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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説

(2007年6月29日付第61号)

◆ ◇ 漁 業 労 働 ◇ ◆
◆ ◇ (Work in the fishing sector) ◇ ◆

 2007年の第96回ILO総会では、日本人にもなじみの深い漁業に関する新しい条約と勧告が採択されました。この新しい基準は、漁業に従事する人々の状況改善を目指しています。

★世界の漁業

 漁船の大きさの点でも操業形態の点でも漁業は多様性に富んだ産業です。大型トロール工場船その他多数の船舶を用いて、何千人もの労働者を雇い、いくつもの海で操業する大型多国籍合弁事業がある一方で、漁師が一人で木造カヌーその他のボートを操り、家族の食料に余った分を地元社会で細々と売っている場合もあります。

 漁船員や漁船、用いられる漁具の増加、技術改善の結果、漁獲高は1950年以降上昇を続け、世界の漁獲量は2004年に9,500万トン、卸値による売上高は849億ドルに達していると国連食糧農業機関(FAO)は推計しています。世界の水産生産高上位10カ国中5カ国を日本を含むアジア諸国が占め、トップは中国になっています。2000年の統計によれば、最大の輸入国は日本、輸出国はタイになっています。

★漁業従事者の労働・雇用事情

 2004年の最新の統計によれば、漁業従事者は世界で4,100万人と推計され、その80%以上がアジアの人々です。1998年の統計では、捕獲と養殖を合わせて世界で約3,600万人が漁業に従事し、うち1,500万人がフルタイム、1,300万人がパートタイム、800万人が時々従事する臨時労働者であったと推計されています。この約60%が海洋漁業、25%が養殖業、15%が内水漁業に従事するとされ、船長24メートル未満の船舶で働く者が全体の9割を超えています。

 漁業従事者のほとんどが自営であるか、常時または臨時雇用形態で1人か2人の漁船員を雇う零細水産会社の従業員であるか、正式な雇用契約なしに雇われている漁船員となっています。漁業で生計を立てる人の多くが水揚げに応じた報酬を受ける仕組みになっていることから、国内法上自営業者と見なされ、雇用関係を律する法の適用外になっています。この結果、陸上で働く労働者の多くが享受している失業保険や保健医療その他の給付を得ることが難しくなっています。

 時には1年にも及ぶ長期にわたって海上に滞在することもあるため、船上の居住設備や料理は重要な問題です。居住設備は経済事情や海上に留まる予定期間に応じて様々ですが、劣悪な状態も多く報告されています。

 船舶の持ち主が破産したり、行方をくらました場合に漁船員は外国の港に取り残されてしまう場合があります。違法操業に関連して船舶が拿捕されてしまった際には、船舶の運航を制御する何の権限もなかった漁船員でも長期にわたり投獄されてしまう場合があります。

 海の力や、魚を捕り、加工するという業務の性質、海洋資源を見つけ、捕獲するという予見不能性に基づき、しばしば疲労困憊するまで連続的な努力が必要といった状況は、漁業を最も危険な職業の一つにしています。死亡率は全産業を通じて最も高いものの一つに数えられ、例えば、日本では2000年に船員法対象労働者の死傷事故が88件ありましたが、うち55件が漁船員関連となっています。1998年の米国の統計によれば、漁船員の死亡率は労働者10万人当たり179人となっており、1996年の数値では消防職員や警察官といった職業の16倍に達しています。一部アフリカ諸国の死亡率は10万人当たり300〜500人といった高さになっています。事故の最大の要因は長時間労働に伴う疲労と健康問題とされています。

 例えばアイルランドでは毎年1月にニシン漁が行われますが、今年は沿岸部で長く悪天候が続きました。今年1月10日の夜は風力8の暴風が吹き荒れ、南東沖合で2隻の漁船が30キロと間を置かずに4時間の間に次々と沈み、7人の漁師が犠牲になりました。約20時間後に捜索中の沿岸警備隊のヘリコプターによって救命ボートで漂っていた2人が救助されました。

 このような状況は至る所で見られ、例えば、ベトナムを始めとする東南アジア諸国は昨年熱帯暴風雨に何度も襲われ、ベトナム政府は9回の暴風雨の襲来によって、808隻の漁船が沈没し、多数の死傷者が出たと報告しています。

 伝統的な労働監督手段が及ばない海上で労働が行われる事実は、安全衛生その他の要件の執行を困難にしています。船員の場合のように、外国登録船における労働条件の検査・執行を扱った国際労働基準は存在しませんでした。

