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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説

(2006年5月31日付第48号)

◆ ◇ 仕 事 の 世 界 ◇ ◆
◆ ◇ (world of work) ◇ ◆

 5月31日から開かれる第95回ILO総会には「仕事の世界におけるパターンの変化」と題する事務局長報告が提出されます。報告書はILOの活動領域である仕事(労働)の世界で最近見られる主な変化について、事務局が有する情報を網羅的にとりまとめたものになっています。変化を推進している主な要因と変化のパターンを記した上で、ILOが21世紀の活動目標とする「全ての人へのディーセント・ワーク(まともで、人間らしい仕事)」という目標の達成にどのような影響があるかを検討しています。社会保障制度の課題や各種の労働市場メカニズムが変化にどう対応しているかも取り上げています。以下に報告書の概要を紹介します。なお、本書は総会での議論のベースとなるよう、仕事の世界に関わる現状を総合的に概説したものに過ぎず、詳しく分析した書籍を別途、今年秋頃に発行する予定になっています。

★変化を推進している要素

 世界的な観点から見ると、職場や労働市場の変化を強く推進している主な要素として、相互に関連している以下の四つの要素を挙げることができます。

1.緊急必要事項としての開発

 1日1ドル以下で暮らしている人の数は減ってきていますが、2ドル以下では逆に増えており、世界全体で1981年には約25億人でしたが2001年には27億人近くになっています。国家間でも国内でも所得格差は拡大してきています。例えば、平均的なアメリカ人の所得は1990年に平均的なタンザニア人の38倍でしたが、今日では61倍に上昇しています。国内でも格差は拡大しつつあり、データが得られる73カ国中53カ国で所得格差を表すジニ係数が上昇しており、過去20年間に格差は明確に拡大しています。ジニ係数で測定すると、東アジア・太平洋(52.0)、南アジア(33.4)、高所得先進国(36.8)よりも中南米(57.1)とサハラ以南アフリカ(72.2)で格差が大きくなっています。こういった状況の是正に向け、開発が急務の事項になっています。

2.技術変化

 90年代に急速に進んだ新しい情報通信技術(ICT)の革新と普及のプロセスは、生産、流通、交換の各手段を劇的に変化させ、国際貿易や国際投資、資本と労働の移動、多くの作業工程や生産物に大きな影響を与え、サービス業へと向かう産業構造の変化と国際的な外注システム構築の動きを加速させています。

3.国際競争の熾烈化

 貿易と金融の自由化、そして輸送・通信コストの急激な低下はグローバルな市場経済の誕生を後押ししました。国際的な相互依存関係の強化は新たな国際分業体制の構築を育み、製造業の輸出成長は、中国、インド、マレーシアといった複数のアジア諸国において、製造業の雇用と賃金を押し上げる効果を与えました。一方、アフリカ及び中南米諸国では少数の例外を除き、製造業の輸出は伸び悩み、未熟練労働者の賃金が低下し、熟練労働者と未熟練労働者の賃金格差が急速に拡大しました。

 1990年以降のほとんどの年において、外国直接投資は貿易よりも急速に伸びてきました。過去15年間の平均で見ると投資先のほとんど、約3分の2を先進国の大手市場が占めていますが、90年代から中国、香港、ブラジル、メキシコ、シンガポールなど、輸出に焦点を絞ることに成功した一部途上国にも多くの投資が流れ込むようになってきています。多国籍企業子会社による売上高は高い伸びを示していますが、ILOの推計によれば、多国籍企業に直接雇われている人の数は70年代半ばで約4,000万人であったのが2000年でも約3.4%増の1億人近くと、世界の雇用に対する貢献の度合いは比較的地味であると言えます。外国直接投資は高技能労働者に対する需要を形成しますが、全体的な雇用創出力はそれほど大きくありません。

 70年代後半に始まった資本の自由化は実質的にグローバルな資本市場を誕生させました。90年代を通じて外国資本のフロー合計は増大したものの、新規基盤設備や生産能力への投資といった総固定資本形成は90年代を通じて世界の合計GDPの22%前後で推移していました。国際的な金融危機は経済や労働市場に短期的に大きな打撃を与えただけでなく、例えば、1997〜98年の東アジア危機の影響を受けたインドネシアでは、2005年になっても失業率が危機前の水準に戻っていないといったように、影響が長期化する傾向があります。最近のある調査は賃金の対GDP比を指標として用い、危機のたびにこの比率は平均5ポイントずつ低下し、危機後3年たっても危機前の平均よりまだ2.6ポイント低いといったように回復が遅いことを示しています。

