「あきこの部屋」第34回 ILO100周年スタート

2019年1月28日

国際労働機関(ILO)は創立100周年を迎えました。1月22日に「仕事の未来」世界委員会報告書(副題 輝かしい未来と仕事)が発表され(概要日本語訳)、ILO創立100周年が公式に開幕いたしました。各種賀詞交換会のご挨拶の中でILO100周年に触れてくださる方も多く、身が引き締まる思いです。この1年よろしくお願いします。

政治に関しては、通常国会が1月28日から6月26日まで開催されます。2018年12月に、労働政策審議会会長から厚生労働大臣に「女性の職業生活における活躍の推進及び職場のハラスメント防止対策等のあり方について」建議が行われましたが、この通常国会に法案を提出するための準備が行われています。なお、国会閉会中に政府の基幹統計である毎月勤労統計の不適切調査問題が発覚し、その他の統計の不備も見つかり、大問題となっています。

ILO駐日事務所は、いくつかILO100周年記念行事を行う予定です。1月30日に外務省と共催で、トーク・イベント&キャリア・セミナーをします。2月1日には厚生労働省と共催で記念シンポジウムを行います。仕事の未来世界委員会の事務局責任者であるデボラ・グリーンフィールドILO政策担当副事務局長及び世界委員会の清家篤委員が報告書の内容を紹介し、日本の政労使などがパネル討議を行います。

広報資料としては、「仕事の世界のために尽くす国連の専門機関ILO」「ILO旗艦プログラムの概要」「日本とILO」 などのパンフレットを新調したところです。100周年の広報キャンペーン用のポスターで広報に御協力をいただける方々を募っています。

今月は、「仕事の未来」世界委員会報告書を紹介します。この報告書は、事務局長報告として6月に開かれる創立100周年記念第108回ILO総会 に提出され、総会での討議に資するよう国内で十分に討議することが加盟国に呼びかけられており、日本のシンポジウムもこれに資することが期待されています。

「仕事の未来」はILO100周年記念イニシャチブの1つで、2013年に立ち上げられました。2016年から2017年にかけて、加盟各国で仕事の未来に関する国内対話が行われました。世界委員会は、2017年8月に発足し、スウェーデンのステファン・ロヴェーン首相と南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領が共同委員長を務め、世界各地のビジネスや労働、シンクタンク、学界、政府、非政府組織の第一人者27人で構成され、15カ月間に及び活動が行われました。

報告書は、私たちの前途には、勤労生活の質の向上、選択肢の拡大、男女格差の縮小、世界的な不平等によって引き起こされた損害を回復する無数の機会が存在するものの、そのどれ一つとして自然に起こるわけではなく、「決然とした行動なしには、私たちは今ある不平等と不確実性を拡大するような世界に入ってしまう」と強調しています。

新技術や気候変動、人口動勢によって仕事の世界にかつてない規模の変化が起こり、それが課題を発生させています。そして、この混乱に地球全体で集団的に対応することを呼びかけています。例えば、人工知能や自動化、ロボット工学は技能の陳腐化をもたらすために雇用喪失につながりますが、新しい機会を捉えられたとしたら、この同じ技術進歩が経済のグリーン化と共に数百万人分の雇用を創出することにもなります。

報告書は人々の能力、就労に係わる機構、持続可能なディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)への投資を基盤とし、人間を中心に据えた政策課題の理念を示しており、つぎのような10項目の提案を行っています。

◇労働者の基本的な権利を守り、十分な生活賃金を提供し、労働時間を制限し、安全で健康的な職場を提供するようなすべての人に対する労働保障、◇ライフサイクルを通じて人々のニーズを支える、誕生時から老齢期までに至る社会的保護の保障、◇技能習得、再技能習得、技能向上を可能にする、すべての人に開かれた生涯学習資格、◇デジタル労働プラットフォームの国際的な統治の仕組みなどを含むディーセント・ワークを後押しする形での技術変革の管理、◇介護・育児といったケア経済、環境に優しいグリーン経済、農山漁村経済への投資の増大、◇計測可能で変革を起こすような男女平等目標、◇長期投資を奨励する方向に向けた事業奨励措置の再形成

報告書はまた、国際的な仕組みの中で「人間を中心に据えた経済」という政策課題の育成・提供において、ILOが果たすべき「唯一無二の役割」に光を当て、早急に報告書が示す提案の実施に注意を払うよう呼びかけています。

ガイ・ライダーILO事務局長は、報告書の論点は「すべての人々、そしてこの地球にとって重要」で、「その実施は困難かもしれないものの、それを無視することは自らを危険にさらすこと」と指摘し、世界中の政府、使用者、労働者の結集を図るというILOに付託された任務は、「この組織が将来的な勤労世代に新たな展望を開く助けになるためのコンパス及び案内人として行動するのにとても適していること」を意味すると強調しています。