「あきこの部屋」第46回 今年の世界の雇用失業情勢の展望

昨年創設100周年を迎えた国際労働機関(ILO)は、新しい100年に向かってスタートしました。今年もよろしくお願いします。

年初から新型コロナウイルスによる肺炎が中国を中心に急速に広がり、患者数、死者とも急拡大し、経済にも影響が出ています。政治に関しては、通常国会が1月20日に召集され、6月17日まで開催される予定です。

ILO駐日事務所は、1月23日、「ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)」の策定に関係しているステークホルダーによる報告会の共催団体の1つとなりました。報告会では「ステークホルダー共通要請事項」の発表も行われました。1月28日には、ILO・金属労協/JCM共催国内労使セミナー:「海外での建設的な労使関係構築」を開催し、労使のみならず在京大使館の方々も含め約140名の方々が熱心に傍聴してくださいました。

出版物については、日本の労働金庫(ろうきん)モデルが金融包摂の事例として挙げられている『ILO社会的金融プログラム』2018年年次報告書翻訳が完成しました。駐日代表としては、関西大学の近畿労働金庫寄付講座で、「国際機関から見た協同組合、ILO(国際労働機関)」と題する講義をしました。また、日本の任意資金協力によるパプア・ニュ-ギニア地震被災者に届いたきれいな水のビデオが完成しました。

今月は、1月20日に発表されたILOの定期刊行物最新版『World employment and social outlook (WESO) - Trends 2020(世界の雇用及び社会の見通し(WESO)-動向編2020年版)』を紹介します。3章構成で、第1章「世界の雇用と社会の動向」で世界の労働市場の状況を概括した後、第2章「地域別の雇用と社会の動向」で、アフリカ、米州、アラブ諸国、アジア太平洋、欧州・中央アジアの五つの地域別に主な特徴をまとめ、第3章「勤労所得を用いた不平等評価」で、雇用者と自営業者の両方の労働を通じて得た所得を用いてGDPに占める割合と分布を計算し、不平等の度合いが考えられていたより大きいことを示しています。

労働需給のミスマッチの影響は失業のみならず幅広い労働力の不完全活用に広がっています。世界の失業者数1億8,800万人に加え、現状より長い時間働くことを希望している就業者が1億6,500万人、積極的な職探しを諦めたかその他の理由で労働市場に加わる機会を失っている人が1億2,000万人に達し、合計で4億7,000万人以上です。十分に活用されていない労働力が約5億人に達している上に、世界経済の減速により、労働市場に新たに加わる労働力を吸収できるだけの雇用創出が期待できず、この9年間ほぼ横ばいであった世界の失業者数が、2020年に約250万人増える予測を示しています。

報告書は、失業、労働力の不完全活用、働く貧困層(ワーキング・プア)、所得不平等、労働分配率、人々をディーセント・ワークから排除する要素など、労働市場の主な問題を分析し、さらに労働市場における不平等の度合いを検討し、新たなデータと推計値を用いて、世界レベルの所得不平等はとりわけ途上国で、考えられていたよりも大きいことを明らかにしています。欧州、中央アジア、米州を中心に、世界全体で、労働者が受け取る国内所得の割合(労働分配率)が、2004年(54%)から2017年(51%)にかけて過去の推定を上回る規模で低下したことが示されています。

購買力平価建てで1日当たりの収入が3.20ドルを下回る働く貧困層は現在、世界の就労人口の5人に1人に当たる6億3,000万人を超えるとみられますが、途上国では2020~21年に中程度または極度の働く貧困層が徐々に増えると予想され、これは2030年までに貧困根絶を目指す持続可能な開発目標(SDG) 1の達成を困難にする結果になると考えられます。この他にも現在の労働市場のなかなか消えない特徴であるところの、性別や年齢、都市と農村のような地理的な位置に基づく不平等の存在は、個人の機会と全般的な経済成長の両方にマイナスの影響を与えています。とりわけ、就業も就学も訓練受講もしていないニート状態の若者(15~24歳)は2億6,700万人にも達するとみられ、加えて多くの若者が標準以下の労働条件で就労しています。

報告書は保護主義や貿易制限の強化は雇用に直接あるいは間接的に相当の影響を与える可能性を指摘しています。現在の経済成長のペースと形態が、低所得国における労働条件改善及び貧困削減に向けた努力を妨げており、構造転換や科学技術のグレードアップ、多角化を通じ、より高付加価値の活動を奨励する方向へと成長の型を変えていく必要性を指摘しています。