4.政策と政治における変化

 政治と政策は仕事の世界をめぐる変化の背景を形成します。経済活動一般、そして特に労働分野の調整における国家と市場の役割の最適バランスの探求は長く政策討議及び学術論争の中心的なテーマになっています。70、80年代には市場派が政策論争の主流を占めていましたが、90年代半ば以降、移行経済期にある東欧諸国の深刻な不況の長期化、アジア・中南米の金融危機、アフリカの成長を刺激することの失敗といった事態を受け、国家の介入が最小限である方が、より良い、そしてより迅速な市場調整が図られるとの信念が揺らぎ始めています。社会格差の問題に対する懸念も再登場し、1995年の社会開発サミットに推進され、貧困削減、社会の一体感の醸成、雇用創出が再び国際的な政策課題に取り上げられるようになりました。また、多くの国でより民主的な政治体制が確立され、政府はますます、生活・労働条件の向上を求める市民の圧力を感じるようになってきています。こういった傾向は働く上での基本的な権利と原則に対する意識がますます高まってきている事実に反映されています。

★世界の労働市場に見られる傾向

 雇用構造、労働条件、社会保障制度におけるパターンはこういった変化を推進する要素に適応しつつあると同時に、変化を形作ってもいます。

1.世界の労働力における変化

 2005年に生産年齢人口は世界全体で46億人でしたが、この約3分の2の30億人以上が就業中か失業中でした。この84%が途上国及び移行経済諸国で暮らしています。就業者全体の57%以上がアジア太平洋地域に存在し、中国(26.0%)とインド(14.8%)だけで、世界の就業者数の40%以上を占めています。失業者数は1995年に1億5,730万人でしたが、2005年には21.9%増えて、1億9,180万人になり、世界の失業率は6%から6.3%に上昇しました。失業率は労働市場の逼迫度と脆弱度を示す指標として広く用いられていますが、貧困率が高く、安全網が整備されていない途上国の多くでは貧しい人々は働く以外選択肢がありません。こういった人々は厳密な意味では失業者の定義に該当しませんが、その仕事は不定期的な性格をもち、非生産的で報酬も不十分な場合がしばしばです。

 労働力率、つまり、生産年齢人口に占める働いているか積極的に仕事を探している人の割合は国や地域によって大きなばらつきがありますが、社会保障がほとんどまたは全く整備されていない低所得国では高くなる傾向があります。世界の労働力の男女比は6:4で、女性労働力は世界全体で、生産年齢にある女性の52.5%に相当する12.2億人です。女性の労働力化は進んできたものの、家事や育児・介護に携わっているのは依然として圧倒的に女性です。

 1995年に12.1%だった若者の失業率は2005年には13.7%と世界的に上昇しました。1995〜2005年の期間に、15〜24歳の若者の労働力率は世界的に低下しました。これには、教育を受ける期間の長期化と、職探しをあきらめてしまう若者が増えていることの二つの理由が考えられます。

 平均余命の上昇と低い出生率が寄与要因になって、世界的に60歳以上の人々の数は他のどの年齢集団よりも急速に伸びています。50歳以上の労働力率は世界的に上昇し、この傾向は今後も続くと予測されますが、男女の違いは大きく、55歳超の年齢層を中心に、これまで高かった男性の労働力率が低下しつつあるのに対し、これまで低かった女性の労働力率の上昇が見られます。

2.グローバルな生産体系と雇用構造の変化

 1980年代半ば以降、貿易と投資に対する障壁の低下、輸送費の低下、急速な技術進歩により、生産工程を分断して別々の国に配置し、より低いコスト、原材料の入手可能性、より好意的な政策環境を活用できる機会が拡大しました。先進国と途上国の製品市場と労働市場をつなぐグローバルな生産体系が育まれました。過去10年間くらいでますます多くの途上国が複雑な製品を生産する能力を獲得し、グローバルな生産連鎖の中でより付加価値の高い活動を獲得する競争力をつけてきています。2、3の途上国の一部の企業はこういった技術と技能の階段を登ることに成功していますが、技術と投資財源の点で工業国の企業が享受している競争上の優位は途上国の世界市場への参入を極端に難しくしています。途上国の企業の場合、グローバルな生産体系に参加することが、経済発展・社会開発において決定的に重要な役割を演じる可能性がある製品及び工程の向上プロセスを開始する主な道の一つであると思われます。

