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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説

(2008年3月31日付第70号)

◆ ◇ グリーン・ジョブ構想 ◇ ◆
◆ ◇ (green jobs initiative) ◇ ◆

 今回のトピックでは、昨年11月に開かれた第300回ILO理事会の討議資料(GB.300/WP/SDG/1)、ILO駐日事務所が今年2月に開催した国際シンポジウム「変化する仕事の世界とこれからの労働政策−持続可能な社会の実現をめざし、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)をすべての人に」における山本幸子ILOアジア太平洋総局長のグリーン・ジョブ構想に関する講演内容を中心に、この新しい概念をご紹介します。

★持続可能な開発に向けたディーセント・ワーク

 フアン・ソマビアILO事務局長は2007年の第96回ILO総会に提出した事務局長報告「持続可能な開発に向けたディーセント・ワーク」の中で、環境に優しいグリーン・ジョブへの社会的に公正な移行を推進することを提案しました。報告書は気候変動に関する主な事実を想起した上で、気候変動とディーセント・ワークの相互関係を探り、気候変動に関する今日の政策論議を簡単に考察しています。

 総会では持続可能な開発に向けた様々な面におけるILOの能力を強化する提案が多くの支持を得ました。この総会ではまた、持続可能な企業の振興に関する一般討議も行われ、このような企業を導く環境として必要な条件などを掲げた結論が採択されました。

 2007年11月に開かれた第300回ILO理事会では、総会における議論をフォローアップする形でグローバル化の社会的側面作業部会に「持続可能な開発に向けたディーセント・ワーク:気候変動の挑戦」と題する討議資料が提出され、ディーセント・ワークと気候変動に関するパネル討議が行われました。討議には、国連環境計画(UNEP)のアッヘム・シュタイナー事務局長、世界気象機関(WMO)のミシェル・ジャロー事務局長、国連貿易開発会議(UNCTAD)のスパチャイ・パニチャパック事務局長、英国産業連盟(CBI)のマシュー・ファロー環境政策担当責任者、スペインの労働組合コミシオネス・オブレラスのホアキン・ニエト労働安全衛生・環境局長なども参加しました。この分野でILOに可能な活動に関する話し合いを経て、ILOはグリーン・ジョブへの社会的に公正な移行を推進するよう奨励されました。

★グリーン・ジョブ構想
◎グリーン・ジョブ

 「グリーン・ジョブ」とは環境に対する影響を持続可能な水準まで減じる経済的に存立可能な雇用と定義されます。生態系と種の多様性の推進と回復、消費するエネルギー・材料・資源の削減、脱炭素経済の推進、廃棄物と公害の発生回避または発生極小化を支援するような雇用が含まれます。

 具体的には以下のような例を挙げることができます。

 各セクターで見込まれるグリーン・ジョブの創出としては、例えばエネルギー部門では再生可能エネルギー及び廃棄物管理システムの設計と建造の仕事、運輸部門では環境に優しい輸送システムの開発における仕事、製造部門ではより持続可能な商品の生産に向けた材料の再製造における仕事、農業部門では天然資源管理と持続可能な農法における仕事、建築部門ではエネルギー効率が高い建物の修繕と建造における仕事、リサイクル部門では廃棄物の回収、処理、再利用における仕事を挙げることができます。

 このようなグリーン・ジョブへの移行は少なくとも四つの影響を労働市場に与えます。

  1. 製造業、建設業、輸送業、エネルギー部門を中心とした新たな雇用の創出
  2. 低炭素経済及び新しい廃棄物管理手順またはそのいずれかへの移行による一部雇用の置き換え
  3. 環境に有害な製品やサービスが次第に消滅していくことにより、直接置き換えられずに一部の雇用が消えること
  4. この影響を認めることは難しいものの、多くの仕事が技能、作業ルーティン、作業編成に新たに焦点を当てることによって再定義されること

◎グリーン・ジョブ構想

 グリーン・ジョブ構想とは、このようなグリーン・ジョブへの社会的に公正な移行を推進するイニシアチブを指し、政府、使用者、労働者がディーセントな仕事の創出と同時に環境的に持続可能な開発プロセスを達成することを目指す政策ツールを開発するよう奨励するものです。持続可能な開発路線が秘める技術革新、投資機会、企業創出、良質の雇用の創出といった多くの潜在力を発掘し、促進することを目指しています。これに伴う生産及び消費における変化の影響を受ける企業及び労働者の適応や社会的保護面のニーズにも目を配る予定です。

