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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説

(2011年3月31日付第106号)

◆ ◇ 労 働 者 の 放 射 線 防 護 ◇ ◆
◆ ◇ (Radiation protection of workers) ◇ ◆

 放射線からの労働者の保護は、働く人々の健康と安全を守り、促進するILOの活動の一部です。ILOは、1960年に採択された放射線からの保護に関する条約(第115号)と付随する同名の勧告(第114号)を基礎に、国際原子力機関(IAEA)や世界保健機関(WHO)を始めとした国際機関と密に協力し、この問題に取り組んできました。本号のトピックでは、労働者の放射線防護におけるILOの活動について、ILO本部労働安全衛生部の専門家にまとめてもらいました(監訳−同部氏田由可労働安全衛生専門官)。

 福島第1原子力発電所の事故を受けて、労働安全衛生部のウェブサイト内には特別ページが開設され、ILOのツールである第115号条約及び第114号勧告の原文、労働者の放射線防護に関する実務規程に加え、原子力または放射線緊急事態に備えた手配の安全ガイド、緊急事態への対応の基準を示した一般安全ガイド、あるいは緊急事態に備えた安全対策として求められる事項などの関連刊行物が紹介されているほか、関連機関のウェブサイトへのリンクも設定されています。また、労働安全衛生分野における様々な事項を網羅的に解説したILOの刊行物『Encyclopaedia of occupational health and safety』は現在、データベースの一つとして労働安全衛生部のウェブサイト内で閲覧できるようになっていますが、この電離放射線の章では、電離放射線の生物学的影響や放射線安全管理、放射能災害に対する計画策定とマネジメントなどが詳しく記載されています。原子力発電所に関わる災害も取り上げた災害に関する章もあります。同書第4版日本語版は『ILO産業安全保健エンサイクロペディア』の題名で労働調査会から発行されています。


労 働 者 の 放 射 線 防 護

ILO労働者保護局労働安全衛生部
労働衛生上級専門官 牛 勝利 

I.はじめに

 宇宙線や自然に発生する放射性物質など、電離放射線は人間環境の一部になっています。これには、X線やガンマ線(電磁放射線)と粒子放射線(アルファ、ベータ、中性子といった原子を構成する粒子の放射線)が含まれます。電離放射線の人体への影響には急性影響(火傷など)と晩発影響(がんなどの晩発障害や遺伝性影響)があり、後者はまた非確率的影響(確定的影響)と確率的影響に分けて知られています。

 放射線源は世界中で、工業、医学、研究、農業、教育などの分野で幅広く用いられています。医療技術の進歩や人口の高齢化によるニーズの増加により、診断や治療における放射性核種や放射線の使用は増大しています。一方、テロを始めとした放射線源の悪意利用の脅威に対し、政府当局は前よりも一層、放射線からの保護と安全性の確保に真剣に取り組むことを求められています。

 地球温暖化を懸念し、政策関係者の間では温室効果ガス削減の必要性がコンセンサスになりつつあります。2050年までの世界の平均気温上昇を、すべての地域で利益が減少またはコストが増大する可能性がかなり高いといわれている(注1)2〜3度に抑える目標を達成するには、温室効果ガス排出量を最低でも2005年比50%減にする必要があると多くの科学者が考えています。他方、電力供給の需要は多くの途上国で急速に増大しています。電力生産に原子力を用いると二酸化炭素はほとんど排出されません。気候変動と天然化石燃料を巡る懸念から、政治論争や世論において原子力エネルギーの利用が再びスポットライトを浴びることになりました。十分な量の、そして負担の少ないエネルギーの供給は、持続可能な経済発展と社会開発にとって必要不可欠であり、貧困軽減とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)にとっても決定的に重要です。

 原子力エネルギーは多くの先進国で既に電力供給源の主流となっていますが、途上国、特に移行経済諸国でも、電力不足の解決に原子力エネルギーに頼る国が多くなってきています。2011年3月現在、442基の原子力発電所が世界31ヵ国で稼動しており、正味発電設備容量は全体で約377ギガワット(GW)に達しています。建設中の発電所は14ヵ国62基に及び、計画設備容量は全体で64GWとなっています(注2)。2009年に世界の合計発電量の14%を原子力発電が占めていました。各国の割合は下表のようになっています。工事中の原子炉の数は、中国27、ロシア10、韓国及びインド各5、カナダ、日本、スロバキア各2、アルゼンチン、ブラジル、フィンランド、フランス、イラン、パキスタン、米国が各1となっています。

