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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説(2007年8月31日付第63号) |
★アジアにおけるディーセント・ワークの十年(2006〜15年)
| 就業者数計(単位:千人) | 就業率(%) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1996年 | 2006年 | 2015年 | 1996年 | 2006年 | 2015年 | |
| アジア先進国経済 | 75,205 | 75,672 | 72,233 | 60.9 | 58.1 | 54.4 |
| 東アジア | 720,546 | 796,750 | 836,494 | 75.0 | 71.9 | 69.5 |
| 東南アジア・太平洋 | 221,330 | 269,232 | 317,404 | 67.5 | 66.3 | 67.3 |
| 南アジア | 488,261 | 608,703 | 735,729 | 57.8 | 56.5 | 56.6 |
| アジア太平洋計 | 1,505,342 | 1,750,356 | 1,961,860 | 66.7 | 64.3 | 63.1 |
2006年8〜9月に開かれた第14回アジア地域会議では、適切で人間らしい仕事を意味する「ディーセント・ワーク」を2015年までの十年間にこの地域で実現するために協調的かつ持続的な努力を行うことが公約され、2006年から2015年までを「アジアにおけるディーセント・ワークの十年」とすることが宣言されました。この十年が成功するための前提条件は、持続可能な開発を促進することによって、十分な数の生産的なディーセント・ワークを今後10年間に創出し続けるための主要な機会と課題を明らかにすることにあります。そのための話し合いを行う場として去る8月13〜15日に北京で開かれた「成長、雇用、ディーセント・ワークILOアジア雇用フォーラム」には複数の討議資料が提出されましたが、この中で「Visions for Asia's Decent Work Decade: Sustainable growth and jobs to 2015(アジアにおけるディーセント・ワークの十年の展望:2015年までの持続可能な成長と雇用・英文)」と題する報告書は、この10年間にディーセント・ワークが達成される可能性と労働市場に影響を与えるであろう経済成長、人口変動、雇用、生産性、その他の要素について予測とシナリオを示しています。概要を以下にご紹介します。掲載されている図表は全て同報告書から抜粋したものです。なお、図表中の地域区分で、日本はオーストラリア、ニュージーランドと共にアジア先進国経済に分類されています。
★成長の展望
2000〜06年に、アジア太平洋地域の実質国内総生産(GDP)は年平均6.3%の伸びを達成しました。アジア以外の地域の成長率は同時期に3.1%でした。これは労働生産性の大幅な伸びに下支えされたもので、労働者1人当たりの生産高は、アジア太平洋以外の地域では2006年に2000年よりわずか7.8%上昇しただけであったのに対し、この地域では30.1%の急成長を見ています。加えて、中国に主導される輸出の伸びがこの地域の全体的な経済成績に大きく寄与しました。
このアジアの力強い経済成長、生産性、輸出成績を推進している主な要素には以下のようなものがあります。
アジア太平洋全体における年平均雇用成長率は1991〜96年に1.7%強であったのが2001〜06年には1.6%未満に低下したことから示されるように、近年の経済成長が雇用に与える影響は多くのアジア諸国で一般に90年代より低くなっています。しかし、過去10年間に地域の失業率は幾分上がったものの、依然として他の地域に比べると低く留まっています(表1)。
| 失業者計(単位:千人) | 失業率(%) | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1996年 | 2000年 | 2005年 | 2006年 | 1996年 | 2000年 | 2005年 | 2006年 | |
| アジア先進国経済 | 3,179 | 3,968 | 3,540 | 3,315 | 4.1 | 5.0 | 4.5 | 4.2 |
| 東アジア | 28,784 | 31,552 | 30,185 | 29,995 | 3.8 | 4.0 | 3.7 | 3.6 |
| 東南アジア・太平洋 | 8,578 | 12,435 | 17,086 | 17,930 | 3.7 | 4.9 | 6.1 | 6.2 |
| 南アジア | 25,042 | 27,609 | 35,007 | 34,789 | 4.9 | 4.9 | 5.6 | 5.4 |
| アジア太平洋計 | 65,584 | 75,563 | 85,818 | 86,028 | 4.2 | 4.5 | 4.7 | 4.7 |
