あきこの部屋 第26回:「HIV/エイズに関する活動」

2018年5月29日

アジサイが美しい季節となりました。5月28日から6月8日までILO総会が行われます。今年の議題は、持続可能な開発目標を支えるILOの効果的な開発協力、仕事の世界における男女に対する暴力とハラスメント、社会対話と三者構成原則などです。

政府が今国会での成立を目指している働き方改革関連法案1) は、高度プロフェッショナルを労働時間規制から完全に外す制度の導入について、野党が強い反対を表明していましたが、一度適用を受けることになった労働者も希望すれば適用からはずれることができる旨の改正が行われ、一部の野党は法案に賛成する意向です。

ここからはILO駐日事務所からのお知らせです。4月1日に一般社団法人 日本協同組合連携機構(JCA)が誕生し、私もお祝いのメッセージをお送りさせていただきました。ILOとJCAは、アフリカ協同組合リーダーの受け入れやイベントの共催などを通じて今後も密接に連携していくつもりです。

続いて、あきこの部屋3月号でご紹介したガンビア国の若者の雇用創出と持続的平和構築に関するプロジェクトについて、担当者作成の記事が届きました

また、同じく3月号で紹介した「世界のスナップショット世界の雇用及び社会の見通し女性動向編2018年版」、4月号の「若者の安全衛生を改善する」について、翻訳が完成いたしました。

さて、今月24日に、ILOがHIV(エイズウイルス)及びエイズに関する新刊書を発表したので、HIV/エイズに関する活動について紹介します。ILOは、2001年に「HIV/エイズと働く世界ILO行動規範」を採択し、2010年に、それを増強し、労働分野におけるHIV/エイズの問題に特に焦点を当てた初めての国際文書となるHIV及びエイズ勧告(第200号)を採択しています。第200号勧告は、 ILOと加盟国政労使の活動の指針となるだけでなく、エイズに係わる国際社会の調整を高める重要な文書となることを意図しています。

国連合同エイズ計画(UNAIDS)と共同で作成されたこの報告書『The impact of HIV and AIDS on the world of work: Global estimates (仕事の世界に対するHIVとエイズの影響:世界推計・英語)』は、HIV流行の推移と抗レトロウイルス療法のスケールアップが世界の労働力に与えた影響と今後の予測を示すと共に労働者及びその世帯に対するHIVの社会的・経済的影響を評価しています。 

HIV/エイズは人的被害のみならず、治療を受ければ防止できたであろう何十万人もの労働者の死亡による得べかりし賃金の形で数十億ドルの逸失利益を発生させており、エイズを原因とする労働者の死亡または労働不能による逸失利益は計約170億ドルに上った2005年よりは大幅に減少したものの2020年になってもまだ72億ドルに達すると予想しています。

HIV及びエイズを原因とする死亡労働者数は2005年の130万人から大幅に減少して2020年には42万5,000人になると推計されています。ガイ・ライダーILO事務局長は、死亡率が最も高い30代後半の年齢層は通常、生産年齢のピークに当たり、「治療規模の拡大と迅速化によって命が奪われることは完全に防ぎ得る」と説いています。

エイズ治療のおかげで多くの労働者が生産活動を続けることができ、2005年に約35万人と推定された完全にまたは部分的に就労不能なHIV感染者は、その後大きく減少し、また今後もその傾向が続き、2020年に約4万人に下がると予想されています。

また、「隠されたコスト」として、他の世帯員が負担する介護その他の追加的家事負担については、中位予測で2020年に児童労働に当たるほどの家事負担を追加的に担う子どもは約14万人に達し、加えて、無償のケア労働の追加負担は、フルタイム相当で労働者5万人分に上ると予想されています。

HIVと共に生きる労働者は2005年には2,250万人で、2015年には2,660万人に増加し、抗レトロウイルス療法が現在の予想通り拡大したとしても2020年に3,000万人近くに達すると予想されます。ライダー事務局長は、「エイズを終焉させよう」と思うなら、「治療のステップアップ」のみならず「検査とHIV予防措置のステップアップも必要」で、人的観点からも経済的観点からも意味があると強調しています。

*************************************************************

1) 時間外労働の罰則付き上限時間の設定、高度な専門的知識等を要する業務等に就き、 かつ、一定額以上の年収を有する労働者(高度プロフェッショナル)に適用される労働時間制度の創設、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者と通常の労働者との間の不合理な待遇の相違の禁止等の措置を講ずることが主な内容