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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説(2007年4月2日付第58号) |
ILOは2004年の総会で国際労働力移動について統合方式に基づく一般討議を行い、移民労働者の公正な処遇に向けた行動計画を採択しました。行動計画は権利を基盤として労働力移動に取り組むための、拘束力のない多国間枠組みの開発をILOに求めています。ILOではこれに応え、2005年に専門家会議を開催してこの枠組みを採択しました。
以下は、3月に東京都内で開催された労働力移動に関する国際ワークショップ出席のためILO本部より来日した国際労働力移動部のピヤシリ・ウィクラマセカラ上級移民専門家がこの「労働力移動に関する多国間枠組み」に関して説明した発表内容のまとめです。
★多国間枠組みの提案に至った背景
移民は人類の歴史と同じくらい古くから見られ、近年ますますグローバル化が進んできている現象です。世界人口に占める移民人口の比率は、2005年に3.0%、1965年に2.3%であったという推計から見ても分かるように、ほぼ3%程度でこの40年間ほとんど変動していません。しかし、世界人口の増大により、1965年に7,500万人であった移民人口は2005年に1億9,100万人に膨れ上がったと推計されています。このことから、将来的にも移民の絶対数は増える可能性が高いと見込まれます。そこで問題の所在は、移民という現象を「止める」ことではなく、いかに「規制」または「管理」していくかにあります。
人は貧しい国から裕福な国へと流れると思われがちですが、それは正しくありません。実際には南から南、北から北への動きも多く、この三つの流れがそれぞれ全体の約3分の1ずつを占めています。世界銀行の調査によると、移民が3%増加することで、3,500億ドルの経済効果があるとされるように、移住は、関与するすべての当事者(送出国・受入国・移民)に利益をもたらします。移民の権利の尊重は、こうした利益を保証し、当事者すべてで共有するために必要不可欠なことと言えます。今、世界が必要としているのは制限や取り締まりの強化でなく、より良い移民政策なのです。
グローバルな移民現象の主な要因は、国際的移住問題に関する世界委員会(Global Commission on International Migration、GCIM)が言うところのDevelopment(開発)、Demography(人口動態)、Democracy(民主主義)の三つのDであると言えます。人口動態の例としては、日本でも既に見られるように先進国における人口減と高齢化が挙げられます。開発における国家間格差としては、ILOがディーセント・ワーク(適切で人間らしい働き方)の欠如と言っているところの雇用、収入、賃金における機会の国家間格差があります。武力紛争や戦争を理由とした人間の安全保障における格差、人権侵害も人の移動の原因となります。加えて、グローバル化や社会的ネットワークの形成、つまり家族や知人の呼び寄せによる移動もあります。
国連とILOの推計を合わせて見ると、2005年に母国外に住む人の数は、世界人口の3%に相当する1億9,100万人と推計され、このうち移民労働者が約9,000〜9,500万人で、家族も合わせると1億7,000万人程度に達し、約9割を占めていると考えられます。したがって、移民の問題は労働市場の問題であると言うことができます。
人の移動に伴い問題が生じている分野としては、まず、ILOの主たる関心事項である移民労働者の待遇と保護の問題があります。特に中東で働く移民家事使用人には、賃金が支払われなかったり、旅券を雇い主に取り上げられたり、長時間労働を強制されたり、セクシュアル・ハラスメントを受けたりといった問題が多発しています。次に、非正規移民の増加が挙げられます。途上国の「頭脳流出」も考えていかなければならない課題です。受入国社会に移民が十分に統合されないことも大きな問題です。移民の方が失業率が高いといったように、労働市場にうまく統合されないことや、人種差別や外国人排斥運動、また、もはや移民とは言えないはずの二世・三世の人々の統合の問題が挙げられます。移民に関する政策のほとんどが、移民の規制と防止に焦点を当て、管理を視野に入れていません。そこで多国間枠組みが必要になってくるのです。
このイニシアチブを取るのにILOが適している理由ですが、これには、1)ILOの根幹にかかわることとして、ILOが、政府・使用者・労働者の三者構成を取っていることにより、幅広い人々を代表しているということ、2)労働問題を扱う機関であり、移民労働者を含む働く人々の保護という憲章上の使命があること、3)国際労働基準設定の能力を有すること、4)仕事の世界における社会正義の推進で長い経験を有することが挙げられます。以上のことから、ILOには、政府や社会的パートナー(労使)、その他の利害関係者に対して、国際労働力移動に関する政策と実務における原則とガイドラインを開発する義務、そしてそこで果たし得るユニークな役割が与えられているのです。
