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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説(2006年12月28日付第55号) |
去る11月24〜25日に、ILOは条約勧告適用専門家委員会の創設80周年を記念し、「人権としての労働者の権利の保護:国際的な監視の現在と未来」をテーマとする国際討論会を開催しました。国際司法裁判所判事など様々な国際人権機関で活躍する人々や国際法の国内適用の問題を専門とする法学者らの出席を得て、討論会では幅広い視野から議論が展開されました。
1919年の設立以来、ILOは常に国際法、より正確に言うと国際労働基準(条約・勧告)を、社会正義を推進する手段に用いてきました。これまでにILOが採択した条約は187、勧告は198に上ります(撤回、棚上げ、その他改正され、実質的に機能していないもの等も含む)。当初から、基準に実効力がないと社会正義の目標達成も難しいことが感じられており、ILOは条約と勧告の実際の効果を評価する様々な監視の仕組みを徐々に確立してきました。1926年に設立された条約勧告適用専門家委員会は、加盟国から提出される条約の適用状況に関する報告書の審査を任務としています。
★専門家委員会の成り立ち
1919年のILO設立時に採択されたILO憲章は、加盟国の義務として、批准条約についての国内慣行に関する定期報告の提出を定めていましたが、報告書を審査する監視機構については何の規定もありませんでした。そこで最初の頃は、ILO総会がこの任務を担っていました。しかし、毎年新しい基準が採択されることに加え、批准数やそれに伴う提出報告書数が増加していったこと、そして中立の立場での専門的な分析の必要性が感じられるようになったことから、1926年に開かれた第8回総会で報告書の審査を担当する委員会の設置を定める決議が採択されました。このようにして誕生した条約勧告適用専門家委員会と総会の基準適用委員会は共に、基準適用の定期的な監視と適用促進に向けた中心的な機関へと成長しました。
★専門家委員会の任務と活動
委員会の設立につながった1926年の総会決議は、専門家委員会の目的を批准条約に関する報告書の「最善かつ最大限の活用」に置いていました。その後、1946年の憲章改正に伴い、1947年の第103回理事会で専門家委員会には新たに、1)新たに採択された条約及び勧告を国内の権限ある機関に提出する政府の義務に関する情報の検討、2)非本土地域における条約適用状況の審査、3)未批准条約及び勧告の効果の検討といった新たな任務が加えられました。この他にも、例えば欧州社会保障法批准国からの報告書審査のように、他の国際機関で採択された文書に関わり一定の機能を果たすことを求められる場合もあります。
専門家委員会の活動方法も時と共に次第に進化してきました。例えば現在、加盟国は条約が発効した次の年に第1回目の詳細な報告をILOに提出することが求められていますが、専門家委員会は1949年からこの報告書に特別の注意を払っています。1959年には原則2年周期で詳細な報告を行うことを提案し、それがその後慣例となりました。1993年に理事会は報告システムを変更し、結社の自由・団体交渉、強制労働、均等待遇、児童労働、雇用政策、労働監督、三者協議の7分野12の「優先」条約については詳細な報告書を2年おきに、棚上げされたものを除くその他全ての条約については、条約の適用に影響する大きな変化があったときは詳細な報告書を提出することを条件に、簡単な報告書を5年おきに提出するよう求めることに決めました。ただし、監視機構は必要な場合、追加的な報告書の提供を請求することができます。政府は代表的な労使団体に報告書の写しを提出することが求められています。これらの団体は政府の報告書にコメントすることができます。労使団体はまた、条約の適用状況に関するコメントをILOに直接送付することもできます。
1927年5月に開かれた専門家委員会の初会合では、55の加盟国中26カ国から寄せられた批准条約の適用状況に関する180の報告書を3日間にわたって審査しました。当時存在していたのは条約23、勧告28で、批准総数は229でした。現在、専門家委員会はその報告書が総会に提出される前年の11〜12月に3週間近くにわたって非公開の会合をもち、3,000近い報告書を審査しています。
専門家委員会の活動方法は報告書の審査だけに限られません。創立40周年を迎えた1967年に専門家委員会が行った提案を受け、翌1968年から直接接触(direct contacts)の手続きが導入されました。この手続きに基づき、ILO事務局長は、条約勧告適用専門家委員会や総会の基準適用委員会などの提案に応え、条約適用における困難を克服することを目指し、政府と労使団体との対話を図るため、事務局長代理を現地に派遣することがあります。
