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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説(2007年1月31日付第56号) |
ILOの現在の活動目標は、ディーセント・ワークと呼ばれる適切な人間らしい仕事をすべての人が得られる世界を形成することです。そして、労働基準及び働く上での権利、雇用、社会的保護、社会対話の四つの柱を通じて、この目標の実現に向けて活動しています。
★社会対話とは
社会対話は自由、平等、保障、人間の尊厳といった条件の下で、男女を問わずすべての人々がディーセント・ワークを得る機会を促進するというILOの目的達成においてカギとなる役割を果たしています。ILOでは社会対話を次のように定義しています。
「政府、使用者、労働者の代表が、経済・社会政策に関わる共通の関心事項に関して行うあらゆる種類の交渉、協議、あるいは単なる情報交換」
この概念は非常に広く、政府が公式に対話の当事者となる政労使三者間のプロセスとして存在することもあれば、政府が直接関与する場合もしない場合も含み、労使(または労働組合と使用者団体)の二者関係として構成されている場合もあります。社会対話の当事者は社会的パートナー(social partners)と呼ばれます。社会対話の場は、非公式の協議であっても、制度化された場であっても良く(両者が組み合わされる場合が多い)、全国レベル、地域レベル、企業レベルといった様々なレベルが考えられ、職業横断的な場合もあれば、産業別の場合も様々な組み合わせの場合も含まれます。
社会対話の主目的は、労働を媒介として存在する世界における主な利害関係者間の合意形成と民主的な関与を推進することです。社会対話の機構やプロセスが成功すれば、経済及び社会面の重要な問題の解決、良い統治の促進、社会や産業の平和と安定の増進、経済発展の推進といった潜在力の発揮が期待できます。
★社会対話を可能にする条件
社会対話を可能にする条件としては、次のようなものを挙げることができます。
★社会対話の形態
社会対話の機構はその構成によって規定されることが多く、春闘のような労使の二者構成、労働政策審議会のような政(公)労使の三者構成、さらに市民団体等が加わった三者プラスの構成が考えられます。三者と言った場合の主な構成は政府、使用者、労働者の代表ですが、時に、そして特定の国内情勢に応じて、より幅広い視点を取り込む努力の一環として、社会の他の活動体に対話の場を開放することや、社会の他の活動体の多様な見解を組み込んだり、より幅広いコンセンサスの構築を選択することもできます。
単純な情報交換活動からもっと発達した協議形態まで、社会対話は多様な形態を取ることができます。最も一般的な形態には次のようなものがあります。
◎情報交換
効果的な社会対話のための最も基礎的で不可欠な要素。それ自体は当該事項に関する真の議論や行動を意味するものではなくとも、対話や決定に至るプロセスの不可欠な一部となっています。
◎協 議
単なる情報の共有を超え、意見交換を通じた当事者の関与を必要とし、これはさらに、より突っ込んだ対話へとつながることがあります。二者または三者で構成される機関に参加した当事者は、交渉に従事し、協定を締結することもあります。協議と情報共有だけが目的の機構もあれば、拘束力のある協定を結ぶ権限を与えられている機構もあります。そのような使命を与えられていない社会対話機構として、大臣、立法機関、その他の政策策定者や意思決定者に対する諮問機関的役割を有する機構が挙げられます。
◎団体交渉
これは最も広く見られる社会対話形態であるだけでなく、社会対話と一体のものとして、社会対話に従事する国内の能力を示す有用な指標としてみることができます。団体交渉には企業、産業、地域、国家、さらには多国間の様々なレベルで従事することができます。
結社の自由と団体交渉権を基礎とした社会対話は、各国の文化的、歴史的、経済的、政治的背景を考慮に入れた形態を取り、一国から他国へそのまま輸出できるような「フリーサイズ」の社会対話モデルというものは存在しません。それぞれの国がこのプロセスを真に自分のものとするには、社会対話を国内状況に合わせることがカギとなります。社会対話に関する制度的な取り決め、法的枠組み、伝統、慣行は世界中で多様なものが見られます。
★社会対話の強化における社会的パートナーの役割
