第10代ILO事務局長ガイ・ライダー(英国・2012年~)

ガイ・ライダー第10代ILO事務局長写真

 2012年5月28日に行われた選挙の決選投票で56票中30票を獲得して選出されたガイ・ライダー事務局長は、イギリス労働組合会議(TUC)国際局を皮切りに仕事の世界に係わる約30年の経験がありますが、そのほとんどが国際的な場におけるものです。1956年に英国リバプール市で生まれ、ケンブリッジ大学とリバプール大学で教育を受けました。1985年に国際商業事務専門職技術労働組合連盟(FIET、現UNI)工業部会書記としてジュネーブに赴任し、1988年国際自由労連(ICFTU)ジュネーブ事務所副所長、1993年同所長を経て、1998年に労働者活動局長としてILO事務局に入局しました。1999年からはフアン・ソマビア事務局長の下で官房長を務めました。2002年2月にICFTU書記長に選出されてブリュッセルに赴任し、2006年11月にICFTUが国際労連(WCL)などと共に国際労働組合総連合(ITUC)を結成すると、その初代書記長に選出されました。2010年9月から国際労働基準及び労働における基本的原則・権利を担当する総局長として事務局次長ランクでILOに復帰しました。ILO総局長としては、主としてILO条約・勧告の適用監視業務を監督し、ハイレベル訪問団の長としてバーレーン、コロンビア、フィジー、グルジア、ギリシャ、ミャンマー、スワジランドなど各国を訪れ、幅広い基準関連問題を手がけました。ILO理事会の改革業務も担当し、2011年11月に改革を無事完了させました。

 立候補届け出の際に提出した所信表明文書の中でライダー事務局長は、仕事の世界の幅広い変化の中で創立100周年に向けてILOを率いていく第10代事務局長の課題は、奥深く急速な変化を背景に社会正義の促進という確立された任務を提供する力をILOに備えさせることとして、1)ILOの基礎となる価値、三者構成主義の実践と促進に導かれること、2)その付託された任務の中で卓越した専門性を求めて努力すること、3)最大限の効率性をもって働き、最善のサービス及び得られる資金に対する最善の見返りを提供するという義務をしっかりと意識すること、4)加盟国政労使と常に接触を保つこと、をILOがその将来において成功するための条件に挙げています。そして、国際労働基準を使命の中核に据え、以上の要素とディーセント・ワーク課題に対する確立された国際的な支援を基礎とした事業計画のもとにILO加盟国政労使を集結させることを新事務局長の責任としています。

 当選の報を受けたライダー事務局長は、「この世界危機のただ中で、ILOのことを一度も聞いたことのない人も含め、数百万の人々の暮らしを良い方向に変えて違いをもたらすという多大な機会を与えられたことに実に興奮している」と喜びを表明しました。そして、理事会の信頼に感謝を示し、「ここで今日起こったことの意義は私たちが何をするかによって判断されるが、それは人々と仕事の世界を私たちの行うあらゆる物事の中心に据えること」であると述べました。理事会に向けた挨拶の中でライダー事務局長は、自らに寄せられた信頼に感謝を表しつつ、ILOの国際的な存在感を驚異的に高めるに至ったソマビア現事務局長の功績を讃え、社会正義という大義の下、共通の価値によって皆が結ばれている事実に注意を喚起し、業務の効率性や政労使三者構成主義の重要性にも言及した上で、ILOをこの急速に変化する時代の課題に対応する中心的な存在にするという目標に向けての連帯を呼びかけました。

 2012年10月1日に5年の任期で就任したライダー事務局長は、ILO広報局の初のインタビューに答えて仕事の世界が直面している主な課題を概括し、失業者にとっては仕事を見つけることが第一であるものの仕事の質もまた大切であるとして、「景気回復には就労に係わる権利が必要不可欠」と訴え、「世界経済におけるゲームのルールを提供する基準はこの危機から抜け出す上で非常に重要な部分」と語りました。そして、失業者が世界全体で2億人に達する現状では国内政策・国際政策は第一優先事項として雇用創出に焦点を当てる必要があるものの、危機の解決策については「社会対話」の一環として交渉・合意が行われるべきと説き、「この点でILOは大いに助けになり得る」と訴えました。事務局長はまた、グローバルな危機にはグローバルな解決策が必要なことも強調しました。