 こういったネットワーク形態の組織と調整は、途上国の労働者を農村から都市へと引き寄せ、有償雇用の機会が他にはほとんどなかったような女性を含む低技能労働者に雇用を提供しています。総就業者数に占める工業就業者数の比率は世界全体では1995年も2005年も21.0%近くと変化が見られませんが、これはいくつかの工業国における比率の低下(1995年28.7%→2005年24.8%)といくつかの大規模途上国における上昇(途上国全体で同19.4%→同20.2%)の事実を隠すものです。世界の総就業者数に占めるサービス業の割合は1995年に34.4%だったのが2005年には39%近くと世界的な増加を示しています。

3.世界的な技能不足

 現在見られる経済と技術の変化のプロセスは労働者、使用者、管理者に絶え間ない技能の更新を求め、この技能向上の需要をもっともうまく満たすことのできる国を優位にします。この技能偏重の経済成長のもと、先進国では80、90年代を通じ、専門職、技術職、管理職といった高技能職が最も高い伸びを記録しました。途上国の状況は様々で、ICTとグローバルな市場経済への統合によって、東・東南アジアなどの一部諸国は技術及び知識の移転の利益を得、標準的な組立作業から複雑な製造業とより付加価値が高い活動へとグレードアップに必要な技能を獲得することに成功しました。こういった国では高技能製造業が急成長し、先進国と同様の技能不足が見られています。

 このような技能偏重の変化のもとでは、労働者の訓練がますます決定的な役割をもつようになり、教育機関や訓練制度はこの新しい技能の需要に応えていく必要があります。

4.国際労働力移動の増大

 移民労働者は世界の労働力のますます大きな割合を占めるようになってきています。現在はこの半数近くが女性です。2000年に自国外で働く労働者の数は世界全体で8,600万人を超え、このうち3,400万人が途上国で暮らしていました。移民労働者は大きく2種類に分けられます。高度な技能を有し、非常に需要が高く、通常、受入国で住み、働くのに必要な書類を得ることができる労働者と、しばしば需要は同じくらいあるものの自国民がほとんど従事したがらないような、ステータスが低く、低賃金の仕事に従事し、ビザや労働許可を取るのが難しい未熟練労働者です。不法移民の正規化事業その他の筋から得られた情報では、移民労働者の10〜15%が不法であると推測されます。また、ILOが2004年に行った推計では、強制労働に従事している人々のうち245万人が国境を越えた人身取引の被害者であるとされています。

5.都市と農村間の労働力移動とインフォーマル経済の成長

 1960年に世界の就業者の58%が農業に従事し、先進国ではこの割合は総就業者の約3分の1、途上国では73%を上回っていたと推計されます。2005年までに世界の総就業者数に占める農業就業者数の割合は40.1%まで低下しましたが、これは10年前に比べて3ポイント近い減少で、数にすると約9,000万人減っています。先進国ではこの割合は4%を下回っていますが、途上国では48%になっており、南・東アジア、サハラ以南アフリカを中心に依然絶対数は増加しています。

 世界で最も貧しい人々の4分の3が途上国の農村部で暮らし、直接または間接的に農業に生計を依存しています。生産性が高く、したがってより高賃金の製造業やサービス業における仕事に引かれて、あるいはより良い仕事を期待して、農村から都市へと向かう労働者の移動が発生しています。

