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世界の大半で失業保険なし
社会的保護制度は緊張状態

ILO、「世界労働報告2000年版」発表

2000年6月21日(水)
(ILO/00/21)

 ジュネーブ発ILO発表−世界全体の失業者総数1億5千万人のうち、失業保険にカバーされていない人々が75%と、ILOの新しい報告書は記す。
 90年代には、世界で最も裕福な欧州及び北米の国々でさえ、失業保険の保護水準を低下させたと、ILOの『世界労働報告2000年版−変動する世界における所得保障と社会的保護−』は記す。
 報告書によれば、ILO加盟国の中で失業者への保護が最も手厚いのはオーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス。
 これに続く、「中レベルの国」に属するのが、オーストラリア、カナダ、アイルランド、日本、ニュージーランド、英国、米国。これらの国々は、前のグループより、失業給付を受給する失業者数が少なく、補填率も低い。
 報告書が「純賃金代替率」と規定する給付水準は、この「中レベルの国々」では23%(ニュージーランド)〜58%(カナダ及び米国)。対して、「トップレベル」の国々の失業保険は、フィンランドで国民平均所得の63%、スペインで77%に達する。
 米国、カナダ、英国の順位が低い理由としては、「失業給付の支給期間が短く、1年に満たない」ことも指摘される。更に、米国もカナダも第1段階の失業扶助が終了するとそれ以上の支援は提供されない。

社会的保護を全国民へ

 しかし、報告書が示す問題点は不十分な失業保険だけに留まらず、世界中の労働者の安全と保護を脅かす多様な脅威が指摘される。報告書は「多くの途上国では、インフォーマル・セクターの賃金労働者と自営業者を含み、国民の大半が全く社会的保護を受けていない」と警告し、これらの労働者への「保護の拡張を最大の焦点」とすべきと主張する。
 「人騒がせなレトリックに聞こえるかもしれないが、社会的保護は、最も進んだ国々で見られる金がかかると思われる形態のものも含み、長期的には負担可能である」と報告書の序文でフアン・ソマビアILO事務局長は記す。「何故負担できるかと言えば、社会的保護は人々に不可欠であるだけでなく、長期的に見れば生産的であるからだ。社会保障、特に弱い構成員の社会保障に十分な注意を払わない社会は、いつか破滅的な見返りを受ける」とする。
 インフォーマル・セクターに属する何百万人もの人々は「非常に所得が低く、社会的保護制度に拠出できる能力も極端に限られている」と報告書は記す。こういった人々はその乏しい所得の中から多くを貯蓄に回す余裕がなく、年金も健康保険給付も期待できない。そして、たとえ社会的扶助制度が存在したとしてもその支援を求めたがらないか、求めることができない。
 低所得途上国では「インフォーマル・セクターの労働者のニーズを満たすよう特別に設計された制度を優先させる必要がある」とILOは記す。その努力においては政府の支援が「不可欠」であり、出発点としては「保護範囲の拡大、可能であれば全国民の保護」を目指し、法定社会保険制度を拡張することが考えられるとする。
 報告書は、現在、世界人口の半数以下しかカバーしていない社会的保護の拡張に向けた数々の提案を行う。この目標達成に向けた三つの主要選択肢としては、@既存制度の拡張、Aインフォーマル・セクターの労働者を対象とした新制度の創設、B税を財源とした社会給付制度の開発が考えられる。
 報告書が社会的保護に影響する主な動向と論点として示す事項には以下のようなものがある。
  1. 過去わずか5年のうちに極貧状態にある人々の数が世界全体で2億人増加した。この大半がサハラ以南アフリカ、中央アジア、東欧、東南アジアに住む。
  2. もっと働きたいと希望している人々、または収入が生活賃金以下の人々の数は8億5千万人。
  3. 2億5千万人の子どもを労働に駆り立て、教育を受ける権利を脅かす主な要因の一つは貧困。
  4. 過去30年間で一部先進国では離婚率が最大5倍(カナダ、英国)に激増。これは片親家庭の子どもの数が増えていることを示す。
  5. Cの先進国の多くでは、同じく30年間で未婚女性が産んだ子どもの数が最大6倍に急上昇し、これもまた片親家庭の子どもの数を増やす原因となっている。
  6. オーストラリア、カナダ、ドイツ、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、米国では、母親が世帯主である片親家庭の貧困率は両親が揃っている家庭の少なくとも3倍に達している。
  7. 1975〜92年の期間で社会保障支出の対国内総生産(GDP)比はほとんどの国で上昇したがアフリカと中南米は例外であった。
 「家族構造の変化と他の動向、特に失業率上昇と格差拡大が組み合わさり、60年代半ばから90年代半ばにかけて子どもの貧困率が急上昇した」と報告書は指摘する。
 世界中で見られる出生率の低下は、女性の労働市場進出を促した。しかし、出生率低下を主な理由として、世界の大半で人口高齢化が急速に進みつつある。これは生産年齢人口と高齢退職者人口の比率に大きな影響を与えている。
 報告書は女性の所得保障を改善するための方策を幾つか記す。