ディーセント・ワークは雇用の量だけでなく、質の確保も求めています。この点で状況は明るいものではなく、地域の労働力の推計61.9%が依然として、公式経済の外にあるインフォーマル経済で働いていますが、ここでの仕事は、社会的保護がほとんどまたは全く提供されず、人並みの収入が保障されない低生産性の仕事であることが多くなっています。10年前の67.2%よりは低くなったものの、依然として10億人以上の労働者がこの経済に従事している計算になります(表2)。
| 賃金・俸給労働者 | 使用者 | 自営労働者 | 寄与家族従業者 | |
| アジア先進国経済 | ||||
| 1996年 | 82.5 | 3.2 | 9.1 | 5.2 |
| 2006年 | 85.7 | 2.7 | 8.0 | 3.6 |
| 2015年 | 88.2 | 2.5 | 7.3 | 2.0 |
| 東アジア | ||||
| 1996年 | 32.4 | 2.8 | 33.4 | 31.4 |
| 2006年 | 42.6 | 1.2 | 38.2 | 18.0 |
| 2015年 | 48.7 | 0.6 | 41.7 | 8.9 |
| 東南アジア・太平洋 | ||||
| 1996年 | 33.0 | 2.1 | 34.8 | 30.1 |
| 2006年 | 38.8 | 2.1 | 35.2 | 23.9 |
| 2015年 | 43.5 | 1.4 | 37.8 | 17.4 |
| 南アジア | ||||
| 1996年 | 18.4 | 1.5 | 45.2 | 34.8 |
| 2006年 | 22.1 | 1.2 | 46.5 | 30.2 |
| 2015年 | 28.5 | 1.0 | 46.5 | 24.0 |
| アジア太平洋計 | ||||
| 1996年 | 30.5 | 2.3 | 36.2 | 31.0 |
| 2006年 | 36.7 | 1.4 | 39.3 | 22.5 |
| 2015年 | 41.7 | 0.9 | 41.6 | 15.7 |
貧困率は1996年よりは低下したものの、依然として地域の全労働力の51.9%に当たる9億800万人近くが1日2ドルの貧困線未満で、そしてそのうち3億800万人が1日1ドル未満の極端な貧困状態で暮らしています(表3)。これは多くの労働者がなおも、地域の好ましい経済成績から具体的な恩恵を得ることができないでいることを意味します。この一つの理由として、多くの国で最近の成長が、経済全般にわたる好ましいパターンを示すのではなく、高付加価値のサービス産業や輸出産業といった少数の力強い部門に牽引されてきたことが挙げられます。
| 1日1ドル未満で暮らす働く貧困者数(単位:千人) | 1日1ドル未満で暮らす働く貧困者が就業者総数に占める割合(%) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1996年 | 2006年 | 2015年 | 1996年 | 2006年 | 2015年 | |
| 東アジア | 140,822 | 75,970 | 27,050 | 19.5 | 9.5 | 3.2 |
| 東南アジア・太平洋 | 48,837 | 36,683 | 25,938 | 22.1 | 13.6 | 8.2 |
| 南アジア | 266,889 | 95,469 | 138,706 | 54.7 | 32.1 | 18.9 |
| アジア太平洋計 | 456,548 | 308,122 | 191,693 | 30.3 | 17.6 | 9.8 |
| 1日2ドル未満で暮らす働く貧困者数(単位:千人) | 1日2ドル未満で暮らす働く貧困者が就業者総数に占める割合(%) | |||||
| 1996年 | 2006年 | 2015年 | 1996年 | 2006年 | 2015年 | |
| 東アジア | 459,048 | 299,841 | 158,613 | 63.7 | 37.6 | 19.0 |
| 東南アジア・太平洋 | 136,288 | 137,259 | 124,212 | 61.6 | 51.0 | 39.1 |
| 南アジア | 435,726 | 470,964 | 522,014 | 89.2 | 77.4 | 71.0 |
| アジア太平洋計 | 1,031,062 | 908,064 | 804,839 | 68.5 | 51.9 | 41.0 |
社会や環境の持続可能性という幅広い問題は別にして、域内の複数の国で、付加価値の低い農業から付加価値の高い工業やサービス業へと移行する動きがさらに加速し、一般に好ましい人口動勢が続くと期待されるため、アジアは今後10年間も、力強い経済成長に向けた大きな潜在力を秘め続けることでしょう。中国とインドの急成長がこのプロセスを推進する助けになり、製造業と輸出指向産業のどちらの企業も域内に存在を確立するか、活動のさらなる拡充を図っているため、貿易と投資のさらなる拡大が予想されます。同時に、急成長する中産階級が消費を押し上げるため、国内需要の増大も見込まれます。
