国連人権理事会

ILO事務局長演説-人権侵害のないフェアプレーを

声明 | 2018/02/26

 平昌冬季五輪は閉幕しましたが、2年後は東京です。ジュネーブで第37回国連人権理事会が開幕した2018年2月26日にそのサイドイベントとして、メガ・スポーツイベントの開催が近い将来予定されている日本とカタールの在ジュネーブ代表部は人権尊重強化をテーマとするイベントを共催しました。会合においてガイ・ライダーILO事務局長は、「人権侵害のないフェアプレーを」と訴え、メガ・スポーツイベント開催に向けた過程で労働者の権利が守られるよう呼びかける以下の英文スピーチを行いました。

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シェイク・ムハンマド・ビン・アブドルラフマン・ビン・ジャシム・アール・サーニ外務大臣殿、
堀井学外務大臣政務官殿、
パネリストの方々、ご列席の皆様、

 まず第一に、本日、ここで発言の機会をいただきましたことに対し、日本、カタール両国政府に心よりお礼を申し上げます。

 私は、そして本日ここにご列席の皆様方も同じかと存じますが、世界最大の平昌冬季五輪の大会を見終わったばかりです。2年後に私たちは東京の夏季五輪を、そして4年後にはカタールで世界のトップ・サッカー選手が競い合うのを皆で観覧することになるでしょう。本日のイベントはスポーツ・イベントにおける人権尊重を促進している数多くの行動主体による複数の共同努力に関する知識を共有する重要な機会を提供することでしょう。

 まず最初に、人権理事会の動向をILOがいかに密接に追っているかについて少し触れたいと思います。仕事の世界における人権の実現、そしてそれは単なる文書上のものではなく、至る所におけるあらゆる人々の日々の勤労生活の中における実現のことですが、これこそが我々両機関の任務と行動課題の重要な収束点です。本日のイベントはそれぞれの任務の補完的な力と、国連が現実に一体となって機能していることとを示すさらなる機会となるでしょう。

 実際、私たちにはやるべきことが多くあります。いまだに1億5,200万人の子どもが児童労働に従事し、2,500万人が強制労働に従事し、仕事の世界には差別が蔓延しています。これはとりわけ移民労働者に対して、そして、仕事の世界に居座る異常なほどの男女賃金格差の形で見られます。世界の労働者の大半がいまだに結社の自由と団体交渉権に関するILOの中核的な条約を批准していない国で暮らしています。だからやるべきことはまだ山積しているのです。

 私たちはまた、労働安全衛生のリスクが最も高く見られるのはどこかも知っています。建設業、鉱業、農業です。それは世界が湾岸地域に注目する重要な理由の一つです。この地域では大規模で印象的な建設事業が世界でも多く見られ、労働力は主に移民労働者で構成されています。

 最初の労働監督業務が整備されてから200年近くが経つにもかかわらず、いまだに毎年、世界全体で230万人余りが仕事上の理由から命を落としています。職業病にかかったり、命を失わないまでも労働災害に遭う人は3億人を超えています。この多発する害悪は一人一人の個人とその家族にとっての個人的大災害であるため、私たち一人一人に対して行動が呼びかけられています。

 ちょっと思い出させていただきたいのですが、ILOはスポーツに関わる活動を始めた100年近く前に余暇利用勧告(第21号)を採択しました。この勧告は労働者が働いていない時に、何をすべきか、そして何をすべきでないかについて取り上げています。これは当時の現実を反映しています。スポーツとは働いていない時に行うものであり、文字通り、労働の厳しさから生き返るための娯楽だったのです。その後、仕事の専門職業化とメガ・スポーツイベントの興隆に伴い、スポーツは少しずつ仕事と化してきました。そこで今では他のあらゆる活動分野におけると同様、スポーツに付随する権利に目を向けなくてはならなくなりました。

 2020年に次の夏季オリンピック・パラリンピック大会が日本で開催され、2022年にはカタールでサッカーのワールドカップが開かれます。何百万人ものスポーツやサッカーのファンがこの美しい競技の祝典を楽しみに待っています。スポーツは正に、全ての人への質の高い教育において中心的な役割を演じ、公衆衛生の前進に大きな役割を果たし、ワールドカップやオリンピックのようなメガ・スポーツイベントは人権を前進させる大きな潜在力を秘めています。これは自由な生活を送ることを欲する人々が集まる世界的な場であり、それらの人々の間の親善を促進する場なのです。