 現在、UNEPと国際労働組合総連合(ITUC)も加わって、この構想を世界的に推進しています。

 2007年11月の理事会に提出された討議資料では、以下のような要素をグリーン・ジョブ構想の具体的な活動に含めることが提案されています。

◆グリーン・ジョブの推進
環境に優しいグリーン・ジョブは、排出量を削減しつつ幅広い成長基盤に寄与することで、気候変動、雇用、所得、貧困削減の間に建設的なつながりを構築します。
◆知識不足対策
国別、部門別、マクロレベルといった各種の研究の組み合わせを通じて、労働市場と収入に対する気候変動の危険な影響が予測される箇所を示すことを中心に、不足する知識部分の充填に取り組みます。
◆ILOを構成する政労使内及び他の関連する利害関係者との対話の促進と啓発活動
気候変動対策に関する対話とコンセンサス形成のプロセスは、数世代にわたって維持されなくてはならない政策の政治的な持続可能性にとって重要です。国際労働基準の設定と対話メカニズムの促進におけるILOの長い経験は気候変動に取り組む戦略に従事する際の強力な基盤になります。
◆気候変動適応策に対する雇用と収入の組み込み
危機対応や基盤構造投資を通じたものを含み、気候変動という不可避の事象に対する適応策に大規模な投資が振り向けられるよう促進します。
◆人に対する投資
気候変動への適応、エネルギー効率や資源効率の向上、排出量の削減、そして新技術導入に成功する上で必須となる技能を探求し、その育成を支援します。
◆より環境に優しい職場の達成
特に小企業において、既存の設備機器のエネルギー効率を高める低コストの方法の開発に向けて労使を動員し、その能力を構築することによって進められます。
◆経済的及び社会的移行の定着と円滑化
ILOの部門別活動計画にはエネルギー生産、建設、運輸、農業、エネルギー集約型産業などの基幹産業を含む様々な産業の政労使三者が話し合いを行う場が設けられています。これらの仕組みは政策と産業界の現実を制度的に結ぶ架け橋となり、必要な政策の統合を促進することができます。
◆ILOを構成する政労使及びILO事務局の能力強化
気候変動に効果的に取り組む好事例の普及や文書作成を含む情報提供や技術支援を通じて行われます。
◆覚書締結の有用性の探求
環境問題を扱う関連する各種機関の事務局との協力体制構築の手段を検討します。

★気候変動の問題

 地球の気温は20世紀に0.74℃と、地球観測史上最大かつ最速の気温上昇幅を記録したものの、さらに加速が続いています。観測されている気候変動は人間の活動が引き起こしていると、90%以上の確度をもって言うことができます。地球温暖化その他の気候変動の原因となっているいわゆる温室効果ガスには二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、複数の炭化水素ガスが含まれ、合計効果の約6割が二酸化炭素、2割がメタンによって引き起こされています。二酸化炭素排出量の4分の3が石炭、石油、天然ガスといった化石エネルギーの利用によって発生し、残りが熱帯の森林破壊を中心とした土地利用上の変化から生じています。メタンと亜酸化窒素の放出源は主として農業であり、これに続いて鉱業、工業、交通運輸が挙げられます。海洋による緩衝効果や、温室効果ガスの一部が長く残るために、排出から温暖化に至る道のりには相当の時差があります。したがって、今すぐ排出を止めたとしても気候変動はさらに進むため、マイナスの影響を和らげるための気候変動への適応策を講じることが不可避となっています。

 短・中期的な影響のほとんどが平均気温の上昇や海水面の上昇ではなく、天候変化の激化や、台風、干ばつ、洪水、熱波といった極端な事象のより頻繁な発生として表れます。農業や観光業といった天候に非常に左右される経済部門、海岸部や河川氾濫原、そして暴風雨の影響を受けやすいその他の地域に所在する集落や産業が大きな影響を被る可能性が高くなっています。