過去のGDP成長率を用いてアジア太平洋地域と一部諸国が2020年までにGDPに占めるシェアを予測すると(表4)、4.5〜4.7%の過去の成長率が続くとすれば、世界のGDP合計に占めるアジアの割合は現在の24.7%から2020年には30〜31%とさらに拡大することが予想されます。地域の生産高に占める中国の割合は急速に拡大し、2020年には日本を上回る31〜33%となることが予想されます。インドも現行の7.2%が2020年には8.7〜10%台に達するものと思われます。これに対して、現在は地域のGDPの41%超を占めている日本のシェアが、2020年には27〜28%に低下すると予測されます。
| GDPに占める割合(%) | 仮定の年成長率(%) | ||||
| 2005年 | 2020年 (2003〜08年の 短期データに基づく予測) |
2020年 (1985〜2008年の 長期データに基づく予測) |
短期データに基づく予測 | 長期データに基づく予測 | |
| 世界のGDPに占める割合 | |||||
| アジア太平洋 | 24.7 | 29.8 | 30.9 | 4.7 | 4.5 |
| 中国 | 5.0 | 9.7 | 9.7 | 8.5 | 8.0 |
| インド | 1.8 | 3.0 | 2.7 | 7.5 | 6.3 |
| 日本 | 10.2 | 8.0 | 8.5 | 2.2 | 2.1 |
| アジアのGDPに占める割合 | |||||
| 中国 | 20.4 | 32.7 | 31.4 | 8.5 | 8.0 |
| インド | 7.2 | 10.0 | 8.7 | 7.5 | 6.3 |
| 日本 | 41.2 | 27.0 | 27.5 | 2.2 | 2.1 |
| その他アジア | 31.2 | 30.4 | 32.4 | 4.8 | 5.0 |
★人口動勢と労働市場のシナリオ
アジアの人口は2006年に37.4億人に達し、世界全体の57%近くを占めています。1990年から2006年の人口の伸びは年平均で1.4%でしたが、今後2015年までは1%と幾分の低下が見込まれるものの、それでも3億6,500万人の増加が予想されます。
日本を含む先進国経済や、シンガポール、香港、マカオ、タイ、韓国といった国・地域を除き、25〜54歳の壮年労働力人口の比率は増加し続けると見込まれるため、多くのアジア諸国がこの好ましい人口動勢の恩恵を受け続けると思われます。より高度の経済成長を達成する潜在力の形で、この壮年人口比率増加の恩恵を受ける可能性がある国には、イラン、ブータン、カンボジア、ラオス、モンゴル、パキスタンが含まれます。どの地域でも総人口に占める子どもと24歳までの若者の割合は低下すると見込まれますが、下落幅が最も大きいのは東南アジアと南アジアであると予想されます。
65歳以上の高齢者人口はどの地域でもこの10年間で著しく増加し、先進国では全人口の26.4%(現行20.4%)を占めるようになり、東アジアでは10人に1人以上が高齢者になると予想されます。中国では家族計画政策のために、史上最速のスピードで高齢化が進みつつあり、日本では1999年に労働市場への新規参入者数が引退者数を下回り、労働力の縮小が始まっています。
図1:一部諸国の2006〜15年の予想される労働力の伸び(%) |
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アジアには2006年で推計約18億人(世界合計の約59%)と膨大な労働力が存在していますが、人口動勢と労働力率の低迷または減少によって今(年平均1.6%)より低いペース(同1.3%)ながら、今後も成長を続け、2015年までにさらに2億2,100万人の増加が見込まれます。労働力の伸びが最も高いのは南アジアで、アジア地域全体で予想される伸びの6割近い1億3,400万人の増加が予想されます。一方で先進国の労働力は主として日本に先導されて360万人(4.6%減)の減少が予想されています(図1、表5)。
| 労働力人口計(単位:千人) | 労働力率(%) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1996年 | 2006年 | 2015年 | 1996年 | 2006年 | 2015年 | |
| アジア先進国経済 | 78,384 | 78,988 | 75,372 | 63.5 | 60.7 | 56.8 |
| 東アジア | 749,331 | 826,745 | 867,924 | 78.0 | 74.6 | 72.1 |
| 東南アジア・太平洋 | 229,908 | 287,161 | 337,215 | 70.1 | 70.7 | 71.5 |
| 南アジア | 513,303 | 643,491 | 777,294 | 60.8 | 59.7 | 59.8 |
| アジア太平洋計 | 1,570,926 | 1,836,385 | 2,057,805 | 69.6 | 67.4 | 66.2 |
| 世界(除アジア) | 1,080,340 | 1,278,357 | 1,457,421 | 62.9 | 63.3 | 63.6 |
