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世 界 雇 用 報 告 2 0 0 1 年 版

情 報 経 済 に お け る 労 働 事 情

世界の雇用情勢は改善しつつあるが、
「深刻な欠陥」が残っているところも多い

世界の労働力の3分の1が失業か不完全就業状態にある
今後10年間に創出を要する新規雇用は5億超

 21世紀初めの全体的な雇用情勢は過去10年間に比べて改善しつつあるが、「世界の雇用情勢には依然深刻な欠陥がある」とILOの「世界雇用報告2001年版」は記す。
 約30億の世界の総労働力の3分の1近くが「失業しているか、もっと多くの仕事を探しているか、収入が家族を貧困状態にしないために必要な額よりも低いといった点で不完全就業状態にある」と報告書は警告する。
 2000年末の完全失業者数は「1998年のアジア金融危機時の最高記録以前の数字よりも2千万人多く1億6千万人近い」とILOは推計する。加えて、途上国の貧困層の多数が貧しい労働者のわずかな収入によって扶養されており、こういった労働者の労働条件は危険かつ不健全で、雇用及び収入は不安定な場合が多い。
 労働市場の世界的な困難に関わらず、雇用情勢は世界的に改善しつつあり、「ついこの間より良くなった」と報告書は記す。先進国における明るい見通しの一例として、報告書は1995〜2000年における米国の力強い成長率、より精力的な欧州、そして状況が改善しつつある日本をあげる。
 成長の再開を根拠として、楽観的になれる潜在力を備えた場所は東アジアにまで広がる。東アジアの「1997〜98年の金融危機からの迅速な回復は悲観論者を驚かせた」と報告書は記す。アフリカと中南米も「数年間にわたる1人当たり生産高の下落から抜け出し、改善しつつある」。移行経済諸国でも「生産高は伸びており」、2000年の原油価格の高騰を一因として、ロシアは「1998年の危機から予期せぬスピードで回復しつつある」。
 しかしながら、長期的には、経済成長だけでは、新規労働力を吸収し、現行の失業水準を半減させるために2010年までに必要な、5億を超える新規雇用創出は確保できないと報告書は警告する。この目標を達成するには、人的資源への投資、差別の克服、雇用を経済政策のより中心的な目標に据えることといった労働市場の中核的な問題にますます多くの注意を払う必要があるとILOの報告書は結論づける。