失業保険の保護欠如

 □先進国 前述のトップ14カ国では、失業保護の給付が複層構造をなしている。最も重要な第1段階のものは失業初期段階に支払われる失業保険給付であり、平均純代替率は国民平均所得の60%を超える。これは中レベル諸国のものに比べてかなり高い。
 ハイレベル制度の大半の国では通常、失業扶助と呼ばれる第2段階の失業給付が存在する。これは失業保険受給資格を喪失した労働者を対象とし、より低額の社会扶助制度の対象となるまでの猶予期間に備えるものである。
 経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の大半が90年代に、失業給付制度によって提供する保護を低下させた。ほとんど全ての欧州諸国で受給資格要件が厳しくなり、受給期間の短縮、所得代替率の引き下げが行われた。
 時に「ワークフェア(就労意欲を要件とした福祉)」と称される方法によって、多くの西洋諸国で、訓練への参加、失業給付機関が適切と考える職への就職、熱心な求職活動の証明が受給要件に加えられた。積極的労働市場政策によって失業者を再就職させるための努力も強化された。
 報告書は、失業給付の支給は労働市場政策と密に調整されるべきとする。同時に失業給付のカバー範囲を拡張することを求めるが、これによって更に多くの失業者層に所得保障が提供され、労働市場の柔軟性に好影響があろうとする。
 □途上国 幸運にも失業給付の保護を受けられる労働者は主に先進国に集中し、途上国の都市または農村のインフォーマル・セクターで就労する労働者(7億5千万〜9億人の不完全就労者を含む)に対する失業時の保護はほとんど存在しない、と報告書は記す。
 ILOは、こういった労働者は「支線道路、干拓、小型ダム、井戸、灌漑施設、排水・下水道、学校、保健所」といった労働集約型のインフラ工事への雇用を通じて支援されるべきとする。このような事業計画によって提供される雇用は、「労働者が特定の年間就労日数を保障されるよう設定できよう」と、報告書は論じる。
 このような事業計画の規模には、「注目すべきものがある」と報告書は記す。インドのジャワハル・ロジガル・ヨジュナ(所得稼得)プログラムが提供した雇用は、「1995年までで通算労働日数10億日に達し、インドに存在する350の未開発地区の123を網羅した。」同種の事業計画はバングラデシュ、ガーナ、マダガスカル、そしてより小規模ではあるが、ボリビア、チリ、ホンジュラスで進められている。
 現在、ボツワナ、ケニア、タンザニア、南アフリカでILOの支援する労働集約型プログラムが実施されている。この他に、フランス語圏及びポルトガル語圏アフリカ諸国が世界銀行の資金援助を受けている。
 □中・東欧 中・東欧の大半の国において、1989年の国家統制経済崩壊以前には失業問題というものはほとんど知られていなかった。失業率がまだ低かった移行初期に域内の多くの国で「失業給付と労働市場支援を提供する基金」が設置された。しかし、失業率の上昇によって、ブルガリア、ハンガリー、ポーランド、スロバキアではこのような制度の運用がすぐに困難になり、「受給資格ルールの引き締め、所得代替率の引き下げ、受給期間の短縮、受給者率の低下がもたらされた。」これは「職のない人々の一層の貧窮化につながった」と報告書は指摘する。
 地域全体を通じ、「失業給付か社会扶助を受ける人々の数は失業者全体の半分にも満たない」と報告書は記す。報告書が引用するある調査によれば、1991年から1995年の期間に、「失業給付の受給者率はハンガリーで約80%から40%以下、ポーランドで75%から55%、スロバキアで82%から27%に低下した」とされる。
 景気は依然厳しいため、かつてこの地域で好まれた早期退職または障害による退職制度の活用は「正しい答えではない」と報告書は強調し、「どちらの手段も長期的には失業給付制度よりも高くつき、雇用者を生産的な労働からそらすことになる」と付言する。
 中・東欧諸国の雇用保護法制は、「主として社会主義国であった過去の名残りとして」、一般的に相変わらず強いが、「状況は変化しつつあり、一部諸国ではこの変化がきわめて著しい。採用・解雇の手続きを緩和する法改正が行われつつある」と報告書は指摘する。「組合が弱く、多くの労働者がまだ自分たちの権利を認識していない急速に成長しつつある民間部門では保護法制の施行もしばしば緩やかである。」
 □中南米・カリブ諸国 大部分の中南米諸国は「雇用終了補償制度に依存し、失業者が失業期間を乗り切るのを支援する」一括退職給付を支給するに留まる。たいていの場合、退職金制度を補完するものとして、最近、失業保険制度が導入されているが、受給資格要件が「非常に制約的」と報告書は指摘する。建設労働者、家事労働者、農業労働者、若年労働者といった最も弱い賃金労働者層は通常除外されている。「メキシコでは、制度の適用が60〜64歳の労働者に限定されている」と報告書は記す。
 地域の給付の代替率は従前所得の40〜80%の範囲にある。アルゼンチンとチリの給付は「失業期間によって段階的に低下し」、給付期間は最短で4ヶ月、最長で1年に及ぶ。
 近年、求人と技能不足に関する情報の流れを改善し、労働者の移動を円滑化し、失業者に対する訓練計画を運営し、雇用補助金を提供するといった、失業者向け職業安定サービスの開発にますます重点が置かれるようになった。90年代にこのような積極的労働市場政策を導入した国には、アルゼンチン、バルバドス、ブラジル、メキシコ、ペルー、ウルグアイなどがある。
 □アジア 1998年現在で「何らかの種類の失業保険制度を備えている」国・地域はアジアではわずか4カ国・地域(中国、モンゴル、韓国、香港)に過ぎないとILOの報告書は記す。給付額は一般に質素で、保護範囲が包括的なのは香港だけである。韓国では「全雇用者の半数がカバーされているが、それ以外では少数のフォーマル・セクター雇用者しかカバーされていない。」
 バングラデシュ、インド、パキスタンでは使用者責任法制に基づき、雇用終了に伴う剰員解雇手当または退職金の支払いが求められているが、「実効的にカバーされているのは、労働人口のほんの少数、つまり、フォーマル・セクターの大企業に限られる。」
 韓国では、やっと1995年に導入された失業保険制度がアジア金融危機による失業者数の急増に応え、1998年に急速に拡張された。この拡張は「特定状況における一時解雇を容易にするための法改正に対する労働者団体の合意を得るために、政府と使用者団体が持ち出した埋め合わせ策の一部であった」と報告書は記す。失業給付は労働者の解雇に先立つ1ヶ月間の所得の50%に固定されているが、最低賃金の70%を下回ることはない。受給期間は失業時の年齢と保険加入期間の長さによって決められる。
 「最近の金融危機は、急増する失業が引き起こす許容不能なレベルの苦難に対処する際に、失業保険制度が重要な役割を演じられることを明らかにした」と報告書は記す。