労働力の伸びが最も高いのは「働く貧困層」の数が最も多く、インフォーマル経済が最も大きい、例えば、アフガニスタン、ブータン、パキスタン、東チモール、ラオス、フィリピン、そして一部の太平洋島嶼国であると見込まれ、これらの国は労働力供給の大きな圧力に直面し、十分な数の生産的なディーセント・ワークを創出することが最大の課題になると思われます。一方で他の多くの途上国では労働力の伸びが鈍化し、中国、韓国、スリランカ、タイにおける労働力の伸びは5%以下に留まり、日本では逆に7%の減少が見込まれています。これらの国では労働力不足とその高齢化労働力の社会的・経済的影響に直面することになり、次世代労働者に技能と知識を移転するメカニズムを整備しつつ、就労期間を延長し、ライフサイクルの後半部分でディーセント・ワークを促進するような形で生涯学習を通じて高齢労働者の就業能力を高めていくことが重要な課題になると思われます。
2006年にアジアでは若年労働力が3億7,800万人と推計され、これは地域の合計労働力の20.6%、世界の若年労働力人口の58.6%を占めるとされます。2015年までに若年労働力はアフガニスタンでは今より44%、パプアニューギニアで29%近く、ネパールとラオスで22%近く、パキスタンとフィリピンで約17%、マレーシアで8%超の増加が見込まれ、一部諸国では若者の雇用が依然大きな課題であり続けると思われるものの、アジア全体では人口動勢と若者の教育への参加の拡大を反映し、約800万人(2.3%減)の減少が記録されると見込まれています。東アジアではこの減少幅が10.4%、日本とイランでは15%超となることが予想されます。こういった展開は、若年労働市場の圧力を少し緩める結果になるものの、雇用の質を高め、若者の間で男女が同じ機会を与えられるよう確保することが将来の主な課題になると思われます。
過去20年間にアジア太平洋地域では移民人口が平均して、母国における労働力の伸びの2倍を上回る速さで伸び続けてきました。近年では国外で働くために自国を後にするアジアの労働者の数が毎年260万〜290万人に達しています。国際的な人の移動はアジアの経済力に寄与し、貧困削減を助けてきました。労働力供給における不均等、そして送出国と受入国との間のなかなか解消しない所得格差に、力強い経済成長と地域統合が結びつき、移民の流れは今後も増大する可能性が高くなっています。人の移動が関係国全てにとって利益となるためには、労働市場における移民の処遇、適正な社会的保護に対するニーズ、人の流れの実効的な管理に取り組む政策が必要になります。
★雇用のシナリオ
アジアの途上国における農村の農業雇用を中心とした経済から都市を基盤とした製造業とサービス指向型活動への急速な移行は今後も継続し、一部諸国ではこの傾向の加速さえ予想されます。2015年までに農業就業人口は2006年より1億6,000万人近く減り、逆に工業就業人口は1億7,200万人、サービス業就業人口は1億9,800万人増加すると予想されます(表6)。サービス業は主たる雇用創出源になるだけでなく、最大の産業となり、2015年までに地域の就業人口全体の約40.7%がサービス業に従事するようになると予想されます。
| 1996年 | 2006年 | 2015年 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 農業 | 工業 | サービス業 | 農業 | 工業 | サービス業 | 農業 | 工業 | サービス業 | |
| アジア先進国経済 | 5.6 | 32.0 | 62.4 | 4.3 | 26.8 | 68.9 | 3.0 | 25.6 | 71.4 |
| 東アジア | 48.5 | 24.3 | 27.2 | 40.9 | 25.6 | 33.5 | 21.7 | 35.3 | 43.0 |
| 東南アジア・太平洋 | 51.0 | 16.5 | 32.5 | 45.4 | 18.6 | 36.0 | 35.5 | 22.9 | 41.5 |
| 南アジア | 58.5 | 15.8 | 25.8 | 48.4 | 21.4 | 30.2 | 39.5 | 25.7 | 34.7 |
| アジア太平洋計 | 49.9 | 20.8 | 29.3 | 42.6 | 23.1 | 34.3 | 29.9 | 29.4 | 40.7 |
人口動向はまた、農村から都市へと向かう人の移動の加速化も示しており、2015年までにアジアでは都市の人口が2006年より3億5,000万人増えるのに対し、農村人口の予想される伸びは1,500万人に過ぎません。2015年までにアジアの人口の推計44.1%が都市に住むと予想されますが、これは2006年より5ポイント高くなっています。都市人口比率の最も急速な上昇が予想されるのはインドネシアで、これに中国、マレーシア、フィリピン、ベトナムが続きます。
このように急速な国内の人の移動に合わせ、移民労働者を対象とした住宅、教育、保健医療、その他のサービスの提供、雇用機会と労働供給に関するより良い労働市場情報、そして農村地域に残った労働者のためのインフラ設備投資、工場の改善、農業生産性や農家外雇用を引き上げる措置、効率的な移転計画といったより良いサービスの提供が望まれます。