□地域の動向

 米国その他先進国では就職できた労働者の数が増えているものの、「中南米及びカリブ諸国では失業率が上昇し、中・東欧、中東、北アフリカ、サハラ以南アフリカ諸国の都市部では依然高く、中国では失業問題がますます顕在化しつつある」と報告書は記す。
 南アジアでは、一見自己維持的な、高成長率へと向かう変化が楽観的になれる根拠を与えるものの、状況は混在している。インドでは成長率の上昇によって貧困水準がかなり低下したとの明確な証拠がまだ見られない。パキスタンでは最近の改善にも関わらず、完全失業率は上昇を続け、景気後退は継続し、過去10年間に約2千万人が貧困層に加わった。スリランカでは90年代後半の高い失業率は低下したものの高学歴の若者の失業率はまだ高い。
 東アジアでは金融危機の影響から経済は回復しつつあるが、「労働市場は生産よりも打撃を受け、回復のスピードは遅い」と報告書は記す。
 中国では国営企業の再構築が続いており、90年代初めには総雇用人口の16%がこの種の企業に就業していたが現在は約13%にまで低下した。民間部門における就業人口は1990年には労働力の約1%だったが、1998年には約5%を占めるようになった。しかし、農村から都市部に向かう人の移動は速度を速めており、形式的には国営企業に雇われている労働者の多くが実際には働いていない。このような理由から、ある地域の開発銀行は「1999年の都市における失業率は公式には3.1%であるが、修正失業率は9.5%」と推計する。
 北アフリカと中東では「失業問題は依然大きな課題」である。例えば、「90年代後半の失業率はアルジェリアで29%、レバノン9%、モロッコ22%、エジプト8%」とILOの報告書は推計する。この背景にある主な要因は高い出生率と政府雇用の減少である。
 中南米では90年代後半の平均失業率は9〜10%にはりつく傾向がある。工業部門の実質賃金は最近、横這いか下降気味であったが、いくつかの国で不景気によって実質国内総生産(GDP)が低下した事実を反映し、2000年にはわずかに回復した。この年は、経済成長も幾分回復したが、まだ平均失業率の低下には至っていない。しかし、メキシコでは90年代の大半、実質賃金が下落を続けた後、上昇に転じ、失業率は低下し始めた。中南米ではインフォーマル・セクターにおける雇用が広く見られる。
 カリブ諸国の労働市場では高い二桁の完全失業率が一般的である。しかし、トリニダードトバゴ、バルバドス、バハマを中心に、いくつかの国では失業率が低下しているが、「これは主として経済成長の改善とインフォーマル・セクターの雇用吸収力の上昇による」。
 サハラ以南アフリカ諸国は依然、極貧層の割合が世界最高であることを特徴とする。自然災害、内紛、弱い商品価格が、モザンビーク、コンゴ民主共和国、シエラレオネなどを含む域内最貧国の多くの将来に依然重くのしかかっている。エイズ・エイズウイルス(HIV)の恐怖が大陸全体の未来を覆っている。
 アフリカ南部における最新の失業率はナミビア19.5%、南アフリカ23.3%、レソト42%である。
 中・東欧の移行経済諸国では完全失業率が14%を上回っていると推計され、若者の失業率はさらに深刻な問題となっており、西欧諸国の平均の2倍である約30%に達している。「長期失業も深刻な問題」と報告書は指摘し、失業者全体に占めるこの割合は、下はチェコの16%から上はグルジアの68%に及ぶ。
 多くの国で進歩が見られるものの、移行経済諸国では、低賃金稼得者層、高齢者、賃金が未払いの労働者といった「新種の貧困が発生している」と報告書は警告する。「大半の諸国、特に賃金不払いが広く見られる独立国家共同体(CIS)では、最低賃金が最低生存水準を下回った」。
 雇用情勢の大きな転換は、経済協力開発機構(OECD)諸国で見られ、ここでは失業率が全体的に低下し、最近では長期失業者の割合が35から31%近くと微減を示してさえいる。ベルギー、イタリア、ポルトガルといった国々において長期失業者の割合が依然、失業者全体の50%を超えていることは「根本的な経済社会問題であり続け、なおも貧困の重要な要因となっている」と報告書は記す。
 報告書は、企業がますますパートタイム労働者と短期契約を活用するようになったという雇用形態の変化を特記する。「派遣、外注、下請け、自営といった外部集団の利用も広く見られる」と報告書は記す。
 ILOの報告書は、「ますます増加する二次的な労働者の弱さを増し、そのキャリアと訓練における見込みを制約し、雇用条件に悪影響を与える」このプロセスに注意を喚起する。
 1990〜99年の期間に、パートタイム労働力がOECD全体の労働力に占める割合は、14%から16%に増加したとILOの報告書は記す。派遣雇用の相対的な重要性も高まりつつあるように見え、データが入手できる欧州連合(EU)12カ国においては、労働力に占める割合が10%から12%に増加した。臨時労働と明確な雇用契約のない労働も全世界的に増加しつつあり、アルゼンチン、ブラジル、パキスタン、スリランカといった製品市場と労働市場の自由化に取り組んでいる多くの国で見られる。
 自営業も伝統的な雇用よりも速いペースで成長しているが、雇用全体に占める割合は依然比較的低く、大部分の国で平均して労働力の12%内外を占める。自営労働者が労働力に占める割合はイタリア23%、トルコ及び韓国25%、メキシコ26%であるのに対し、米国ではわずか7%に過ぎない。1990〜99年の期間にEUのパートタイム労働者が労働力全体に占める割合は13%から16%に増加した。中南米では全労働者の約25%が自営業者である。
 労働力移動も増加しつつあり、ハイテク労働者は一般にプラスの成果を上げているのに対し、数十万人に及ぶ不法移民または密入国者の場合はしばしば悲劇的な結果を生む。国際労働市場の高技能レベルでは、特に技能者不足が広く見られる先進国の情報通信技術(ICT)部門では、「動きがますます自由化している」とILOの報告書は記す。「インド、東欧、北アフリカがこの主な供給源となる可能性がある」と報告書は記す。
 中短期の雇用展望は主として、現在見られる世界経済の復興が継続すると期待できるかどうかといった点にかかっている。米国経済の軌道(硬着陸または軟着陸)、欧州による世界経済における発電機としての地位奪回の可能性、ロシアの好景気の持続性など、不確実要素は多い。総合的に考慮して、報告書はこれらの将来性について明るい見通しを立てる。経済成長の持続は、報告書が指摘する雇用政策面の数多くの欠陥に対処できる息つぎの場を与えることとなろう。


