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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説(2006年8月31日付第51号) |
★世界の先住民の国際デー
8月9日の世界の先住民の国際デーに際し、ソマビアILO事務局長は、世界全体で約3億5,000万人になる先住民及び種族民の権利尊重並びにそれらの人々が労働の世界に社会的・経済的にあまねく包摂されるよう推進することに向けたILOの公約を再言するメッセージを発表しました。事務局長はさらに、2006年6月30日に閉幕した第1回国連人権理事会で先住民の権利に関する国連宣言案が承認されたことを、先住民の国際的な人権推進における画期的出来事として歓迎し、2005年から開始されている第2回「世界の先住民の国際の十年」の行動計画に対するILOの貢献として、ILOの先住民及び種族民条約(第169号)を行動と対話の基盤として推進していくことに焦点を当て、実践的な情報ツールを通じて、条約の原則の実行における経験を幅広く共有する予定であると述べました。宣言案は今年末に開かれる国連総会に採択を求めて提出されます。
★ILOの先住民・種族民関連活動の歴史
ILOは第一次世界大戦後の1919年に創設されましたが、先住民・種族民分野における活動はILO創設後間もない20年代から開始されました。最初は、主として労働者としての先住民・種族民の役割が関心事項で、こういった人々が先祖伝来の領地から追放され、季節労働者、移民労働者、債務奴隷労働者、在宅形態の労働者と化すことによってILOの任務の枠内にある各種形態の労働搾取にさらされる場合の保護が重視されました。この流れの中で、ILOはまず、早くも1921年から、欧州強国の海外植民地におけるいわゆる「原住民労働者」の状況に取り組み始めました。この成果の一つが1930年に採択されたILOの強制労働条約(第29号)です。
1945年に国際連合が創設された後、ILOは先住民労働者に関する検討の幅を広げ、先住民・種族民一般に関わる問題を取り上げるようになりました。1952〜72年に国連、国連教育科学文化機関(ユネスコ)、世界保健機関(WHO)と共同で実施された多面的な開発計画であるアンデス・インディアン計画にILOは主導機関として参加しました。この計画が支援した中南米の先住民は25万人を上回りました。この計画の開始後間もなくして、ILOは他の国連機関の参加も得て、これらの人々のための条約の採択に向けた作業を開始し、1957年に先住民・種族民に特化した初の国際条約として、先住民・種族民条約(第107号)を採択しました。
その後、60年代・70年代に先住民・種族民の意識が高まり、国際的な活動への参加が進むにつれ、第107号条約の統合主義的な手法に非難が集まり始めました。70年代に国連は先住民・種族民に関わる事項をより詳しく吟味し始め、それと同時に先住民の国際的な組織化が始まりました。1982年には国連に先住民に関する作業部会が設置されました。こういった活動の結果、第107号条約の改正を求める声が高まり、1989年に、先住民・種族民の生活様式は生き残らせるべきで、生き残るであろうとの基本的な概念を含む先住民・種族民条約(第169号)が採択されました。
1989年の総会では同時に、先住民・種族民の権利推進に向けて取り得る活動形態を概説する、先住民・種族民に係わるILOの活動に関する決議も採択されました。決議は、新しい条約の批准や先住民・種族民が条約に関する見解を表明できる適切な協議機関の設立などを国に求めています。ILOに対しては条約の批准促進や政府の支援、技術協力計画の開発などを求めています。
先住民・種族民分野のILOの活動は大きく二つに分けられます。一つは基準の採択と適用監視、もう一つは先住民・種族民及び国家に対する支援です。
★先住民・種族民関連条約
先住民・種族民の権利のみに限定した発効文書を有する国際機関はILOだけです。1957年に採択された第107号条約と1989年に採択された第169号条約がこれに当たります。このほかにも、日本も批准している1936年採択の土民労働者募集条約(第50号)や募集排除勧告(第46号)、1939年採択の雇用契約(先住民労働者)条約(第64号)と同名の勧告(第58号)、刑罰(先住民労働者)条約(第65号)、1944年採択の属地社会政策勧告(第70号)、1945年採択の属地社会政策(補足的規定)勧告(第74号)、1947年採択の雇用契約(先住民労働者)条約(第86号)、1955年採択の刑罰廃止(先住民労働者)条約(第104号)といった基準がありますが、いずれも内容が時代遅れであるとして、現在、条約は棚上げ、勧告は撤回されています。
◎最初の条約−第107号条約