最近の傾向が続くとすれば、アジアのインフォーマル経済はその広大な規模を保つと思われます(図2)。農業就業人口の減少を反映し、家族従業者数は8,600万人程度減ると思われますが、自営労働者の数は1億2,800万人増えると見込まれ、総就業人口に占めるこれらの労働者の割合は2006年の61.9%からわずかに低下して2015年には57.3%になると予想されます。同時に、賃金・俸給雇用は1億7,600万人増加すると見込まれますが、この一部はインフォーマル経済で活動する零細・小企業におけるものと見込まれ、結果として、地域の総就業人口に占めるインフォーマル経済の割合は2015年に6割程度になると思われます。
図2:全就業者に占めるインフォーマル経済就業者数の推計比率(%) |
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最近の成長速度が続くとすれば、家族が1日1ドル未満で暮らしている就業者数の割合は2015年に2006年の17.6%より減少して9.8%になると見込まれます。これは「働く貧困層」が1億1,600万人以上減少することを意味します(表3)。このような肯定的な傾向にもかかわらず、アジア途上国の全労働者の4割以上に相当する8億人余りが自分とその家族を1日2ドルの貧困線を上回らせるだけの収入を得ることができず、この割合は東アジアでは19%余りですが、南アジアでは71%になると予想されます。
★主な課題:経済の持続可能性
労働生産性の伸びは一国の経済成長と全体的な競争力の決定的に重要な構成要素であるだけでなく、質の高い雇用と貧困削減において極めて重要なものでもあります。今後2015年までにこの地域が直面する最初の課題は生産性の伸びを加速する方法、そして2番目は生産性の利益の配分に係わるものです。労働生産性はアジアの驚異的な成長を形成する上で主導的な役割を演じ、2000年から2006年にかけてのアジアの合計経済成長の83%が労働者の生産性向上によるもので、残りは1億5,000万人近い労働者の増大によるものとされます。雇用の伸びが低下すると予想される今後10〜20年間は生産性向上が一層重要になり、最近のGDPの伸び率を維持するには、例えば東アジアでは労働生産性の年成長率を現行の7.6%から8.1%に加速することが、アジアの先進国経済では同様に1.5%から2.1%に加速することが求められるでしょう(表7)。このような状況下で主な問題点は、この地域が生産性の伸び率を高められるか否かにかかっており、それをより良く推し量るには、物的資本の蓄積、部門間の労働力再配分、人材投資、職場慣行のような目に見えにくい要素の改善といった生産性の伸びの要因に係わる今後の可能な動向を検討することが必要になるでしょう。
2000〜06年の成長率(%) |
求められる生産性の年成長率(%) | |||
|---|---|---|---|---|
| GDP | 労働生産性 | 2007〜15年 | 2015〜20年 | |
| アジア先進国経済 | 1.6 | 1.5 | 2.1 | 2.0 |
| 東アジア | 8.7 | 7.6 | 8.1 | 8.8 |
| 東南アジア・太平洋 | 4.7 | 2.7 | 2.9 | 3.4 |
| 南アジア | 6.7 | 4.4 | 4.5 | 4.8 |
農業からより生産性の高い工業及びサービス業へと労働者を再配分することは全体的な労働生産性の伸びに大きなプラス効果を与えることになります。実際、2006年までのアジアの途上国における生産性の伸びの3割近くがこの就業構造の変化によるものと考えられ、今後予想される就業構造の変化に鑑みると、この雇用の構造的な変化から得られる将来的な利益は東・東南アジアでは一層大きくなる可能性が高いと考えられます。生産性の伸びのもう一つの要因は人的資本の質ですが、アジアは全体として教育機会の拡充において驚異的な進歩を成し遂げ、今後も労働力の高学歴化が見込まれます。また、ディーセント・ワークを促進しつつ、生産性を向上させる重要な方法としてますます重要になってきているものとして、好ましい労働条件、革新的な作業編成、継続学習、良好な労使関係、労働者の権利の尊重を基礎とした進歩的な職場慣行が挙げられます。
| 生産性の伸び | 雇用成長 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 年成長率 | 産業構造の変化 に由来する年成長率 |
産業構造の変化に 基づく成長が 全体に占める割合 |
農業 | 工業 | サービス業 | |
| アジア先進国経済 | 1.1 | 0.05 | 4.3 | -12.5 | -7.8 | 5.1 |
| 東アジア | 7.3 | 1.4 | 19.5 | -5.7 | 11.0 | 19.9 |
| 東南アジア・太平洋 | 2.5 | 1.2 | 46.2 | 1.1 | 21.6 | 17.1 |
| 南アジア | 4.1 | 1.9 | 47.3 | -3.6 | 37.0 | 26.8 |
