保障の設計、策定、実施に取り組み、それに関する知識の獲得に努めることは、社会的保護に関する世界的な状況の改善に向けて民間セクターが取り得る真に重要な一歩と評しました。この点で、事務局長は、企業が社会的保護を支援する論拠の構築と知識共有において相当の進展を達成したものとして、社会的保護の土台に関するフランス語圏企業ネットワークとフランスの社会保障国立高等学校の活動に特に言及し、このような国内ネットワークが他の国にも拡大することへの期待を述べました。

 事務局長はさらに、企業は使用者団体による社会的保護に関する立場の構築を支援できることを指摘しました。サプライチェーンに関しては、ネットワーク参加企業の多くがサプライチェーン全体を通じて労働者の労働条件改善を目指しているILOのベターワーク(より良い仕事)計画などのグローバルなイニシアチブの参加企業であるなどして責任ある調達行為を提唱していることを挙げ、サプライチェーンに対する責任の概念を検討する際には社会的保護を無視することはできないとして、この点で、ILOと力を合わせることは大きな違いをもたらし得るとして、社会的保護に関するILOの国内プロジェクトや革新的な新しい持続可能な拠出の仕組みへの貢献によって自社のサプライチェーンの強化、企業リスクの低減、人々の保護が確保されるよう手助けできると提案しました。また、社会的保護への権利を世界中の地域社会で擁護することも提案し、利害関係者の間でこの大義を普及させることによって世論を行動へと向かわせる助けを提供できることや自社の社会的保護における持続可能性への取り組みを広報することによって自社のイメージを向上させ、ブランドに対する忠誠を高めることができると説きました。事務局長はその具体例として、ネスレ社との間で準備中の合意書に言及しました。この合意書を通じて両者は、ILOに付託された任務とSDGsに沿ってネスレ社が掲げている、すべての自社労働者に、それぞれのニーズに対応するような十分な賃金・給付及び優れた社会的保護の利益を確保するという公約を基礎に戦略的な協同事業に乗り出す予定であることを説明した上で、事務局長は他の企業もこれに続くことへの期待を述べました。

 事務局長はまた、来年はILOの創立100周年に当たることに触れ、これは自社がいかに社会的保護に関する政策課題を支持し、ディーセント・ワークを促進しているかを人々に広報するまたとない機会になることに注意を喚起した上で、過去の成果を祝すだけでなく、より重要なこととして仕事の未来及び社会的保護の未来を形作ることを試みるこの重要なタイミングへの参加を求めました。そして、ILOには責任ある使用者であろうと努める企業、責任ある購買者である企業、SDGsの実現に向けて大きな貢献を行おうと努める企業などに様々な形で協力できる可能性があるものの、これはこのような変化に向けて力を合わせて初めて達成できることに注意を喚起しました。さらに、この会合への参加によって人権としての社会的保護をすべての人に現実のものとする取り組みにおいて積極的な役割を演じることができると説いて結びとしました。