情報格差(デジタル・デバイド)は大きく、ますます広がりつつある
地球上のかなりの部分が「技術的に接続されていない」

「ニュー・エコノミー」は生まれつつあるのだろうか?情報通信技術(ICT)の急成長は「製造過程における変革」を意味するものの、新技術の普及と利用における格差は、既に大きく開いた技術的な保有者と非保有者間の「デジタル・デバイド」を一層広げる危険性があるとILOの「世界雇用報告2001年版」は指摘する。


 情報通信技術(ICT)のデジタル収束は時間差と距離という、通信における古くからの障害を緩和した。ますます安く、ますます速く、そして各種ネットワークの中でもとりわけインターネットを通じて膨大な情報をますます多様な手段をもって伝達できるようになったことにより、情報に対するアクセスが以前よりも格段に拡大した世界が作られつつある。
 ICTは、情報へのアクセスをよりバランスの取れたものに変えてきた。ますます多くの人々が場所や時間に関わりなく必要な情報にますますアクセスできるようになっており、これは従来の確立された経済関係に混乱を与えている。その影響は、市場及び組織構造、さらに確立された経済行動パターンに大幅な変化をもたらすだろう。多くの注意が、移ろいやすいドットコムの新しい世界の周辺に振り向けられているが、これは見当違いである。ICTの真の意味は、それがオールド・エコノミーをどのように変化させるかという所にある。
 経済が機能する方法が変化すれば、労働の世界も変化する。雇用の創出と喪失、労働の内容と質、働く場所、雇用契約の性質、求められる技能とそれがどのくらいの頻度で獲得できるかということ、作業組織、労使団体の機能と効力などのすべてが新たに誕生しつつあるデジタル・グローバル化の時代に影響を受ける。
 アイデアを創造し、これを無形のまたは非物質的な製品として電子的に伝達する知識労働者は経済のネットワーク化によって特に有利になる。インターネットその他のネットワーキング技術を通じ、こういった人々はいつでも知識創出の原材料である無限の情報にアクセスできる。あらゆるタイプの労働が情報に対するアクセスの拡大によって恩恵を被る可能性がある。例えば、無知な農夫がインターネットを通じてアクセスした新しい市場に自らの生産物を売ることができる。経済のネットワーク化は雇用創出の新たな機会をもたらしたが、これは必ずしも知識または技能要件の高まりを意味するわけではない。経済のネットワーク化においても未熟練労働、技能低下、技能の両極化が存在する。
 世界のICTのほぼすべてが人口の約15%によって生産されている(大半が先進国に住む)。生産及び消費においてこれらの科学技術を採用できるだけの電気、電話線、その他のインフラ設備にアクセスできるのは世界人口の約半数に過ぎない。これは世界人口の大半に相当不利な状況をもたらし、世界人口の少なくとも3分の1を「技術的に接続されていない」状態にしてしまう。
 EU労働力の7割が技術集約型の労働に従事している一方で、世界人口の半数以上がまだ電話もかけられないという事実がデジタル・デバイドの程度を示している。多くの国でICTへのアクセスの決定要因は電話線となっている。電話線は比較的乏しく、より裕福な国々あるいはより貧しい国々の最富裕層に極端に集中している。米国とEUでは、2人に1台の電話があるが、総人口7億3,900万人のアフリカにある電話は1,400万台にも満たない。
 世界の多くの場所でコンピューターの利用とインターネットへのアクセスが飛躍的に伸びているにもかかわらず、「インターネットの利用者は世界人口の5%をわずかに上回るに過ぎず、この88%が先進国に住んでいるのも真実なのである」。米国とカナダだけで世界のインターネット利用者の57%を占める一方で、アフリカと中東合わせてもわずか1%に過ぎない。インターネットの情報の75%近くがたった一つの言語、つまり英語でしか提供されていないと見積もられる。
 デジタル・デバイドは社会「間」だけでなく社会「内」でも存在すると報告書は記す。「得られるあらゆる証拠はインターネットの利用が階層化されていることを示す」と報告書は指摘する。インターネットの利用は年長の人々よりも若い人々、女性よりも男性、農村よりも都市居住者、そして教育水準と所得水準が高い人々の間でより一般的である。
 「米国における典型的なインターネット利用者像は年齢36歳、カレッジ卒、高収入で都会に住む白人」と報告書は記す。
 欧州でも大体同じ傾向で、インターネット利用者(大部分が男性)の37%が高額所得者層に属し、農村よりも都会、そして圧倒的に南側諸国よりも北側諸国に住む。
 インターネット接続率がコンピューター全体の5%にも満たない途上国では「内部」デジタル・デバイドがさらに激しい。例えば、ジンバブエとエチオピアではインターネット利用者のそれぞれ87%と98%が大卒で、圧倒的に男性である。中東のインターネット利用者のうち、女性が占める割合はわずかに4%である。
 インターネットの利用程度を決定するそのほかの要因には、電気通信の費用と利用可能性、そして政府がインターネットへのアクセスを管理する程度があげられるが、後者はしばしばそのほかの政治的・市民的自由の尊重とも関連する。
 報告書は「通信革命へ参加する能力の上で途上国が直面している非常に深刻な制約」とこの危険が世界の労働市場に引き起こしかねない大きな反響の可能性を強調する。「東アジアの一部諸国しか技術進歩の普及において先進国についていっていないように思われる」。残りの途上国では、「デジタル・デバイドは社会及び経済格差における既存の断層線をなぞり、広く行き渡っている社会的排除のパターンを強めている」。
 この力が伴う数々の課題にも関わらず、ICT革命は「労働の世界のあらゆる側面に行き渡るかつてないほど様々に入り交じった危険と機会を提供する」とILOは分析する。現在作用している技術的な力は強力で不可逆的であるものの、社会政策や機構改革といったその他の力はICTを制御可能な革命に転化できる可能性がある。すべての諸国は通信革命の脅威と機会に対処する必要があり、消極的な姿勢は進歩からの置き去りを招こうと報告書は記す。
 進化しつつあるICTが途上国にとってプラスとなる潜在力として、ILOは以下の諸点をあげる。