| アジア途上国 | 5.5 | 1.6 | 29.7 | -3.9 | 20.3 | 21.6 |
生産性利益の配分に係わる一つの厄介な動向として、GDPに占める賃金の割合、いわゆる労働分配率の低下が近年多くの地域で見られます。GDPに占める賃金の割合は中国では1998年に53%でしたが、2005年には41.4%に低下しました。マレーシア、フィリピン、タイの長期的なデータからも低下が示されており、これは平均賃金の伸びが労働生産性の伸びと歩調を合わせていないことを示しており、労働者の交渉力の低下、より資本集約的な技術の利用、あるいはこういった要素の組合せを意味する可能性があります。生産性の利益が所得階層の底辺にある労働者にも到達することが極めて重要であり、農業のような低付加価値産業における生産性の伸びの加速化が経済全体の生産性の伸びを推進する重要な要素となる可能性があります。生産性利益の公正配分の重要性は企業と労働者にも当てはまり、効率性の上昇による利益が企業利潤だけに生まれ、労働者が直接受益しない場合、生産性上昇による貧困削減の潜在力は弱まる可能性が高くなっています。貧困緩和に最も直結しているルートは賃金ですが、賃金低下を伴わない労働時間の短縮も生活水準を向上させる可能性があります。アジアの多くで長時間労働が一般的となり、韓国(49.5%)、タイ(46.7%)、パキスタン(44.4%)など、週48時間以上働く労働者の割合が世界で最も高い国がアジアに見られる以上、これは特に重要になります。
合わせて25億人近くの人口を擁する中国とインドにはアジアの住民の3分の2が暮らし、この二国でアジアの合計GDPの約28%(2015年には35%超になると予想されます)を占めています。このアジアの二つの大国の成長の継続が見込まれる以上、地域の他の諸国でも潜在的な利益の増大が予想されます。第一次投入財と中間投入財、エネルギー、科学技術、投資財に対する需要の急増は地域の輸出拡大と生産高の伸びを刺激し続けると思われますが、これは同時に商品インフレ上昇の危険も増大させます。2015年までに中国では中の上の階級が4,100万人以上(230%増)、中の下の階級が1億1,500万人以上(478%増)それぞれ増えると見込まれ、これは近隣諸国の成長を刺激する巨大な新しい消費者市場となる可能性があります。可能性が高いもう一つの恩恵として、投資の流れの増大を挙げることができます。近年、多くの多国籍企業が中国に加え、アジアの他の1、2の近隣諸国に生産拠点を設立する戦略をとるようになってきています。また、中国とインドが成長し、より付加価値の高い生産に進むにつれ、より低い開発段階にある国が現在中国に占められている低コスト輸出市場のいくつかに参入する機会を得る可能性があります。一方で、中国がより付加価値の高い産業に拡大していくにつれ、現在先進国経済が独占している産業や市場を中心とした競争の熾烈化が見込まれます。各国がこれらの機会をつかみ、課題にうまく対処できるか否かはその準備度合いにかかっており、これには開かれた貿易、投資、新しい考えを導く政策環境が求められます。
★主な課題:社会の持続可能性
地域の経済的なダイナミズムの社会的な持続可能性を確保するにはアジアの途上国全体に社会的保護を拡大することが決定的に重要です。高齢化社会に対処した政策や事業計画、高齢労働者が生産的なディーセント・ワークを得られる機会を奨励すること、実効的な社会的最低線を構築するのに十分なだけの最低賃金を伴う包括的な基礎社会保障措置の整備、インフォーマル経済の労働者を社会的保護の枠組み、そして基礎となる課税基盤の中に取り入れることなどが必要です。
開発が持続可能であるためには、成長の利益が全ての人々によって共有されることが必要です。アジア太平洋の不平等に係わる一つのプラスの動向は、太平洋島嶼国を例外として、アジアでは低開発国の成長速度が高開発国の成長速度をはるかに上回っているということで、この傾向が続けば、地域統合の展望にうまく作用することでしょう。一方、国内の所得格差は懸念すべき動向を示し、最新のデータではインドネシア、ネパール、スリランカを中心に不平等の拡大が記録されています。中国でも不平等が急速に拡大している証拠があり、2005年に都市世帯の底辺10%では一人当たり所得が2000年比で26%上昇したのに対し、上位10%では133%の上昇が記録されています。所得格差の拡大を招いている明らかな推進要因の一つとして、高技能労働者の賃金上昇率の方が非熟練労働者の賃金上昇率よりも高いことが挙げられます。
図3:性別労働力率(%、2006年) |
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労働力率における性に基づく不平等は生産的な労働力の全体的な規模、そして経済成長の潜在力を縮小する可能性があります。アジアの先進国経済では壮年女性の64.4%が労働市場に参加しているのに対し、南アジアでは42.4%に過ぎません。
アジアの急成長は地域別に不均等な発展を伴い、これは不平等の拡大につながっています。中国とインドを含む多くのアジア諸国で経済成長の大部分が力強い都市中心部によって推進され、労働者は大都会に移動し、多くの場合、都市部と農村奥地で生活水準の格差が急速に拡大しています。現在、東・東南アジアでは、極度に貧しい人々の75〜80%が農村部に集中しています。