創立60周年を迎えた1987年に、専門家委員会はその活動内容を再検討し、委員会の任務は、批准条約の条項及びILO憲章に基づき加盟国が引き受けた義務に各国の法及び慣行がどの程度まで沿っているかを指摘することにあると再言しました。国内法と条約規定との整合性を審査する過程で、専門家委員会はしばしば準司法機関的な役割を演じてきましたが、ILO条約の最終的な解釈を行う権限は憲章上、国際司法裁判所にあります。
専門家委員会は2001年に創立75周年を機に、小委員会を設置して活動方法やあらゆる関連事項の検討を行うことを決定しました。2002年に発表された小委員会の最初の結論では、専門家委員会がその活動を遂行する上で、独立性、中立性、客観性を維持する必要性が改めて強調されました。また、専門家委員会とその活動の影響力と認知度を上げるため、委員は適当な場合、現地視察に参加することや自らの活動に関連した分野で研修セミナーや国際会議に貢献することへの関心を表明しています。
★専門家委員会の構成
条約勧告適用専門家委員は、事務局長の提案を受け、再任可能な3年の任期で理事会によって任命されます。委員は完全に中立な法律専門家の中から、その専門能力や独立した立場をもとに個人の資格に基づき任命されます。1927年の最初の委員は8人で構成されていましたが、今は定数が20人になっています。国際労働基準の適用状況に関し、中立な立場で専門的な評価が行えるよう、委員の出身地域、専門とする法体系、文化的背景の適正なバランスが確保されるよう配慮されています。現在はオーストラリアのサウスオーストラリア州最高裁判所判事の女性が委員長を務めています。歴代の委員には高名な法律家が多数名を連ね、ガリ元国連事務総長も委員だったことがあります。日本からは1962年に栗山茂元国際司法裁判所判事が初めて任命されて以来、常に1人は在任している状況が続いており、2003年に就任した現在の横田洋三中央大学教授で7人目となっています。
★専門家委員会の報告書
専門家委員会はILOに届けられた政府報告書及び労使団体のコメントを審査し、その結果を報告書にまとめ、総会に提出します。報告書は3部構成になっており、第1部の一般報告には、国際労働基準に関する最近の動き、加盟国による憲章上の義務の尊重状況や専門家委員会が特に強調したい事項などが含まれ、第2部に各国の批准条約適用状況に関する専門家委員会の意見が掲載され、第3部は未批准条約・勧告に関する総合調査となっています。
専門家委員会による批准条約の適用状況に関するコメントの方法は2種類あり、一つは意見(observation)で、もう一つは直接請求(direct request)です。上述の専門家委員会報告書第2部として公表される意見は、批准条約の適用状況について見られる主要な問題点に関する委員会のコメントです。報告書が大部になることを避けるため1957年から導入された直接請求は、もっと技術的な問題に関する事項や詳しい情報の請求を内容とし、報告書には掲載されず当該国政府に直接送付されます。
例えば、今年の報告書では、日本については、結社の自由及び団結権保護条約(第87号)、職業安定組織条約(第88号)、団結権及び団体交渉権条約(第98号)、放射線からの保護に関する条約(第115号)の4条約について専門家委員会の意見が見られます。例えば、第87号条約に関しては、消防職員の団結権否定、公務員のスト禁止、公務員制度改革、医療機関における労働組合活動の制約といった事項が取り上げられ、消防職員の団結権と国家の名の下で権限を行使しているのではない公務員及び厳密な意味での必要不可欠業務に従事しているのではない労働者のスト権については、いずれも保障されるべきとして、それぞれを確保する何らかの法的措置の可能性について政府は次の報告で示すよう求めています。そして、公務員制度改革のプロセスはそのような問題に対する協議の機会を提供するものとして、政府があらゆる必要な措置を講じ続けることを期待すると記しています。
1964年から、専門家委員会は政府が委員会のコメントに応え、批准条約により十分な効果を与えるため、法慣行に変化を加えた事例を「進展事例(case of progress)」と称して報告書に記録するようになっています。2006年の報告書で、専門家委員会は41カ国55条約について「満足の意を表明」しています。日本の第115号条約についてのコメントもこれに当たり、条約は電離放射線から労働者を効果的に保護することの確保を求めていますが、2001年3月の電離放射線障害防止規則の改正によって、放射線業務従事者の被曝限度が変更されたことや緊急作業時における被爆限度が規定されたことに満足の意を表明しています。
さらに、2000年からは、講じられた措置に「関心をもって留意する」との表現も用いられるようになっています。この表現は法案の国会提出、新たな政策の策定といった、今後進展が期待される状況が見られる場合に用いられ、2006年の報告書のもととなった2005年の専門家委員会の会議では103カ国289の事例についてこのような表現が用いられました。前述の日本の第115号条約、そして直接請求が行われた三者の間の協議(国際労働基準)条約(第144号)がこれに含まれ、第144号条約については、今年採択された海事労働条約に関する政労使の協議の場の設置が評価され、今後の活動に対する期待が表明されています。