 ICT革命は「真の潜在力と真の制約」を提供するとILOの報告書は結ぶ。技術時代の最先端あるいはその境界に存在するより裕福な国の将来性は、いわゆる「オールド・エコノミー」を再活性化する一方で、新しい製品分野や市場を拡大していくことにある。
 しかし、「世界人口の大半が新技術の利用がいつ何時もたらすか知れない利益を享受できない」見込みは、「通信革命の行方を市場だけに決めさせてはならないとの強力な論拠の一つになろう」とILOは記す。


情報技術と開発
開発の新しいカギ?

約12億人、つまり、世界人口の20%超が1日1ドル未満の絶対貧困状態の生活を送っている現状では、貧困を減らし、より均等な成長を生むために、人類が情報通信技術(ICT)の新しい能力を利用できるかどうかが問題になる。ITの急速な普及と価格の低下は世界の非保有者層に開発段階を「一気に飛び越える」チャンスを与える一方で、その成長が社会と経済格差における既存の断層線をなぞり、広く行き渡った社会的排除のパターンをさらに強めるかも知れないといった懸念も生む。

 「デジタル・デバイド」のあらゆる側面のうちで、多分もっとも印象的なのは低所得国と高所得国間そしてその内部における貧富の格差であろう。世界中の多くの場所でICTが成長するにつれ、デジタルの世界における保有者と非保有者間(その恩恵をもっとも多く受けられるかどうかといった人々)の格差も拡大するとILOの「世界雇用報告2001年版−情報社会における労働事情」は指摘する。
 この新しい報告書の主な結論は、貧困を緩和し、開発に弾みをつけるといったICTの能力は、その雇用に対する影響、そしてICTから得られた経済成長がどのようにして生産的で報酬のある仕事の創出に転化されるかといったところにかかっているというものである。
 同時に報告書は、ICTは、より良く対応する透明な統治を提供し、保健、教育、その他の社会サービスの普及と提供を改善することによって、取り残されてきた人口層の生活の質に相当の影響を与えることができようと記す。
 従って、ここで登場する主な問題は、今日の情報通信技術が、伝統的な開発段階を「一気に飛び越え」、より付加価値型の知識集約的な成長路線に向かう可能性を途上国に提供できるかどうかといった点である。

□新しい「デジタル・パラダイム転換」?