このような不平等の拡大にどれだけうまく取り組めるかは来る10年におけるディーセント・ワークの実現に大きな意味を持ち、富と機会の配分に対する直接または間接的な影響を考慮に入れた経済・社会政策、機会平等を阻む障害の除去、富を蓄積し、リスクを冒すインセンティブを保ちつつ排除を回避する方策などが求められます。このために必要な第一歩は基礎教育及びより高等な訓練の平等な機会の確保であり、性に基づく差別を撤廃し、労働市場への女性の参加を奨励するため、政労使が協力して取り組むことや、対農村インフラ投資の相当の拡充などが求められます。
この10年間の経済及び社会進歩は政治環境と統治(ガバナンス)の質に非常に大きな影響を受けることでしょう。労働市場の良い統治は、ILOの国際労働基準を基礎とした法の統治の支持と透明性及び説明責任の向上を伴います。また、競争の熾烈化並びに労働及び雇用関係のパターンの変化の中でディーセント・ワークを現実のものとするには、柔軟性、安定性、安全保障の実効的なバランスを保つことが決定的に重要であり、そのためには労働法改革、透明で説明責任のある制度、民主的な政治・司法制度、強い労使団体、開かれた経済、成長力のある市民社会が必要です。労使団体が統治に実効的に参加し、現在の構成員そしてインフォーマル経済の従事者を含む構成員候補にサービスを提供できるよう労使団体の能力を強化することも大切です。労働市場の統治はインフォーマル経済の問題にも取り組むべきであり、インフォーマル性を減らす国内戦略の出発点はインフォーマル経済における活動が事業や労働者、そのコミュニティにとって高いコストを伴うものであるとの事実の認識です。さらに、経済及び社会の相互依存の拡大は集団的な行動や多国間協力を一層重要にするため、地域協力を促進し、統治改善に向けた多国間制度の強化が決定的に重要です。
| 農業 | 工業 | サービス業 | |
|---|---|---|---|
| アジア先進国経済 | 23,858 | 58,836 | 54,191 |
| 東アジア | 2,755 | 22,764 | 15,076 |
| 東南アジア・太平洋 | 2,815 | 21,304 | 11,945 |
| 南アジア | 3,136 | 10,825 | 14,583 |
| アジア途上国 | 2,916 | 18,424 | 14,375 |
★主な課題:環境の持続可能性
アジア太平洋の成長と持続可能な開発は環境の劣化、天然資源の枯渇、気候変動によって深刻な影響を被る可能性があります。この地域の劇的な経済成長は多大な土地の浸食、漁場の枯渇、森林及び沿海生態系の劣化、大気汚染、水質汚濁、そして人間の健康と環境への悪影響といった形で示されるコストの増大を伴ってきました。世界で最も公害が激しい10都市中七つまでがアジアに存在し、労働者はますます新しい環境上の健康リスクに直面することとなっています。最も警戒すべきこととして、アジア太平洋地域は温室ガス効果と気候変動の最も深刻な影響のいくつかを被ることが予測されています。急速な経済成長とあいまった高エネルギー集約度は、地域の多くの国で得られる国内資源を超えるエネルギー需要をもたらしただけでなく、炭素排出量の相当の増加にも寄与しました。中国のGDP単位当たりのエネルギー利用量は米国の3.5倍、インドは2.7倍となっており、この差は拡大を続けています。極端な天候は多数の人々の国内外への移動を引き起こし、農村貧困層への悪影響が予想され、貧しい人々を対象とした積極的な労働市場政策や安全網の形での社会的保護の確保が決定的に重要になります。環境劣化と気候変動の影響を最も直接的に受けるのは農業、林業、観光業であるとされ、地域の労働者の42%超が農業に従事しているアジアでは、最も弱い労働者の多くの生計が環境に関連した圧力の影響を受ける可能性があります。
環境保護は従来、経済開発と雇用に対する脅威と認識されることが多かったものの、このような努力は徐々に、貧困と闘い、雇用を創出する長期的な手段と見られるようになってきています。環境的により持続可能な経済を創出する動きは2000年までに既に1,400万人の雇用を創出したと推計され、今後も数百万の雇用創出が期待されます。気候変動、環境劣化、天然資源の枯渇の影響は国境を越えるものであり、既に東南アジア諸国連合(ASEAN)やアジア開発銀行で見られるように地域規模及び地球規模での協力の増大が求められます。GDPがエネルギー集約的になりがちであった地域の途上国は、エネルギー効率の高い能力を開発した日本から多くを学ぶことができるといったように、アジア諸国は技術と知識の移転を通じて、より持続可能な天然資源の利用とより効率的なエネルギー利用法を促進するため、協力を強化する必要があります。2007年のILO総会で、ILO事務局長は新しい「グリーン・ジョブ・イニシアティブ」を呼びかけ、環境的に持続可能な開発プロセスの達成を目指した政策手段の開発を政労使に向けて提案しました。企業の社会的責任原則の採用は職場における労働安全衛生対策の強化と共に「よりグリーンな」生産を促進することができます。生産の流れに直接関係する社会の媒介者として労働者と労働組合も環境及び生態系の持続可能な管理に大きく貢献することができるでしょう。
