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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説(2010年1月29日付第92号) |
ILOは国際労働基準を策定するだけでなく、その適用を監視してもいます。条約勧告適用専門家委員会と総会の基準適用委員会で構成される通常の監視の仕組み以外に存在する特別の仕組みの一つにILO理事会の結社の自由委員会があります。この委員会は、1950年にILO理事会が国連の経済社会理事会との交渉を経て設立を決定した結社の自由に関する実情調査調停委員会の予備審査機構の役割を担って、1951年に理事会の一委員会として設置されました。
結社の自由委員会は政府側、使用者側、労働者側の各6人のILO理事(正副3人ずつ)と独立した個人である委員長の計19人で構成されています。現在の委員長は、アムステルダム大学の学長や総会の基準適用委員会の委員長も務めたパウル・ファン・デル・ハイデン教授が2002年6月から就任しています。委員は個人の立場で参加しているため、政府代表についても比較的長い在任期間が確保されるよう任命されることが期待されています。現在、寺本隆信元ILO駐日事務所次長が政府側副委員、(財)日本経団連国際協力センターの鈴木俊男参与が使用者側副委員と、2人の日本人委員が参加しています。委員会は3月、6月、11月の年3回開かれる理事会の通常会合の直前に会合を持ち、その報告書は理事会に提出されます。
結社の自由委員会は、労使団体から寄せられるILO加盟国による結社の自由に関する条約(結社の自由及び団結権保護に関する第87号条約と団結権及び団体交渉権に関する第98号条約)違反の申し立てを審査します。結社の自由に関する実情調査調停委員会の場合は、当該国がこの二つの条約を未批准の場合には、政府が同意しない限り付託できないのに対し、結社の自由委員会が申し立てを審議する際には批准の有無は考慮されません。それは、加盟国はILO憲章の義務を受諾してILOに加盟している以上、ILOの憲章及びその付属文書であるフィラデルフィア宣言に含まれる基本的原則、とりわけ結社の自由に関する原則を尊重する義務を負っているという理由からです。
2009年までに結社の自由委員会が取り上げた件数は2,700件近くに達しているほか、100件以上が審査を待っています。また、ILO憲章第24条に基づき行われた申し立てが労働組合の権利に関する条約についてのものである場合にも結社の自由委員会に付託されます。日本からの申し立て件数も33件に上っています。このうち、公務員の労働組合権の制約に関する日本労働組合総連合会(連合)と全国労働組合総連合(全労連)などからの申し立ては別々に出されましたが、同じ内容ということで一緒に扱われており、現在も審議が継続中です(第2177号事件と第2183号事件)。このほかに、国鉄労働組合(国労)と全動労(現全日本建設交運一般労働組合全国鉄道本部)が国鉄民営化時の組合員差別について申し立てた第1991号事件と全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)が警察による労働組合員の勾留や家宅捜索などが組合の活動を妨げ、イメージを損ねたとして申し立てた第2304号事件の2件がフォローアップ段階にあり、残りは終了案件です(うち1件は実情調査調停委員会付託案件)。各回の結社の自由委員会の報告書は理事会の討議資料として公開されているほか、過去の案件をすべて収録した国際労働基準局のデータベースLibSyndで見ることもできます。
このたび、寺本委員より結社の自由委員会の最近の活動に関する貴重な報告を寄せていただきましたので以下に掲載します。
ILO結社の自由委員会の最近の活動
ILO結社の自由委員会委員
寺本隆信
ILO理事会の結社の自由委員会は、日本の戦後労働史に大きな足跡を残しました。しかし、日本からの申立事件は減り、今ではマスコミに取り上げられることも滅多にありませんから、どのような活動をしているかご存知ない方が多いかもしれません。
私は、現在、結社の自由委員会の委員を務めています。結社の自由委員会は、政府、使用者及び労働者各側からそれぞれ6人の委員と、独立の委員長1人で構成されています。私は政府側の委員ですが、いずれの委員も個人の立場で参画することとなっています。毎年3月、6月及び11月の3回会合が開催されます。私が最初に出席したのは2008年11月の会合で、以来4回の会合を経験しました。これを踏まえ、ILO結社の自由委員会の現状を報告します。
なお、この稿で述べることは、私個人の立場からのものであって、ILO結社の自由委員会や私の他の所属組織を代表するものでないことをあらかじめお断りしておきます。
1.ILO結社の自由委員会と日本
年3回開かれる結社の自由委員会は、毎度30〜40件の申立事件を審査しています。世界中の国々からの申立件数が減ったわけではありません。要するに、結社の自由委員会の活動は続いており、事件が持ち込まれる国々に歴史的な変遷があるようです。今は、申立事件の3分の2が中南米・カリブ海諸国からの申立事件です。
このような現状において、次のような申立事件が結社の自由委員会で取り扱われていることに、日本としても注目すべきと思われます。
2.結社の自由委員会の手続
(1)申立
ほとんどの申立は労働組合からのものですが、まれに使用者団体からの申立もあります。後者の例の一つは、労働政策等の協議から使用者団体を排除し、使用者団体のトップを逮捕するなどの政府の措置を申し立てたもの[ベネズエラ、第353回結社の自由委員会報告書(2009年3月)1360〜1398パラグラフ]です。もう一つは、使用者団体を解散させ、別の新しい使用者団体を支援する政府の措置が不当であると申し立てられた事件[イラン、第354回結社の自由委員会報告書(2009年6月)928〜950パラグラフ]です。このように、結社の自由は、労働者にも使用者にも認められる原則です。
労働組合からの申立は、労働組合に加入したことで会社から解雇されたというものや、労働組合が団体交渉を申し込んでも会社が応じない、など日本の労働委員会で争われるような事件が多いのですが、さらに殺人・暴力や逮捕・監禁にまで及んだ深刻な事態も見られます。