 新しい「知識経済」が新しい開発アプローチを伴う「パラダイムの転換」を引き起こすであろうとの憶測が流れている。先進国では、経済に対するICTの影響は既に明らかになりつつある。しかし、低所得国では、知識の生産、流通、利用には新技術へのアクセス以上のことが求められる。
 この「新デジタル・パラダイム」が経済開発の主要素になるためには、従って、ICTの役割が、社会及び経済の成長と貧困緩和における要素の一つ(非常に重要なものではあるが)とみなされなくてはならないと新しいILOの報告書は記す。
 明らかにICTから生じる経済及び福祉上の主な利益は三つある。
 一つ目は、ICT製品(ハードウエアとソフトウエアの双方)及びサービスに対する世界的な需要の高まりに参加することから得られる利益である。ソフトウエアの世界市場は現在5千億ドルと見積もられる。異論もあるが、電子商取引は2003年には2兆ドルを超えると見込まれる(出典:OECD、1999年)。Y2Kまたは2000年バグ問題は3千億ドルを超える市場を作り上げた。
 新興工業経済地域(NIES)及びその他の東アジア諸国、特に中国、モンゴル、タイ、フィリピンは、デジタルコンピューター、半導体、電子集積回路、その他自動データ処理(ADP)製品の国際市場においてかなりのシェアを獲得することに成功した。これらの製品市場への輸出は、こういった国々における経済成長を刺激し、雇用を創出する上で大きな役割を演じた。
 二つ目は、ほかの経済部門におけるICT資本の利用の拡大から生じる経済効率と生産性における利益である。先進国における論議の多いICTの影響の性質が世界の低所得国に直接当てはまるわけではないにせよ、広範囲に広がる影響の性格からより貧しい国にもいずれ大きな影響がある可能性がある。このICTによって推進される開発の可能性は、それが低所得国に技術進歩によって伝統的な開発段階を「一気に飛び越える」チャンスを提供するとの事実から支持されている。
 そして3番目は、ネットワーク化が、貧困層の市場に出せる能力の活用と所得向上を通じて、貧困緩和と生活の質の向上の機会を開く可能性である。

□ハードからソフトへ:ICT製品とサービスにおける能力開発

 どんな新しい開発パラダイムにおいても、中短期的には、新しいICTの扱いに慣れていない国は、より熟達した国に負ける深刻な危険性がある。
 最初の二つの問題の場合、ICTの潜在力を十分に実現するには、各国は利用者を内容やアプリケーション形成の前進における積極的な参加者として配置するよう、ソフトウエアの能力を開発しなくてはならない。90年代に50%を超える年間成長率で伸びてきたインドのソフトウエア産業の台頭は、そのもっとも華々しい成果の一つであり、数千万人の雇用を創出した。ブラジルと中国のソフトウエア産業の国内指向から輸出市場指向への転換は、多額の投資の伸びと新規雇用の創出を招いた。実際、「最新のソフトウエア(技能)に相対的に積極的でない国々は、資本支出、労働力、技能、そしてますます重要になるソフトウエア生産における技術変化、組織、管理といった点で流れについていくことがますます難しくなるだろう」と識者はいう。
 ソフトウエア産業の開発が重要なのは、構成要素の一部としてソフトウエアを含まない製造、エンジニアリング、教育、一般サービス分野はほとんどないとの事実に基づく。工作機械産業、車輌、電子製品の中核は固定ソフトウエアであるが、特注ソフトウエアは、銀行、政府業務、大型事業の管理、通常業務のコンピューター化を推進した。

□「一気に飛び越える」技術−その先は?

 ICTの利用を拡大することには具体的な便益がいくつかある。これには、製品とサービスに関する情報へのアクセスがより容易にそしてより安価になる事による市場の機能向上、製品及び工程設計における品質改善と頻繁な変更、情報整理の迅速化・向上に伴う決定の改善を含む経営面の向上、資材コスト・エネルギー・在庫の節減、金融部門のスピードアップと効率改善などが含まれる。
 そこで、このような潜在的な恩恵は人的能力と固定資本の蓄積プロセスを「一気に飛び越える」ことを刺激する可能性があり、これによって先進国と途上国を分離する生産性格差の縮小を招くように思える。将来に目を転じると、世界の情報の流れを支えるインターネット技術の誕生、そして時間と距離の制約の多くが消滅してしまったサイバースペース行動圏の誕生によって「一気飛び越え」の将来的可能性はますます明るいように思われる。
 しかし、このようなアプローチは注意して検討する必要がある。ICT製品または構成部品の安定した製造基地を提供できるだけの高技能労働力と国内能力を備えている途上国も一部にあろうが、こういった国々は同時に、ICT開発における進歩に歩調を合わせようとして浮き沈みの激しい工業または労働市場の現実路線を進まなくてはならないかもしれない。
 例えば、コスタリカには、同国の政治の安定と平均より高い労働者の教育水準と識字率が利点となって、世界最大のICT企業数社が、半導体その他の製造施設を設立した。これは同国の1998〜99年の経済成長率を7%内外にまで高騰させ、新規雇用を創出し、国際収支を大幅に改善し、国内ソフトウエア部門の成長を招いた。しかし、二つの問題が残っている。一つは急成長を続ける半導体部門と社会のその他の部門とのリンクを開発することで、二つ目は電気通信分野の国家独占の現状である。これは電子商取引やソフトウエア産業の輸出産業への拡大といったICT集約活動にさらに弾みがつくのを制約する可能性がある。