 今世紀半ばまでに、アジアでは10億人以上の人々が真水不足の影響を受けると予想され、アフリカを中心に既に農業に対する悪影響が観測されています。

 現在の傾向から予測される気候変動は、中・長期的にすべての大陸の多くの部門で経済・社会活動の深刻な崩壊を招くとみられます。排出量の削減または大気中からの温室効果ガスの除去といった緩和措置が必要であり、何もしないよりも安くつくとされています。現在ある技術が秘める緩和潜在力は合計で16〜30ギガトン二酸化炭素量と推計され、予測される排出量の増大を相殺し、温室効果ガス濃度を現在の水準より低下させるには十分と考えられます。最も大きな緩和潜在力を秘めているのは建築業、農業、工業です。

 後戻りのきかない、危険なレベルの気候変動を回避するには、大気中の温室効果ガス濃度を二酸化炭素濃度で450ppmを上回らないようにすべきと科学者達は唱えています。安定化シナリオでは、最大値を450ppmに留めるには、世界の排出量が今後10〜20年間でピークを迎えた後、減っていくことが必要とされています。経済成長と排出を切り離すには、製品とサービスのエネルギー効率、発電、建物及び運輸における大きな進展、そして再生可能エネルギーの利用が相当増大することや土地利用を通じた排出量の低減が求められ、炭素の捕獲と貯蔵を含む新しい技術が必要になります。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、可能な緩和コストを年当たりで世界全体の国内総生産(GDP)の0.12%と推計しています。「スターン・レビュー」として知られる世界銀行の元チーフ・エコノミストらによる気候変動の経済的分析によれば、550ppmで安定化させた際の年間コストは2050年にGDPの約1%とされています。国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)は、2030年に毎年2,000〜2,100億ドルが緩和措置に、数百億ドルが適応措置に費やされると算定しています。

★気候変動とディーセント・ワーク課題

 気候変動自体、それに対する適応策、排出量の低減による変動阻止努力は、経済発展と社会開発、生産と消費のパターン、したがって雇用、収入、貧困に幅広い影響を与えることになります。最も目に見えるリスクの一つは食糧と経済の安全保障に関係します。新しい社会保障制度がない状態では、より頻繁に発生する深刻な自然災害は人の移住を誘発または加速化し、政治的緊張や政治不安を高める可能性があります。

 クリーン・エネルギー技術の市場規模は2020年までに1.9兆ドルに達すると予測されているように、適応措置に向けた大規模な投資は、護岸拡張、建物や基盤構造の補強、水の管理や採取といった分野における相当の雇用と収入の機会を提供する可能性があります。適応には多数の新技術の大規模な移転が求められ、影響にさらされている集落や産業の移転も伴います。農業における適応は、新しい作物や農法に投入される労働量とこれが小自作農業と両立するか否かに応じて、雇用と収入に与える影響はプラスにもマイナスにもなる可能性があります。

 歴史的に、エネルギー効率の増大は排出量削減に対する最大の寄与要因の一つとされ、新技術の移転と配備を必要とします。建物や設備資本の多くは耐用年数が長く、更新速度は遅いため、しばしば低コストで達成される既存の工程や設備の改善によるエネルギー効率の相当の向上は労使の積極的な関与によって初めて達成できます。大きな投資を必要としないエネルギー効率の向上は中小企業にとって特に重要です。途上国の雇用と製造能力の大半は中小企業が占めており、例えば中国では輸出の半分がこういった企業に占められています。競争力と雇用を危険にさらすことなしに排出量を削減する手法が特に必須となります。

 緩和措置が労働市場に与える影響を数量的に評価した研究は限られており、その大半が先進国に関するものに集中していますが、今ある研究は低炭素経済への移行は「雇用を殺すもの」ではなくむしろ雇用量の純増につながるだろうとの点で一致しています。しかしながら、この純増は通常小規模で、一部の仕事の相当量の消滅が他の仕事の増加で補填されるという労働市場の大規模な移行の結果として表されています。この移行の大半が発電、エネルギー集約型産業、運輸業といった経済部門の内部で発生する可能性が高く、この移行が予見され、労使の積極的な参加によって管理されたならば、労働市場と気候にとって最善の結果が生み出されることになると考えられます。このような移行を円滑化する三者構成の仕組みの例として、スペインにおける京都議定書の公約の実行に向けた全国的な産業別円卓会議を挙げることができます。