 途上国では最近、農業就業者数の減少に反比例する形で、サービス業の雇用が伸びています(1995年に28.0%だった総就業者数に占めるサービス業就業者数の割合が2005年には32.6%に上昇)。サービス業の中でも、最も急速に成長しているのは商業における就業者数で、これには途上国の都市部で主流を占めている小規模のインフォーマルな販売活動が含まれています。ILOは90年代後半の農業外就業者数に占めるインフォーマル雇用(労働法や社会保障による保護が及ばない小規模零細事業など)の割合を、北アフリカ48%、サハラ以南アフリカ72%、中南米51%、アジア65%と推計しています。途上国で行った調査研究から、景気後退期や大企業及び公共部門で雇用削減が行われた際に、小規模・零細企業における就業者数の割合が高まることが見出されました。インフォーマル経済が縮小しつつある国では、働いているけれども貧しい労働者の数は減少しています。北アフリカを除き、途上国では働く女性の6割以上が農業外のインフォーマル経済に従事しています。

6.貧困傾向と賃金

 世界全体で28億人になる労働者の半数近くが自分と家族を1日2ドルの貧困線以上に引き上げるのに十分な収入を得ることができていません。これは総数では1994年とほぼ同じですが、当時は世界の労働力の57%を占めていたのに対し、今は半分をわずかに下回っています。このうち、5億3,500万人が1日1ドル以下で暮らしています。

 先進国では生存レベルぎりぎりの最も深刻な貧困の問題がほとんど消滅したのに伴い、相対的貧困の尺度(しばしば国民の所得中位数の半分に設定)が広く用いられるようになってきました。これをもとにすると、OECD20カ国の2000年の平均貧困率は10.6%となり、90年代半ばの平均10%よりも高くなっています。貧困率はアイルランド、日本、米国、トルコで15%を上回り、メキシコは20%を超えています。欧州連合(EU)25カ国の労働者の貧困に関する研究は、労働力の7%に相当する約1,400万人が国の貧困線を下回る収入を得ている家庭で暮らしていると結論づけています。

 主要輸出国となった途上国では、90年代に、先進国にキャッチアップする実質賃金の伸びが生じたように見えます。1997〜98年の金融危機で一時中断した多くのアジア諸国でも再開の兆しが見られます。しかしながら、いくつかの途上国では平均実質賃金の伸びは所得格差の拡大と共に進んできています。就業者全体について測定される総収入における格差も、データが得られるOECD諸国において平均的に増大しています。

7.雇用及び職業上の差別

 雇用及び職業上の差別はしばしば貧困を悪化または永続させる一方、貧困は仕事における差別を促進するという悪循環が発生します。差別が増えているか減っているか評価することは困難ですが、差別が権利の侵害であり、人間の能力の浪費であるとの認識が、それに対抗しようとの活動と共に高まってきていると言えるかもしれません。

 過去15年間に女性の労働力率と経済活動は拡大したものの、女性の雇用をその就業上の地位、産業部門、賃金または収入といった観点から見ると、女性が有給正規雇用に就く割合は依然として男性より低く、家事に貢献する割合は依然として男性よりも高く、「伝統的に女性職」とみなされている仕事においてさえも女性は同じ種類の仕事をしている男性よりも収入が低くなる傾向があることが分かります。労働の世界における女性の状況を概観すると、女性は依然として賃金表の下辺に位置する傾向のある職業に圧倒的に集中していることが示されます。

 労働の世界では「人種差別」とは言語コミュニティ、あるいは宗教的または文化的特徴、または国民的出自を同一性の基礎としている少数者の進出に対する恣意的な障壁のことを指します。少数民族、先住民・種族民、有色人種、移民労働者は雇用及び職業上の人種差別の一般的な被害者です。国内的及び国際的な人の移動の増大は、宗教や文化の多様性において、社会への統合と一体感を両立させることの難しさを明らかにしています。特にこの10年間には、宗教に基づく差別がより大きな意味を持つようになったように見えます。

 人々が労働市場で経験する差別は個々に異なり、直面する可能性のある不利益の激しさと深刻度は差別を生じさせる個人的特性の数とその相互作用に左右されます。さらに、差別は明らかに一生の問題となる側面をもっており、是正措置が講じられない限り、不利益は時間と共に蓄積され、激しさを増す傾向があり、仕事の後の生活、そしてより一般的に社会にも否定的な影響を生じさせます。

8.労働条件:柔軟性と安定性の再調和

 労働市場の研究者がますます多様な特徴に光を当てるようになってきているため、労働条件の主要な要素における変化のパターンを検出することは特に困難ですが、観測された変化の底流には柔軟性と安全保障の二つを求める圧力とそれを調和させる新たな方法の探求が存在しています。