表1:原子力発電所保有国において原子力発電が合計発電量に占める割合
国 名 原子力発電が
合計発電量に占める割合

(2009年、%)
国 名 原子力発電が
合計発電量に占める割合

(2009年、%)
リトアニア 76.2 ドイツ 26.1
フランス 75.2 ルーマニア 20.6
スロバキア 53.5 米国 20.2
ベルギー 51.7 英国 17.9
ウクライナ 48.6 ロシア 17.8
アルメニア 45.0 スペイン 17.5
ハンガリー 43.0 カナダ 14.8
スイス 39.5 アルゼンチン 7.0
スロベニア 37.9 メキシコ 4.8
ブルガリア 35.9 南アフリカ 4.8
韓国 34.8 オランダ 3.7
スウェーデン 34.7 ブラジル 3.0
チェコ 33.8 パキスタン 2.7
フィンランド 32.9 インド 2.2
日本 28.9 中国 1.9

II.業務上の放射線被ばく

 放射線源の利用は放射線被ばくのリスクを伴い、多くの職業で発生します。人工放射線源は、原子力発電所のみならず、製造業やサービス業、医療機関、防衛分野、研究機関、大学などで一般的に用いられています。また、自然放射線源にさらされている労働者もいます。この中でも特にラドン被ばくは重要で、鉱山やラドン濃度の高い地域内で働く労働者がこれにあたります。線量限度は職業被ばくの場合には年間20ミリシーベルト(mSv)、公衆の場合には年間1ミリシーベルトとなっています(資料1参照)。

 放射線被ばくを伴う作業に従事する労働者については被ばく線量が限度を超えないよう監視する必要がありますが、世界全体では約2,300万人の労働者が電離放射線への職業被ばくの監視対象になっています(下表2参照)。このうち66万人が核燃料サイクルに携わる労働者です。他に炭鉱その他の鉱山労働者など約1,300万人が自然放射線にさらされています。医療機関でも700万人以上の労働者が放射線に被ばくしています。

表2:人工放射線源及び自然放射線源に関連した世界の職業被ばく者数
産 業 監視対象となっている労働者数
(2000〜02年)
平均年間被ばく線量
(mSV/年)
核燃料サイクル 660,000 1.0
自然放射線源

−炭鉱
−その他の鉱業
−鉱山以外の職場
−航空乗務員
13,050,000

6,900,000
4,600,000
1,250,000
300,000
2.9

2.4
3.0
4.8
3.0
医療用途 7,440,000 0.5
工業活動 869,000 0.3
軍事活動 331,000 0.1
その他 565,000 0.1
22,915,000 0.8
出典:2010年に刊行された原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
2008年報告

注:核燃料サイクルには、ウランの採鉱・粉砕・濃縮作業、燃料製造、原子炉運転、再
処理、調査研究が含まれる。自然放射線源には、民間航空、炭鉱業、その他の鉱業、石
油・天然ガス産業、鉱山以外の作業場におけるラドン被ばくが含まれる。医療用途には、
診断用放射線、歯科用放射線、核医学、放射能療法、その他あらゆる医療用途が含まれ
る。工業用途には、工業用照射、工業用X線撮影、ラメ加工、ラジオアイソトープ製造、
検層、加速装置運転、その他あらゆる工業用途が含まれる。その他には、教育施設、獣
医師用途、その他の職業が含まれる。

 鉱業を除くと、人工線源によるほとんどの種類の職業被ばくの平均年間被ばく線量は、原子力産業を含めて、現在2ミリシーベルトを下回っています。しかし、一部の鉱山労働者の被ばく線量は表2に示される平均をはるかに上回っている可能性があります。例えば、2000年の調査では、南アフリカの12万3,333人の地下金鉱労働者の平均年間被ばく線量は7ミリシーベルトでしたが、20ミリシーベルトを上回る労働者も3,700人を数えました。エジプトのアブタルトル・リン鉱坑道における鉱山労働者の個別モニタリングでは、推計平均年間被ばく線量は15.55ミリシーベルトでした。医師、歯科医師、獣医師といった保健医療職の被ばく線量は一般に非常に低いものの、診断に放射線を用いる場合には、被検患者に付き添うことで、医師が相当量被ばくするリスクがあります。例えば、心臓血管検査の職業性被ばく線量の測定では、冠動脈造影及び経皮経管冠動脈形成術(PTCA)の処置1回当たり甲状腺部位で0.43ミリシーベルト、心臓カテーテル・アブレーションでは眼球部位で0.28ミリシーベルト、甲状腺部位で0.2ミリシーベルトが検出されました。さらに、陽電子放射断層撮影(PET)による年間実効線量が8.0ミリシーベルトに上るという研究結果もあります。