1952年にアンデス・インディアン計画が開始されてから間もなくして、ILOは先住民・種族民のための国際基準の採択に向けた作業を開始し、1957年に先住民・種族民条約(第107号)とそれを補足する同名の勧告(第104号)を採択しました。先住民・種族民に関して採択されたこの初の国際条約は、その後米州諸国を中心に27カ国に批准されています。
第107号条約は依然18カ国で効力を持っていますが、もはや批准のために開放されていません。後述のように、第107号条約に置き換わる第169号条約が採択されたため、第169号条約を批准した第107号条約批准国においては第107号条約は自動的に廃棄されています。
第104号勧告には、後述の第169号条約にも取り上げられていないいくつかの事項が含まれています。例えば、土地使用の条件について、法律上の条件に加え、事実上の条件を規制するため、立法上または行政上の措置を講じることを提案しています。また、先住民・種族民の農民の負債をなくす適切な措置を採用することや、先住民・種族民の相互扶助と地域社会サービスの伝統的な仕組みや伝統的な所有形態に近代的な協同組合方式を適応させることも提案しています。先住民・種族民の労働者の募集と雇用条件に関する詳細な規定も含まれています。
◎2番目の条約−第169号条約
時が過ぎ、世論も変化し、第107号条約の弱点が徐々に注目を集めるようになりました。とりわけ、条約がより大きな社会への統合を先住民・種族民の唯一可能な将来と見なし、開発に関するあらゆる決定は最も影響を受ける人々ではなく、国家の関心事項とする点に非難が集まりました。第107号条約は統合主義的文書としてその意味が問い直され、改正を求める声が聞かれるようになりました。第107号条約更新の時機が到来したのです。
1986年にILO理事会によって招集された専門家委員会は「条約の統合主義的手法は時代遅れであり、現代世界におけるその適用は望ましくない」との結論に達しました。これを受けて、理事会は第107号条約の改正議題を1988年と1989年の総会に上程し、1989年に、先住民・種族民条約(第169号)が新たに採択されました。第169号条約の基本理念は、この条約を第107号条約と区別する大きな特徴点となっています。第107号条約では、先住民・種族民が暮らしている国の中に統合され、その存在が次第に見えなくなっていくと仮定していたのに対し、第169号条約は総合的に先住民・種族民の文化及び生活様式を尊重する姿勢を取り、継続的な存在の権利とこういった人々自身の優先事項に応じた開発の権利が強調されています。もう一つの抜本的な変更点は、新条約が、こういった人々及びその伝統的な組織は自分たちに影響する開発事業の計画立案及び実行、さらには実際、条約適用に向けて講じられるあらゆる措置に密接に関与すべきであるとの前提に立っている点です。
この新しい文書は現在17カ国に批准され、多くの国でこれらの人々に関わる政策や国内論議の基礎を形成しています。この条約は最低限の国際的な基準を定めると同時に、さらに高い基準を目指す国がその方向に向かう余地を残しています。第169号条約は、政府、先住民・種族民団体、その他の非政府組織(NGO)といった全ての関係当事者を一つの対話の席に着かせようとしています。
◎第169号条約の主な規定
第169号条約は、1)一般政策、2)土地、募集及び雇用の条件、職業訓練、手工業及び農村工業、社会保障及び保健、教育及び伝達の手段、国境を越える接触及び協力といった6項目を含む実体部分、3)行政、の三つの主な部と25条の実体規定から構成されています。条約は、先住民・種族民の定義を明記しておらず、伝統的な生活様式、言語・風習など国民の他の部分と異なる文化や生活様式、独自の社会組織や伝統的な風習及び法などの要素を有する人々の保護を目指すと規定し、先住民・種族民としての自己認識を基本的な適用基準としています。
一般政策として、批准国は自国内の先住民・種族民の権利を保護し、推進すべきこと、先住民・種族民の慣行及び伝統を尊重すべきこと、先住民・種族民は権利の侵害から保護され、そのための法的手続きを取り得べきことが規定されています。また、基本原則として、関係当事者との協議、先住民・種族民が自らに直接影響する開発計画の策定、実行、評価へ参加すべきことも規定されています。
土地については、先住民・種族民は伝統的に占有してきた土地に対する権利があると明記し、例外的に移転が必要とされる場合に講じるべき措置について規定しています。募集及び雇用の条件に関しては、一般労働者に適用される法によって効果的に保護されていない範囲において、先住民労働者の効果的な保護を確保する特別の措置を採用することなどを批准国に求めています。また、社会保障制度を徐々に拡大して先住民・種族民を含み、差別なく適用すること、適切な保健サービスが利用できるよう確保すべきこと、少なくともその国の地域社会のほかの者と同等の条件であらゆるレベルの教育を受ける機会を確保すべきことなどを求めています。先住民・種族民に自分たちの権利と義務について知らせること、偏見の除去に努め、国境を越えた接触や協力を促進する措置を講じることなども規定されています。
