「あきこの部屋」第37回 安全衛生と仕事の未来

2019年4月25日
新年度が始まりました。新緑がきれいです。

100年前の4月11日にパリ平和会議でILO憲章が採択されたことを記念して、2019年4月11日に24カ所のILO事務所をつないだ24時間のイベントがライブ中継されました 。録画でも閲覧可能です。国連もILO創立100周年を祝賀する行事を開催しました 。

日本はILO任意拠出金における主要なドナー国の1つですが、2018年度の補正予算によるフィリピン・ミンダナオのプロジェクト(先月紹介)に加え、モーリタニアで難民と受け入れコミュニティのための若年雇用を支援するプロジェクト も開始しました。これは、アフリカにおける雇用集約型投資プログラム の一環です。また、2019年度のILO任意拠出金事業として、アジア太平洋のプロジェクトを中心に約522万ドル供与していただきました。

今年は日本がG20など国際的行事の主催国ですが、4月には市民社会が主体となるC20が開催され、コミュニケがG20議長を務める安倍内閣総理大臣に手交されました。
ILO駐日事務所は、日本ILO協議会、上智大学と共催で、5月31日 (金)に同大学で「外国人労働者のディーセント・ワークと人権をめぐる課題と労使の対応」と題するILO100周年記念 労働CSRセミナー を開催いたします。皆様の御来場をお待ちしています。
出版物としては、主なILO条約・勧告、国際労働基準の仕組みについて簡単にまとめた便利な広報資料の国際労働基準:ILO条約・勧告の手引き2019年版 を作成しました。是非ご活用ください。また、ILO縁の方々にお話を伺う、「100周年を迎えたILOに期待すること 」と題するシリーズをウェブサイトで始めました。

その他、5月15日を締切りとする世界各地のILO専門職・空席募集のご案内 を出しています。国際機関での勤務を希望する意欲のある方の御応募を期待しています。

さて、ILOは労働災害や職業病の防止/予防の大切さに注意を喚起するために4月28日を労働安全衛生世界デーと定め、世界的な啓発キャンペーンを実施していますので、今月は安全衛生をとりあげます。今年は「安全衛生と仕事の未来」をテーマとし、『Safety and health at the heart of the future of work: Building on 100 years of experience(仕事の未来の中心に位置する安全と健康:土台となる100年の経験)』 と題する報告書を出しました。

報告書は3章構成で、第1章で100年間に及ぶILOの労働安全衛生分野の取り組みをまとめ、続く第2章で仕事の世界の変化を4分野に分けて新たな課題と機会を示した上で、第3章でこのような仕事の未来に対応する方法を提案しています。
業務関連の疾病や災害は経済的なコストに加え、人々に非常に大きな苦しみをもたらします。しかも、その多くが予防可能であることは、一層悲劇的なことです。毎年、世界全体で3億7,400万人を超える業務関連傷病者が発生し、労働安全衛生に関連した原因による労働損失日数は、世界全体の国内総生産(GDP)の約4%(国によっては6%)に相当します。業務関連の原因による死亡者は疾病によるものが多く(死亡者全体の86%)、1日当たりの労働災害による死亡者は1,000人台、職業病による死亡者は6,500人台です。三大死因は循環器疾患(全体の31%)、労働関連のがん(同26%)、呼吸器疾患(同17%)となっています。

変化の主な推進力として以下の4分野があげられています。

1つ目の科学技術は、心理社会的健康に影響を与え、健康危害の危険性のある新素材を導入する可能性がある一方で、正しい適用により、危険有害要素への暴露を減らし、訓練や労働監督を強化する可能性もあります。

2つ目の人口構造の変化は、若年労働者の職業上の負傷率が高いこと、高齢労働者の安全な就労には機器や実務面での適応が必要であること、女性は労働力参加が進んでいますが非標準的な働き方も多く、筋骨格障害のリスクが高くなる傾向があることが課題です。

3つ目の開発や気候変動は、大気汚染や熱ストレス、新しい疾患、天候・気温の形態の変化による雇用喪失の可能性などのリスクをもたらす一方で、持続可能な開発や環境に優しいグリーン経済を通じて新たな仕事を生み出すことにつながります。

4つ目の作業組織の変化は、より多くの人が労働力に加われるような柔軟性をもたらす一方で、心理社会的問題(不安定性、プライバシーや休息時間が損なわれる危険性、不十分な労働安全衛生や社会的保護など)や長時間労働につながる可能性もあります。現在、週48時間超の長時間労働者は世界の労働力の36%近くに達しています。

報告書は政策策定者や利害関係者が重点を置くべき分野として、◇労働安全衛生上の新たなリスクを予測する活動の強化、◇より多くの専門分野を巻き込んだ取り組み、◇労働安全衛生問題に関する人々の理解の向上、◇公衆衛生活動とのつながりの強化、◇国際労働基準及び国内法制の強化、◇政府及び労使の社会的パートナーの協同活動の強化の六つを提案しています。

仕事の未来世界委員会の報告書 は、6月のILO総会で検討されることになっていますが、労働安全衛生を就労に関わる基本的な原則及び権利の一つとして認めるよう提案しています。