★移民労働者に関する行動計画
このような使命の下で、ILOは労働力移動を労働市場とディーセント・ワークの問題と捉え、各国労働省と協力して取り組んでいます。移住は開発におけるプラスの要素であるとするアプローチ、政労使の協力を通じたアプローチも取っています。また、権利を基盤としたアプローチを取っており、1930年代から様々な条約・勧告を採択してきています。国際協力と多国間による取り組みも促進しています。
移民労働者に関する行動計画が採択された2004年の総会に至る道筋は次の通りです。まず、1997年4月に開かれた三者構成移住専門家会議では、期限付きで活動を行う移民労働者の特別保護措置及び民間斡旋業者が募集した移民労働者に対する特別保護措置に関する二つの指針が採択されましたが、同時にこの分野におけるILOの将来の活動として、関連する国際労働基準の総合調査を行うことや総会における一般討議の議題としてこの問題を審議することなども提案されました。そこで、1999年のILO総会に移民労働者に関連する2条約・2勧告を対象とした総合調査報告書が提出され、これらの文書の改正の必要性について話し合いが行われましたが、意見の一致が得られず、将来の方向性は総会における一般討議に委ねられることとなりました。
その後、2003年に出された人間の安全保障世界委員会の報告書でも、2004年に出されたILOのグローバル化の社会的側面世界委員会の報告書でも、世界規模の政策課題に関する提言のトップに移住問題が据えられ、多国間アプローチの必要性が唱えられました。
2004年のILO総会では、一般討議の結果、「グローバル経済における移民労働者の公正な処遇に関する決議」が全会一致で採択されました。この決議に含まれる行動計画の主な要素は以下の通りです。
★労働力移動に関する多国間枠組み
労働力移動の広がりと複雑化を伴う将来の大量移民時代は、統治のための新しい道具と明確なルールを必要としています。しかし、拘束力のある条約を批准することに各国は消極的です。新しい条約を採択するという選択肢もありますが、労働者グループは使用者及び政府側が基準を低下させる新条約の策定をもくろんでいるのではないかと危惧しました。さらに、現在ある移民関係の主な条約である移民労働者条約(改正)(第97号)が採択されたのは1949年、移民労働者(補足規定)条約(第143号)が採択されたのは1975年で、その後状況は大きく変わっています。当時は移住の仲介はほとんど国が行っていましたが、今は民間斡旋業者の活動が活発になっています。移民労働者に占める女性の増加はメイドのような弱い立場の労働者の増加をもたらし、非正規労働者の数も増加しています。こういった諸般の事情が拘束力のない多国間枠組みの必要性を喚起しました。
ILOには前述の第97号と第143号の二つの条約、国連には1990年に採択された全ての移住労働者及びその家族の権利保護に関する条約があり、それぞれの条約の批准国数は少ないものの、三つの条約のいずれかを批准している国は76カ国に上り、この数字は悲観すべきものではないように思われます。
2005年11月に政労使三者構成の専門家会議で採択され、2006年3月にILO理事会で承認されたILOの労働力移動に関する多国間枠組みの主な目的は四つあります。一つは労働力移動の管理とその統治をより効果的にすること、もう一つは移民労働者の保護の向上、そして人の移動と開発の連携を促進することで、これは新しい考えです。最後は国際協力と多国間の取り組み過程を強化することです。
この文書は、移民政策に関する国の主権を認めた上で、各国の移民政策を導く手段となることを目指した非拘束的なガイドラインと原則集で、労働安全衛生の分野でILOが今までに作成してきた実務規程のようなものです。これはまた、移民労働者の各種の権利や保護を規定した現在ある国際的な規範や原則に則り、移民労働者の権利を基盤としたアプローチを取っています。九つのテーマ(ディーセント・ワーク、労働力移動における国際協力の手段、世界規模の知識基盤、労働力移動の効果的な管理、移民労働者の保護、虐待的な移民慣行の予防とそのような行為からの保護、移民の過程、社会的な統合と包摂、移民と開発)からなり、15の大まかな原則とそれに対応する指針を含み、132の好事例集が添付されています。
ILOの多国間枠組みの特徴は二つあります。まず、非拘束的な指針と原則の枠組みであるという点です。移民政策とその管理についての指針と原則が包括的に集められた唯一の文書で、移住管理の国際的課題(International Agenda for Migration Management、IAMM)よりも広範な領域を扱っています。そして同時に、世界各地の好事例と国際文書にしっかりと裏打ちされています。また、一般的な人の移動ではなく、労働力移動だけについて取り上げ、送出国と受入国双方の関心事項に加え、移民労働者自身についても扱っています。さらに、社会対話の役割と移民政策における労使参加の価値を認めたものとなっています。