★基準適用の促進に向けたその他の仕組みと専門家委員会
◎総会の基準適用委員会
通常12月に採択される専門家委員会の報告書は翌年6月に開かれるILO総会に提出され、総会の基準適用委員会で審議されます。この総会の常設委員会は、政府、使用者、労働者の三者で構成され、専門家委員会の報告書の中からいくつかの案件を選択し、当該国の政府を招き、詳しい情報提供を求めます。多くの場合、総会委員会からは政府に対し、問題解決に向けた具体的な措置を講じることやILOの技術支援を活用することが提案されます。総会委員会の議論と結論は総会議事録として公表されます。特に懸念される状況については、特別の段落にまとめて強調されます。
専門家委員会と総会委員会は同時に誕生し、問題への取り組み方は違うものの緊密な協力関係が築かれています。専門家委員会は意見をまとめる際に総会委員会の審議を十分参考にします。近年は総会の審議に専門家委員会の委員長がオブザーバーとして出席しています。また、専門家委員会の審議は通常非公開ですが、総会委員会の労使副議長が招待され、見学してもいます。
◎憲章上の申立て及び苦情
ILO憲章には、条約の適用状況に関して苦情を申し立てる手続きが二つ規定されています。専門家委員会はこれらの手続きに付されている案件にも十分注意を払っています。
<申立て(representation)>
憲章第24・25条に規定される申立ては、労使の産業上の団体が、いずれかの加盟国が、「当事国である条約の実効的な遵守をその管轄権の範囲内において何らかの点で確保していない」とILO理事会に提起できる手続きです。理事会は申立てを受理すると3人からなる理事会の政労使委員会を設置し、その申立てと当該国政府の弁明を審査します。政労使委員会は当該案件の法及び実務的な側面を明らかにし、提出された情報を検討し、勧告を含む結論を記した報告書を理事会に提出します。政府の弁明が満足できるものでないと思われる場合、理事会は申立てと弁明を公表する権利があります。結社の自由と団体交渉に関する第87号及び第98号条約の適用に関する申立ては、通常、後述の理事会の結社の自由委員会に付託されます。
<苦情(complaint)>
憲章第26〜34条に規定される手続きでは、ある加盟国が批准条約の実効的な順守を確保していないとして、同じ条約を批准している政府、ILO総会代表、理事会が苦情を申し立てることができます。苦情を受理した場合、理事会は3人の独立した委員で構成される審査委員会を設置します。審査委員会は苦情を徹底的に調査し、あらゆる事実を確認し、苦情が提起された問題に対処するために講じるべき措置に関する勧告を行います。審査委員会の報告書は公表され、当該国政府はその勧告を受諾するか、国際司法裁判所に上訴することができます。審査委員会はILOの最高レベルの調査手続きで、長期にわたって重大な違反があり、当該国がそれに取り組むことを繰り返し拒否した場合に通常設置されます。1996年に強制労働条約(第29号)違反で苦情が申し立てられたミャンマーを含む11の案件について審査委員会がこれまでに設置されています。
当該国が審査委員会の勧告に従おうとしないとき、理事会は憲章第33条に基づく手続きに進むことができます。これは当該国が、審査委員会の報告書または国際司法裁判所の決定に含まれている勧告を、指定された期間内に履行しなかったときに、理事会が、勧告の履行を確保するための適宜と認める措置を総会に勧告することができる、というものです。第33条の規定は、ILO歴史上初めて2000年に前述のミャンマーについて発動され、理事会は総会に対してミャンマーが強制労働の使用を止めるように導く措置を講じることを求めました。
◎結社の自由委員会と実情調査調停委員会
結社の自由と団体交渉は、ILOの基幹原則の一つで、結社の自由と団体交渉に関する第87号及び第98号条約を採択して間もなく、ILOは関連条約が未批准の国でも結社の自由原則の順守を確保するにはさらなる監視手続きが必要であるとの結論に達し、1950年に結社の自由に関する実情調査調停委員会(Fact-Finding and Conciliation Commission on Freedom of Association)、そして1951年に理事会の結社の自由委員会(Governing Body Committee on Freedom of Association)を設置しました。結社の自由委員会は当初、結社の自由の侵害に関する申立ての予備審査を行う機関として設立されました。当初の役割は、問題の申立てがさらなる審査に値するかどうか、そして適当な場合、実情調査調停委員会に付託するかどうかを決定することでしたが、実際には調査調停委員会の手続きが用いられることはほとんどなく、結社の自由に関する条約未批准国に関する申立ても審査できる結社の自由委員会が実際上、申立ての内容まで審査するようになりました。