◎労働者
社会対話においては、労働者とその団体の役割が決定的に重要です。結社の自由と団体交渉権の実効的な承認は働く上での基本的な原則と権利であり、民主的なプロセスに不可欠です。社会対話は民主主義と人間の尊厳を職場に広めることによって労働者の利益を保護し、促進する貴重な手段になっています。これはまた、社会の合意と安定性を維持しながら、社会と経済の変化を管理する十分に効果が実証された手段でもあります。社会対話と団体交渉を通じて、労働者とその団体は自らの労働条件と賃金を改善し、多くの場合、団体交渉の範囲をさらに拡大し、職場における安全衛生や社会保障制度といった労働者保護の問題、労働者の教育や訓練、さらには企業経営における労働者参加等の事項を含むことに成功しています。
地元レベル、全国レベル、地域レベル、国際レベルといった様々なレベルで存在する労働組合組織は労働者が社会対話に参加する際の主な手段となっており、したがって働く人々が生活の質を向上させ、社会全体の公平で持続可能な発展を推進する上で不可欠な手段となっています。
◎使用者
他の機関や会員が個別には表明しない形で企業のニーズを表明することによって、使用者団体は社会が雇用と生活水準の目的を達成するのに必要な条件を整備するのを助ける重要な役割を演じています。使用者団体は企業の事業環境に影響を与え、個々の業績が高まるようなサービスを提供することによって企業の成功を高める支援を提供しています。企業に情報、助言、研修を提供することによって、使用者団体はその運営上の効率性に貢献しています。三者構成原則と社会対話におけるパートナーとして、使用者団体はディーセント・ワーク目標を下支えする関係と理解を構築する上で寄与できる大きな役割があります。
◎政 府
三者構成であろうと二者構成であろうと、労働行政が社会対話で演じることのできる主な役割は二つあります。
◇プロモーターの役割:ILOの国際労働基準の下では、労働行政には社会的パートナーとの協議を促進し、そのような協議が定期的で効果的であるよう確保する適切な措置を講じる責任が与えられています。社会的パートナーの参加を確保し、育成するため、政府主導のもと、各国個別の状況の中で具体的な手続きを設けることが提案されています。
◇主唱者の役割:労働行政は社会的パートナー間の対話を奨励する手段を提供します。公務部門における使用者の役割を含み、様々な役割を演じています。労働行政は意見交換を奨励し、議論を進め、自らの政策や活動に対する支援を得るために、パートナーとして三者構成原則に参加する必要があります。社会対話の内容は明らかに、単に「ILOの活動に関連した事項」に限定されず、全国レベルで労働行政の活動諸分野に関連したあらゆる事項を含み、とりわけ「労働を媒介とした世界において生産性を引き上げ、経済発展及び社会開発を推進する基本的な保障手段として社会平和を確保すること」が含まれます。全国レベルの協議に関する労働行政活動は、具体的に省庁組織に付属した協議機関の創設や持続可能性と効率的な機能確保を目指した常設事務局の設立を伴うことが提案されます。
★社会協定(social pact)
社会協定とは、社会対話が成功した場合の成果ですが、個々の国の政治、経済、社会、労使関係文化に根ざしたものであるため、その概念を正確に定義することは困難です。社会協定の形態、内容、成果は国によって、そして時代によって大きく異なります。しかし、団体交渉や労働協約と区別される共通の特徴がいくつか存在します。一つ目は国家、地域、地元の各レベルにおいて労使団体と一緒に国または公共機関が参加者となることです。非政府組織(NGO)のような他の活動体が参加する場合もあります。二つ目は、労使代表による団体交渉の領域である雇用条件よりもマクロ経済や社会政策関連事項に通常その焦点が絞られているという点です。第3に、社会協定は通常、経済・社会政策の主要な方向性に関する参加者間の合意を表しています。
社会協定に標準的な形はありません。実際、一方では覚書や趣意書に過ぎないような社会協定もあれば、対極には国が直面する社会・経済的問題に取り組む具体的な政策手段や措置を詳記した社会協定もあります。
全国レベルの社会対話とは、経済・社会政策に関わる共通の関心事項に関して政府、使用者、労働者の代表が行う対話です。いくつかの国では、このような対話に教会や、農民代表、市民社会の代表といった他の利害関係者が含まれています。これにはあらゆる種類の情報共有、協議、交渉、合議が含まれます。社会協定は、当事者がトレードオフを検討し、社会対話を通じて異なる利害を調整した後の合意を示すものです。
