「100周年を迎えたILOに期待すること」

第3回 鈴木玲 法政大学大原社会問題研究所教授・所長


鈴木 玲(すずき あきら)法政大学大原社会問題研究所教授・所長

上智大学を1986年に卒業後、会社勤務を経て89年よりウィスコンシン大学社会学部大学院に留学。1997年に同大学院より博士号取得。1999年4月に法政大学大原社会問題研究所の専任研究員になる。2016年4月より大原社会問題研究所所長。専門は、労働社会学、社会運動論。最近のテーマは労働運動と環境運動の関係の歴史的研究。

ILOについてどのようにご存知ですか?また、ILOとどのような繋がりをお持ちですか?

 私は大学院在学時にILOについて学びました。博士論文は、日本における労働運動の発展について執筆しました。研究対象とした労働組合のひとつが、結社の自由に関するILO条約(第87号)の批准のために奮闘した国鉄職員の組合でした。1950年代後半、解雇された職員がその労働組合の主要な役職に選任されたのですが、国鉄の幹部たちは、解雇された職員の関与は違法だとして、組合との団体交渉への参加を拒否しました。そこで組合は、他の公共部門の労働組合とともにILOに嘆願するとともに、ILO条約(第87条)を批准するよう、日本政府に圧力をかけました。結果として、1960年代半ばに同条約は批准されました。日本の労働運動の歴史は、ILOが務めた役割の重要さを如実に表しています。
 1999年に法政大学大原社会研究所(以下、大原社研)に入所してからは、2つの理由からILOについてさらに知ることとなりました。第一に、大原社研が毎年出版する『日本労働年鑑』でILOを取り上げています。ILOに関連する章の編集や校正を通して、理事会や総会における国際労働条約に関する議論やILOが行う技術協力など、ILOの活動についてより深く学びました。特に、世界中の人々の職業人生や生活条件の改善に向けたILOの献身に感銘を受けました。第二に、大原社研は1987年から国際労働問題シンポジウムを開催しており、2003年からはILO駐日事務所と共催しています。シンポジウムでは、その年に行われたILO総会の議題からひとつ選び、政労使の代表がそれぞれの視点や意見を聴衆と共有します。その議題に関連した問題と深い関わりを持つ学者や専門家も参加します。このシンポジウムの運営を通して、議題や関連文書の結論にかかる合意形成に向けた、政労使代表による意思決定過程の複雑さと重要さについて学びました。

今日の世界において、ILOの重要性を高める取り組みとは何でしょうか?

 新自由主義のグローバル化のもと、労働者の集団的利益代表制度は著しく弱まりました。労働者間の賃金や福利厚生の格差は広がりました。さらには、ディーセントではない労働環境で働く人の数も増えています。ILOは条約や勧告を通じて、規範的な基準を定める重要な活動を行なっています。例えば、1) 労働者、労働者代表、使用者がどのように賃金や労働条件に関する交渉を行うか、2) 労働者が著しく低い賃金を支払われたり、理不尽な長時間労働を課せられないようにするために、賃金や労働時間などの労働条件はどのように規制されるべきか、3) ディーセント・ワーク推進のために、労働政策はどのように形成されるべきか、といった点についてです。私の関心分野との関連としては、自国の法制度では解決出来ない事案、例えば労働運動への抑圧に対する苦情申し立てを可能とする懇願の場を労働組合に与えるという観点から、結社の自由に関する委員会の活動は重要だと感じています。

どのような仕事の未来を望みますか?

 まず、団体交渉やストライキに参加するための、いわゆる労働基本権が保障されるべきです。米国などいくつかの国では、使用者にとって有利に定められた政策や判例のもと、労働者の基本的権利が著しく弱まりました。労働組合の組織率は多くの先進国で低下しています。低賃金の不安定な雇用に就く労働者たちを受け入れるのみならず、政府が行う政策立案に対してより大きな影響力を及ぼすためにも、労働組合の活動は再び活性化されるべきです。
 また労働運動は、紛争、自然災害およびその他の理由により逃れてきた移民労働者や難民に対する差別とも戦うべきです。あらゆる労働者を守るために、労働運動と社会活動家たちの間の協力が広がることを期待しています。労働者はILOの三者構成原則に欠かせない要素であるため、より確固たる労働運動を強化することは、ILOの活動の有効性の向上にも貢献すると思います。