労使団体は当該国が関連する条約を批准しているか否かに無関係に苦情を申し立てることができます。結社の自由委員会は理事会の一委員会で、政労使各3人の理事と独立した委員長の10人で構成されています。案件を受理すると決定した場合、委員会は当該国政府との対話の中から事実を確定し、結社の自由に関する基準または原則の侵害があったと認定した場合、理事会を通じて報告書を発行し、事態の打開を図るための勧告を行います。その後、政府は勧告の実施状況について報告するよう求められます。当該国が関連する第87号または第98号条約を批准している場合には、案件の法的側面は専門家委員会に付託されることがあります。結社の自由委員会も当該国政府に直接接触を提案し、対話のプロセスを通じて政府と労使が問題に直接取り組めるよう手配することがあります。結社の自由委員会に付託された案件は既に2,500件を超え、日本からも国労などによるJRによる組合員差別不採用の申立てや連合、全労連などによる公務員制度改革に関連した申立てなど、過去に32件の申立てが行われています。また、1964年に実情調査調停委員会が最初に設置されたのは日本の案件についてで、これは翌1965年の結社の自由及び団結権保護条約(第87号)の批准に結びつきました。
専門家委員会は結社の自由委員会で採択された結論や勧告に定期的に言及しています。また、当該国が第87号または第98号条約批准国の場合には、結社の自由委員会はフォローアップが必要な法律問題に関して結社の自由委員会が達した結論を専門家委員会に示します。このような委員会同士の交流は、専門家委員会が共通の問題に対する解決策に向けて動き出す実りある対話に参加することを可能にしています。
◎1998年宣言フォローアップ
1998年の総会で採択された「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」は、労働者の基本的な原則と権利(結社の自由及び団体交渉権、強制労働の禁止、児童労働の廃絶、雇用及び職業上の差別の撤廃)に関し、ILO加盟国は関連する条約(第87・98号、第29・105号、第138・182号、第100・111号)を未批准の場合でも、「誠意をもって、憲章に従って、これらの条約の対象となっている基本的権利に関する原則」を尊重する義務を有することを宣言しています。宣言に付属するフォローアップは、関連条約未批准国からの年次報告と宣言の対象となっている四つの分野について毎年一つずつ順番に取り上げるグローバル・レポートの二つの手続きを規定しています。
未批准条約報告書は事務局が編纂し、理事会で審議されます。理事会が任命した専門家グループが各国の未批准条約報告書を事前に検討し、序文を作成します。グローバル・レポートは事務局長の責任で作成され、公式情報や専門家委員会に提出されている条約適用状況の定期報告、前記の未批准条約報告書などをもとに、過去4年間の当該分野の状況を世界規模で概観し、ILOが提供した支援の効果を評価した上で、今後の技術協力の優先事項を確定する基礎資料になります。
◎未批准条約・勧告
国際労働基準は国際社会で採択された普遍的な文書で、仕事に関連した事項の共通の価値と原則を反映したものになっていますが、条約を批准するか否かは加盟国の意思にゆだねられています。ILOでは、条約批准の有無にかかわらず、全加盟国における進展状況を追跡することを重要視しています。そこで、憲章には、理事会の要請に基づき、特定の条約または勧告に関わる事項に関する自国の法律及び慣行の現況を、適当な間隔をおいて、加盟国はILOに報告する義務が定められています。報告の様式は理事会が定め、関連する規定に効果をもたせるために講じた措置や、条約の場合には批准を遅らせるか妨げている障害を示すよう求めています。
このようにして集められた各国政府からの報告書及び労使団体から伝達された情報をもとに、専門家委員会は毎年、その選択されたテーマに関し、加盟国の国内法及び慣行に関する掘り下げた総合調査(General Survey)報告書を作成しています。この報告書は専門家委員会が条約及び勧告の影響を検討し、適用を妨げる問題点を明らかにし、そういった障害を克服する手段を探求する基礎になっています。条約・勧告を解釈する最終的な権限は国際司法裁判所に付与されていますが、専門家委員会の総合調査報告書は一種のコンメンタールと言え、実際の適用の際の幅広い指針を提供しています。総会におけるこの総合調査報告書の審議は、関連する条約・勧告の改正や将来的な総会の議題を決定する基礎になる場合もあります。