国が経済・社会面の大きな課題に直面している場合特に、社会協定はいくつかの国で異なる利害を調整する上で効果的でした。例えば、第二次世界大戦後、多くの欧州諸国で全国レベルの社会対話が広く実施されてきました。多くの国で政労使三者または労使二者の所得政策における合意が達成されましたが、これは概念的に社会協定と同義です。したがって、社会協定自体は新しい現象ではありません。しかし、過去20年間に欧州連合(EU)加盟国の中では全国的な経済・社会政策に関する社会対話が新しい方向に進化しました。社会対話はグローバル化、経済統合、そして単一通貨ユーロの導入準備における経済的・社会的課題に対処する重要な手段となりました。1990年代後半、欧州通貨統合への移行に続き、社会対話の焦点は経済競争力と社会正義を高めるより一般的な戦略の考案に向けて広げられました。多くの中・東欧諸国でも、計画経済から市場経済への移行における具体的な側面に対処するため、社会協定が締結されています。アジアや中南米、アフリカ諸国でも社会協定の例があり、これはこういった国々が金融危機、構造調整計画などから派生する課題に直面している時期に締結されました。社会協定は社会と経済の両面を調和させる形で、社会と経済の問題を効果的に管理するために用いられてきました。これは公共政策過程への労使団体のより密接な関与のための重要な機会を提供する手段となる可能性があります。
★三者構成原則(2003年10月8日付メールマガジン第17号トピック参照)
社会対話は、他の国際機関では見られない特徴である三者構成原則の形を取って、創立以来のILOの活動の中に根付いています。第二次世界大戦後にILOの目的を再確認したフィラデルフィア宣言(現在のILO憲章の附属書)では、次のようにこの原則が表明されています。
「欠乏に対する戦は、各国内における不屈の勇気をもって、且つ、労働者及び使用者の代表者が、政府の代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するために自由な討議及び民主的な決定にともに参加する継続的且つ協調的な国際的努力によって、遂行することを要する。」
この政府と使用者と労働者が対等の立場でもって討議し、決定に参加するという原則は、総会、理事会、産業別会合といったILO内のあらゆる討議の場で用いられています。また、いくつかの国際労働基準やILO総会で採択された決議もILOの技術協力活動に関連して三者構成原則と社会対話に言及しています。こういった文書は、技術協力の事業計画やプロジェクトにおける三者構成原則を目的そのものだけでなく、管理運営上のツールとしても規定しています。さらに、社会進歩に向けた措置の策定と実行における関係者の参加も呼びかけています。
★ILOの取り組み
社会対話は社会正義に加え、より良い生活・労働条件を推進する上でのILOの最善のメカニズムです。これは手段であり、様々な分野における良い統治のための道具であり、それはグローバル化のプロセスだけでなく、一般的に経済の成績と競争力を高めるあらゆる努力、そして社会一般をより安定したより公平なものにするためのあらゆる努力に深く関わっています。
◎2002年ILO総会決議
三者構成原則と社会対話はILOのディーセント・ワーク目標の不可分の要素であり、それを達成するための不可欠な経路でもあります。2002年の第90回ILO総会で採択された三者構成原則と社会対話に関する決議は、加盟国政府に対し、社会対話のための必要な前提条件の存在確保を求めていますが、これには結社の自由と団体交渉の基本的な原則と権利の尊重、健全な労使関係環境、社会的パートナーの役割の尊重が含まれています。そして、政府及び労使団体に対し、三者構成原則と社会対話が見られないか、ほとんど存在しない部門を中心に、それを促進し、高めていくことを求めています。
◎国際労働基準
社会対話に関するILOの条約及び勧告には、結社の自由や団体交渉に関する結社の自由及び団結権保護条約(第87号)や団結権及び団体交渉権条約(第98号)、農業従事者団体条約(第141号)、三者間協議に関する三者の間の協議(国際労働基準)条約(第144号)と三者の間の協議(国際労働機関活動)勧告(第152号)、労働者代表に関する労働者代表条約(第135号)、労使関係に関する労働関係(公務)条約(第151号)や団体交渉条約(第154号)、労働協約勧告(第91号)、任意調停及び任意仲裁勧告(第92号)、企業における協力勧告(第94号)、企業内コミュニケーション勧告(第129号)、苦情審査勧告(第130号)といったものがあります。