★技術協力活動
先住民・種族民のためのILOの技術支援は全て、第169号条約に沿って行われることになっています。ILO事務局の中でこの分野の活動は国際労働基準局が担当しています。ただし、当該国が第107号条約批准国の場合には、この条約が手引きとなります。先住民・種族民向けの技術支援活動は、以下の三つの規準に沿うよう特別に設計されています。
現在行われている主な技術支援計画は、第169号条約の促進に向けたプロジェクトと先住民・種族民の自立支援に向けた計画の二つです。
◎第169号条約促進プロジェクト
デンマーク国際開発庁(DANIDA)の資金協力を得て1996年に開始したこのプロジェクトは、先住民・種族民に関するILO基準の啓発を目的としています。政策レベルで活動するこのプロジェクトは、第169号条約を批准した国または批准を検討している国からの支援要請、ILO及びILOの先住民・種族民関連活動に関するさらなる情報を求める声に応えて策定されました。
プロジェクトは主としてアフリカ、南・東南アジアを対象に、1)啓発活動、2)政府及び先住民・種族民が先住民・種族民のニーズにより良く対処する能力の強化、3)ILOやILOの先住民・種族民関連活動、第169号条約に関する資料の発行といった活動を展開しています。第169号条約の原則適用を推進すると共に先住民の特別のニーズに対処する政策及び法制の開発に対する支援を提供しています。また、先住民及び種族民が自分たちに影響するプロセスに効果的かつ十分な情報を得て参加できるよう先住民・種族民の団体に訓練を提供し、能力構築を図ってもいます。
例えばフィリピンでは、先住民の法的保護の現状を分析する1年間の調査研究プロジェクトが実施され、1998年から活動を続けているカンボジアでは高地民族開発省庁間委員会に協力し、高地民族開発に関する政策文書の起案に対する技術助言の提供や委員の研修・能力構築活動を続けています。コミュニケーション・広報局が最近作成した広報記事では、先住民問題に関わりのある全ての当事者の能力構築・組織構築を目指してカメルーンでピグミー族を対象に展開されている活動が紹介されています。
2004年には先住民・種族民が、1)意味のある、十分に情報を与えられた上での参加を確保し、2)自分たちに影響する開発・政策過程のあらゆる段階で相談を受け、3)この過程で自分たちの懸念事項を表現できる能力の強化を目的に、先住民・種族民を対象とした研修生プログラムが実施されました。プログラムには日本(アイヌ民族)、インド、スリナムの3名の研修生が参加し、3ヵ月間の研修を受けました。
◎協力と自助団体を通じた先住民・種族民の自立支援地域間計画(INDISCO)
DANIDAとの枠組み協定によって1993年に始まったこの国際計画は、モデルパイロット・プロジェクトの実施と政策改善に向けた最善の慣行の普及を通じて、先住民・種族民の社会・経済状況の向上に寄与することを目指しています。活動の中心は草の根経験を国家政策と結びつけることに置かれ、先住民問題に関わる国連の諸会議に参加したり、技術協力活動における他の機関などとのパートナーシップの開発が進められています。ジュネーブの本部で事例研究、ツール、ガイドラインの完成・普及に努め、各地の実地活動に技術支援が提供されています。INDISCOが取り組む問題には、協同組合開発、貧困緩和、先住民の児童労働、自然災害の影響緩和、先祖伝来の土地及び資源の持続可能な管理、伝統的な知識、環境保護、HIV(エイズウイルス)/エイズ、紛争解決などが含まれています。INDISCOはインド、フィリピン、タイ、ベトナム、カメルーン、タンザニアなど、アジア及びアフリカで様々なプロジェクトを実施しています。
例えば、インドネシアのパプア州では「人間の安全保障の推進と先住民族の貧困削減」プロジェクトが実施されています。パプア州の先住民は、過去30年間にわたって就業の機会が与えられず、低い社会的地位に置かれています。最も貧しく、弱い立場の人々に当たる先住民コミュニティのニーズに対応するこのプロジェクトは、2005年7月に日本政府が全額出資する国連の人間の安全保障基金から158万1,142ドルの資金協力を得ています。プロジェクトの活動には、信用利用機会の改善、技能訓練、市場開発支援が含まれ、小企業と協同組合が、貧しい人々による自営業を振興していくことを試みています。この手法は、すでにINDISCOが他の先住民コミュニティで検証をすませたもので、多様なパプア先住民の文化を考慮しながら、プロジェクト全体を通じて現地の状況に合わせて調整が図られています。
