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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説

(2008年5月1日付第71号)

◆ ◇ ILO作業改善プログラム ◇ ◆
◆ ◇ (ILO Work Improvements Programmes) ◇ ◆

WISE及びWIND方式参加型トレーニングとその進展
−アジアの草の根の職場における安全と健康改善を支援して−

ILO東アジア準地域事務所
労働安全衛生上級専門家 川上 剛

★はじめに:WISE(ワイズ)方式参加型トレーニングの進展

 WISEとは、このプログラムの英語名の"Work Improvement in Small Enterprises"の頭文字を取って名付けられました。中小企業は雇用の場として、また社会経済発展の礎として各国でますます重要な役割を果たしています。ILOは中小企業で働く人々が安全で健康的な労働環境を享受できるように、そして多忙な中小企業主が効率よく安全衛生と生産性を向上していく自助の努力を支援するためにこのプログラムを開発し、世界各国で応用しています。

★WISE方式参加型トレーニングの実際

 WISE方式参加型トレーニングは中小企業における作業改善にすぐ役立つように理解しやすく実践的に作られています。表1にWISEトレーニングの2日間コースのプログラムを示しました。

表1:WISEトレーニングのプログラム例(2日間コース)

午  前
セッション1: 地元小規模職場訪問とチェックリスト実習
午  後
セッション2: 物の運搬と移動(改善ルールと地元グッド・プラクティス紹介、参加者による改善提案づくりグループ討論及び討論結果の発表)
セッション3: ワークステーション(改善ルールと地元グッド・プラクティス紹介、参加者による改善提案づくりグループ討論及び討論結果の発表)

午  前
セッション4: 機械の安全(改善ルールと地元グッド・プラクティス紹介、参加者による改善提案づくりグループ討論及び討論結果の発表)
セッション5: 作業場環境(改善ルールと地元グッド・プラクティス紹介、参加者による改善提案づくりグループ討論及び討論結果の発表)
午  後
セッション6: 福利施設(改善ルールと地元グッド・プラクティス紹介、参加者による改善提案づくりグループ討論及び討論結果の発表)
セッション7: 最終改善提案の作成(改善実施ガイド紹介、参加者による改善提案づくりグループ討論及び討論結果の発表)
図1.ワイズトレーニングではまず小規模職場を訪問しチェックリストを用いて改善ポイントを発見する(ベトナム)
図1.ワイズトレーニングではまず小規模職場を訪問しチェックリストを用いて改善ポイントを発見する(ベトナム)

 WISEトレーニングの最初に地元小規模職場の訪問が組まれ、そこで参加者は対策指向型チェックリスト(図1)を用いて安全・健康そして生産性改善に役立つポイントを探します。チェックリスト実習の後には、物の運搬と移動、ワークステーション、機械の安全、作業場環境、福利施設という五つの技術セッションが続きます。これら五つの分野は、安全健康と生産性改善の双方に役立ちまた低コストでできる改善の多い分野として選ばれています。それぞれのセッションにおいてトレーナーが簡便に実施できる改善ルールを示し、またすでにある地元のグッド・プラクティス(好事例)を紹介します。その後、参加者はチェックリスト実習の結果を基にグループ討論を行って、具体的な改善提案を作ります。

図2.ワイズトレーニングで使われる対策指向型チェックリストの一部 図3.グループ討論ではチェックリスト結果に基づいて改善提案を作成する(ベトナム)
図2.ワイズトレーニングで使われる対策指向型チェックリストの一部 図3.グループ討論ではチェックリスト結果に基づいて改善提案を作成する(ベトナム)

 WISEトレーニングでは参加を促進するためのトレーニングツールが力を発揮します。特に図2に示した対策指向型チェックリストは具体的な改善イラストを示しており、参加者が改善ポイントを見つけていくことを促進します。また、ワイズトレーナーが紹介する地元グッド・プラクティスの写真は参加者に地元にある材料を用いて実施可能な改善のアイデアを提供します。参加者はグループ討論(図3)を繰り返しながら、自身のイニシアチブで安全と健康改善を進めていくことを確認していきます。

 WISEトレーニングの数カ月後には参加企業へのフォローアップ訪問を実施します。図4〜6に示すように参加企業は身近な材料を用いて低コストでできる安全健康改善を実施しています。これらの改善はWISEトレーナーや専門家が指示して実施されたものではなく、参加企業の経営者と労働者が自身の職場でチェックリストを応用して改善アイデアを出し合い実施してきた自主改善例です。こうして作られた地元改善例は次回からのWISEトレーニングに組み込まれてさらに説得力のある実例として参加者の自主改善を支援する具体的アイデアを提供します。