 同時にこういったメガイベントは大きな課題とそれに対応する義務、とりわけ巨大建設事業における賃金を含む労働条件が国際的な最低基準の要求を満たすよう確保するような義務を伴います。これは労働安全衛生に関する基準を満たし、労働力の大半を構成する移民労働者の権利の十分な尊重を確保し、人権に対する好影響を促進し、悪影響を防止するようサプライチェーン(供給網)におけるデュー・ディリジェンス(相当なる注意)を行使することを意味します。

 スポーツ部門に対するプレッシャーは新しいものではなく、メガ・スポーツイベントの開催に関与している機関、スポーツ用品のバリューチェン内における企業、児童労働の関与、そのような商品を生産している労働者の権利の否定がますます注目を集めるようになってきています。少なくとも幾つかの場所では、この点に関し、相当の進展が見られました。

 より最近では、ロンドンでもリオでもソチでも、来るべき東京オリンピックでも、そしてロシアで開かれるワールドカップでも、移民建設労働者の労働者としての権利からメガ・スポーツイベントのバリューチェーンに至るまでより幅広い人権問題が注目されるようになってきています。ジョン・ラギー教授の報告書『For the game. For the world(ゲームのために。世界のために・英語)』は私たち皆を導くべき高い基準を設定しました。

 ますます多くの行動主体が集結して人権侵害のないフェアプレーとフェアなゲームを求めるようになってきている事実に元気づけられます。ILOはメガ・スポーツイベントにおける人権に関する複数利害関係者によるイニシアチブを支持しており、スポーツと人権のためのセンターが今年設立されることを歓迎します。このイニシアチブを追求してきた人権ビジネス研究所に加え、ロシアとカタールの職場点検を行っている国際建設林業労連を含む国際労働組合組織及び使用者団体が果たしてきた必要不可欠な役割に敬意を表したいと思います。

 このイニシアチブと二者間の関係を通じて、ILOは東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が大会の準備過程で労働基準を推進するのを支援しています。

 昨年11月、ILOとカタールは同国で包括的な技術協力計画を開始するパートナーシップ協定を締結しました。このパートナーシップで合意された目的は、私の考えでは、労働者の権利と真の変化の達成に向けたカタールの公約を反映しています。

 この包括的な事業計画は、カタールが批准ILO条約の遵守を確保し、今から2020年までの期間に就労に係わる基本的な原則と権利の実現に向けて一歩ずつ進むよう支援するために協力するILOとカタール政府の共通の公約を反映しています。

 カタールは既に多くの立法・事業措置を導入しています。そして、この私たちの事業計画では、移民労働者を単一の使用者に結びつけることによってその自由を制限している現行のカファーラ保証人制度を今年、雇用契約に基づく仕組みに置き換えることが予定されています。これによってもはや外国人労働者は政府との仲介役として自らの使用者、すなわち保証人に頼らなくても良くなります。さらに、労働者は出国や使用者を変更する際に、使用者の承認を得る必要がなくなります。

 さらにこの事業計画の下、昨年導入された一時的な最低賃金を包括的な評価に基づく水準の恒常的な最低賃金に置き換えるよう政府との活動が進められています。また、労働者が適時に賃金を受け取ることを確保するために、賃金保護制度の効率性と適用範囲を点検し、その改善に向けた勧告を行うことになっています。

 こういった措置の実行は実際、この1年間、そして今後の優先事項であり、ひとたび実行されれば、真の前進を表すことになります。非常に喜ばしいこととして、最近ドーハを訪れた職員から得た最新のニュースは、カタールにおける事業計画の成功に向けた明るい展望を開けさせるように見られます。

 2022年のワールドカップが美しい競技と仕事の世界における自由の美の模範的な祝典となることを私たちは皆望んでいます。2022年に向けた厳しいトレーニングが必要なのは選手だけではありません。そしてちょうど選手らが希望するゴールしての得点がそうであるように、努力と公約なしに私たちのゴールは達成できないでしょう。ワールドカップに勝てるのは1チームだけですが、カタールにおけるワールドカップとあらゆるメガ・スポーツイベントにおける人権を確保することによって誰もが勝利することができると私は信じています。