![]() | ||
![]() |
>>トピック目次
ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説(2007年7月31日付第62号) |
★国際協同組合デー
毎年7月第1土曜日は国際協同組合デーです。2007年は7月7日に当たりました。元々は国際協同組合同盟(ICA)が提唱し、始めたもので今年で85回目を数えますが、13年前から国連が定める国際デーともなっています。
国際協同組合デーには、協同組合が多大な貢献をしているものの、あまり知られていない分野に光が当てられますが、今年は「企業の社会的責任に向けた協同組合の価値原則」がテーマとして取り上げられました。企業の社会的責任(CSR)とは本質的に協同組合の理念と言う人もいます。協同組合は、経済面、環境面、社会面の必須の義務を調和させ、統合しつつ、その構成員と利害関係者の期待に対処しています。協同組合運動は自助と連帯、平等、均等、開放性の価値原則を掲げ、組合員と地域社会に対する関心は協同組合精神の一部をなしています。経済、社会、環境の諸目的を考慮に入れ、良い統治と透明性が確保された民主的な慣行を推進する責任ある事業慣行及び事業基準は、協同組合的な事業の進め方であると言えます。
国際協同組合デーに際して発表したメッセージの中で、フアン・ソマビアILO事務局長は、この2007年の国際協同組合デーのテーマを歓迎し、ILOでは今年、「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」の採択30周年を迎えることに触れ、この宣言を始め、政労使の三者で開発されたILOの基準や指針等は企業の社会的責任の意味について参照できる枠組みを提供するとしました。そして、CSRの言葉が発明されるはるか以前から、協同組合は社会的な配慮が優れた事業戦略にもなりうることを率先して示してきたとして、今年の国際協同組合デーは協同組合の理想と慣行に依拠して、社会進歩を伴うグローバル化を実現する助けになるCSRのイニシアチブを強化する機会になろうとの期待を表明しました。
★ILOと協同組合
労働運動と協同組合運動は18、19世紀の社会経済問題に共通の根を持ち、時に密接なつながりが見られます。どちらも自由な結社と集団的な行為に依存し、労働組合員と協同組合員の間には古くから自然に緊密な協働関係が築かれていました。
ILOは政府、労働者、使用者の三者構成を取っていますが、協同組合とも深いつながりがあります。協同組合の重要性はILO憲章でも認められており、「国際労働機関は、使用者、労働者、農業者及び協同組合員の国際機関を含む承認された民間国際機関との望ましいと認める協議のための適当な取極をすることができる(第12条)」との規定のもと、ILO創立年の1919年に早くも協同組合の国際組織であるICAに協議的資格を付与し、ILO誕生とほぼ同時に正式な関係が樹立されています。また、ILOの初代事務局長であったアルベール・トーマはICAの執行委員でもあり、彼のもとで1920年には、ILO事務局機構の一部として協同組合部(Cooperative Services)が設置されました。
ILOは協同組合を、とりわけ農村部において開発過程を支援するための理想的な社会機構と見なしてきました。1937年にILOは初の技術支援ミッションを送っていますが、これはモロッコにおける農村協同組合の育成に関するプロジェクトでした。ICAとの協力の下、ILOは協同組合運動を世界に広め、協同組合型の手法を一般に適用する上で重要な役割を演じてきました。主として技術援助と情報提供を通じて協同組合の育成を推進し、政府や労使団体がこの分野で果たし得る役割について助言を提供してきました。国連は1971年に、持続可能な協同組合開発を推進調整する協力組織として、協同組合運動、農業団体、協同組合育成機関と協同組合振興促進委員会(COPAC)を設置しましたが、ILOは国連食糧農業機関(FAO)など他の国連機関と共にその創立メンバーとなっています。
ILO総会は1966年に協同組合(発展途上にある国)勧告(第127号)を、2002年にはこれを改正する協同組合の促進勧告(第193号)を採択しています。
