IMF/世界銀行グループ2018年年次会合

ILO事務局長声明-もっと平等な仕事の未来を

 国際通貨基金(IMF)と世界銀行グループの2018年年次会合に向けて発表した声明で、ガイ・ライダーILO事務局長は世界経済の「警戒すべき兆候」に光を当てました。

声明 | 2018/10/12

 2018年10月8~14日にバリ(インドネシア)で開催されている国際通貨基金(IMF)と世界銀行グループの2018年年次会合に向けて発表した英文声明で、ガイ・ライダーILO事務局長は世界経済の警戒すべき兆候に注意を促し、「もっと平等な仕事の未来を」と呼びかけました。以下はその抄訳です。

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 世界経済は約4%と、2011年以来最も高い成長を記録しているにもかかわらず、経済成長と労働市場の乖離を示す明確な警戒すべき兆候が見られます。世界全体の就業者数については、2013~18年に年平均1.2%と、低い伸びが続いていますが、2019年には1%を切り、2020年にはさらに落ち込むと予想されます。世界の就業率も12年連続で低下し、2019年には58.3%になると見られます。世界の失業率は2018年に少し改善すると予想されるものの、5%以上の高止まりが続き、雇用と企業の創出を支える追加的な措置が講じられない限り、状況は2020年まで続くと予想されます。実質賃金も伸び悩み、2017年には2008年以降で最も低い1.6%の成長が記録されています。

 世界の労働者の61.2%に相当する20億人(5人中3人以上)が非公式(インフォーマル)経済で生計を立てています。これはすべての仕事がディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)となる未来の達成に向けた世界的な取り組みを阻む多分最大の障害と言えます。そこで、公式(フォーマル)経済への移行の醸成を優先事項の一つに据え続ける必要があり、不十分な規制枠組みなどの非公式化を推進している要素への取り組みや構造改革が求められます。

 極度の貧困状態で暮らす人の割合は依然として許容できない水準に達しています。2017年に途上国及び新興国の労働者3億人以上が1日1人当たりの世帯収入または消費額が1.90ドルに満たない暮らしを送っていたと見られます。

 より多くのより良い社会的保護も必要です。世界人口の55%に当たる40億人が全く社会的保護の給付を受給できない状態にあります。就労形態にかかわらずすべての労働者が十分な保護水準を享受できるよう公的社会保険を含む社会的保護制度を強化する必要があります。持続可能な開発目標(SDGs)や「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にも反映されているように、社会的保護をすべての人に確保しようとの世界の決意はかつてないほど強いものの、既に達成された進歩を確保するためにも対処すべき重要な課題が存在します。これには社会的保護支出に影響を与えている短期的な財政調整や公的社会保険縮小に向けた動き、使用者の社会保険料引き下げや保険料算定根拠となる収入額上限の引き下げなどの懸念すべき動きが含まれています。

 貿易協定は成長や雇用、包摂性、安全保障を引き上げる潜在力を秘めています。多くの場合、これは社会・労働条項の実施メカニズムの改善を通じて達成できると思われます。

 仕事の未来はもっと平等でなくてはなりません。しかしながら、その未来は男女不平等と高齢化によって形成されつつあります。女性はいまだに世界の労働力の5分の2にも満たず、最も低い新興国では女性の労働力率は37%に過ぎません。女性はまた、職業階層の下方に集中し、その収入は世界平均で男性を約2割下回っています。労働市場参加者の平均年齢はゆっくりと上昇すると見られますが、とりわけアジア太平洋地域では2017年に40.3歳だった平均年齢が2030年には42.3歳に上昇すると推定されます。

 こういった人口動態や雇用における不平等の中心には介護や育児といったケア経済が存在します。労働力における男女不平等の一因として、ケアを伴う無償労働と有償労働の不平等な分離と結びついた世帯内の不平等を挙げることが出来ます。ILOは公式の技能認証やケア労働の報酬改善、世帯内における無償のケア労働の不平等な男女分離に対処する家族支援策の改善などを含む新たな政策を講じてケアサービスの成長がより多くのディーセント・ワークに寄与するよう確保するケア労働への正しい取り組みを提唱しています。

 世界全体で若者の失業者は6,400万人を超え、貧困状態にある若者労働者も1億4,500万人を数えることから若者の就業は依然として世界的な課題であり、最優先の政策懸念事項です。新たな自動化やデジタル技術は生まれながらのデジタル世代である若者に課題と共に機会ももたらしますが、その潜在力を発揮させるには若者により良い未来を確保するための明確な戦略と政策が求められます。

 パリ協定が掲げるように気温上昇を2度以内に収めることによって、正味で1,800万人分の仕事が新たに創出されると見られます。雇用が伸び悩んでいる現状ではこれは相当の機会を提示します。循環型経済を導入することによって世界全体でさらに600万人分の仕事を創出できる可能性があります。この移行を可能にし、誰も置き去りにしないよう確保するために正しい政策が導入される必要があります。移行に際しては社会対話が重要な手段となります。

 所得不平等の拡大とゲームのルールが公正でないとの思いが増すことによって多国間主義が脅かされています。現在見られる大衆主義の高まりに対する対抗手段として、低賃金労働者の収入後押し、そのような労働者の労働法や社会的保護による保護の向上、団体交渉の促進などを含む具体的な政策の変更を提案することが出来ます。

 13日に開かれた合同開発委員会に向けた声明で、事務局長はこのように説いた上で、不平等を縮小するための緊急の行動を呼びかけています。

 事務局長はまた、12~13日に開かれたIMFの国際通貨金融委員会に対しても同趣旨の声明を提出しました。この声明では以上に加えて、新技術が若者の未来に示す潜在的な機会に関連し、より多くの人への教育に向けて優先課題を改めて設定し、再投資を行う政策の重要性を説き、一般教育及び技術・職業教育訓練に向けた公的投資を拡充させる緊急の必要性を強調し、教育における不公平をさらに形成するような形でデジタル技術を用いるべきではないと唱えています。