□ICTの「きらびやかさ」に関わらず、最も重要なのは教育

 ICTのみでは単なる道具に過ぎず、道具が真の開発ニーズに置き換わることができないのは明確である。しかし、ICTは、情報へのアクセスの拡大と利用の拡大をもたらすことによって開発速度を加速させる道具を提供することはできる。従って、情報へのアクセスと利用がもっとも限られている場所でこそICTの影響は最大になろう。
 貧困層がICTから真の利益を得ることができた例はいくつかある。バングラデシュのグラミーン銀行は、構成員の大半を女性が占めるが、構成員に携帯電話を提供している。これは村落電話プロジェクト現場同士を接続し、電話提供者に収入を生み、海外出稼ぎ労働者とその家族のコミュニケーションの拡大をもたらした。これはまた、貧困層のICTへのアクセスは、電話センターや村の知識センターを通じて、地域社会レベルで起こる可能性が高いことを推測させる。例えばセネガルでは、民間「電話センター」に関する政府の自由化政策によって電話、ファクス、コピー機、ワープロ・ソフトやインターネットへのアクセスを備えたパソコンに対する国民のアクセスが劇的に向上し、その過程で数千の雇用が新規に創出された。一方、南アフリカでは、無線ベースの地域情報伝達システム(CIDS)がインターネットへの高速アクセスを提供し、地域社会の人々が保健、教育、住宅、雇用、政府のサービスといった有用な情報を収集することを可能にした。
 しかし、識字能力と教育は、誕生しつつあるデジタル時代から最大の利益を得るために重要な役割を有するにも関わらず、一気に飛び越えることはできない。教育は単なる経済成長の所産ではなく、成長に対する重要な投入要素でもある。しかも、この投入要素の重要性は増しつつある。先進国では競争優位の源として知識の価値が上昇しつつあることの反映として、近年、高等教育から得られる利回りが増大しつつある。ICT製品の国際価値チェーンのニッチ(市場の隙間)を確保できた途上国は、教育水準の高い、高技能労働力が存在して初めてそれが可能になったのである。
 教育と識字能力一般、そして特にデジタル識字能力の推進は、すべての諸国が直面している大きな課題である。ICTの浸透とインターネット利用率における格差は、教育と識字能力における格差と直接相関させることができる。例えば、ICTの世界は比較的若い男性の世界と描かれることが多く、得られる証拠もこの像を裏付ける。一方で、世界の非識字層の3分の2は女性と少女が占める。従って、ICTは開発と貧困緩和の速度を加速化する望みを提供する一方で、男女格差、そしてデジタル・デバイドがさらに拡大する懸念も引き起こす。


「情報技術革命は男女格差を拡大するか、解消するか?」

情報経済は隆盛を誇り、今や労働の世界を抜本的に変化させつつあるネットワーキング経済へと進化しつつある。しかし、この革命は男女平等に向けた強力な手段となるか、それともデジタル・デバイドの悪い側に落ち込んでしまう女性の数を増やすのか?

 ILOの「世界雇用報告2001年版−情報経済における労働事情」は、情報通信技術(ICT)の進歩は女性に多くの機会を提供すると示唆する。しかし、女性の参加、所有権、教育、ICT訓練を確保する周到な政策、並びに情報経済職場における家族に優しい政策に補助されない限り、旧来の男女格差が維持されよう。
 最近の雇用情勢に関するILOの分析によれば、一部では進展が見られたものの、女性は一般に、依然として男性より収入が低く、失業率は高く、主として低技能のパートタイム職、インフォーマル雇用、不安定雇用に集中していることが示される。
 同時に、ここ何十年かそうであったように、労働市場に参加する女性の割合は世界的に今後も上昇を続けるものと予想される。情報経済における世界的な雇用政策の主要な課題は、ますます情報分野の労働力として参入してきている、この女性新規労働力に人間的な労働(ディーセント・ワーク)を提供することである。