2004年には、共通関心分野、とりわけ第193号勧告の実行及び促進、貧困との闘い、まともな雇用の創出といった分野に関する定期協議、情報交換、取り組みの調整を通じ、協同組合の振興・強化におけるこれまでの協力関係をさらに深めることを目指し、ICAとの間で覚書が締結されました。
★なぜ協同組合か
協同組合とは、「共同で所有され、かつ、民主的に管理される企業を通して、共通の経済的、社会的及び文化的ニーズ及び希望を満たすために自発的に結合された自主的な人々の団体(第193号勧告)」をいいます。第193号勧告にも付属されている1995年のICA総会で採択された「協同組合の独自性に関する声明」は、1)自発的及び透明性のある構成員資格、2)民主的な構成員の管理、3)構成員の経済への参加、4)自主性及び独立性、5)教育、訓練及び情報、6)協同組合間の協力、7)地域社会に対する関心といった協同組合についての原則を示しています。
協同組合運動に係わる人々は世界全体で10億人近くになります。1960年には1億8,400万人余りであった協同組合員数は今日では8億人を超え、協同組合は多国籍企業で働く人々の1.2倍に当たる少なくとも1億人に職場を提供しています。世界の上位300の協同組合を合わせた売上高はカナダの国内総生産(GDP)にも匹敵し、米国では4人に1人、ケニアやマレーシアでは5人に1人、シンガポールでは2人に1人、そして日本では3世帯中1世帯が組合員です。ニュージーランドではGDPの22%、ブラジルでは16%、ベトナムでは9%近くを協同組合が生み出しています。スイスでは消費者協同組合、コロンビアでは保健協同組合が、公務部門以外で最大の雇用を生み出しています。協同組合の市場占有率は高く、乳生産における市場占有率がノルウェーでは99%、ウルグアイでは90%、ポーランドでは75%に達しています。
農業協同組合、漁業協同組合、労働者生産協同組合、貯蓄信用協同組合、販売協同組合、住宅協同組合、サービス協同組合、消費協同組合、土地改良協同組合、農業生産加工協同組合、農村購買協同組合、手工業協同組合、労務供給協同組合、協同組合銀行、運輸協同組合、保険協同組合、保健協同組合など様々な経済活動を網羅し、各種の社会サービスを提供する協同組合は、大きく多様な一産業部門を形成しています。今年約60年ぶりに抜本的に改正された消費生活協同組合法の対象となっている消費生活協同組合(生協)もこの一つです。協同組合は企業であると同時に、構成員を基礎とし、構成員に主導される組織として市民社会の一部でもあります。すべての協同組合の第一の目的は株主のために利潤を成すことではなく、組合員のニーズを満たすことです。協同組合企業の得た利益の多くは社会的目的に用いられています。協同組合は一組合員一票の原則に則っています。
協同組合運動の起源は少なくとも18世紀に遡ることができ、1770年代に存在した記録があります。働く人々は多種多様な団体を結成して工業化の過程に応えたのですが、労働組合や協同組合もこの中に含まれています。英国の近代的な協同組合運動の発祥地は英国北西部のロッチデールです。1844年にこの地で労働者が集まって店舗を設立した際に、この協同組合企業が基礎とした一連の原則が「ロッチデール原則」と呼ばれ、第193号勧告にも付属されているICAの「協同組合の独自性に関する声明」の基礎になりました。
雇用機会の創出、多くの人々の労働・生活条件の改善、国家も投資家主導の営利企業も踏み込まないような分野における必要不可欠なサービスや基盤構造の提供といったように、協同組合は社会において重要な役割を演じています。貧しい人々、先住民・種族民、女性を経済の主流に組み込む上で大きな役割を果たしてもいます。今日では、移民圧力の緩和、さらに若者、不利な人々、障害者といった通常では失業者になってしまうような人々のための雇用創出といった点での貢献もますます重要になってきています。参加型の労働者協同組合や従業員所有型の企業は、生産性の点で、従来の企業に匹敵するかそれを上回っているとの証拠も多く見られています。