◎柔軟な労働時間を伴う安定した雇用関係

 多くの国で、ある程度の自営業増加の兆候が見られるものの、工業国の労働のほとんどが通常、期間の定めのない雇用関係に基づいて遂行されています。柔軟性を求める圧力は採用及び解雇における規制の緩和と労働時間の二つの側面に絞られており、多くの使用者が資本がフルに活用される時間を延ばす方法を探求しています。これは交替制労働や呼び出し勤務その他のフレックスタイム制を伴う場合があります。多くの先進国で、標準的な週35〜40時間の労働時間よりも長く働く人々が増えている一方で、短時間労働に従事する人の数も増えています。収入の必要性と家庭責任その他の個人的責任とを調和させようと試みる多くの女性が、収入の相当部分をパートタイム労働に頼っています。

◎職場における危険の変化は絶えざる監視が必要

 世界全体で毎年約220万人が労働災害や職業病で亡くなり、約2億7,000万人が深刻な負傷を被り、さらに1億6,000万人が業務関連の疾病に罹患しているとILOでは推計しています。これは労働者とその家族にとっての大きな損失を意味するだけでなく、ILOの推計によれば、そのような事故や健康障害の合計コストは、世界のGDP合計額の4%近くに達しています。職業や産業構造の変化は業務上の危険のパターンにも変化を及ぼしています。先進国からは最も危険で汚い仕事の幾つかが消滅し、より安全な作業環境がもたらされたものの、新しい危険が登場しつつあります。また、ストレスや職場内暴力が、ますます労働の世界における健康と安全に対する重大な危険と認識されるようになってきました。情報と知識は業務上の危険を低減させるのに不可欠ですが、幾つかの途上国では特にインフォーマル経済で、職業病や労働災害の多くが診断や届出がなされずにすまされており、傾向の数量化が困難になっています。ほとんどの国で最大の雇用を生み出している農業では、化学物質や機械の利用の増加が危険を増加させる可能性があります。

◎障害や疾病を抱える労働者

 世界全体で生産年齢人口のうち4億1,700万人近くが障害を有しており、そのうち3億3,500万人が先進国以外で暮らしています。障害者の雇用に関する情報は乏しいものの、多くの国で、ほとんど働ける能力を備えている人々も含み、就職できない人々が非常に高い割合に達しています。最近、障害を理解する方法に画期的な変化が見られつつあり、障害を個人的な問題として見ることに焦点が置かれている障害の医療モデルまたは福祉モデルが、徐々に社会及び権利を基盤とするモデルに置き換えられつつあり、このモデルでは社会の障壁が不利益を生み出す主な原因と見られています。障害者が保有する能力を活用できる機会の拡大を基礎とした新しいアプローチは、決して全世界的に認められているものではなく、豊かな国でも適用されていない場合があり、途上国ではさらに大きな課題に直面しています。

 HIV/エイズ、マラリア、結核はどれも栄養不良によって症状が悪化し、毎年60歳未満の人々約1,400万人の死亡原因となっています。しかしながら、主要な疾病による高い死亡率は問題の一部でしかなく、途上国を中心に何億人もの成人が病んでいるか、全く仕事をすることができないか、あるいは生産性が低い状態にあり、大きな経済的損失となっています。

 世界のHIV感染者数は2005年に最高水準に達し、2003年の推計3,750万人よりさらに増えて、4,030万人と推計されています。HIV/エイズは様々な形で労働生産性の低下を引き起こします。現在、HIV/エイズによって部分的にしかまたは全く働くことができない労働者の数は200万人を超えています。ILOは労働力人口のうち2,600万人がHIV感染者と推計しています。この大半(7割以上)がアフリカに住んでいます。感染の疑いがあるか、感染者・患者であることが知られている人に対する職場内差別も様々な形態を取る可能性があります。ILOの「HIV/エイズと働く世界に関する行動規範」は、労働の世界で、そしてディーセント・ワーク推進の枠組みの中でHIV/エイズに取り組む際の一連の指針を提供しています。