 ライダー事務局長はさらに、職業生活の出発点で1年以上職がなかった場合、その後の生活全体に影響が出ることをあらゆる証拠が指し示しているとして、仕事がない若者が世界全体で7,500万人に達するという世界的な若者の失業危機の緩和に向けてただちに行動に移ることを呼びかけ、そのための策として就学も就労もしていない若者に就労体験や継続訓練などを提供する若者保証制度などの方策を示しました。

 ILOは仕事、社会的保護、貧困との闘い、平等などといった今日の問題の中心に存在するものと考えるライダー事務局長は就任後、仕事の世界に影響する事項に関する国際的な意思決定の場の中心におけるILOの立場の強化に努めています。経済危機のような世界規模の困難な状況、そして変革が進められている国々、とりわけ仕事の世界が脅かされている国々の政策課題に関してILOが一定の役割を演じられることを目標に、内部機構を改革し、専門能力の強化と政策分析力の向上を図っています。

 2013年5月には就任後初めて日本を公式に訪れ、政労使トップの表敬訪問などに加え、16日にはILO駐日事務所/ILO活動推進日本協議会/ILO活動推進議員連盟共催の来日記念国際シンポジウム「グローバル経済の進展とILOの役割~ディーセント・ワークの実現に向けた国際協調と日本の役割~」で基調講演を行いました。

2013年5月の初公式訪日時にハローワーク飯田橋を視察したライダー事務局長(英語)

 ILOは2019年に創立100周年を迎えますが、ライダー事務局長は就任後初の2013年のILO総会に提出した事務局長報告で、この祝賀すべき機に際し、過去の業績を振り返るだけでなく、◇人口構造の変化、◇持続可能な環境への移行、◇進化が続く科学技術、◇貧困と繁栄の姿の変化、◇不平等の拡大と社会正義に対する挑戦、◇不均衡の是正、国際的な趨勢の収斂、景気回復を特徴とする経済情勢、◇生産と雇用の性格の変化、といった仕事の世界の今日的状況に合わせてILOが時勢に即した実践的な活動を展開できるよう以下の七つの事業を通じて将来に向けた手立てをこの組織に装備させることを提案しました。ILOでは現在、総会でおおむね支持されたこの提案の実現に向けて活動を進めています。

  1. ILOの統治構造の改革を完了させ、2008年の総会で採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」の最終条項に則ってその影響力を評価し、見出された事項について行動を起こすことを目指すガバナンス(統治)イニシアチブ
  2. 権威ある監視の仕組みに関する政労使の合意を固め、基準見直しの仕組みを通じて国際労働基準の妥当性を高めることを目指す基準イニシアチブ
  3. 低炭素の持続可能な開発路線への移行においてディーセント・ワークの側面を実際的に適用し、それに対する政労使の貢献を促進するグリーン・イニシアチブ
  4. 企業の持続可能性とILOの目標に寄与するような、ILOと企業が関与する足場の構築を目指す企業イニシアチブ
  5. 2015年以降の開発課題における雇用と社会的保護の要素などを通じて、全ての労働者に求められる妥当な生活賃金という緊急の要請に応えることを目指す貧困撲滅イニシアチブ
  6. 機会平等・均等待遇の実現に向け、仕事の世界における女性の地位と状況を調査し、政労使三者を具体的な行動に従事させることを目指す働く女性イニシアチブ
  7. 仕事の未来に関する諮問団を設置し、その報告書を2019年のILO創立100周年記念総会に討議資料として提出することを目指す仕事の未来イニシアチブ

 ライダー事務局長は第328回ILO理事会で2016年11月7日に行われた投票の結果、正理事56票中54票の圧倒的多数の信任票を獲得して再選されました。2期目5年間の任期は2017年10月1日から始まります。