「あきこの部屋」第47回 先住民・種族民の現状と求められる緊急の行動

2020年2月28日

新型コロナウイルスによる肺炎は世界中に広がりを見せ、日本でも感染拡大を防止するために、企業には在宅勤務や時差出勤、小学校から高校までの春休みまでの休校の呼びかけなどさまざまな対策がとられるようになり、経済はもちろんのこと日常生活にも影響が出ています。その中で、2020年度予算案は衆議院を通過し、年度内成立が確定しました。

ILOが日本政府の任意資金拠出を受けて行っているプロジェクトに関連するニュースをご紹介します。フィリピンのバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM)のプロジェクトでは、地域の上下水道の改善により、学童にも利益をもたらすことが予定されています。また、ガンビア国でILOのプロジェクトを通じて設立された企業、「CODEM(生活道路の整備・維持管理会社)」がプロジェクト終了後、市役所から初受注を果たしました。
駐日事務所では、日本語の出版物を完成させました。先月この欄でとりあげた「世界の雇用及び社会の見通し(WESO動向編2020年版)」及び「グローバル・サプライチェーンにおける児童労働、強制労働、人身取引に終止符を」の要約、ILOと東京2020の覚書に基づいた企業の取組事例集Fair Play及び調達ハンドブックなどです。また、ビジネスと人権行動計画(NAP)策定に向けた関連文書の分析~主要テーマごとの参照事項の集約というバックグラウンドペーパーを作成しました。

昨年は先住民・種族民の権利を扱う唯一の国際条約である「1989年の先住民(採択時の政府仮訳は原住民)及び種族民条約(第169号) 」の採択30周年でした。今月は、これを記念して2020年2月3日に発表された新刊書を紹介します。第169号条約の批准国は現在、187のILO加盟国中23カ国 に過ぎず、条約の保護の対象になるのは、先住民の15%ほどに過ぎません。
本書は5章構成で、第1章「先住民・種族民と社会正義の探求」でILOの取り組みや第169号条約など、先住民・種族民を取り巻く状況を概説し、第2章「不可視性の克服」でその数を推定し、第3章「不平等をひもとく」で労働市場の現状を記しています。第4章「制度・機構による対応の構築」で先住民・種族民の状況改善に向けた世界各地の取り組みを紹介し、第5章「包摂的かつ持続可能で公正な未来に向けて」で今後に向けた提案を行っています。付録として、人口や労働市場指標、貧困指標の推定に用いた手法を説明しています。

先住民は1日1人当たりの収入または消費額が1.90ドルの貧困線を下回る極度の貧困層の約19%を占め、1日3.20ドルや5.50ドルといった貧困線を基準にしても不均衡に多くを占めています。地域の違いや都市と農村の別のような住環境の違いにも関係なく、どこでも先住民が貧困層の相当割合を占めています。

多くの先住民の生計手段や経済活動は今日変化してきており、先住民の約45%が農業外活動に従事しています。世界全体で見ると、先住民の就業率(63.3%)は非先住民(59.1%)よりも高いものの、仕事の質は大きく異なり、先住民の86%超(非先住民は約66%)が劣悪な労働条件と社会的保護の欠如と関連付けられることが多い非公式(インフォーマル)経済で生計をたて、しばしば劣悪な労働条件や差別を経験しています。

先住民の女性はより大きな課題に直面しており、インフォーマル経済で働く割合は非先住民女性よりも25ポイント以上高くなっています。基礎教育を修了する可能性は最も低く、極度の貧困状態に陥る可能性は最も高くなっています。先住民女性はまた、家族の仕事を手伝う寄与的家族従業者となる可能性が高く(就業者全体の34%近く)、賃金・給与労働者は全体の4分の1程度に過ぎず(24.4%)、これは非先住民の女性(51.1%)や先住民の男性(30.1%)と比べても低くなっています。また、賃金・給与労働に従事する先住民女性の収入は平均で非先住民女性よりも18%低くなっています。

報告書は先住民の就業率が高い理由は貧困に関連しており、たとえ低賃金で労働条件が劣悪であっても、どんな形態の所得創出活動にでも従事する必要があるのではないかと推測しています。そして、公共政策の枠組みに関しては前進が見られるものの、先住民が直面している不平等問題に緊急に取り組む必要があると主張しています。この状況を克服し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成や気候変動に関するパリ協定の実現といった開発や気候に関連した行動主体として、先住民に力をつける多くの機会を特定しています。とりわけ、先住民の協議参加を可能にする公的制度・機構や法的枠組みの構築・強化のためには、第169号条約の批准・実行がカギを握るとしています。