★社会保障の将来に対する課題

 最も貧しい人々に対する保護の拡大、雇用形態の変化、労働市場における流動性を求める圧力、家族形態の変化、人口の高齢化、健康に対する新たな危険の登場といった、労働市場の変化を推進している要因は社会保障にも影響を与えています。制度設計の基礎となる概念は依存人口比率、つまり子どもや老人といった依存人口に対する経済活動に従事している人口の比率です。このような変化の激しい時代において社会保障に対するニーズが高まっている一方で、インフォーマルな保護メカニズムの弱体化や、社会にとっての全体的なコストが国の競争力を低下させる可能性があるとの懸念によって社会保障の将来性が脅かされてもいます。世界的には、社会保障制度が既に整備されている国における制度改革とまだ未整備の国における制度の導入・拡大といった二つの課題が存在します。

 発展段階にかかわらず世界中ほとんどの国で、国民所得の3分の1が稼得人口と依存人口間での所得移転の対象になっています。ここでの主な問題は貧困削減及び格差縮小、働けない人々の支援ニーズへの対応、全体的な経済成長への貢献といった点からこの移転を最も効率的に組織する方法を決めることです。所得保障の最大の源泉は依然として公式部門(フォーマル・セクター)のまともな仕事で、これは国の社会保障制度の基盤でもあります。インフォーマルな支援の仕組みはほとんどが血縁関係を基礎に機能しているため、慢性的に貧しい人々は除外される傾向があります。幾つかの先進国の例から、税と移転の制度が貧困と格差の縮小に効果的であることが証明されています。ブラジル、ネパール、南アフリカといった途上国の経験から一般国庫を財源とする基礎年金または児童給付制度は貧困対策の強力な手段となることが証明されており、このような組合せは国の社会保障制度の整備に向けた最初の大きな一歩となる可能性があります。保健医療の分野では、アフリカ、そして一部アジア諸国を中心とした途上国のインフォーマル経済で地域社会を基盤にした小規模保険の仕組みが広まりつつあります。

 経済成長の鈍化と高失業率によって、福祉国家が多い欧州を中心に、社会的支出は経済効率の重荷になるとの議論が生まれています。しかし、経済成長と社会保障予算の対GDP比の間には強い相関関係は見られず、むしろ最近のILOの研究では一人当たり社会的支出と労働時間1時間当たりのGDPで測定した生産性との間に強い相関関係があることが示されています。にもかかわらず、競争力や高齢化といった問題は社会保障の再考を引き起こしています。

 過去10年以上にわたり、年金改革に関する世界の論議は、高齢化への対応と現在はカバーされていない大多数の人々に老齢期における十分な所得保障を与える方法の二つの問題が中心になってきました。そして、これらに対する解は確定給付から確定拠出へと年金制度を変更することであると強く主張されてきました。このような制度は高齢者が引退を遅らせるのを奨励したり、所得再配分要素が少ないことから老後に備えて貯蓄するインセンティブを提供するものと信じられてきました。インセンティブをさらに強化する方法として、年金基金運営の民営化も提案されました。こういった提案についてILOは早くから、新しい制度は老齢期における所得保障を大きく減らし、将来給付をより予測しにくいものとし、基金運営を民営化した場合には高い管理費を生み、女性などの低収入で職歴が短く、在職期間が不連続的な、労働市場で不利な立場にある人々を効果的にカバーしきれない可能性があると警告を発してきました。その後の経験から、このILOの懸念は裏付けられ、年金改革における趨勢は変化しました。また、企業が私的年金を提供している国では、平均余命の上昇や医療費の上昇などが経営の困難を招き、確定給付から確定拠出へと転換する風潮が見られますが、これは国が制度を改善し、不足分を補うことを求める圧力を増す可能性があります。

 税金からであろうと、国の移転メカニズムを通じてであろうと、働く人々から依存人口に所得が移転するという経済の現実から逃れることはできません。依存人口比率の最初の上昇を経験する国家群は欧州と日本ですが、実際上の引退年齢が65歳近くまで引き上げられたならば現行制度は保険数理上、将来性を維持することができるでしょう。また、労働市場からの早すぎる引退を減らしたり、失業率の低下、移民受入の拡大も年金財政に好意的に作用すると考えられます。2015〜25年の期間に依存人口比率の上昇を次に経験するであろう中所得国ではもっと急速な伸びが予想されるため、将来性のある制度を今、確立することが大切です。最も貧しい国における社会保障の拡大には社会保障制度の樹立支援を含む国際的なアプローチが必要になる可能性が高いと考えられます。