図4.ワイズトレーニング後にベトナム小企業が実施した低コスト改善例(現地語による表示) 図4.ワイズトレーニング後にベトナム小企業が実施した低コスト改善例(肘高に合わせた作業台)
図4.ワイズトレーニング後にベトナム小企業が実施した低コスト改善例(左上から現地語による表示、肘高に合わせた作業台、機械の安全カバー) 図4.ワイズトレーニング後にベトナム小企業が実施した低コスト改善例(機械の安全カバー)
図5.ワイズトレーニング後にタイ小企業が実施した低コスト改善例(重量物運搬の改善)
図5.ワイズトレーニング後にタイ小企業が実施した低コスト改善例(重量物運搬の改善)
図6.ワイズトレーニング後にタイ小企業が実施した低コスト改善例(食堂の設置)
図6.ワイズトレーニング後にタイ小企業が実施した低コスト改善例(食堂の設置)

★WISEプログラムのインパクト

図7.チェックリスト実習を行う家内労働者(カンボジア)図7.チェックリスト実習を行う家内労働者(カンボジア)
図7.チェックリスト実習を行う家内労働者(カンボジア)

 WISEプログラムは各国において実際的な方法として取り入れられ、広く応用されてきました。例えばタイでは労働省が企業の安全管理者トレーニング・プログラムに組み込んでいます。モンゴル経営者連盟は自前のトレーナーを養成して、会員である中小企業への安全と生産性改善サービスとしてWISEトレーニングを推進しています。また、我が国の国際労働財団と労働科学研究所は、WISEで用いられた参加型方式を応用しながら労働組合の自主安全衛生活動を支援するために新たにPOSITIVEプログラムを開発しました。POSITIVEプログラムはアジア各国の労働組合で応用され、組合主導の安全衛生活動と安全衛生をエントリーポイントとした労使対話の促進に大きく貢献してきました。その詳細については巻末に示した文献5をご参照ください。

 2006年に採択されたILO第187号条約(職業上の安全及び健康を促進するための枠組みに関する条約)はすべての働く人々の健康と安全の向上のために安全健康予防文化を確立し、また職場における安全及び健康リスク評価活動を推進し、見つかったリスクを発生源において低減することを確認しています。WISEプログラムはこの主旨に合致した実践ツールを提供しています。

 WISEプログラムで応用されてきた参加型方式はさらにさまざまな職種のニーズに合わせて再構成され広まっています。現在では、家内労働(図7)、小規模建設現場等のインフォーマル経済職場や病院・保健医療サービスの職場等においても実践的な方法として応用されています。政府ばかりでなく労使代表や非政府組織(NGO)と協力して地元トレーナーを養成して、より多くの草の根の職場に到達するための努力が続けられています。カンボジア、モンゴルにおいてはこの方式でインフォーマル経済職場における安全健康改善と生産性改善に取り組み、国の政策に取り込まれてさらなる展開を期しています。


★農民向けの参加型トレーニングWIND(Work Improvement in Neighbourhood Development)プログラム

図8.WIND方式参加型トレーニングの進め方(ベトナム)
図8.WIND方式参加型トレーニングの進め方(ベトナム):1.改善点発見のためのチェックリスト実習、2.農民ボランティアによる地元改善事例提示
1.改善点発見のためのチェックリスト実習 2.農民ボランティアによる地元改善事例提示
図8.WIND方式参加型トレーニングの進め方(ベトナム):3.男女共同参加による世帯毎の改善提案作成、4.改善提案の発表と実施(数ヶ月後にフォローアップ訪問)
3.男女共同参加による世帯毎の改善提案作成 4.改善提案の発表と実施(数ヶ月後にフォローアップ訪問)
図9.より多くの農民に到達するためのWINDプログラム拡大のステップ
図9.より多くの農民に到達するためのWINDプログラム拡大のステップ
図10.ベトナムにおける農民ボランティアサポートシステム
図10.ベトナムにおける農民ボランティアサポートシステム

 WIND(ウインド)プログラムは、WISE方式で用いられた参加型手法を応用しながら新しい農民向けの参加型プログラムとして、ベトナム南部カント市の労働衛生・環境センターと我が国の労働科学研究所がトヨタ財団の研究助成を受けて共同開発しました。現在では、ILOの技術協力プログラムの中でも幅広く応用されています。カンボジア、モンゴル、タイ、ベトナム等では国の安全衛生計画実施における具体的な手法として政策に取り入れられています。中央アジア各国においても広く応用されています。2007年にはベトナム人WINDトレーナーがセネガルを訪問し、新たにアフリカにおける実践も始まりました。

 図8にWINDトレーニングの実際の進め方を示しました。参加した農民自身が作業改善と生活改善の双方に目配りしながらチェックリストを用いて改善点を洗い出していきます。WINDトレーニングでは特に男女の共同参加とその意見の反映に重点を当てています。また、多数の農民WINDボランティアを養成し、農民ボランティアが近隣農民をさらにトレーニングする方式を用いて、より多くの農民に到達する方式をとっています(図9)。国と地方政府は農民ボランティアの活動を政策的にあるいは技術的に支援していきます(図10)。