 適応と緩和のすべての側面が新しい技術的スキル、そしてしばしば起業家スキルを必要とします。この方程式の大きな部分を占めるのがエネルギー効率と再生可能エネルギーの増加であり、IPCCの第3作業部会はどちらも新しい雇用を創出する相当の潜在力を秘めると強調しています。このようなグリーン・ジョブの例として、ドイツやスイスの水力発電や太陽熱発電、ドイツにおける既存建築物のエネルギー効率を高める計画、ブラジルのバイオエネルギー計画の分野で創出された数十万の新規雇用機会を挙げることができます。

 気候に関する議論の中で雇用はわずかに縁辺的に表れるに過ぎず、緩和措置の付随利益に過ぎないものと見なされています。この見方は多くの緩和措置を、技術的に実現可能で、経済的に存立し、社会的に受け入れられるものとするには、雇用と開発に対する便益が決定的に重要であるとの事実を看過しています。何の経費もいらずに達成される排出量削減などでもこの作業を遂行できる企てや人的資源に対する投資、啓発活動、適切なインセンティブなしには実現できません。

 現在、世界で16億人に近代的な形態のエネルギーを利用できる機会が開かれていないと推計されています。これらの人々向けに発電設備を分散し、小規模な再生可能エネルギーを用いることはグリーン・ジョブを通じた開発と貧困削減に向けた大きな弾みとなる可能性があります。このような気候変動と開発を結びつける試みはまだ幼生期にありますが、例えば、国連工業開発機関(UNIDO)がメキシコやキューバで展開している発電と若者の雇用を結びつけた計画やインドの自営女性協会(SEWA)によるソーラーエネルギーの推進といった例にその潜在的な可能性を見ることができます。ILOはエネルギー効率とバイオエネルギーに焦点を当てた中国とブラジルの複数国連機関で実施する計画に参加しますが、中国の計画には、成功を収めているILOの「小企業における作業改善(WISE)」計画の線に沿って、小企業のエネルギー効率を高める方法を設計し、試行することが含まれています。ブラジルの事業計画ではバイオ燃料の付加価値連鎖において生産性とディーセント・ワークを推進する拡大計画の設計、雇用及び収入面の潜在力、生産者組織の評価を支援することになります。

★問題の取り組みに向けた政治的な動き

 国連の潘基文事務総長は、気候変動を、ダルフールと中東問題と並ぶ三つの優先事項の一つに掲げていますが、2007年には問題の取り組みに政治的な勢いがつきました。1月にダボスで開かれた世界経済フォーラムでも気候変動は主なトピックの一つとなり、気候変動を抑える効果的な措置や非常に大規模な長期投資に向けた安定した政策枠組みの必要性が唱えられました。ドイツのハイリゲンダムで開かれた主要国首脳会議(G8サミット)では気候変動とエネルギー効率、エネルギー安全保障に関する結論が採択され、2012年の京都議定書後の包括的な合意を達成するために国連の気候に関する交渉において前進を達成することへの公約が表明されました。今年7月に開かれる北海道洞爺湖サミットでも環境・気候問題は主要テーマの一つとなっています。

 1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で採択された国連の気候変動枠組条約は開発の続行を許しつつ、人類の気候体系に対する危険な干渉を防止するために大気中の温室効果ガス濃度を安定化させることを目指しています。1997年にこの条約の締約国は先進国と移行経済諸国の温室効果ガス排出量削減を公約した京都議定書に合意しました。このような現在の政治活動の多くが2012年の京都議定書終了後の合意に向けた準備活動の一部をなしています。

★気候変動とILO

 環境と気候変動はILOにとって新しい話題ではなく、ILO及びILOを構成する政府及び労使団体は、1992年の地球サミットや2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)にも活発に参加しています。

 気候変動自体、それへの適応、そしてさらなる変化を緩和する努力は生産と消費のパターンにおける大きな変化につながります。これは労働市場と人々が生計を得る方法における奥深い変化と移行を引き起こします。グリーン・ジョブの大きな機会を含み、これは雇用に相当の影響を与えます。排出量削減に向けた圧力は労働生産性に加え、資源生産性の向上に向かう動きを意味することになります。

 国際的な労働者団体や企業リーダー、使用者団体は開発の経済的・社会的側面を環境に関する議論と接合しようと試みてきましたが、気候に関する議論や交渉は依然として環境やエネルギーの専門家に占められている傾向があり、雇用、成長と所得の創出、貧困削減やより良い健康といった事項は持続可能な開発に必須と見なされるよりは議論における副次的な事項と見なされがちです。気候保護を経済開発やより多くのより良い雇用の創出と両立できるものとする実践的な路線の追求は、気候交渉における行き詰まりを回避し、機会を動員する助けになる可能性が高いことについての認識がますます高まってきているものの、ほとんど作業は行われておらず、知識の不足は政策や事業計画の策定を困難にしています。