 ラドン線量の高い地域では、店舗、事務所、学校、その他で働く人の約5分の1が、高い自然放射線レベルに職業的にばく露していると言われ、このような地域内の平均線量はある程度高いことが分かっています。こういった労働者の平均年間被ばく線量は約5ミリシーベルトで、業務上被ばくしている一般地域の労働者集団よりも高くなっています。

 宇宙線による航空乗務員の被ばく線量は飛行ルートと飛行時間数によって左右されます。平均の年間被ばく線量は約3ミリシーベルトですが、高い高度で継続的に飛ぶ長距離飛行の場合にはこの2倍近くになっている可能性があります。業務の性質上、こういった被ばくを防ぐことはできません。航空機の飛行高度における高い宇宙線量による飛行中の比較的高い被ばく線量を考慮して、航空乗務員も被ばくの管理が必要と考えている人々もいます。

III.放射線防護の範囲

 放射線防護の目的は、放射線被ばく量は増すものの、必要で有益な行為や行動に対して、それらをやみくもに制限するのではなく、人体に適切なレベルの保護を提供することです。放射線防護とは、有害な確定的影響の発生を予防し、確率的影響の発生確率を下げることです。

 放射線防護は、ILO憲章によって付与された任務であるところの「労働者を雇用から生じる病気、疾患、負傷から保護するための活動」の一部です。1960年6月に開かれた第44回ILO総会は放射線からの保護に関する条約(第115号)と付随する同名の勧告(第114号)を採択しました。第115号条約は、電離放射線への被ばくを伴う、労働者の業務の過程のあらゆる活動に適用され、条約を批准するILO加盟国は、法令、規則、実務規程、その他適切な方法によってその規定を実施するよう定めています。このILOの文書は、労働者の放射線防護に関する唯一の国際条約です。

 第115条約及び第114号勧告では具体的に以下のようなことが要件として挙げられています。

  1. 国際放射線防護委員会(ICRP)が随時行う勧告及びその他権限ある機関に採択された基準を十分に考慮し、労働者の健康及び安全に関して、電離放射線から労働者を効果的に保護することを確保する手段をとり、このために必要な規則及び措置を採用し、また効果的な保護にとって不可欠な資料を利用に供すること
  2. 労働者の電離放射線による被ばくを実行可能な限り低い水準のものとするためあらゆる努力を払い、不必要な被ばくを避けること
  3. ICRPが随時行う勧告及びその他権限ある機関に採択された基準を十分に考慮して、様々なカテゴリーの労働者について線量限度を定め、かかる線量はその時の知識に照らして絶えず見直し・再検討すること
  4. 18歳以上の労働者と18歳未満の労働者のそれぞれについて適当な線量限度を定め、16歳未満の労働者は電離放射線を伴う作業に従事させてはならないこと
  5. 放射線作業に直接従事しないが、電離放射線または放射性物質による被ばくの恐れのある場所に留まるかその場所を通過する労働者について線量限度を定めること
  6. 電離放射線による危険のあることを示すために警告手段を用い、労働者に情報を提供すること
  7. 放射線作業に直接従事する労働者に対しては適切な指導を行うこと
  8. 作業の過程において労働者の電離放射線による被ばくを伴う作業については、法令にその通報義務を定めること
  9. 労働者の電離放射線及び放射性物質による被ばくを測定するために労働者及び作業場について監視措置を実施し、所定の線量限度が遵守されていることを確認すること
  10. 放射線作業従事者の健康サーベイランスを実施すること
  11. 監督及び通報を実施すること
  12. 使用者と労働者は労働者の放射線防護に関し協力を確保する努力を払うこと

 第115号条約は2011年3月現在、48ヵ国で批准されています。批准国のうち、以下の各国には原子力発電所があります。アルゼンチン、ベルギー、ブラジル、チェコ、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、インド、日本、メキシコ、オランダ、ロシア、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、ウクライナ、英国。また、エジプト、イタリア、ポーランド、トルコの4ヵ国で原子炉を計画中であるか、建設が提案されています。

