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産業災害の予防に関する勧告(第31号)

 国際労働機関の総会は、
 国際労働事務局の理事会に依りジユネーヴに招集せられ、千九百二十九年五月三十日を以て其の第十二回会議を開催し、
 右会議の会議事項の第一項目たる産業災害の予防に関する提案の採択を決議し、且
 該提案は勧告の形式に依るべきものなることを決定し、
 国際労働機関の締盟国をして立法其の他の方法に依り之が実現を為さしむる目的を以て考慮せしむる為、国際労働機関憲章の規定に従ひ、千九百二十九年六月二十一日、千九百二十九年の産業災害予防勧告と称せらるべき左の勧告を採択す。
 労務傷害に対し労働者を保護することは、国際労働機関憲章の前文に依り刻下の急務なる労働状態の改善の一として例示せらるるに因り、
 産業災害は、単に労働者及其の家族の間に苦悩と窮乏とを惹起するのみに止らず、一般社会に対しても重大なる物質上の損失をもたらすものなるに因り、
 千九百二十三年の国際労働総会は、監督制度の組織に付ての一般原則に関する勧告を採択し、其の中に於て監督が漸次一層有効と為るが為には、「一切の関係者の聰明なる理解、教育及協力に依り作業をして一層危険少く、健康に適し且一層労苦少からしむるが為、災害及疾病を予防するに最適当なる安全方法の採用を確保することに愈進むべきこと」を就中規定したるに因り、
 各国に於ける経験に徴し、災害の数を減少し且其の強度を緩和するを得しむるに最有効なりと認めらるる措置及方法を締盟国相互の利益の為に記録すること望ましきに因り、
 千九百二十八年の国際労働総会に於て一の決議採択せられ、其の中に於て、総会は、新しき方法の発達に依り安全の一層高き標準に到達するに努むべき時期到来したりとの、及安全第一運動は災害の予防の為の規則を制定し且実施する国の行為に代り得るものには非ずと雖も、最大の進歩が右運動の方面に於て為され得らるべしとするの意見を表明したるに因り、
 使用者、労働者、使用者団体、労働者団体、政府及一般公衆を含む一切の人又は機関が産業災害の予防に貢献すべき最善の努力及為し得べき一切の手段を尽すこと極めて重要なるに因り、
 総会は、国際労働機関の各締盟国が工業的企業に於ける災害の予防の為左の原則及規準を考慮すべきことを勧告す。左に掲ぐるものは、特に工業的企業とす。
  (a) 鉱山業、石切業其の他土地より鉱物を採取する事業
  (b) 物品の製造、改造、浄洗、修理、装飾、仕上、販売の為にする仕立、破壊若は解体を為し又は材料の変造を為す工業(造船並に電気又は各種動力の発生、変更及伝導を含む。)
  (c) 建物、鉄道、軌道、港、船渠、棧橋、運河、内地水路、道路、隧道、橋梁、陸橋、下水道、排水道、井、電信電話装置、電気工作物、瓦斯工作物、水道其の他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更又は解体及上記の工作物又は建設物の準備又は基礎工事
  (d) 道路、鉄軌道、海又は内地水路に依る旅客又は貨物の運送(船渠、岸壁、波止場又は倉庫に於ける貨物の取扱を含むも人力に依る運送を含まず。)
 総会は、尚災害の予防が工業的企業に於けると同様に農業に於ても必要なるに因り、国際労働機関の各締盟国が農業労働の特殊の状態を考慮して本勧告を農業に適用すべきことを勧告す。

