人身取引反対世界デー

ILOアジア太平洋総局長声明-労働者の権利:人身取引に取り組む手段

声明 | 2018/07/30

 2018年の人身取引反対世界デー(7月30日)に際して発表した以下の英文声明で、西本伴子ILOアジア太平洋総局長は、強制労働条約の議定書を用いて人身取引の問題に取り組もうと呼びかけています。

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 187の加盟国政労使が仕事を促進し、人々を守るために集った国連機関である国際労働機関(ILO)には現在、世界各地で強制労働と人身取引と闘う事業計画が九つありますが、うち四つがアジア太平洋地域で展開されています。

 人身取引の定義は、約20年前に採択された「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書(通称「パレルモ議定書」)」で示されています。この国際条約を通じて、国際社会は人身取引の防止、抑止、処罰を公約しています。これ以降、人身取引の犯罪と闘い、これを根絶することに世界は注意を集中させてきました。

 利潤のために人を搾取し、虐待する行為と闘う公約は多いものの、人身取引を防止する結束した行動には至っていません。

 なかなか消滅しない人身取引は、人類家族すべての構成員の平等な譲れない権利と生来の尊厳を含む人類の基本的な価値に本質的に挑むものです。

 捜査や刑事訴追、潜在的な被害者と考えられている非正規移民や性産業労働者を「救出する」ための強制捜査、人身取引に遭遇または人身取引を経験する可能性があるかもしれない人々の啓発のための訓練を中心とした人身取引対抗措置に毎年数億ドルが費やされています。

 人身取引の規模に関する最新の世界データから草の根組織の報告に至るあらゆる兆候が虐待の深刻度や件数を減らすことに私たちが失敗している事実を示しています。

 人身取引の存続における企業の役割がますます注目されるようになってきています。より安価な労働力と少ない規制を目指す世界的な動きを背景に、責任ある企業は変化の力となることが想定されていました。

 扇情的な「現代の奴隷制」の言葉にあおられて、サプライチェーン(供給網)の監査の拡充と企業の調達先開示を求める声が急激に高まりました。しかしながら、こういった自発的なイニシアチブは労働者に対する生存賃金の支払いや社会的保護の拡大などといった真の違いをもたらす可能性がある事業モデルの変更を避け、実質的な改善をもたらすには至りませんでした。

 より効果的に人身取引に取り組むには基底にある問題に関するより明確な理解が必要です。人身取引は訴追を逃れることができたほんの少数の犯罪者の結果ではありません。これは全体に及ぶ問題であり、その根源は安全でない職場、過度の長時間労働、残業手当の不払い、賃金窃取、結社の自由の欠如などといった労働者の権利の侵害にあるのです。

 人身取引は第一義的に労働、性差、階級の不公正な関係に基づいています。にもかかわらず、人身取引対策は非公式(インフォーマル)部門の女性や少女の場合を中心に、脆弱性の根本原因に取り組んでこなかったのです。

 正義の要請として、人身取引から利益を得る人々の刑事訴追が求められますが、この対応だけでは問題の削減には十分でないことが立証されています。もっと根本的なレベルで変化を起こす必要があります。

 人身取引への脆弱性を減らすために労働者の権利を保護し、人間らしく働きがいのある労働条件を確保することにもっと重点を置く必要があります。これは家事労働や農業、漁業、娯楽産業、その他の非公式な仕事に不安定に雇用されている人々を労働法の完全な保護の下に置くことを意味します。

 これは以下のようなことを意味しています。

  • とりわけ女性と移民労働者に対する差別的な処遇への対処
  • すべての労働者が利益を得られるよう、社会的保護制度を広げること
  • 労働法を執行する労働監督署の任務と資源・資金の拡大
  • 現在の範囲を越えた普及及び法律面での支援を通じた苦情申立て機構利用の円滑化
  • 労働者が団結し、団体交渉を行えるよう結社の自由を保障すること

 2014年のILO総会で採択された強制労働に関する新たな議定書は、強制労働と人身取引のつながりを強調し、保護、防止、補償という三つの主なレベルでの義務を定めています。

 人身取引に効果的に対抗し、公約を支える手段はここに存在します。問題はそれを用いる勇気が私たちにあるかどうかです。