★2002年の協同組合の促進勧告(第193号)
このような豊かな潜在力を秘めた協同組合のさらなる振興を目指し、協同組合に関する唯一の国際的な政策の枠組みを定めるのが、2002年に採択されたILOの協同組合の促進勧告(第193号)です。第193号勧告は、1966年に採択され、開発途上国だけを対象としていた協同組合(発展途上にある国)勧告(第127号)を改正するものです。第193号勧告は、各国が協同組合について法や政策の枠組みを立案する際に支援する文書となることを意図しています。
第193号勧告は、1)適用範囲、定義及び目的、2)政策的な枠組み及び政府の役割、3)協同組合の促進のための公共政策の実施、4)使用者団体、労働者団体及び協同組合並びにそれらの間の関係、5)国際協力、6)最終規定の6章構成で、ICAの「協同組合の独自性に関する声明」が附属書として付いています。勧告は、協同組合は経済のすべての部門において活動すると認識した上で、協同組合は特有の価値及び原則を基礎としていること、そしてその価値原則について明言するICAの「協同組合の独自性に関する声明」が協同組合の基本的な定義として認められていることを示しています。さらに、協同組合は他の種類の企業と平等の待遇を享受すべきこと、政府は協同組合が活動できる環境を形成し、サポート・サービスの利用を円滑化すべきこと、労使団体は協同組合を促進すべきこと、協同組合は国際的に協力すべきことといった原則を規定しています。
政府の役割としては、協同組合の助けとなるような政策及び法的環境を提供すること、特別の事情によって正当化されるときには支援を提供すること、適当な分野で協同組合とのパートナーシップを育むことといった事項が掲げられています。使用者団体の役割としては、加入を希望する協同組合に加入資格を与え、サービスを提供すること、労働者団体の役割としては、協同組合従業員の労働組合参加への支援、労働組合員の協同組合設立支援、雇用の創出または維持に向けた協同組合設立への参加、協同組合の生産性・機会平等・労働者組合員の権利の推進、教育訓練の実施が含まれています。協同組合団体の役割としては、労使団体と協力し、協同組合の発展に好ましい風土を形成すること、技術的・商業的・財務的支援サービスの提供、協同組合の水平・垂直統合の推進、人的資源開発に対する投資、国際的に協同組合を代表し、国際協力を奨励することといった提案が示されています。
第193号勧告が採択されてから5年が経過し、既に70カ国以上で協同組合に関する政策や法の改正に際しての指針として用いられています。労働組合や協同組合がインフォーマルな労働者を協同組合に組織化する際の基盤ともなっています。
★ILOの活動
ILO事務局内の協同組合部は現在、雇用総局雇用創出・企業開発局の中に置かれています。ILOでは現在、すべての人々に適切で人間らしい働き方であるディーセント・ワークが確保されることを目指して活動しています。ディーセント・ワークの課題は、基準、雇用、保護、対話の四つの柱を通じて進められていますが、1)結社の自由と職場内民主主義を奨励することによって働く上での基本的な権利と原則を推進し、2)構成員の資源、技能、才能を結びつけることによって男女が適切な雇用と人並みの収入を確保できるより多くの機会を創出し、3)社会的に排除されている人々に基本的な社会的サービスを提供することによって社会的保護の対象を広げ、その実効性を高め、4)農村の貧しい人々や保護されていない労働者の権益を擁護することによって社会対話と三者構成主義を強化する協同組合には、このディーセント・ワークの概念を発展させる潜在力が秘められていると考えられます。
協同組合部は第193号勧告を基礎に、ILO加盟国への政策助言、技術協力、国際会議の開催、協同組合に関する資料・文書の制作、協同組合の価値原則の推進などといった活動を行っています。国連機関の中では最大とされる技術協力活動では、協同組合に関する法や人的資源開発から雇用創出、貧困緩和、地域経済開発といった幅広いテーマを扱っています。協同組合運動との協力による児童労働問題への取り組み、紛争解決・再建における協同組合の活用、ICAとの協力による協同組合活動を通じた貧困脱出キャンペーンなども展開しています。