 労働者の電離放射線からの保護には、以下の一般原則が適用されます。

  1. 放射線作業に従事したり、一般の人々の被ばく線量よりも高い放射線被ばくを伴うか伴う可能性がある作業活動に従事することがない労働者(つまり、自らの作業に直接関連したまたは業務によって求められる放射線源による被ばくのない労働者)の保護水準は、一般の人々と同様とし、一般の人々に適用される放射線防護規制体系に服するものとする。
  2. 放射線源を伴う作業に従事する労働者(放射線作業者)、放射線事故後の救出または修復活動に関与する緊急労働者、一般の人々の被ばく線量よりも高いまたは高くなる可能性の被ばくを伴う作業活動に従事する労働者は、業務上の放射線防護規制体系の司る適当な防護水準に服するものとする。

 一般の人々の保護も、業務上被ばくする可能性のある労働者の保護も、放射線防護規制体系の全体を構成する不可欠な要素です。

IV.国際協力のための枠組み

 放射線防護に関する国際的な協調の取り組みは1920年代から制度的な姿を整え始めました。例えば、国際放射線医学会議(ICR)は、1925年に国際放射線単位測定委員会(ICRU、当初の名称は「国際X線単位委員会」)を、1928年に国際放射線防護委員会(ICRP、当初の名称は「国際X線及びラジウム防護委員会」)を設けました。この分野におけるILOの活動も30年代初めまで遡ることができ、例えば、1934年に出された『Occupation and health: Encyclopaedia of hygiene, pathology and social welfare(職業と健康:衛生、病理学、社会福祉百科事典)第2巻』には既に、ラジウムと放射性物質に関する項目が含まれています。

 1955年には原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が、1957年には国際原子力機関(IAEA)が設立されました。IAEAとILOは1959年5月8日に協定を締結し、協力・協議や相互代表などの仕組みを整えました。IAEAは、その憲章第3条A6項において、次のことを行う権限を有するとされています。原子力の分野において、「国際連合の権限のある機関及び関係専門機関と協議し、かつ、適当な場合にはそれらと協力して、健康を保護し、並びに人命及び財産に対する危険を最小にするための安全上の基準(労働条件のための基準を含む。)を設定し、又は採用すること。」

 1970年代に入ると、放射線防護に関する国際協力は漸進的に増大し、1981年には画期的出来事として、IAEA、ILO、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)、世界保健機関(WHO)によって「放射線防護のための基本安全基準(BSS−1982年版)」が採択されました。その後、ICRPの1990年勧告(1991年に刊行されたICRP60)がきっかけとなって、BSS−1982年版の改定プロセスが始動しました。これらのICRP勧告は、「その時に利用しうる知識」に照らして、労働者を保護する適当な手段を講じるよう求めるILOの第115号条約の適用にも関連するため、条約勧告適用専門家委員会は、1992年の第49回ILO総会に提出されたその報告書の「一般見解」の中で、ICRPの1990年勧告で見出された事項に照らし合わせて電離放射線からの労働者の保護に関する仕組みを見直すことを加盟国に提案しています。

 BSS−1982年版の改定には、国連食糧農業機関(FAO)と汎米保健機関(PAHO)も参加し、FAO、IAEA、ILO、OECD/NEA、PAHO、WHOが共同策定機関となって「電離放射線に対する防護と放射線源の安全のための国際基本安全基準(BSS−1996年版)」が1996年に正式に刊行されました。同年、IAEAはその技術協力計画を通じて「放射線防護基盤構造向上に関するモデル・プロジェクト」を開始しました。この国際イニシアチブは、加盟国がBSSを遵守するのに必要な基盤構造を設けることを支援するよう設計され、既に100ヵ国以上で実施されています。BSSは放射線防護基準の世界的な調和に向けた基盤を提供しています。IAEAの活動において、この機関の技術協力を受ける国々はBSSを適用するよう義務づけられています。モデル・プロジェクトの具体的な成果として、プロジェクト実施国は自国の放射線安全・防護基準にBSSを組み込んでいますが、これはILOの第115号条約と第114号勧告に具体的に示されている要件事項を満たす十分な基盤となっています。すべてのBSS共同策定機関は放射線の防護と安全に関する国際基準及び政策の開発と調和を図るために密接に協力しており、それぞれの活動分野においてBSSの適用を促進しています。他の共同策定機関の支援を受けて実施される活動に対しては、該当機関の関連する規則やルールに照らし合わせてBSSを適用することになっています。