プロジェクトは、人々が人間らしい、生産的な仕事を獲得する機会を推進することを狙いとしているインドネシアにおけるILOのディーセント・ワーク国別計画の一部をなしており、主として先住民と移住者コミュニティ及び地方政府機関に援助を提供し、貧困を削減すると共に、特に先住民の女性と少女に対する雇用と教育における差別をなくすことを試みています。また、先住民コミュニティに文化的に適切な能力強化のための手段や方法を提供し、人間らしい雇用機会及び持続可能な生計手段、所得創出手段の創出を図っています。さらに、先住民コミュニティ、移住者、及び地方政府の間での対話を促進することで、人間の安全保障の改善に貢献することも狙いとしています。
◎その他
このほかに、2003年に終了したプロジェクトとして、中米で実施された先住民の法的エンパワーメント・プロジェクトや中南米の先住民・農村地域社会の持続可能な観光開発に向けたネットワーク(REDTURS)事業もあります。国連国際パートナーシップ基金(UNFIP)が資金を拠出し、ILOが実行機関となって1999年6月に開始された前者のプロジェクトはベリーズ、コスタリカなどの中米諸国において、先住民とその団体が国の法体系の枠内で正当な権利を確保し、擁護できるよう、その能力の強化に向け、様々な啓発、研修、出版活動を行いました。
世界の観光における新しい動向の結果として、中南米の先住民・農村地域社会の天然資源、文化的資源、社会的資源が圧迫されています。経済効率の目的を社会平等、現地文化の尊重、地域社会参加、天然資源保全と結びつけることによって観光業に持続可能な開発の概念を持ち込むことを目指して設けられたネットワークであるREDTURSは、ボリビア、エクアドル、ペルーで19の事例研究を実施し、観光業における草の根イニシアチブが農村貧困層の新たな機会と利益に関わりがあることに関するワーキング・ペーパーを発行し、知識・経験共有のための三つの国内ワークショップと一つの国際セミナーを開催して2003年にその第1期事業を終了しました。REDTURSは持続可能な開発の支援に特化したスキル、地域社会、機構のネットワークです。第2期には農村社会に対する革新的なビジネス育成サービス提供の拡充・スピードアップを図っており、零細・小規模事業、地域社会事業の専門的スキル及び運営スキルの向上に向けた訓練の実施が予定されています。そして、まずキューバ、グアテマラ、ニカラグアに地域社会が零細・小企業を設立し、運営するのを支援する技術助言が提供されることになっています。
国際労働基準局以外で行われている活動もあります。1998年に採択された労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言のフォローアップ活動の一つとして設けられた強制労働対策特別行動プログラムでは中南米における優先テーマとして、強制労働の差別、貧困、先住民とのつながりの問題が提起され、例えば2002年に中米・アンデス地域で政府職員その他の政策関係者やアナリスト、人権・開発機関の代表を招いてワークショップが開催されました。中南米ではまた、ボリビア、ペルー、パラグアイで、主として先住民に影響する強制労働慣行撲滅に向けた取り組みに支援を提供しています。児童労働撤廃国際計画(IPEC)でもメコン流域の人身取引、ネパールの債務奴隷労働、中南米のバイリンガル教育など複数のプロジェクトで先住民・種族民の児童のニーズに対処した活動が展開されています。
★調査研究
以上のような活動の過程で、ILOは各地の先住民・種族民の状況に関する広範な刊行物を発表してきました。これには第169号条約の内容を詳しく説明したマニュアルや先住民・種族民の児童労働対策ガイドラインといった解説書や指針の類から、ボリビア、カンボジア、カメルーン、グアテマラの先住民社会から見た先住民・種族民とミレニアム開発目標(MDG)、カメルーンの先住民・種族民の権利保護に向けた法的枠組み、インドのアンドラ・プラデシュにおける種族民女性のエンパワーメントに向けたイニシアチブといったような調査研究や活動紹介など多岐にわたる文書が含まれ、最近はその多くが下記の先住民・種族民ウェブページでご覧になれるようになっています。
ILOの先住民・種族民活動(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/indigenous/index.htm
条約・勧告一覧----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/list.htm
世界の先住民の国際デー事務局長メッセージ(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/bureau/dgo/speeches/somavia/2006/indigenous.pdf
関連広報記事:カメルーンの先住民族(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/bureau/inf/features/06/pygmies_cameroon.htm