今年の総会に報告書が提出された2005年の総合調査は労働監督について行われ、労働監督条約(第81号)を始め、この分野の条約2、議定書1、勧告3が対象になりました。最近の総合調査のテーマには、労働時間、雇用政策、賃金保護、港湾労働、工業における女性の夜業、三者協議、移民労働者、結社の自由及び団体交渉、雇用及び職業上の均等、同一賃金といったものがあります。今年は強制労働、来年は公契約における労働条項が対象になっています。
★専門家委員会の活動の効果
1964年から専門家委員会が報告書に特記している進展事例の数は次第に増え、2006年の報告書までで、専門家委員会が満足を表明した案件は総数2,500件に迫ろうとしています。このような進展は、専門家委員会の影響力を如実に示していると言うことができます。
例えば、アラブ首長国連邦やカタールでは、ラクダレースで子ども騎手を用いる慣行がありました。毎月推計30人の12歳未満の少年が東アジアやアフリカからアラブ首長国連邦に送られ、長時間労働を強制されていました。専門家委員会は何年にもわたり、この状況を指摘してきました。2001年の総会委員会でこの案件が取り上げられ、政府は18歳未満の子どもが人身取引の被害者として国内に連れてこられることがないよう措置を講じ、ラクダレースの騎手として18歳未満の子どもを雇用するのを禁止し、違反者を厳罰に処すことを求められました。2003年10月に総会委員会の要請を受け、政府はILOの直接接触を受け入れ、2005年に連邦法を公布し、ラクダ騎手の就業最低年齢を18歳に引き上げ、違反者は3年の禁固もしくは5万ディルハムの罰金またはその両方に処するとしました。カタールでも2005年に同様の法が制定され、子ども騎手に代えて小型ロボットの導入が試みられています。
専門家委員会には加えて、予防的な監視の力もあります。例えば、法案を比較分析し、ある規定が条約に抵触する可能性を指摘することによって法の成立以前に当局が必要な修正を加えることを可能にし、その後の適用問題の発生を未然に防止することもあります。このような専門家委員会の影響力は評価することが困難です。前述のようなILOに存在する様々な監視機構と協力し合うことによって相乗的な効果が生まれてもいます。
★技術支援・訓練
ILOの活動は批准条約の適用監視に留まりません。各国が法及び慣行上の問題に対処し、それらを批准条約に沿ったものにするため、ILO職員その他の専門家が様々な形態の技術支援を提供しています。技術支援には、ILO職員が政府職員と直接顔を合わせ、解決策を探すため、基準適用の問題点を話し合う助言提供や直接接触、セミナーや国内ワークショップの開催による基準啓発活動、国内関係者の基準活用能力の増強、あらゆる人々に裨益するように基準を適用する方法に関する技術助言の提供などといったものがあります。ILOはまた、各国が基準に沿った国内法制を整備できるよう支援を提供してもいます。
トリノにあるILO国際研修センターでも、政府職員、使用者、労働者、弁護士、裁判官、法学教師など立場別の国際労働基準研修に加え、労働基準・生産性向上・企業育成、国際労働基準とグローバル化、女性労働者の権利といったテーマ別専門コースも開講しています。
★専門家委員会の活動に関する情報源
専門家委員会の事務局はILO国際労働基準局が務めています。同局のホームページでは、国際労働基準の適用監視の仕組みや各種の手続き、条約・勧告の解説など国際労働基準に関する様々な情報が掲載されています。国際労働基準ガイドや各種手続きハンドブック、社会保障・結社の自由・船員などテーマ別の掘り下げた研究書・論文も見ることができます。
国際労働基準局が管理するデータベースILOLEXでは、過去に採択された全条約・勧告の原文、国別・条約別の批准情報、専門家委員会や総会委員会、結社の自由委員会など各種監視機構の報告書、事務局が非公式に提供している条約・勧告の解釈、総合調査報告書、条約・勧告に含まれる用語の定義、労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言に基づく各種フォローアップ文書、多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言及び各種フォローアップ文書、各国の国内労働・社会保障法制情報が、英仏西3カ国語で掲載され、基準関連のほぼあらゆる情報がオンラインで入手できるようになっています。
国際労働基準局(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/standards/norm/index.htm
ILOLEX(英・仏・西語)----->
http://www.ilo.org/ilolex/english/index.htm
条約・勧告日本語訳----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/list.htm
グローバル経済のためのルール−国際労働基準の手引き----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/downloads/2006rule.pdf