 ILOの理事会は1994年11月に1996年版の国際基本安全基準(BSS)の刊行を承認しました。BSSは政府、使用者、労働者の手引きとなっています。ILOではBSSを、第115号条約の実施を支え、また、国家及び企業レベルで業務上の放射線防護を促進している人々のガイドとなるものとして用いています。ILOの基準適用監視機構も第115号条約と第114号勧告の適用及び実施状況を審査・検討する際にBSSを用いています。

 飲料水(WHO)や食品(WHO/FAO)、緊急事態への準備と対応(IAEA/WHO)から労働者の放射線防護(IAEA/ILO)に関する指針まで、政府間機関及び非政府組織が発表している専門的な基準、要件、指針、ガイド、技術文書が多種多様で数多く存在していることは、放射線防護の範囲の広さと扱うテーマの多様性を示す良い指標です。IAEAとILOは業務上の放射線防護に関する文書を共同で多数作成していますが、これには業務上の放射線防護に関する一般手引き、内部・外部被ばくに基づく職業被ばく評価、鉱業及び放射性鉱物粉砕における労働者の放射線防護、職場における自然放射線被ばくの管理、電離放射線に業務上さらされている人々の健康サーベイランス、病院及び一般診療所における放射線防護といったものがあります。

 放射線防護に関する効率的な機関間協力の長い歴史は、1986年に原子力事故対応機関間委員会(IAC/NR)、そして1990年に放射線安全性機関間委員会(IACRS)が設立されたことによって強化されました。IAC/NRは後に原子力事故に対する対応のための機関間委員会(ICRNA)に改名され、今は放射能・原子力緊急事態機関間委員会(IACRNE)となっています。ILOはこのどちらの委員会にも参加しています。

 今日、放射線の安全性に関する国際協力は既定の事実となっており、ICRU、ICRP、国際放射線防護学会(IRPA)、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)など、多数の政府間機関及び非政府組織が関与しています。この国際協力の中ではIAEAが調整と主導の役割を担っています。

 ILOは業務上の放射線防護と、放射線防護及び安全に関する国際基準の開発・策定における労使・労使団体の積極的な参加の促進に焦点を当てて活動しています。後者は主として、IAEAが設置している放射線安全基準委員会(RASSC)へのILOの参加を通じて進められており、具体的には、労使と労使団体の代表が業務上の放射線防護の国際基準の策定に完全に関与できることを意味します。かつては、労働者及び使用者に適用される国際基準でありながら、その策定過程に労使の参加を得ていなかったこともしばしばでしたが、現在は改まっています。

 取り組みの重複を避け、調和の取れた手引きを作成し、人的・金銭的資源の効果的な利用を促進するため、ILOは放射線防護に関する活動の重点を、IAEAその他の国際機関との協力事業に移し、労働者の放射線防護に関する国際基準及び手引きの共同開発・準備に置くことにしました。

 国際協力に向けたILOの公約により、放射線に関する国際安全基準の開発における加盟国政労使三者の参加が保障され、資源の効果的かつ効率的な利用が可能となっただけでなく、第115号条約のより幅広い適用と、業務上の放射線防護の分野におけるILOの国際的な影響力の増大につながりました。例えば、2002年に開かれたIAEAの第46回総会では、原子力、放射線、輸送、廃棄物の安全性における国際協力を強化する措置に関する決議(IAEA総会文書GC(46)/RES/2002年9月9日)が採択されましたが、この決議は「(IAEA)事務局長に対し、資源・資金の入手可能性を条件として、業務上の放射線防護のための国際行動計画の策定・実行においてILOその他関連機関とIAEAの協力の可能性を検討するよう要請」しています。IAEAはILOと協力し、国際使用者連盟(IOE)及び国際自由労連(ICFTU)の積極的な参加を得てこの業務上の放射線防護のための行動計画を策定しました。行動計画は2003年の第47回IAEA総会に提出されたIAEA事務局長報告に盛り込まれ、同総会で承認されました。この行動計画は、ILOの第115号条約に焦点を当て、職業被ばくに関するBSSの要件を第115号条約実施の指標と位置づけています。