 気候変動は単なる環境問題ではなく、経済的・社会的に明確な結果を生じ、より幅広い持続可能な開発課題と切り離せない以上、気候変動に対する対応を国、部門、地域の開発戦略の主流に据える必要があります。これらの結果における主要な利害関係者としてのILOを構成する政府及び労使団体の積極的な参加は非常に貴重なものとなる可能性があり、多くの国の政労使がこういった政策議論に従事する能力の向上に向けた啓発の必要性を表明しています。これはプロセスのガバナンスのみならず相当の結果の改善にもなり、制度的定着に寄与すると考えられます。

 気候変動はILOの任務及びその事業計画の多くの要素と密接に相互に関連しています。労使団体の役割が認識されるよう確保することは、結社の自由と社会対話メカニズムの促進に関するものを中心とした国際労働基準の根幹に存在し、多くの国で職場における対話は安全な作業条件を促進するために設立された仕組みの上に構築されています。適応政策も緩和政策も社会的保護の向上、企業開発、雇用創出を高める戦略を含む必要があると思われます。また、気候変動自体も適応及び緩和政策も、働く男女に異なる影響を与える可能性があります。

★アジアのグリーン・ジョブ

 経済成長は必ずしも社会全体に利益をもたらしていません。アジア太平洋は経済成長率が非常に高い地域ですが、それに見合った雇用の伸びは達成されておらず、したがって成長の公正な配分の点で深刻な問題を抱え続けています。若者を中心にこの地域には相当の失業問題、不完全就業問題が存在し、経済成長はしばしば望まない環境的なコストをもたらしています。

 最近、アジア太平洋地域でも、特に気候変動を巡り環境問題に対する関心の高まりが見られます。例えば、東南アジア諸国連合(ASEAN)が1997年に採択したASEANビジョン2020「クリーンでグリーンなASEAN」、2005年に国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)で採択された環境に優しいグリーン成長構想、太平洋諸島フォーラムが2005年に採択した太平洋計画2020「持続可能な開発構想」などが挙げられます。2007年12月にはインドネシアで気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)が開催され、今年5月に新潟で開かれるG8労働大臣会合でも気候変動への適応や環境にやさしい働き方など「労働と環境」に焦点を当てた議論が行われる予定です。

 アジア太平洋で見られるグリーン・ジョブとしては、次のような例が挙げられます。

◎ILOの活動分野

 上述のように環境保護に向けてILOに考えられる介入活動は複数あります。アジア太平洋地域で実施されているものとして、以下の例を挙げることができます。

★グリーン・ジョブ報告書

 ILOは近い将来、このグリーン・ジョブ構想の一環として、UNEP、ITUCと共同で、世界各地に見られるグリーン・ジョブ事例を集めて紹介した報告書を刊行する予定です。この草案は既に昨年12月にインドネシアで開催されたCOP13の場でUNEPから発表され、UNEPのウェブサイトに掲載されています。

★アジア太平洋グリーン・ジョブ研究会議(新潟・2008年4月21〜23日)

 ILOはグリーン・ジョブについての新しい概念と手法を探求し、政策及び事業計画のための教訓を抽出し、活動の優先事項を明らかにし、今後の活動に向けたパートナーシップの構築を目指し、研究者や政策関係者、実務家などを招いた研究会議を複数開催していく予定です。この一つが4月に新潟で開催されます。

 会議の主なテーマは次の四つです。

1)政府の政策の役割:環境に優しい租税政策、政府の支援措置、市場ベース金融手段の社会的影響
 最近の政府の諸策、とりわけ、炭素税、政府の財政支援、市場ベース金融手段が社会に与える影響の評価を行います。政府の各種気候変動対策が雇用にどのような影響を与えているか、ある種の政策が二重の配当を生み出す可能性、雇用に対する影響が経済開発水準に左右されるか否か、一般的にこの分野の政策策定に開発目標を組み込む方法、環境に優しい政策に資金を提供する上での政府と銀行のそれぞれの役割といった事項に関する話し合いが予定されています。