T


 1 災害予防の研究の基礎は、
   (a) 災害の原因及事情を調査すること。
   (b) 全体としての各産業の災害統計の方法に依り、各産業に存する特殊の危険に付、災害の頻度を決定する「法則」に付、及数年間に亙る統計の比較に依り災害を避くる為執りたる措置の効果に付研究することに在るに因り、
   総会は、各締盟国が立法上又は行政上の行為に依り、上記資料の蒐集及利用を有効に確保する為必要なる措置を執るべきことを勧告す。
 総会は、又公の機関に依り、望ましと認むるときは各個の産業部門に依り設置せらるる機関又は委員会の援助を得て、各国に於て組織的調査を行ふべきことを勧告す。
 公の機関は、使用者及労働者の産業上の団体、災害予防の監督に付責任ある機関並に望ましきときは技術上の団体及災害保険の機関又は会社の協力に依るべし。
 又使用者及労働者の産業上の団体は、各個の産業部門に於ける災害予防の為の機関に協力すべきことを望ましとす。
 2 経験及調査の示す所に依るに、災害の頻度及強度は、単に作業、設備の種類又は使用せらるる各種の器具に固有なる危険に基くのみならず、肉体的、生理的及心理的要素に基くものなるが故に、総会は、物質的要素に関し第一項に掲げらるる調査に加ふるに右他の要素をも調査すべきことを勧告す。
 3 労働者の其の作業に対する適応性及其の作業に対して有する興味は、安全の促進の最重要なる要素なるが故に、締盟国は、職業の指導及選択の最善の方法並に其の実際的応用に関する科学的調査を奨励すべきこと重要なりとす。
 4 災害予防の促進の為には、第一項及第二項に掲げらるる調査の結果を能ふ限り広く知らしむること重要なるが故に、又国際労働事務局をして災害予防に関する其の事業を拡張し得しむる為必要なる資料を所持せしむべきこと望ましきが故に、総会は、調査の結果中比較的重要なるものは、国際労働事務局の事業及刊行の用に供する為、之を右事務局に通告すべきことを勧告す。
 又若干の産業国に於ける調査の機関又は団体の間に於て国際的に協議し且結果を交換すること望ましとす。
 5 締盟国は、産業災害に関する統計を蒐集し及整理する為中央官庁を設くべく、且其の自国に於ける産業災害に関する一切の利用し得べき統計を国際労働事務局に通告すべし。締盟国は、又将来条約を準備する目的を以て各国の統計の比較研究を能ふ限り許すべき画一的基礎に到達する為、其の産業災害統計を作成し且発達せしむることに付国際労働事務局と連絡を保持すべし。

U


 6 産業災害の予防に関係ある一切の当事者間特に使用者及労働者間の協力が満足なる結果をもたらすことは、諸国に於ける経験の示す所なるに鑑み、締盟国は、千九百二十三年に採択せられたる監督制度に関する勧告に於て勧告せられたるが如き協力を発達せしめ且之を奨励する為、其の全力を尽すべきこと重要なりとす。
 7 一切の産業又は産業部門に於て、事情の要求する限り、国の監督機関又は他の権限ある機関並に関係ある使用者の及労働者の代表団体の間に定期会合を催し(a)災害の頻度及強度に関する当該産業の状況並に法令に依り規定せられ、国若は他の権限ある機関と当該産業の代表者との間に協定せられ又は各個の使用者に依り試みられたる措置の運用及効果を審議し、且(b)一層の改善の為にする提案を討議すべきこと勧告せらる。
 8 締盟国が安全を促進する為の措置就中左を採用することを積極的且継続的に奨励すべきこと尚勧告せらる。(a)事業場に於ける安全組織の設置(事業場に於て発生する一切の災害に付ての事業場の調査及再発を予防する為採用せらるる方法の考究の為の施設を包含すべし。)、安全を確保し就中一切の保護装置及他の安全装置が適当なる秩序及位置に於て維持せらるることを監視する為の事業場、機械及設備の組織的監督、新に使用せらるる者(就中年少なるものの)作業に付又は作業に関連せる機械若は設備に付生ずることあるべき危険に付ての右労働者に対する説明、負傷労働者の為の救急及運搬の組織並に作業を一層安全ならしむる為の被用者よりの提案の奨励。(b)国内の情勢に最良く適応せるものと認め得べき方法及施設に依る安全の促進に付ての、各個の事業場に於ける管理者及労働者の間並に当該産業に於ける使用者団体及労働者団体の相互の間、国との間及他の適当なる機関との間に於ける協力。次の方法は、関係ある者の審議の為例示として提案せらる。即ち事業場に対する安全監督員の任命、事業場安全委員会の設置
 9 締盟国が講話、刊行物、活動映画、工業的企業の参観及其の最適当と認むる他の手段に依り災害予防に付労働者の関心を覚醒し及維持し且其の協力を確保する為、其の全力を尽すべきこと勧告せらる。
 10 国が災害を予防し及安全を促進する為の最良の装置、施設及方法を観覧することを得(機械に付ては運転中のものを観覧することを得。)、且使用者、事業場職員、労働者、工場の及工芸の学校に於ける学生並に其の他の者に助言及資料を与へ得べき常設安全展覧会を設置し又は之が設置を促進すべきこと勧告せらる。
 11 労働者が、工場に於ける其の行動に依り、大なる程度に於て予防措置の成功に寄与し得且寄与すべきものなるに鑑み、国は、(a)使用者が災害予防に関し其の労働者の教育を改善する為其の全力を尽すべきこと、及(b)労働者団体が其の組合員に対する其の力を用ふることに依りて右の事業に協力すべきことを確保する為其の力を用ふべし。
 12 総会は、前諸項に於て執らるる措置以外に、国が特定の産業若は産業部門又は特定の作業に於ける災害の原因及予防に関する記録にして、国の監督機関又は他の権限ある機関に依り作成せらるべく、当該産業又は作業に於ける災害予防の為の最善の措置に付得られたる経験を示して且当該産業に於ける使用者、事業場職員及労働者並に使用者団体及労働者団体の参考に資する為国に依り刊行せらるべきものに付、措置を執るべきことを勧告す。
 13 前項に掲げらるる教育事業の重要なるに鑑み且右教育の為の基礎として、総会は、締盟国が注意の習慣を涵養することを目的とする授業を初等学校の課程中に並に災害予防及救急の授業を補習学校の課程中に加ふるの措置を執るべきことを勧告す。一切の等級の職業学校に於ては、産業災害の予防に付教育を施し経済上及道徳上の双方の立場より右問題の重要なることを生徒に銘記せしむべし。
 14 即時の救急処置は、災害の結果の強度を軽減する上に於て大なる価値あるに鑑み、救急の為必要なる材料は、一切の企業に於て常に使用せらるる様用意せらるべきこと及適当に訓練せられたる者に依る救急を施すべきことを確保する為措置を執るべし。又重大なる災害の場合には医師の手当を能ふ限り速に利用し得べきことを確保する為施設を為すべきこと望ましとす。又負傷者を病院又は其の自宅に速に運搬する為の運搬設備を設くる為施設を為すべし。
 又災害に基因する負傷の手当に付ての医師の学理的及実際的訓練に特別の注意を払ふべし。