□潜在的な利益:女性の新たな機会と新しい仕事

 情報通信技術は自宅に仕事を持ち帰り、仕事と家族のスケジュール調整の余地を高めることによって、女性に有利な新しいタイプの仕事を作り出した。全世界的にICT部門の労働に必要な技能が不足しているため、女性はまたICTによって可能になったサービスにおける雇用のかなりの部分を獲得するに至った。
 今までのところ、女性にとってもっとも潜在的に将来性があるのは、コールセンターにおける新規創出雇用とデータ処理を含む仕事である。「テレセンターとファクス・ブースは過去4年間だけでインドにおいて25万の新規雇用を創出したが、このかなりの割合が女性に提供された」とILOは報告する。
 90年代末までに、カリブ諸国では約5千人の女性がデータ処理活動に従事していた。「就業人口の点では、デジタル経済における女性の役割は、電気通信よりもオンラインの輸出志向型情報処理作業においてより顕著になってきた」とILOの報告書は付言する。
 医療事務やソフトウエア・サービスといった国際的に外注される仕事は、途上国の女性の生活とキャリア路線に相当の変化をもたらす。ソフトウエアにおいては、女性はエンジニアリングや科学といった他の分野では今まで経験したことのないほど優先されている。インドでは年間生産高40億ドルに値するソフトウエア産業専門職の27%を女性が占めている。この産業の就業人口全体における女性の割合は2001年には30%にまで上昇すると見込まれる。
 ILOの報告書は、ICTのおかげで女性が世界市場に製品を送り出し、所得を上げることができた例を複数あげる。新技術とネットワーキングは、女性に経済及び社会的地位を向上させる力を与える新しい手段である。これには以下のような例が含まれる。
 カンパラ(ウガンダ)の一人の女性が創設したサファイア・ウィメンはエイズで家族を失った女性を支援し、エイズによって誕生した孤児を支援する組織である。サファイアのメンバーは伝統的なウガンダのかごを編むが、これは手工芸品のオンライン販売における豊富な経験を有するアメリカのNGO、ピープリンクの助けを得てインターネットを通じて販売される。
 大部分が女性である構成員に携帯電話を提供するバングラデシュのグラミーン銀行の農村電話プロジェクトは、携帯電話の利用料を徴収するという女性の雇用創出的な影響に加え、ほかにもプラスの波及効果があることを示す。携帯電話とインターネットへのアクセスはバングラデシュの農村女性に学習の機会を与え、新しい自立の機会を形成し、地域社会と公的生活における地位を向上させた。
 1972年からインフォーマル・セクターにおける女性の組織化を行ってきたインドの自営女性団体であり、会員数が21万5千人を超えるSEWAは、インフォーマル・セクターの生産的な成長にICTの潜在力を利用することに成功した国内初の団体の一つである。コンピューター啓発計画を運営し、チームリーダー及び協会会員に基礎コンピューター技能を授けたことによって、SEWAの会員の多くが自分のホームページを立ち上げ、世界のバーチャル市場で製品を販売できるようになった。
 これらの例は、かつては排除されていた人々に機会を与えることによって、技術がいかに貧しい女性の生活を改善できるかを示す。女性同士の電子ネットワーキングは電子仲間形成、電子キャンペーン、電子商取引、電子相談といった新しい社会経済現象をもたらした。技術を通じた女性のエンパワーメントはこのように女性が差別に挑戦し、ジェンダーの壁を乗り越えることを可能にする。