さて、申立の相手は誰かというと、使用者でも労働組合でもなく、その問題が起きている国の政府です。結社の自由は、全てのILO加盟国が尊重する義務を負っています。これが守られるよう政府を監視するシステムとして、結社の自由委員会が労働組合や使用者団体からの申立を受け付け、審査し、その結果、必要な勧告を行うのです。勧告の相手も、その国の政府です。
(2)審査
結社の自由委員会の審査は、通常、申立人の主張及び情報と、申し立てられた国の政府の主張及び情報に基づいて、書面により行われます。政府は、申立事件が労使間に起きた問題に関するものである場合、その相手方の当事者から事情を聴くなどして情報を集め、その結果をもとにILOに情報提供すると共に、政府としての主張を述べます。これら申立人及び申し立てられた国の政府双方の主張及び情報をもとに、事前に、ILO事務局が事実関係、判定及び勧告を含む報告の案文を用意し、これを結社の自由委員会で審議します。公正な審査のため、結社の自由委員会の委員は、自国の事件の審査には参画できず、その審査中は退席します。
(3)結社の自由原則の解釈
このような結社の自由委員会の手続の性格は、裁判というより、苦情処理に近いと思われます。しかし、結社の自由原則を適用して事件を処理する専門の機関であり、判断の継続性を維持する観点から、前述したように、判例を定期的に整理し、その後の申立事件の審査において参照しています。
また、結社の自由を定める第87号・第98号条約を含め、ILO条約の解釈を行う専門の機関としてILOの中では条約勧告適用専門家委員会がありますので、結社の自由委員会は、申立事件に含まれる法制上の問題について条約勧告適用専門家委員会に注意を促す場合があります。
なお、厳密に言えば、ILO条約の最終的な解釈権限は国際司法裁判所に委ねられています(ILO憲章第37条)。
3.最近の注目すべき申立事件
(1)労働組合や使用者団体に対する暴力や弾圧事件
労使関係における暴力や警察の不当介入は、それ自体の問題に留まらず、民主的で自律的な経済社会活動の発展を阻む不幸な事態であると思われます。最近の事例として、内戦終結(1991年)後の発展途上にあるカンボジア[第351回結社の自由委員会報告書(2008年11月)242〜254パラグラフ、第354回結社の自由委員会報告書(2009年6月)258〜271パラグラフ]、反政府武装勢力による殺人、誘拐等の治安問題を抱えるコロンビア[第353回結社の自由委員会報告書(2009年3月)469〜521パラグラフ]、内戦終結(1996年)後に殺人、強盗などの犯罪が多発しているグアテマラ[第351回結社の自由委員会報告書(2008年11月)873〜897パラグラフ、第355回結社の自由委員会報告書(2009年11月)775〜866パラグラフ]、イスラム革命(1979年)後に保守派、改革派等の政治的対立が続くイラン[第351回結社の自由委員会報告書(2008年11月)910〜989パラグラフ]、クーデター(1988年)後に軍事政権が続くミャンマー[同1016〜1050パラグラフ]、反政府武装勢力の活動が続くフィリピン[同1180〜1240パラグラフ]などが挙げられます。
(2)結社の自由に関する先進的な判例―不法就労者の結社の自由
不法就労者の組織する労働組合の登録を政府当局が拒否したことが争われた事件があります[韓国、第355回結社の自由委員会報告書(2009年11月)679〜710パラグラフ]。本件は、韓国国内の裁判でも争われ、一審は組合敗訴、二審で組合勝訴、そして現在最高裁に係属中です。この間、不法就労の組合役員は逮捕され、国外退去処分を受けています。
本件は、国家の出入国管理と、普遍的な人権、すなわち結社の自由、とにかかわる難問だと思います。結社の自由委員会の勧告は、政府に対し、早急な組合登録手続の実施のほか、組合役員への選出に関連する理由による逮捕及び退去処分など、組合活動への重大な介入となる危険性のある措置の自制を求める内容となりました。下線部分がポイントであり(すなわち、組合役員への選出に関連する理由によるのでなければ、組合活動への重大な介入となる危険性は少ない)、これにより国家の出入国管理と結社の自由との調和が保たれています。
(3)日本関係の事件
前述したように、私を含め、結社の自由委員会委員は自国の事件の審査に参画できませんので、本稿では取り上げませんが、新聞報道等にはご注目いただきたいと思います。
* * *
(注)結社の自由委員会報告書は、ILO本部のホームページ(http://www.ilo.org)で公開されています(トップページ--->Labour Standards--->LibSynd-Committee on Freedom of Association database)。なお、結社の自由委員会の報告には、中間報告と最終報告があり、本稿で紹介したもののうち、イラン(第351回報告書)及びミャンマー(同報告書)に関するもの以外はすべて中間報告です。
結社の自由委員会データベースLibSynd(英語)----->
http://webfusion.ilo.org/public/db/standards/normes/libsynd/index.cfm
ILO理事会(英語)----->
http://www.ilo.org/global/What_we_do/Officialmeetings/gb/lang--en/index.htm
結社の自由委員会決定・原則ダイジェスト「Freedom of Association: Digest of decisions and principles
of the Freedom of Association Committee of the Governing Body of the ILO」(英語)----->
http://www.ilo.org/global/What_we_do/InternationalLabourStandards/InformationResources/Publications/lang--en/docName--WCMS_090632/index.htm
国際労働基準----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/list.htm
ILO憲章----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/constitution.htm