保健医療

 死亡率は全ての年齢において裕福な層よりも貧困層の方が高いが、この差は幼少年期に特に大きい。「世界で最も貧しい20%の国における0〜4歳児の死亡率は、所得上位20%の国における同年齢層の死亡率の9倍に達し、5〜14歳層ではこの差は10倍になる」と報告書は記す。
 労働者が人並みの生計を立てるのに十分なくらい健康であることを確保するには、十分な予防ケア・治療が利用できることが重要である。そして、予測不能で多額の保健医療コストを直接個々の家計が負担しないよう確保するのが保健医療財政制度の機能である。正規賃金雇用の枠外にある人々を中心に、多くの労働者が満足できる保健医療の保護を受けていない。
 サハラ以南アフリカ及び南アジアの低所得国では、保健医療用の少額保険制度が開発されつつあり、他の保護を受けていない人々にリスクをプールする利点をもたらしている。現段階では、このような制度の開発は政府、非政府機関(NGO)、そして世界保健機関(WHO)やILOといった国際機関からの支援にかかっている。このような制度はその設立と管理に人々を関与させることによって、排除されている人々の社会的・政治的統合に寄与する。
 しかし、十分な保健医療の利用機会の確保という重要な問題に対する唯一の答えが、小規模財政制度だけであるとの可能性は低い。大半の先進国は社会健康保険(あるいは国民健康事業)を導入したが、これは当初フォーマル・セクターの労働者しか対象としなかったが、次第に低賃金労働者、農民、自営業者へと対象を拡大していった。大部分の途上国は依然、社会健康保険の保護範囲に関し、第1段階にある。
 労働力のフォーマル化は長期的なプロセスで、事実上、決して終了することはないかもしれないため、途上国政府の多くは政策目標達成のために多様な保健財政機構を活用する必要があろう。「制度全体で事実上全国民の(保健医療)保護が達成できさえすれば、公的、民間、協同組合あるいは草の根レベルなど、どのような制度構成であるかはさほど重要ではない」と報告書は記す。

老齢・遺族年金

 報告書は途上国の多くが年金制度の開発に乗り出したのはつい最近のことであり、引退労働者を保護する制度を何も整備していない国も依然存在すると記す。
 サハラ以南アフリカの多くとアジア及び中南米の一部では、保護範囲が労働力全体の10%に満たない。報告書は先進国でも一部の人々にとって、老齢は依然生活不安をもたらすと付け加える。
 圧倒的に女性であるが、インフォーマル・セクターに就労する人々は、老齢期の所得が非常に低くなり、公的扶助に依存する傾向がある。
 「従って、印象的な業績にも係わらず、年金制度にはまだやり残したことがたくさんあることが明らかである」と報告書は記す。「同時に、年金制度は寿命の延び、そして労働市場と男女の役割の変化に対応する必要がある。」
 「大多数の国で、労働者の主な退職所得源として最も適しているのは、依然拠出型社会保障制度である」と報告書は結論づける。しかし、年金保険の対象範囲の拡大と管理の改善を主な優先事項とする必要があるとも指摘する。


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World Labour Report 2000: Income Security and Social Protection in a Changing World.ILO(ジュネーブ)発行、2000年6月、ISBN:92-2-110831-7、4,500円、321ページ
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最終更新日:2000年6月20日 作成者:EU 責任者:NH