もう一つの特徴は、権利を基盤としているという点で、労働力移動とその管理に適用される国際条約に見られるあらゆる原則を盛り込んだものとなっています。これには移民労働者の基本的な権利、秩序ある移民プロセスの形成を支援する原則、政策策定における労使参加のための手段を確立する原則、各国が人の移動から恩恵を受けるのを支援するような原則が含まれます。
枠組みの内容に対しては批判がないわけではなく、主として先進工業国や欧州諸国から反対の声があがっています。第1に、規定し過ぎているという声があります。さらに非正規状態にある労働者に権利を与え過ぎているという声、国の主権を侵害している、労働者保護というILOが取り扱う領域を逸脱しているなどといった批判もあります。移民労働者の区分けについても、「正規(regular)」と「非正規(irregular)」、「一時的(temporary)」と「永続的(permanent)」といった用語の明確化を求める声もあります。
この枠組みを他の類似の文書と区別する特徴としては、1)幅広い国際規範を盛り込んだ権利を基盤とした文書であるという点、2)GCIMの行動原則よりも包括的な枠組みであるという点、3)労働力移動だけを扱っているという点、4)IAMMのように国家主導ではなく、政労使三者の話し合いと合意に基づいて作成されているという点、5)世界中の好事例にしっかりと裏打ちされているという点、6)IAMMやGCIMと異なり、ILO独自の実行とフォローアップのための手立てが組み込まれているといった点が挙げられます。
★フォローアップ活動
この多国間枠組みを普及させるために、英・仏・西のILOの公式言語3カ国語に加え、中国語・ロシア語といった言語への翻訳も進んでおり、ILO駐日事務所による日本語版の制作も現在進行中です。また、2004年の総会で採択された行動計画と多国間枠組みを支えるため、ILO事務局内でも部局を超えた取り組みが促進されています。グローバル移住問題グループ(Global Migration Group、GMG)などへの参加を通じて、関連する他の国際機関との対話と協働も続けています。技術協力計画にも組み込み、ディーセント・ワーク国別計画を通じた実施を奨励しています。さらに、政府のみならず、労使、とりわけ労働組合を通じて労働者、さらに市民社会とも協力して取り組んでいきます。
★移民に関するその他の国際的イニシアチブ
移民分野で見られるこの他の国際的イニシアチブとしては、スイス政府が国際移住機関(IOM)を事務局として進めたベルン・イニシアチブが2004年12月にまとめたIAMM、2005年10月に最終報告が出されたGCIM、2006年5月に初会合が開かれた、ILOを含む国際機関の協議体であるGMG、2006年9月に開かれた移住と開発に関する国連総会ハイレベル討議が挙げられます。2007年7月には、ベルギー政府の主催で移民と開発についての国際フォーラムが開かれる予定です。
このような国際的なイニシアチブのすべてが、中心的な事項として移民の権利を認めています。非拘束的な枠組みに含まれる原則及び指針は、各国が立法の枠組みを改善する際の参考資料として用いてもらえるものと期待されます。移民問題がますます開発と結びつけて論議されるようになってきていることは、この枠組みの原則のさらなる推進に資すると思われます。
講演パワーポイント資料(英語)----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/downloads/c20070315.pdf
国際労働力移動部(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/protection/migrant/index.htm
ILOの労働力移動に関する多国間枠組み(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/protection/migrant/download/multilat_fwk_en.pdf
2004年総会のグローバル経済における移民労働者の公正な処遇に関する決議----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/downloads/2004migration.pdf
条約・勧告日本語訳----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/list.htm
2004年5月24日付メールマガジントピック:国際労働力移動----->
http://blog.mag2.com/m/log/0000085098/90409889.html