2)低炭素経済と労働市場:エネルギー効率と再生可能エネルギー
 世界が危険な気候変動を回避するには、低炭素経済、より一般的には温室効果ガスの排出量が低い経済が不可欠です。IPCCの報告書は、排出量の上昇は今後10年以内に食い止め、その後は1990年の水準の半分以下に低減させる必要性を唱えています。雇用機会と環境に優しい生産方式を巡り、太陽熱エネルギー、風力エネルギー、バイオマスエネルギーといった再生可能エネルギー、さらに、「ネガワット」、すなわち建物と産業におけるものを中心としたエネルギー効率の改善を通じたエネルギー消費減の急速な発展と結びついた雇用潜在力を探求します。排出量削減目標とそれに向けた投資、これまでは縁辺に追いやられていた集団や地域における開発機会と雇用創出の相乗効果に向けた豊かな潜在力の活用経験も検討される予定です。

3)循環型経済における雇用:廃棄物管理とリサイクリング
 経済成長の「脱物質化」や、経済成長を原材料や天然資源の利用から切り離そうとの試みにもかかわらず、現下の経済開発による資源の圧迫は深刻で、これは一次産品価格の高騰、一部天然資源の枯渇、公害の拡大に反映されています。リサイクリングはますます閉鎖型となる生産体系と付加価値循環の不可欠な一部になると考えられます。この活動は既に相当の雇用を生み出していますが、これはしばしばディーセント・ワークではなく、質の低い仕事となっています。中国で推奨されている循環型経済のコンセプトの可能性を検討するものとして、進んだリサイクリング制度の経験から学び、成長が有望と見られるこの産業におけるより多くのより良い雇用の創出機会の把握に向けた話し合いが行われる予定です。

4)天然資源管理と環境保護におけるグリーン・ジョブ
 天然資源は食糧生産、再生可能エネルギー、原材料にとって不可欠です。これは地球上における人間の生活を支える体系を構成してもいます。人口増大と1人当たり経済産出量の上昇が続く中、天然資源の回復、保護、持続可能な管理は一層重要なものとなります。地域における持続可能な農林業、そして修復作業、環境サービスに対する支払い、森林破壊の回避が雇用、収入、農村の貧困削減にとって秘める潜在力が検討される予定です。

 5月11〜13日に新潟で開かれるG8労働大臣会合でも労働と環境に焦点を当てた議論が予定されており、ILOでは研究会議における話し合いがこれに資する結果となり、さらに7月の北海道洞爺湖サミットの議論にも反映されることを期待しています。


第300回ILO理事会討議資料(GB.300/WP/SDG/1)「Decent work for sustainable development - The challenge of climate change(持続可能な開発に向けたディーセント・ワーク:気候変動の挑戦)」(英語)----->
http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---relconf/documents/meetingdocument/wcms_084890.pdf
上記資料の討議模様(GB.300/18(Rev.))「Report of the Working Party on the Social Dimension of Globalization(グローバル化の社会的側面作業部会報告書)」(英語)----->
http://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_norm/---relconf/documents/meetingdocument/wcms_087612.pdf
ILO理事会(英語)----->
http://www.ilo.org/global/What_we_do/Officialmeetings/gb/lang--en/index.htm
第96回ILO総会事務局長報告(ILC 96-2007)「Decent work for sustainable development(持続可能な開発に向けたディーセント・ワーク)」(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/standards/relm/ilc/ilc96/pdf/rep-i-a.pdf
ILO総会(英語)----->
http://www.ilo.org/global/What_we_do/Officialmeetings/ilc/lang--en/index.htm
アジア太平洋のグリーン・ジョブ研究会議(英語)----->
http://www.ilo.org/greenjobs
広報誌「ワールド・オブ・ワーク」2007年第2号:グリーン・ジョブ特集号----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/newsletr/index.htm/downloads/wow/8.pdf
持続可能な企業−2007年10月31日付第65号トピック----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/feature/2007-10.htm
ILO/UNEP/ITUC報告書草案「Green jobs: Towards sustainable work in a low-carbon world(グリーン・ジョブ:低炭素世界における持続可能な仕事に向けて)」−UNEPホームページ(英語)----->
http://www.unep.org/labour_environment/features/greenjobs.asp
2008年G8労働大臣会合−厚生労働省ホームページ----->
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/g8_2008.html

最終更新日:2008年3月28日 作成者:EU 責任者:SH