□現実:依然残るデジタル男女格差

 ICTは女性の生活を改善できる可能性を備えているにもかかわらず、ILOの報告書は、大ざっぱにいって男女格差を反映すると見られる国内的なデジタル・デバイドを紹介する。もっとも衝撃的なデジタル・デバイドはインターネットの利用に関連し、先進国でも途上国でも女性が利用者の少数派を占めることである。例えば、中南米のインターネット利用者に占める女性の割合はわずか38%、欧州連合諸国では25%、ロシアでは19%、日本では18%、中東では4%に過ぎない。しかし、インターネットがもっとも多く使われている国々、例えば、北欧諸国や米国では男女格差が縮まってきたことも報告書は記す。
 ICTの中核である科学及び工学教育課程における女性の割合がかなり低いことは、女性がICTの中核的な職業から排除されていることを意味する。しかし、報告書は男女格差は欧州全域で均一ではないと記す。「例えば、英国は大学の数学及びコンピューター・サイエンスの課程に占める女子学生の数がもっとも低い国の一つであるが、大学レベルの同じ教科における女子学生数はイタリアやスペインでははるかに高く、ICT労働力の50%内外を女性が占める。」
 英国と米国では、大学及び大学院レベルでIT課程を選択する女子学生の割合はコンピューター・サイエンスを学ぶ学生全体の20%にも満たず、この割合はさらに低下しつつあるように思われる。マイクロソフト社の公認研修コースの受講者構成も女性が全体のわずか11%でしかなく、若い男性が支配的であるという業界のステレオタイプを確認するように思われる。
 ICTの普及とインターネット利用率の違いの根底には、教育の違いがあると報告書は指摘し、「教育及び識字能力一般の推進、そして特にデジタル識字能力の推進は、すべての国々が直面している大きな課題である」と結論づける。そして、「労働者にICT関連技能を備えさせる際には、特に女性のニーズに対処する必要がある」とする。
 男女職業分離のパターンは情報経済でも再現され、男性が高技能、付加価値の高い職業の大半を占める一方で、女性は低技能で付加価値の低い職業に集中しているとILOの報告書は指摘する。加えて、次のように記す。「技術の普及は技能偏向であったため、賃金格差の拡大を伴った。ICT技能を有する者と有しない者の間には賃金格差が存在するが、ICTを利用する層の中でも賃金の両極化が存在する。しばしばこの両極化は男女の別に基づく。」
 従って、ソフトウエア開発やインターネットの立ち上げといった高給のクリエイティブな仕事に男性が就くことが多い一方で、レジ係やデータ入力労働者といった単純ICT労働の労働者は圧倒的に女性であり給与は安い。男女が共に先端技術の利用者であり、相対的な技能向上の経験を共有するにも関わらず、先端技術の利用が、職務上の責任と裁量権の拡大を伴うような組織内の位置にいるのは男性集団だけであるように思われる。
 さらに、かつて女性を雇用していた伝統的な製造業が次第に消滅していくに従い、新しい、しばしばICT関連の産業に就職する女性が、伝統的な部門で失業した女性と同一であることは滅多にない。そこで、ICT関連の職務技能を備えている者とない者の間で女性間でも新たな格差が生まれつつある。報告書は、デジタル・グローバル化が若い女性に新たな機会をもたらした一方で、衰退産業に従事するため、あるいは技能が時代遅れになってしまったため、35歳を超える女性に余剰解雇をもたらしたベトナムと中国の研究例を引用する。

□仕事の質も重要

 情報経済の多くの特徴が、仕事と家族的責任あるいは仕事と余暇のより良いバランスを女性にもたらす可能性がある。仕事における知識内容の増加は労働力における男女平等に有利に働く可能性がある。知力と創造力はまた、先進国にも途上国にも、あるいは身体的な障害がある人々にもない人々にも均等に分配されている。デジタル時代が備える、労働と生活の質を向上させる潜在力は明らかに現実のものである。
 しかし、日々の労働の質にマイナスの影響を与える真の可能性も存在する。労働のニーズを家族生活のニーズに適応させるどころか、どこでもいつでも仕事をするプレッシャーが高まる可能性もある。テレワークは確かに女性に新しい雇用機会を提供したが、反面、女性はより良いキャリアの可能性から排除され、バランスを見出すどころか、家族的責任が有償労働と結合され、女性は旧来の務めに加えて新たな務めを得ることになるかもしれない。
 例えば、マレーシアやインドの女性は自宅で行うテレワークを選択したがらないことが調査結果から示される。しかし、彼女たちは、自宅から近いという利点と交流の利点を結びつけたものとして、コールセンターが提供する雇用機会を歓迎した。しかし、プレッシャーの高い労働環境における反復労働がもたらす健康上の危害の可能性が懸念される。そして、コールセンターの賃金と労働条件はかなりばらつきがあるように思えるが、最悪の場合には「デジタル時代の搾取工場」と呼ばれている。
 「情報経済における重要な労働形態としてテレワークが誕生しつつあることに伴い、適切な政策措置を実施しない限り、既存の社会的不平等、特に男女不平等が強化されることになろう」とILOの報告書は警告する。総合的にいって、情報経済における労働は男女や社会の平等を促進する効果的な手段となり得るが、これは既存の不平等を取り除く直接的な介入が行われ、関係する女性労働者のニーズと権利が保護された場合に限ると報告書は結ぶ。

最終更新日:2001年1月24日 作成者:EU 責任者:MH