 途上国出身者を中心に多くの漁船員が、募集・職業紹介に関連して仲介業者に手数料を払うなどといった搾取的な手段の被害を受けています。児童労働も珍しくなく、漁船員はしばしば乗船前に合意した勤務条件をはるかに下回る契約にサインするよう強制されています。保険が適用されることもほとんどなく、組合組織率は他の部門より低くなっています。

 さらにグローバル化の進展によって、かつては地元で消費されていた魚が今では途中で加工され、世界中のレストランや消費者に出荷される状況も多くなってきており、したがって一部の地域では海洋資源を求めてますます遠くまで出漁するようになっています。

◎ウクライナの漁業

 ILOコミュニケーション・広報局の広報記事によれば、ウクライナでは、1991年以前の漁業従事者は8万人に達し、主な漁場である黒海の入り江やアゾフ海からの漁獲高は年120万トンになっていました。しかし今では漁業従事者数は3万7,000人に低下し、この国の漁業は深刻な危機に直面しています。

 ほとんどの船舶が20年以上前に建造されており、減価償却率は7〜8割になっています。5〜7年先には老朽化した船舶が大量に引退時期に達するものの交換する船がないという状態が発生すると専門家は予想しています。船舶の保守、近代化、交換用の資金不足は漁船員の労働条件や安全面の向上にも悪影響を与えています。

 約70隻の外洋漁船の場合はウクライナが加盟している国際海事機関(IMO)の法的文書の対象となっているため、少なくとも訓練や船舶の建造及び設備といった点では比較的高い保護を受けているものの、5,600隻以上に達する小型船で働く人々の状況はもっと懸念されます。加えて、他国籍船で働く数千人ものウクライナ人漁船員の保護の問題もあります。

★漁業分野の国際労働基準

 こういった課題は、漁業従事者を保護し、この職業を魅力的で持続可能なものとする助けになるよう、漁業を確実に労働法規の適用対象にすることを一層重要にしています。

 漁業の労働条件はILO創設の非常に初期から議論され、早くも1920年に労働時間(漁業)(第7号)勧告として、最初の基準が採択されています。その後、1959年と1966年にさらに次の五つの条約と一つの勧告が採択されました。

◎新漁業労働条約・勧告

 2002年3月に開かれた第283回ILO理事会は、海事産業と多くの共通点をもつこの産業について、当時進められていた海事産業におけるのと同様の包括的な条約と勧告を作成するため、2004年の第92回ILO総会で第一次討議を行うことに決定しました。海事部門についてはその後、2006年に開かれた第94回(海事)総会で海事関係の包括的な基準文書として画期的な海事労働条約が採択されています。

 漁業労働の条約・勧告案は、2005年の第93回総会で第2次討議が行われ、投票の結果、勧告は採択されたものの条約は定足数不足で採択されませんでした。しかし、第93回総会で条約・勧告案の審議を行った漁業委員会の報告書をベースに、漁業労働に関する議題を再び2007年の総会で審議しようとの動議が採択されたため、採択された勧告の見直しを含め、今年の総会で再び審議が行われた結果、新しい2007年の漁業労働条約(第188号)と、付属する同名の勧告(第199号)が採択されました。第112、113、114、126号の四つの条約を改正する新条約は沿岸国8カ国を含む10カ国の批准をもって発効します。新勧告は、第7号勧告を改正した2005年の勧告に置き換わるものとなっています。

 約40年前に漁業関係の最後の基準が採択されてから、グローバル化を中心にこの産業には多大な変化が生じました。新しい基準はこういった変化を反映し、上述のウクライナの場合のように小型船舶で働いている人々を中心に、より多くの人々に保護を提供することを目指しています。

 条約の実体規定部分は46の条文と三つの付属文書、勧告は55項目から構成されています。
条約第1部−定義と適用範囲に続き、第2部−一般原則(実行、権限当局と調整、漁船所有者・船長・漁船員の責任)、第3部−漁船の船上労働の最低要件(最低年齢、健康検査)、第4部−勤務条件(定員と休息時間、船員名簿、漁船員の労働契約、本国送還、募集と職業紹介、漁船員への支払い)、第5部−居住設備と食料第6部−医療、健康保護、社会保障(医療、労働安全衛生と事故予防、社会保障、業務関連疾病・負傷・死亡の際の保護)、第7部−遵守と執行第8部−付属文書1、2、3の改正、そして船舶の長さと全体長について規定した付属文書1−測定における同等値、漁船員の労働契約に含むべき項目を提示した付属文書2−漁船員の労働契約、騒音や換気、寝室など居住設備についての細目を規定した付属文書3−漁船の居住設備から成っています。
勧告第1部−漁船上における労働条件(若年者の保護、健康検査、海技と訓練)、第2部−勤務条件(勤務記録、特別措置、漁船員への支払い)、第3部−居住設備(設計と建造、騒音と振動、暖房、照明、寝室、衛生設備、娯楽設備、食料)、第4部−医療、健康保護、社会保障(船上の医療、労働安全衛生、社会保障)、第5部−その他から構成され、条約の内容を補足する詳細な規定を含んでいます。