★変化に合わせた労働市場の統治方法の適応と近代化

 労働のパターンが大きく変化している現在、労働市場や業務に関連した活動を規制または調整する仕組みもそれに適応するよう変化を強いられています。このような統治機構にはインフォーマルな、しかししばしば強力な社会規範、私契約、法規、労働協約、国際基準などが含まれます。社会、経済、政治的開発路線の違いを反映するため、これらの仕組みの特徴は国によって異なります。その仕組みはますます多様化しているものの一定の共通のパターンも見られます。仕事の多様化は、法、規則、契約の基礎となる広く許容された原則の枠組み内に錨を降ろした分権化した統治メカニズムの必要性を推測させます。幾つかの国で何年にもわたって構築された既存の取り決めの再考に焦点が置かれています。しかし、大半の労働者と使用者にとって重要なのは、人並みの所得を得、企業を育成する機会を育み、人権を尊重し、ますます複雑でグローバル化する自由市場体系の中で競合できる基盤を提供するような統治メカニズムの基礎が構築されることです。

 このような方向に向け、社会保障や法の保護の対象になっていない不安定なインフォーマル経済をフォーマル化する試み、世界の最も貧しい人々の4分の3が住んでいる農村部の貧困を削減するため、農業の生産性を改善する試みが見られます。

 技術変化がもたらした外注増大を含む企業のリストラクチャリング構想と、国際競争の熾烈化との二つが組み合わさって、多くの国で雇用保障はますます不確実になってきています。経済及び技術の変化に合わせた調整と開発にとって、雇用関係と企業に関する法の質とその現実の実施が決定的に重要です。労働法改革をめぐる論点は非常に多様ですが、最近、二つの大きな傾向が生まれてきたように見えます。一つは基本的な権利と原則(特に職場内差別と児童労働対策)に実効性をもたせることをめざした新しい法の制定または法改正で、もう一つは、解雇及び採用、新しい作業編成の導入、またはその双方に伴う使用者のコスト縮小を目指した規制緩和です。

 2000年の米国の組織率は約13%といったように、世界中で組合員数は減少しています。この中で、多くの国で女性組合員の比率が高まり、ますます重要な役割を演じるようになってきたことは、職場における男女格差の縮小に向けた明るい展望を開いています。組合や使用者団体の構造も変化し、組合の合併が多く見られます。幾つかの国では全国レベルまたは産業レベルの交渉からより小規模な企業または工場レベルでの交渉へと団体交渉の分権化が図られています。さらに多国籍企業と国際産業別組織との国際的な社会対話の傾向も見られるようになってきました。

 労働の世界に関する現行の統治メカニズムは19、20世紀に整備されたこともあり、国家が管轄区域となっています。しかし、21世紀の市場はますますグローバル化し、労働条件における公正に対する関心も国際化してきています。このような労働市場統治の国際的な側面に対する意識の向上から、近代化と適応に向けた幾つかの新しいアプローチが生まれています。一つは多くの国がしばしば競争相手の成績に合わせることを明確な目標に据えて、時にはその統治メカニズムを導入して、国内法または社会対話の仕組みを見直していることです。二つ目は、地球規模ではないにしても欧州連合におけるように地域市場内で法を調和させる手段の探求で、3番目は国の管轄権を越えて考え、事業を展開している場所にかかわらず多国籍企業に、そしてその取引相手である下請け業者にも適用できるような規範を定めることです。

★将来展望

1.世界の労働力の伸びの継続

 国連の人口予測によると、2050年まで世界の生産年齢人口は成長を続けますが、伸びはほとんど完全に途上国で発生するとされます。2015年までに世界の生産年齢人口は約53.5億人になると予測されますが、このうち30億人近くが途上国に住んでいると考えられます。これは2005〜15年に世界の労働力は毎年平均4,300万人ずつ増加していくことを意味します。失業を減らし、女性の労働市場への進出の拡大に備えるためには、この純増率を上回る雇用創出が必要になります。さらに、働いていても貧しい層を減らすため、生産性、収入、労働条件を向上させる多大な努力が必要になります。

