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児童労働撤廃国際計画(IPEC)による児童労働撤廃の経済的費用便益研究 
 要旨  INVESTING IN EVERY CHILD(英語版全文)

初めに:研究の目的

当研究は、児童労働撤廃に必要な経済的費用とそれにより生まれる便益との比較を行うことにより、児童労働撤廃の「経済的な影響の理解」を目的とするものである。

 

前提

研究の対象は2001年〜2020年の20年間であり、2000年の数値を基準として計算している。児童労働者とされるのは、
12才未満で経済活動に従事している子ども
12才〜14才で週に14時間以上働いている子ども
18才未満で「最悪の形態の児童労働」に従事している子ども、である。
2002年のILOによる調査では、この条件に当てはまる5才〜14才の子どもは1億8200万人おり、これは同世代の子どもの18.5%に当たる。調査に際しては、第一群データとしてブラジル、セネガル、ケニア、タンザニア、ウクライナ、パキスタン、ネパール、フィリピンの国別データを、第二群データとして、過去10年間に主にIPEC(児童労働撤廃国際計画)及び世界銀行により世帯調査が行われた24ヶ国のデータを用いた。その他の国については公表データを元に推定を行った。

 

児童労働撤廃の経済的費用便益

児童労働を撤廃し、万人のための教育に置き換えることにより、巨大な経済的便益が期待出来る。2001年〜2020年の間で、世界全体で児童労働をなくした場合に生じる便益(5兆1,060億ドル)は費用(7,600億ドル)の6.7倍(表1参照)であり、地域ごとに見てもすべての地域で便益が費用を上回っている。教育拡大の便益が費用をはるかに上回ることは、世界銀行等の機関により行われた他の研究によっても示されている。項目別に見ると、教育面での便益が健康面の便益を大幅に上回っている。

  表1:児童労働撤廃による経済的費用便益
地域
移行経済諸国
アジア
中南米
サハラ以南アフリカ
北アフリカ・中東
世界
費用合計(A)
25.6
458.8
76.6
139.5
59.7
760.3
教育関連費用
8.5
299.1
38.7
107.4
39.6
493.4
所得移転実施
0.7
6.3
1.2
1.5
1.1
10.7
直接介入関連費用
0.4
2.4
5.8
0.6
0.2
9.4
機会費用
16.0
151.0
30.9
30.1
18.8
246.8
便益合計(B)
149.8
3,321.3
407.2
723.9
504.1
5,106.3
教育面での便益
145.8
3,307.2
403.4
721.8
500.2
5,078.4
健康面での便益
4.0
14.0
3.8
2.1
3.9
28.0
経済的純便益(C = B−A)
124.2
(5.1%)
2,862.4
(27.0%)
330.6
(9.3%)
584.4
(54.0%)
444.4
(23.2%)
4346.1
(22.2%)
移転支出(D)
13.1
125.8
23.5
29.1
22.1
213.6
財務的純便益(E = C−D)
111.1
(4.6%)
2,736.6
(25.9%)
307.1
(8.7%)
555.4
(51.3%)
422.3
(22.0%)
4,132.5
(21.1%)
2001〜2020年、単位10億ドル、かっこ内は国民総所得に占める割合を示す)

 

上記の各費用・便益について

1.教育関連費用
学校新設費用、新たな教師の採用・訓練費用、教材の追加供給費用等がこれにあたる。当研究では、全ての子どもが教育を受けられるようにする費用及び、質の向上の観点から1クラスの人数を適正なものにするためにかかる費用を推定した。2015年までに全ての子どもに初等教育が提供され、2020年までに全ての子どもに中等教育が提供されることを目標としており、これは「2015年までに万人のための初等教育を」というミレニアム開発目標に沿ったものである。世界中で全ての子どもが小・中学校に実際に出席出来るようにする為にかかる費用は4930億ドルである。

2. 所得移転計画の運営費用
子どもの授業出席と連動させた、低所得世帯向け所得移転計画を運営するのにかかる費用であり、実際に移転される所得は含まれない。貧しい家庭に移転された所得の5%と推定している。

3. 直接介入費用
直接介入とは、最悪の形態の児童労働に関わっているか、社会的疎外が理由で働いている又は学校に通っていない子ども(ex. 低カースト層)を対象に行うものである。このような介入を必要としている子どもの数に、過去にこの分野で行われてきた事業でかかった単位費用(一人の子どもあたりの費用)を掛けることで計算している。

4. 機会費用
各家庭が、子どもが働いていた場合と比べ失う収入がこれにあたる。各家庭は収入を失う代わりに、貧しい場合は所得移転計画の恩恵を受けられる。ILOは、子どもの収入を大人の20%として試算している。子どもが働かないことで得られない収入の総計は移転により得られる収入の総計を上回るが、それは所得移転計画の対象になる程は貧しくないが子どもを働かせている家庭が多いからである。

5.教育による便益
教育を受けたことによる生産性・収入を得る能力の向上から得られる便益がこれにあたる。一年通学期間が延びるごとに将来の年収が11%増えるという一般に用いられている評価に基づいて試算している。ただし、これをより低く、例えば5%として見積もったとしても尚、便益は2.3兆ドルとなり費用を大幅に上回る。

6.健康面での便益
最悪の形態の児童労働撤廃による病気・怪我の減少から得られる便益がこれにあたる。健康面での経済的便益の計算は、危険な児童労働の撤廃から得られる健康面の便益と、他の健康上の危険をなくすことで得られる健康面の便益とを比較することで行った。指標としては、WHO(世界保健機関)のDALY(障害調整生存年数)を用いている。DALYは、早死による生命損失年数と障害による相当損失年数の和によって求められる。

 

費用・便益の時間的推移

児童労働撤廃計画が便益を生むには時間がかかるので、子どもが大人になった時に便益を得るには持続的な努力が必要である。計画実施から最初の約15年は支出が便益を上回るが、2016年にはプラスに転じ、2020年以降には費用はなくなり便益だけになる。全体としてみると、遅れて得られた便益は費用を回収してなお余りある。

 図1:現在価値換算を行わない経済的純便益・費用年間額(単位:10億ドル、購買力平価)

 

児童労働撤廃にかかる費用と他の公的費用との比較

児童労働をなくすために必要な年間費用は現在債務返済に充てられている負担や軍事支出、社会支出と比べるとはるかに少ないことが、図2に示されている。

 図2:児童労働撤廃の平均年間費用と他の年間費用の比較(単位:10億ドル、購買力平価)

 

結論

以上には現れていない問題点として、?児童労働撤廃による便益は数十年の間に徐々に得られるものであるが、それより先にまず費用を負担する必要がある、?所得移転計画において低所得家庭に移転される所得は経済的観点からは費用とは見なされないが、実際には各国政府に大きな財政的負担を課すものであり、国外からの支援が必要と考えられるの2点がある。しかし、それらを勘案しても児童労働の撤廃は、人道的見地からのみならず経済的にも合理的な選択である。ただ同時に、その実行のためには世界的な協力、及び各国のリーダーによる将来を考えた行動が必要である。

   
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最終更新日:2005年7月13日 作成者:NT/ACC 責任者:KO