 条約は、自家消費のための漁やレクリエーションとしての釣りを除くあらゆる漁業活動に従事するあらゆる漁業従事者(水先人、軍艦乗組員、政府に永続的に勤務するその他の者、漁船上で仕事を遂行する陸上を拠点とする者、漁場観測者を除く)とあらゆる漁船を対象としています。

 新しい基準には、漁業労働者に以下を確保することに向けた規定が含まれています。

 漁業従事者が海上で暮らす期間はしばしば長期にわたりますが、これを反映するように漁船が建造・保守されていることの確保に向けた規定も盛り込まれています。

 条約にはさらに、国家による条約規定の遵守と執行を確保するためのメカニズムに加え、許容できない労働・生活条件の船舶を排除する助けになるよう、長い航海に従事する大型漁船の船上で働く漁船員の労働条件が安全と健康にとって危険なものにならないよう確保するため、そのような船舶の外国の港における検査に道を開く規定も含まれています。2006年の海事労働条約同様、条約未批准国の船舶が批准国の船舶より有利な取扱いを受けないことも規定されています。

 全ての規定を直ちに実行できる機構や基盤構造を備えている国が多くない可能性を考慮し、条約には一部規定の漸進的な実施を許す規定も盛り込まれています。これは早期批准を促し、全ての漁業従事者に徐々に保護を拡大していく計画を立案するよう奨励するものです。このような柔軟な手法は、漁業従事者の生活に影響する国内法規、その他の措置の整備・見直しに際し、全国レベルの協議を奨励することが期待されます。

★ILOの活動

 ILO事務局内で漁業労働の問題は、産業部門毎のアプローチを取る部門別活動局(現在は社会対話・労働法・労働行政・部門別活動局)が扱ってきました。同局が事務局となり、1954年以降、漁業問題に関する助言は、政労使の三者で構成された漁業労働条件委員会を通じて提供されてきました。委員会は過去4回(1954、62、78、88年)会合をもっています。1988年に開かれた第4回委員会と、1999年12月に開かれた漁業の安全衛生に関する三者構成会議、そして1996年に開かれた第84回(海事)総会の際にも漁業部門に関する新しい労働基準の検討が求められました。

 2007年の総会では、条約・勧告と合わせて次の四つの決議も採択されました。

  1. 2007年漁業労働条約の批准促進に関する決議−条約の旗国による実行や漸進的な実行に向けた国内行動計画樹立のための指針開発など、条約の批准及び実行を奨励する措置の実施を理事会を通じて事務局長に求めるもの。
  2. 寄港国による検査に関する決議−寄港国における検査を担当する職員の手引きを開発する三者構成専門家会議の開催を求めるもの。
  3. トン数測度と居住設備に関する決議−条約付属文書3に影響する1969年の船舶のトン数の測度に関する国際条約の改正評価などを求めるもの。
  4. 漁船員の福祉推進に関する決議−すべての漁業従事者に対する実効的な社会保障の推進など漁業に関連した社会事項の検討を理事会を通じて事務局長に求めるもの。

 これらの決議のフォローアップ活動も社会対話・労働法・労働行政・部門別活動局が中心となって実行していくことになります。同局はまた、国連食糧農業機関(FAO)やIMOなど漁業事項を扱う他の国際機関とも協力して活動を行っています。社会対話・労働法・労働行政・部門別活動局の漁業に関するウェブページでは新条約・勧告採択までの道のりに加え、過去に開かれたこの分野の会議情報その他の資料をご覧になることができます。


社会対話・労働法・労働行政・部門別活動局の漁業労働ページ(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/dialogue/sector/sectors/mariti/fishing-iloact.htm
ILO総会(英語)----->
http://www.ilo.org/global/What_we_do/Officialmeetings/InternationalLabourConference/lang--en/index.htm
関連広報記事−ウクライナの漁業(英語)----->
http://www.ilo.org/global/About_the_ILO/Media_and_public_information/Press_releases/lang--en/WCMS_083074
関連広報記事−漁業労働(英語)----->
http://www.ilo.org/global/About_the_ILO/Media_and_public_information/Press_releases/lang--en/WCMS_082685
条約・勧告一覧----->
http:/www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/list.htm



最終更新日:2007年6月28日 作成者:EU 責任者:SH