2.技術と自由市場による労働の世界の変化

 ICT革命は蒸気や電気にも匹敵する革新的な発明です。その影響はまだ広がりつつあり、変化は始まったばかりです。商業、文化、知識の交換・交流がますますICTネットワークを通じて起こるようになり、接続していないことまたは信頼のおける高速の接続がなされていないことは、経済的・社会的に縁辺に追いやられてしまうリスクを提示しています。ICT革命はデジタル・デバイド克服に向け、教育及び技能開発に多大な投資を要請します。競争の熾烈化は新しい工程や製品の導入を刺激し、これはさらに模倣とさらなる競争を誘発します。このような背景のもと、職場と労働市場では速いペースでの適応が続けられます。

3.雇用構造の世界的な変化

 中国とその東・東南アジアの近隣諸国が製造業の雇用の新たな中心地になってきている一方で、ほとんどの工業国で工業の就業者数は絶対数でも産業全体に占める比率でも低下の一途をたどっています。製造業における変化のもう一つの特徴は、生産者がどこに立地していようと当該産業の技術の最先端と常に接している必要があるということです。途上国の場合は、技術開発と競争力を確保し、グローバルな生産体系の中で妥当な付加価値のシェアを獲得するには、労働者と経営陣の継続的な技能向上プロセスを計算に入れることがますます重要になります。工業国では製造業における半熟練の雇用が今後も減少を続けると見込まれ、既存の産業が競争力を保ち、雇用が拡大している部門への移動を円滑化するためにも、各種技能を組み合わせて向上していくことが必要になります。多くの国で登場してきている懸念の一つの特徴は、需要の増加によって給与が上昇している、高度な資格を有して成長しつつある最上部の社員層と、供給が多いために賃金の伸びも見られない低技能労働者との間で、技能と収入における格差が拡大しつつあることです。世界的に見ると、この製造業とサービス業における変化の背景には、農村部における低生産性の半自給自足農業から、主として都市の他の職業へと労働者が移動した非常に大規模な長期的変化があります。

4.世界の政治環境

 都市の多くのインフォーマル経済の不安定性と貧困は企業開発及び雇用のグレードアップを抑えています。多くの国における農村開発の弱さと組み合わさって、これは働きながらも貧しい人々が大量に存在する状況を作り上げています。世界で最も貧しい労働者の雇用展望は、最も貧しい国々に対する資金の流れの大幅な増大を支援する国際政策と、投資がまともな雇用機会の創出を通じて貧困に大きな影響を与えるよう確保する国内戦略との組み合わせによって変えることができるでしょう。これが起こるかどうかは政治と政策に左右されるところが大きいと考えられます。

 2005年10月に開かれた国連総会で採択された2005年世界サミット成果文書は、公正なグローバル化にとってのディーセント・ワークの重要性を認識し、より高度の国際協力メカニズムの開発に向けた十分な政策課題を定めるものとなっています。

5.成長、雇用、持続可能性

 仕事と労働市場の組織及び統治の方法は、世界経済の成長が排除を生まないよう確保するための主な手段となります。しかし、最近は経済成長に対する雇用弾性値が世界的に低下し、現在の成長のパターンは世界の労働力の伸び、そして失業率及び働きながらも貧しい人々の現在の水準を削減する必要性に対応するのに十分なディーセント・ワークを創出していません。

 世界のディーセント・ワークの不足を解消する戦略は三つの要素から構成されています。

 雇用を多く生む持続的な世界的成長戦略は新たに登場しつつある持続可能性の問題、つまり、成長におけるエネルギー集約度、環境の持続可能性、そして安全保障に対する脅威といった事項に対処する必要を生じさせる可能性があります。2002年のヨハネスブルク・サミットで求められたように、経済、社会、環境といった持続可能性の三つの側面を統合するには、決然とした長期的視野を備えた政治的リーダーシップが必要です。和平構築並びに紛争の解決と管理においては、ディーセント・ワークに向けた安定した環境がきわめて重要です。そこで、貧困削減と排除のないグローバル化に向けた戦略の中に、ILOのディーセント・ワーク目標を組み込んでいくことが提唱されるのです。


2006年の第95回ILO総会(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/standards/relm/ilc/ilc95/index.htm
事務局長報告本体(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/standards/relm/ilc/ilc95/pdf/rep-i-c.pdf



最終更新日:2006年5月31日 作成者:EU 責任者:SH