「あきこの部屋」第20回 ILOのまとめた世界の雇用及び社会の見通し


2017年11月30日

2012年12月に始まった景気拡大の長さは「いざなぎ景気」を超え、58カ月と戦後2番目の長さになりました。「いざなぎ」は日本誕生の神話に出てくる神様ですが、いざなぎ景気は神話時代ではなく、高度成長期といわれた1965年11月~1970年7月です。今回の景気拡大は、失業率が3%を切り、有効求人倍率が初めて全都道府県で1倍を超えるなど雇用情勢がよく、企業収益も高い数値となっていますが、1人当たりの実質賃金も消費者物価もほとんど伸びず、労働分配率も下がっています。

ILO駐日事務所からのお知らせです。12月7日(木)14時~16時に、国連大学本部ビル5階のエリザベス・ローズ会議場にて、ILO本部の児童労働の専門家であるフランチェスコ・ドヴィーディオ氏を迎えて、「児童労働のいまとSDGs達成に向けて~私たちにできるアクション~」と題するセミナーを開催いたします 。9月に児童労働の新しい推計が発表され、11月にアルゼンチンで世界会議が開催されました。こうした児童労働撤廃に向けた機運が高まる中、私たちに何ができるか考えたいと思います。ご参加をお待ちしています。

さて、ILOは、2015年から雇用分野の複数の定期刊行物を『世界の雇用及び社会の見通し』の題名で一本化し、1月に発行する雇用・失業の動向・見通しを示す動向編、毎回、特定テーマについて取り上げる中心的な報告書に加え、若者編や女性編など対象を絞ったものを発行していますが、今年1年分をまとめて紹介します。

1月発表の『世界の雇用及び社会の見通し-動向編』2017年版は 、2017年の世界の失業率は5.8%(2016年より0.1ポイント増)、失業者数は2億100万人強(同340万人増)に達し、2018年にはさらに270万人増えると予測しました。失業問題が特に厳しい地域として、最近の景気後退の影響を2017年まで受けると思われる中南米・カリブと、経済成長が過去20年で最低水準に落ち込んでいるサハラ以南アフリカの両地域をあげました。どちらも新規生産年齢人口が大幅に増加しています。先進国の失業率は2017年には6.2%(同0.1ポイント減)に低下すると見られるものの、改善のペースは減速し、欧州でも北米でも長期失業率が依然として危機前より高くなっています。とりわけ欧州では失業率の低下にかかわらず上昇し続けており、構造的な失業となっている兆候が見られます。

6月の『世界の雇用及び社会の見通し-女性動向編』2017年版 は、仕事の世界が直面している喫緊の課題の一つとして、男女格差が続いていることを指摘しています。女性の労働力率は男性をはるかに下回り、失業率は男性よりも高く、雇用の質も依然として大きな懸念事項です。女性の労働市場参加を支援することは課題解決に向けた最初の重要な一歩であるものの、2017年でもなお、世界全体で見た女性の労働力率は男性より27ポイント近く低い49%強に過ぎず、状況は2018年になっても変わらないと予想されます。2014年の主要20カ国・地域(G20)サミットでは、2025年までに男女の労働力率の差を25%縮小するとの公約がなされましたが、報告書は、世界全体でこの目標が達成されたとしたら、世界経済は5.8兆ドル膨らむ可能性があると推計しています。

10月の『世界の雇用及び社会の見通し2017年版:持続可能な企業と仕事』 は、企業、とりわけ中小企業が世界中で人間らしく働きがいのある仕事の創出に果たす役割が重要であり、就業者全体に占める中小企業従業員比率は新興国が34%、先進国が41%、途上国では52%と紹介しています。2003~16年に中小企業で働くフルタイム労働者数はほぼ倍増し、就業者全体に占める中小企業従業員比率は31%から約35%に上昇しましたが、この1年はほぼ横ばいです。フルタイム無期雇用(いわゆる正社員)の労働者数は、2003~08年には大企業よりも中小企業で高い伸びを示しましたが、2009~14年になるとこのような中小企業の優位性は見られなくなってきました。

11月の「世界の雇用情勢-若者編」 では、2017年の若者失業者数は世界全体で7,090万人と推定され、2009年の危機ピーク時の7,670万人を大きく下回りました。しかし、失業者の35%超を若者が占め、若年就業者の4人中3人(より年長の人々では5人中3人)が非公式(インフォーマル)経済で働いているなど、失業問題は解消されず、良質の雇用機会は欠如しており、若者がディーセント・ワークを求めるのは困難になっています。