世界環境デー

ILO事務局長声明:グリーン化が当然にディーセントな未来を形成するわけではなく、そのように設計することが必要

声明 | 2017/06/05

 6月5日は世界環境デーです。この日に開幕する第106回ILO総会に提出した事務局長報告でガイ・ライダーILO事務局長は、グリーン経済への公正な移行を成功させる方法に関する議論を提案しています。今年の世界デーに向けて発表した以下の英文声明で、事務局長は、この日を政治的意思を行動に移す理由にしようではないかと呼びかけています。

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 気候変動は人間の活動が引き起こしています。この活動の大部分が仕事あるいは仕事に関連しています。そこで、この喫緊の課題に対する解決策を見出す上で仕事の世界がカギとなる役割を演じるのは当然過ぎるくらい当然です。

 気候変動は、基盤構造を損ない、企業活動を混乱に陥れ、仕事や生計手段を破壊するというその力を十分に示してきました。私たちは前代未聞の規模のこういった課題に日々直面しているのです。

 影響は企業活動にも労働者にも及んでいます。働く貧困層、自営業者、そして非公式(インフォーマル)労働や臨時労働、季節労働に従事する人々の場合は特にそう言えますが、こういった人々はしばしば十分な社会的保護を欠き、代替的な収入の機会も限られています。地元の水や食糧の供給といった気候の影響を受けやすい資源に大きく依存してもいます。

 けれども、世界は雇用創出か環境保全かのどちらかを選ぶ必要はありません。環境の持続可能性は労働市場の観点から見ても必須事項です。

課題と機会

 実際、より持続可能な経済へと向かう過程で、公害を多く生み、エネルギー集約的な活動を中心に、今日存在する多くの種類の仕事が消滅するのは確かです。置き換えられたり、適応を迫られるものもあるでしょう。しかし、新たに生まれる仕事もあるでしょう。

 経済のグリーン化は先進国でも途上国でも成長の原動力になり得ます。これは気候変動の影響緩和や適応だけでなく、貧困の根絶や社会への包摂に大いに寄与する人間らしく働きがいのあるグリーン・ジョブを生み出す可能性があります。

 この傾向は既に見られます。国際再生可能エネルギー機関(IREA)によれば、2015年に再生可能エネルギー部門の就業者は前年比5%増の810万人に達したとされます。林業、エネルギー、リサイクリング、運輸、農業といった産業部門はグリーン経済への移行から多くを得る可能性が高いと言えます。

 国連食糧農業機関(FAO)は、世界の労働力の高い割合が従事し、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の深刻な欠如が幅広く見られる農業における、より持続可能な作業形態への移行は、2050年までにフルタイム換算で2億人分以上の仕事を新たに生む潜在力を秘めると見ています。

 しかし、課題はさらに多くの仕事を創出することだけに留まりません。こういった仕事の質もまた重要なのです。持続可能な開発は環境に与えるその影響だけでなく、その社会的・経済的側面にも十分に配慮して進めなくてはいけません。そうでなくては、グリーン経済への移行は決して公正と言えないものになるでしょう。

そこに到達する道とは?

 グリーン経済への公正な移行を成功させることを目指すならば、予測可能で適切な規制が必要です。これを実現するために政府は労使団体と緊密に協働する必要があります。これは実際、6月5日に開幕するILO総会で検討される主な論点の一つとなるでしょう。

 公正な移行に向けた道を構成するあと二つの要素とは技能開発と社会的保護で、これは社会的に許容でき有益な、就労に係わる変化を円滑化するという立証された記録があります。

 最後に、気候変動には国境も制度・機構の縦割りも関係ありません。そこで、諸国政府と多国間システムの様々な機関が共通の目的に向けて整合的に協働する必要が生まれます。これは公正な移行を達成するためだけでなく、最も重要なこととして、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の相互に関連する17の目標全てを達成するためにも必要です。

不作為の付け

 気候変動を無視すればやがて経済成長が損なわれるでしょう。これは10年以上前に英国のスターン報告が発した冷厳な警告です。その後、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は人間が誘発した気候変動が相当程度に進行しているとの議論の余地のない証拠を見出し、産業革命以前と比べた地球の気温上昇水準を最大2℃程度に抑えなかった場合の結果について警告を発しました。

 この暗い見通しは他の多くの研究によっても確認されていますが、この一つであるILOのグローバル・リンケージ・モデルは、従前のやり方を変えなかった場合、2030年までに2.4%、2050年までに7.2%、生産性水準が低下するとの見通しを示しています。

 良いニュースは、私たちはどこに行きたいと思っていて、そのためにはどうすればいいか分かっているということです。パリ協定(国際社会はこれによって産業革命以前と比べた今世紀の地球の気温上昇幅を2℃よりはるかに低い水準に留めることに合意)と2030開発アジェンダが定めた目指すべき目的地に向けて進むべき道の重要な基準点は、「環境面から見て持続可能な経済と社会に向けた公正な移行」であるということが受け入れられました。

 けれども、目的地と進路が分かっていても十分ではありません。歩み続ける政治的意思が必要です。グリーン化が当然にディーセントな未来を形成するわけではなく、そのように設計することが必要なのです。だから、世界環境デー(6月5日)を祝うだけの日にするのではなく、私たちの政治的意思を行動に移す理由にしようではありませんか。私たちの仕事の未来、そして私たちの子どもたちの未来はそれにかかっているのですから。