 業務上の放射線防護に関するILOとIAEAの協力に対して、放射線防護に関わる世界中の人々や機関が高い期待を寄せています。この期待には応えなくてはなりません。ILOの加盟国及び政労使は業務上の放射線防護に関し、調和の取れた国際的な政策、基準、手引きを必要としており、これは信用の問題でもあります。この点で、IAEAの行動計画が、上述のように、ILOの第115号条約に焦点を当て、職業被ばくに関するBSSの要件を第115号条約実施の指標としているのは特記すべき事項です。6機関(FAO、IAEA、ILO、OECD/NEA、PAHO、WHO)が共同で策定に携わっているため、BSSは放射線防護に関する国連諸機関全体の必要条件であると見なされており、今やILOの第115号条約についても同じようなことが言えるかもしれません。

 過去数年間にIAEA総会は、「原子力、放射線、輸送の安全と廃棄物の管理における国際協力を強化する措置」に関して複数の決議を採択しています(GC(46)/RES/9-20/9/2002、GC(47)/RES/7-19/9/2003、GC(48)/RES/10-24/9/2004)。ILOは第115号条約の実施と促進に関する国際協力を強めるため、IAEAが調整を図る国際的な取り組みにおいて積極的な役割を演じてきました。2002年8月26〜30日に「業務上の放射線防護国際会議:労働者の電離放射線被ばくからの保護」がジュネーブのILO本部で開かれたことや2003年の第47回IAEA総会で業務上の放射線防護に関する行動計画が採択されたことはこの好例です。IAEAは現在、WHO、OECD/NEA、欧州委員会(EC)、IOE、ITUCの参加を得て、ILOと協力して行動計画を実行しています。

 同じ「原子力、放射線、輸送の安全及び廃棄物の管理における国際協力を強化する措置」の枠内で、IAEAは「IAEA安全基準の開発と適用のための行動計画(GOV/2004/6)」も策定しています。IAEAは長年にわたり、ILOを含む策定機関と協力し、BSS−1996年版の改定作業に従事してきました。現在、この改定作業は最終段階にありますが、ILO理事会の指名した2人の専門家が事務局と共に改定プロセス全体に参加してきました。BSSの完全改定版は、2011年9月に開かれるIAEA理事会で承認される見込みです。その後、ILOを含む共同策定機関の理事会に承認を求めて提出されることになります。新しいBSSは国連公式言語6ヵ国語で2012年初めに正式に刊行される予定です。

V.ILOの主な活動

 電離放射線からの労働者の保護は、労働者の健康保護における特別な分野の一つです。さらに、労働者の健康保護は、労働安全衛生並びにすべての労働者の労働条件及び作業環境改善に関するILOの活動という、より幅広い枠組みの中に位置しています。電離放射線からの労働者の保護に係わるILOの活動は、現在、以下の二つに大別できます。

  1. すべての労働者(放射線作業に携わる労働者を含む)を対象とした活動−労働安全衛生に関する国レベルの政策の促進、労働者の健康保護に向けた予防的活動のための制度の開発など。
  2. 電離放射線からの労働者の保護に直接関連した活動−ILOが単独であるいはIAEA、WHO、その他の関連機関と協力して実施した過去の活動の例としては、上に記したようなものがあります。ILO加盟国政労使並びに放射線防護に関わる世界の人々及び機関は、ILOが第115号条約の枠内で労働者の放射線からの保護を促進する主導的な役割を演じ続け、この分野における機関間協力を通じた国際協力が継続され、さらに強化されることを期待しています。


(注1)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)『第4次評価報告書(AR4)』、2007年。

(注2)世界原子力協会(WNA)「世界の原子力発電所における原子炉とウラン必要量」。http://www.world-nuclear.org/info/reactors.html


福島原子力発電所事故情報資料集(英語)----->
http://www.ilo.org/safework/whatsnew/lang--en/WCMS_153297/index.htm
Encyclopaedia of Occupational Health and Safety(ILO産業安全保健エンサイクロペディア)(英語)----->
http://www.ilo.org/safework/info/databases/lang--en/WCMS_113329/index.htm
放射線からの保護に関する条約(第115号)----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/st_c115.htm
放射線防護勧告(第114号)----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/st_r114.htm
条約勧告適用専門家委員会1992年一般報告(英語)----->
http://www.ilo.org/ilolex/cgi-lex/pdconv.pl?host=status01&textbase=iloeng&document=88&chapter=5
国際基本安全基準(BSS)現行基準一覧−IAEAサイト(英語)----->
http://www-ns.iaea.org/standards/documents/pubdoc-list.asp?s=11&l=96

最終更新日:2011年4月1日 作成者:SN/YU/EU 責任者:SH