2007年にはディーセント・ワーク課題の実行に向け、ILOとして取り組むことのできる事項に焦点を当て、1)協同組合企業モデルを推進する根拠に関するあらゆる利害関係者との政策対話の強化、2)協同組合による雇用、協同組合を通じた雇用がディーセント・ワーク課題の四つの戦略目標(上述の基準、雇用、保護、対話)を満足することの確保、3)協同組合に関する政策及び法の分野における過去の経験をもとに、他のパートナーと共にこの分野における独自の専門知識を育むこと、4)インターネットを利用した遠隔学習センターである協同組合学習センターをさらに開発し、協同組合特有の運営・監査ツールを提供すること、5)国内教育制度のあらゆるレベルの履修課程に協同組合を組み込む戦略の開発と実行といった活動が進められています。調査研究のテーマには、1)課税政策、会計基準、国際会計基準審議会(IASB)で提案されている変更の影響、労働・競争法といった事項を取り上げ、協同組合が直面している競争上の課題、2)特定の企業集団形態としてのサービス共有協同組合(個人ではなく、企業が構成員となっている協同組合)の経済便益、3)協同組合を通じた経済安全保障、4)新しい生産形態における協同組合の競争上の利点、5)協同組合を通じたディーセント・ワークといった事項が含まれています。
協同組合部の活動の例として、国際協同組合デーに際して作成されたコミュニケーション・広報局の広報記事は、エチオピアのオロミア・コーヒー農家協同組合連合の事例を紹介しています。エチオピアにおけるILOの協同組合振興活動は1993年から始まりました。当初、協同組合は社会主義的な制度で国の抑圧の手段と見られていましたが、14年の活動の中でILOは10万以上のコーヒー生産者を代表する115の協同組合の組織化を支援してきました。オロミア・コーヒー農家協同組合連合のタデッセ・メスケラ・ゼネラルマネジャーは1990年代初めに日本で2ヵ月間研修を受けた後、仲介業者や輸出業者に支払う莫大な金額を農家が自分たちの手元に残す手段として、協同組合連合制度を1999年に開発しました。協力し合うことによって組合員は資金のプールに成功し、この民主的なシステムは個々の組合員のみならず、地域社会にも恩恵を与え、連合の尽力によって既に四つの学校、四つの保健所、二つの浄給水施設が建築され、17の教室が増設されました。オロミアの経験は、エチオピア全土に広まり、コーヒーに留まらずあらゆる経済分野に協同組合運動が急速に広まりつつあります。
2007年のILO総会で行われた持続可能な企業に関する討議は協同組合形態の企業にも関連するものでしたが、2008年の総会では貧困削減に向けた農村雇用の促進に関する討議が行われます。農業協同組合、貯蓄・信用協同組合、保健協同組合、電力協同組合、運輸協同組合、観光協同組合などは多くの国で農村社会にサービス、雇用、生計手段を提供しています。総会における話し合いは協同組合にも関係が深いと思われます。
協同組合部のウェブサイトでは上記のようなILOの活動の詳細に加え、ほぼ全加盟国の協同組合関連法が網羅されたデータベース、協同組合企業管理者向けの訓練教材、会議情報など幅広い情報が入手できます。この分野における90年近い経験を反映する豊富な資料も掲載されています。
協同組合部(英語)----->
http://www.ilo.org/coop
ILO条約・勧告一覧----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/list.htm
多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/downloads/multi2007.pdf
関連広報記事:国際協同組合デー(英語)----->
http://www.ilo.org/global/About_the_ILO/Media_and_public_information/Feature_stories/lang--en/WCMS_083220/index.htm