 農民ボランティアやWINDトレーナーの草の根の活動は、分かりやすく使い勝手のよい参加型ツールを用いて実施されています。改善事例を地元のタッチで描いたイラスト集はその良い例です(図11、12)。また、地元改善事例を示した写真シートは電気のない村でも簡便に応用可能で、農民ボランティアの力強い味方となっています(図13)。

図11.農民ボランティアのツールとして作成された分かりやすい改善イラストの例

図11.農民ボランティアのツールとして作成された分かりやすい改善イラストの例
図12.地元のタッチで描かれた改善イラストの作成−過労と事故防止のための仕事の合間の小休憩−(左がセネガル版、右がベトナム版)
図12.地元のタッチで描かれた改善イラストの作成−過労と事故防止のための仕事の合間の小休憩−(左がセネガル版、右がベトナム版)
図13.地元改善例を示す写真シートを用いてWINDトレーニングを実施するトレーナー(カンボジア)
図13.地元改善例を示す写真シートを用いてWINDトレーニングを実施するトレーナー(カンボジア)

 WINDトレーニングに参加した農民は身近な資源を用いて自主改善を続けてきました(図14、15)。直接トレーニングに参加しなかった農家でも近所の評判を聞いて作業と生活の改善に取り組み始めたり、あるいは安全健康改善から始まってより安定した収入を得るための新しい農作物の作付けに取り組んだり、さまざまな心強いインパクトが現れています。

図14.WINDトレーニング後の農民自主改善例:改善前 図14.WINDトレーニング後の農民自主改善例:改善後
改善前 改善後
図14.WINDトレーニング後の農民自主改善例
−精米器の動力ベルト安全カバー−
図15.WINDトレーニング後の農民自主改善例:農薬の安全な保管 図15.WINDトレーニング後の農民自主改善例:空き瓶の安全な保管
図15.WINDトレーニング後の農民自主改善例
−農薬(左)と空き瓶(右)の安全な保管−
図15.WINDトレーニング後の農民自主改善例:空き瓶の安全な保管

24回:WINDトレーナー養成ワークショップの回数


480人:養成されたWIND農民ボランティアの数


7,922人:農民ボランティアによるトレーニングを受けた農民


28,508例:トレーニングに参加した農民が実施した改善数

図16.ベトナムにおけるWIND農民ボランティアシステムの発展
(2005〜2007年:ILO/日本マルチバイプログラムによる支援)

 ベトナムではILO/日本マルチバイプログラムによる支援を得て農民ボランティア養成を国の政策に取り入れて実施し、多くの改善が行われてきました(図16)。2006年に施行されたベトナム最初の国家労働安全衛生計画にも取り込まれ、ILO/日本マルチバイプログラムによるプロジェクト終了後はさらに国の予算を使って農民ボランティア養成が進められています。

★おわりに

 WISEやWINDで用いられている参加と自助の努力に焦点を当てたトレーニング方式は、草の根の職場と人々が本来持っている潜在力を支援します。政府の安全衛生サービスがなかなか届きにくい途上国の中小企業、インフォーマル経済職場あるいは農業において目に見える実際的な改善の取り組みを支援してきました。安全と健康における低コスト改善づくりがよいエントリーポイントとなって、収入の向上策や地域・職域における対話と協力の推進等と幅広い自主の取り組みが生まれてきました。こうした草の根の取り組みが、国の政策や労使が持つネットワークによる支援を受けてさらに広がろうとしています。


* * *

◇参考文献

 WISE、WIND、POSITIVEの詳細については例えば以下の文献を参照してください。

  1. 川上剛、小木和孝(2004年)「産業における安全・健康リスクと自主対応参加型改善」『思想』7月号、岩波書店。
  2. 川上剛(2004年)「ILOにおける中小企業安全衛生対策−アジアにおけるワイズ方式参加型トレーニングの進展−」日本産業衛生学会・中小企業安全衛生研究会編『中小企業の安全衛生を創る』労働基準調査会、226〜235ページ。
  3. 川上剛、トンタット・カイ、小木和孝(1999年)「ベトナムメコンデルタ農村における住民参加型労働・生活改善プログラム(WIND)の開発と実践」『労働科学』75、労働科学研究所、51〜63ページ。
  4. 川上剛(2006年)「農民トレーナーが農民をトレーニングする−ベトナムにおける農業労働安全衛生改善の取り組み−」『ワールド・オブ・ワーク』2006年第2号、ILO駐日事務所、26〜27ページ。
  5. 小木和孝監修、吉川徹編(2007年)『労働組合主導の参加型安全衛生POSITIVEプログラムの12年』国際労働財団。

WISE(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/protection/condtrav/workcond/wise/wise.htm
WIND(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/protection/condtrav/workcond/agriwork/agricult.htm
広報誌『ワールド・オブ・ワーク』2006年第2号----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/downloads/wow/6.pdf
ILOアジア太平洋総局(英語)----->
http://www.ilo.org/bangkok

最終更新日:2008年4月30日 作成者:TK/EU 責任者:SH