V


 15 災害予防の有効なる制度は、法定要件の基礎の上に存すべきものなるが故に、総会は、各締盟国が適切なる安全標準を確保するに必要なる措置を法令に依り規定すべきことを勧告す。
 16 使用者が、企業の性質及技術上の進歩の状態を考慮して、労働者が適切に保護せらるる様其の企業を設備し及管理すること並に労働者の職業上の危険(之あるときは)及災害を避くる為労働者に依り遵守せらるべき措置に付其の使用する労働者を指示せらるることを監視することは、其の義務なること法令に依り規定せらるべし。
 17 産業的施設物の建設又は実質上の変更の設計は、右設計が前記法定要件を満足せしむるものなりや否やが確めらるる為、権限ある機関に適当の時期に提出せらるべきこと一般に望ましとす。右設計は、工事の遂行を遅延せしめざる為能ふ限り速に調査せらるべし。
 18 各国の行政上及法律上の制度が許す限り、災害に対する労働者の保護に関する法定要件の施行を監督することに付責任ある監督機関又は他の機関の職員は、使用者が其の義務を履行する為執らるべき措置に付特定の場合に於て之に命令を発するの権限を付与せらるべし。尤も使用者は、上級行政機関又は仲裁裁判に対する出訴権あるものとす。
 急迫せる危険の場合に於いては、監督機関は、出訴権に拘らず、命令の即時遵守を要求するの権限を付与せらるべし。
 19 災害予防に関連し、労働者の行動の重要なるに鑑み、国内法は、災害予防に関する法定要件を遵守すること並に就中許可なくして安全装置を除去せざること及之を適当に使用することは労働者の義務なることを規定すべし。
 20 権限ある機関が或産業に付災害予防の為の行政命令又は規則を確定的に発するに先ち、関係ある使用者の代表団体は、権限ある機関の参与に資する為其の意見を提出するの機会を与へらるべきこと勧告せらる。
 21 各国に最良く適合せる方法、例えば公の監督機関に於ける地位に資格ある労働者を任命すること、労働者が望ましと認むるときは監督機関若は他の権限ある機関の職員の臨検を求むることを之に認むる又は監督官が企業を臨検しつつある際之と面会する機会を労働者若は其の代表者に与ふることを使用者に求むる規則を定むること、規則の施行の確保及災害の原因の確認の為の安全委員会に労働者代表を加ふることに依り、安全規則の遵守を確保するに付労働者をして協力することを得しむる為法律上又は行政上の措置を為すべし。

W


 22 総会は、使用者に依る安全措置の発達を奨励するため、災害保険の機関又は会社が、一企業に対する保険料を算定するに当り、労働者の保護の為に該企業に於て執らるる措置を考慮することを国が確保するに努力すべきことを勧告す。
 23 国は、左の如き方法に依り災害予防の事業に協力せしむる為、災害保険の機関及会社に対し其の力を用ふべし。即ち監督機関又は他の関係ある監督の機関に対し災害の原因及結果に関する資料を通告すること、第一項に掲げらるる機関及委員会並に一般安全第一運動に協力すること、安全装置の採用又は改善の為使用者に対し貸付を為すこと、労働者、技師及其の他の者にして其の発明又は考案に依り災害防止に実質的に寄与する者に対し褒賞を授与すること、使用者及公衆の間に宣伝を為すこと、安全措置に関し助言を為すこと、安全博物館及災害予防教育施設に醵出すること。



最終更新日:2005年7月27日 作成者:MI 責任者:MH