「あきこの部屋」第45回 『障害者を包摂した仕事の未来へ』 

ILO100周年や日本が主催国になったG20、TICAD(アフリカ開発会議)も何とか無事終了しました。今年の漢字に「令」が選ばれた2019年は、天皇陛下の即位やラグビーのワールド・カップの開催など数々の大きなイベントが行われた一方、例年にもまして災害が多い年でもありました。亡くなられた方にお悔やみを申し上げるとともに、被災された方が1日も早く通常の生活に戻られることを祈念します。

日本の会計年度は4月から翌年3月で、政府は毎年12月下旬に、翌年度予算案を決定し、年明けの通常国会に提出します。12月20日の閣議で決定された令和2年度の予算案の一般会計の総額は今年度の当初予算を1兆2009億円上回り、過去最大の102兆6580億円となりました。ILOへの分担金もこの中に含まれています。同日、社会保障制度改革推進本部が令和2年度の社会保障の充実・安定化等について決定しました。また日本の2019年の出生数は推計864,000人と発表されました。

ILOは今月スペインのマドリードで開かれた気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25) で、国連事務総長と仕事のための気候行動イニシアチブを発表しました。今月18日は国際移住者デーで、移民労働者は世界全体で1億6,400万人に上っており、ILOは移住が全ての関係者にもたらす利益の最大化を目指して活動しています。今年の労働力移動グローバル・メディア・コンクールの受賞作品の一つに日本の高齢化に伴う人手不足対策としての外国人労働者受け入れの問題を取り上げた論文が選ばれましたので、来月授賞式を行うことにしています。

駐日代表としては、名古屋で開催された第17回ASEAN日本社会保障ハイレベル会合で高齢化に係るILOの取組を紹介する機会があり、「ILO100周年・その役割と展望」を特集して下さった季刊労働法2019冬号に他のILO現元職員と一緒に寄稿させていただきました。さらに、仕事の世界における暴力とハラスメント条約のパンフレットを発行しました。広く御利用いただけることを期待しています。現在世界各地のILO専門職・空席募集のご案内を載せておりますので、皆様の応募をお待ちしております。

今月9日は、障がい者の日ということもあり、11月に発表された『障害者を包摂した仕事の未来へ』を紹介します。3章構成で、第1章で仕事と障害を巡る現状を概説した後、第2章で技術革新、技能イノベーション、文化の変化、人口構造の変化、気候変動といった仕事の未来に関連した主な趨勢を障害者の視点から分析した上で、包摂的な仕事の未来に向けた行程表を提案しています。

世界全体で10億人と推定される障害者は、就業率が低く、貧困や社会的排除のリスクが高いです。一般の人々の就業率の世界平均は60%であるのに対し、生産年齢にある障害者の就業率は平均36%に過ぎません。一方で、消費者としての障害者の年間可処分所得は1.2兆ドルを超え、社会の高齢化に伴い、障害者向けの財やサービスの市場は拡大すると予想されます。

この報告書は、国境横断イニシアチブである「持続可能な成長と社会革新のための欧州障害中枢」の枠内で、ILOのビジネスと障害グローバル・ネットワーク  が同中枢の技術事務局であるKPMGスペイン社及びスペイン視覚障害者全国組織(ONCE)財団と共同で制作したものです。それによれば、科学技術、技能、文化の変化、人口構造の変化、気候変動に関連して仕事の世界を変化させつつある大規模な新たな動向は、仕事や生活の質を改善する潜在力を秘めているものの、相当な課題も伴っています。新たな動向の「結果は明確ではないものの、不平等の拡大と、障害者のような社会の、より不利な部分に対する影響は懸念事項であり、戦略的なリスクの増大」に当たると指摘し、障害者などの不利な立場の集団がこの変容から利益を得るためには、「新たな行程表が必要」と説いています。 

報告書は障害者を仕事の未来に含むために必要なカギを握る目標を五つ挙げています。
1.新たな就労形態や雇用関係に障害者包摂の視点を組み込むべきこと
2.包摂的な技能開発と生涯学習
3.新たな基盤構造、製品、サービスは、誰でもアクセス・理解・利用が可能なユニバーサル・デザインの原則に従ったものとすべきこと
4.支援技術は入手可能で手頃なものとすべきこと
5.経済の成長分野及び開発分野へ障害者を含むようなさらなる措置が必要なこと

さらに、障害者を包摂した仕事の未来を達成するには、社会的保護制度が重要な補足要素であると言及しています。今年6月の第108回ILO総会で採択された「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言 」が提唱している人間を中心に据えた仕事の未来に向けた取り組みの中で、障害者の機会平等・平等待遇を確保する必要性が明記されていることも指摘しています。

さて、日本でオリンピック・パラリンピックが開催される来年もまた、国連創設75周年、ILO/COOP100周年などいくつかの節目の年です。子年を目の前にして、干支のネズミが目立ってきましたが、ネコ派としては、全部ネコにやっつけてもらいたいところです。ブログあきこのへや、ILO駐日事務所公式ツイッター に加えてILOインターンによるツイッター 、フェースブック、ブログご愛読ありがとうございました。良いお年をお迎えください。