★結 論
成長と開発の点でアジア太平洋地域は前代未聞の急激な変化を経験しています。しかし、9億人以上の労働者が1日1人当たり2ドル未満で暮らしており、10億人以上がインフォーマル経済で働いている以上、まだ多くの非常に重大な作業を行う必要が残っています。2015年までにさらに2億人分以上の雇用を追加的に創出する必要があり、これに働く貧困層の規模を加えると、少なくとも11億人のアジアの人々に、自らディーセント・ワークを実現する機会を提供する支援になるような政策及び事業計画が求められます。
経済成長の大きな展望に対し、社会及び環境面の持続可能性の確保においても相当の進歩が達成されないことにはディーセント・ワークの目標を実現することは難しいでしょう。社会の持続可能性の点で地域が直面している決定的に重要な事項の一つは、労働市場の統治を改善する必要性で、国際労働基準の採用と遵守、説明責任と透明性の向上、真剣な対話により実効的に従事できる労働者及び使用者の能力構築といった事項がディーセント・ワークの実現に必要なコンセンサスの形成にとって決定的に重要です。弱い労働者への社会的保護の拡大も必須です。環境面の持続可能性は多くの不確定要素を伴うため、この分野における成功には新しい考え方と明確な長期的視点が求められます。
持続可能な開発の三つの柱において進歩を達成するには、実効的な地域協力及び三者間の協力が必要不可欠です。さらに、地域の多様性に鑑みると、域内諸国が知識と好事例を共有し、協力して共通の課題に取り組む相当の余地があります。より良い知識管理とより密接な協力はこの地域の全ての国でディーセント・ワークを現実のものとする努力の大きな前進をもたらすものとなるでしょう。
★フォーラム成果
以上のような討議資料をもとに話し合いを行った結果、フォーラムではアジア太平洋地域ですべての人にディーセント・ワークを確保するという課題を追求していくには相互に支え合う整合的な形で、経済、社会、環境の諸目標を促進していく必要があるとの事実が認識されました。そして、「アジアにおけるディーセント・ワークの十年」の期間に持続可能で包摂的な成長を支えるために必要ないくつかの政策、戦略、統治手段が明らかにされました。
活動の方向性としては、1)地域の関連したイニシアティブも考慮に入れるように、アジアにおける社会、環境、経済の持続可能性とディーセント・ワークに係わる政策の整合性を支持すること、2)2007年のILO総会で採択された結論に沿って、持続可能な企業を振興すること、3)政労使三者による話し合いとディーセント・ワーク国別計画との連動を用いて、ILOの「グリーン・ジョブ・イニシアティブ」を地域レベル及び各国レベルで機能させること、が示されました。
アジア雇用フォーラム(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/region/asro/bangkok/asiaforum/index.htm
フォーラム討議資料(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/region/asro/bangkok/asiaforum/papers/index.htm
フォーラム討議のまとめ(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/region/asro/bangkok/asiaforum/download/summary.pdf
第14回アジア地域会議----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/conf/2006arm.htm
第96回ILO総会(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/standards/relm/ilc/ilc96/index.htm
関連広報記事:アジアの若年雇用(英語)----->
http://www.ilo.org/global/About_the_ILO/Media_and_public_information/Press_releases/lang--en/WCMS_083513/index.htm
関連広報記事:アジアの生産性向上(英語)----->
http://www.ilo.org/global/About_the_ILO/Media_and_public_information/Press_releases/lang--en/WCMS_083524/index.htm
関連広報記事:アジアのインフォーマル経済(英語)----->
http://www.ilo.org/global/About_the_ILO/Media_and_public_information/Feature_stories/lang--en/WCMS_083603/index.htm