また、多くのILOの条約及び勧告が労使と協議した上での活動を求めています。例えば、最低賃金決定条約(第131号)及び同勧告(第135号)は、最低賃金を決定する制度の対象となる賃金労働者のグループを決定するに当たっても、最低賃金設定の仕組みの樹立、運営、変更に際しても労使の幅広い参加を求めています。
人的資源開発勧告(第195号)は、社会対話に基づいて、国内の人的資源の開発、教育、訓練及び生涯学習政策を策定し、適用し、再検討することや、社会的パートナーの参加を得て、国内、地域、地方並びに産業部門及び企業の各段階における訓練政策のための指導的枠組みを策定するとともに、教育及び訓練のための国家的戦略を明確にすべきことなどを提案しています。昨年採択された雇用関係勧告(第198号)では、とりわけ国家のレベルで雇用関係の範囲に関する問題の解決を探るための手段として、団体交渉及び社会対話の役割を促進すべきことが提案されています。
条約・勧告以外では、2003年に開かれた公務緊急サービス合同会議で、警察、消防、救急医療の分野で働く公務員向けに、こういった人々が変化する環境の中で質の高いサービスを提供していく基盤となる社会対話のメカニズムに関する指針が採択されています。保健医療部門でも社会対話に関するハンドブックや手引きが発行されています。
◎組 織
ILO事務局内で社会対話に関する活動は社会対話総局が担当しています。総局内も三者構成を取り、労働者活動、使用者活動、そして社会対話・労働法・労働行政・部門別活動を担当する部局の三つに分かれています。
◎技術協力
ILOでは、加盟国政労使が様々な労働問題に対処し、最も的確で決定的に重要な問題に参加することによって社会対話を強化していくことを望んでいます。
グローバル化の課題に対する適切な対応を求める国際社会の努力の中で、社会対話の妥当性がますます認識されるようになってきています。この分野における古くからの伝統と能力を有する機関として、ILOは意思決定における対話、パートナーシップ、参加型アプローチの育成における主導的役割を演じる格好の位置に立っています。具体的には以下のような支援を提供しています。
現在はディーセント・ワーク課題を実現する手段として三者構成原則と社会対話を強化する活動に重点が置かれており、労働担当省庁の再編や労働法の策定に際して三者協議が組み込まれるよう助言を提供したり、使用者団体のサービス能力向上、拡大努力、政策影響力強化に対する支援、労働組合の能力強化などといった技術協力が提供されています。
例えば、2001、2002年の経済危機の時代に、ILOは経済・社会審議会の設立に向け、アルゼンチンの政府及び労使代表と密接に協力しました。選挙の結果誕生した新政権は審議会の設立を優先事項と見なさず努力は挫折しましたが、それまでの活動は最低賃金審議会における社会対話機構の充実や個別産業における団体交渉の奨励といった形である程度結実しています。また、ILOの助言を受け、貧困問題解決に向けた国際支援を要請する際の基礎文書として支援要請国が作成する貧困削減戦略文書(PRSP)の作成過程に多くの国で労使の参加が図られています。
◎出版物・調査研究
社会対話総局のウェブサイト内には、企業レベルの社会対話の成功事例集や欧州における雇用政策分野での全国的社会対話といった個別の事例・調査研究文書から、社会対話資料集や研修マニュアルのような実用ツールまで、社会対話や社会協定に関し、過去に行われた様々な調査研究の成果や各地で実施されたプロジェクトの成果文書が多数掲載されています。
社会対話総局(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/dialogue/index.htm
条約・勧告日本語訳----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/list.htm
2003年10月8日付メールマガジン第17号----->
http://blog.mag2.com/m/log/0000085098/75746924.html?page=2