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ILO駐日事務所メールマガジン・トピック解説

(2006年4月25日付第47号)

◆ ◇ 雇 用 関 係 ◇ ◆
◆ ◇ (employment relationship) ◇ ◆

★雇用関係とは

 ほとんどの国で労働者は特別な法的保護を受けています。これは双方が対等な立場で契約を締結できる通常の商契約等の場合と異なり、使用者の指揮命令に服して報酬を得るという労働者の立場は圧倒的に弱いとの認識によるものです。そして、労働者が労働法や社会保障の分野で雇用に関連した権利や便益を享受する際のカギとなるのが「雇用関係」の有無です。雇用関係とは、このようにしばしば「労働者」と呼ばれる「被用者」と、「被用者」が報酬を対価に特定の条件に従って労働を提供する「使用者」との関係を指すものとして世界中で幅広く用いられている法的概念です。

 近年見られる仕事の世界における奥深い変化は、必ずしも従来の雇用関係の枠組みに収まらないような新しい種類の関係を登場させました。これは労働市場の弾力性が増す一方で、雇用上の地位が不明確で、したがって通常の雇用関係に基づく保護の枠外に置かれる労働者を多数生み出す結果を招いています。

★雇用関係とILO

 全ての働く人々の保護を中核的な目標の一つに掲げるILOは、90年代からこの保護を欠いている人々の問題への取り組みを強化してきています。

 ◎始まりは契約(請負)労働

 1950年代以来、石油産業、衣料産業、運輸業など複数の産業別の会合や委員会で、契約(請負)労働(contract labour)といった働き方に対する懸念が度々表明されてきました。1990年のILO総会でも、自営業の促進に関する一般討議の過程でこの問題が取り上げられ、討議の結論の中で、「名目的な自営業者を含む労働者を、搾取につながるような下請け取り決めや労務契約から保護する制度がまだ制定・施行されていない場合には、その制定・施行を図るべきである」と明記されました。

 そして、1997年及び1998年の総会で条約・勧告の採択に向け、契約(請負)労働の問題が議題に上りました。この元々の意図は、保護されていないある種の従属労働者を保護することでしたが、契約(請負)労働という言葉が正確な共通の意味を持たないこともあった上、これを商契約への介入とみなし、国によって取り組みが大きく異なるこのような案件についての基準設定をふさわしくないとする使用者側の強い反対もあり、基準設定の試みは失敗しました。

 この議論の中から、今後の話し合いのテーマは、労働者としての保護を欠いている従属労働者の状況とすべきとの合意が形成されました。総会における話し合いの中では、仲介業者を通じて採用された労働者、下請け業者のもとで働いており、雇用上の地位がはっきりしていない労働者、経済的には一クライアントのみに依存している自営業労働者、雇用関係が偽装されている労働者、客観的に雇用関係がはっきりしない労働者、雇用関係にないユーザー企業で働いている労働者、典型的な雇用関係のグレーゾーンや縁辺で働いている労働者といったさまざまな形態の労働者の存在が指摘されました。繰り返し言及されたのが参加者全員におなじみの概念である雇用関係という言葉でした。

 総会は、ILO事務局に対し、専門家の援助を受け、総会における議論の過程で明らかになってきたような状況においてどんな労働者が保護を要するか調べるよう求める決議を採択しました。また、保護を要する労働者の状況に関する問題を将来の総会の議題にすることも求められました。

 ◎専門家会議

 ILOでは総会の要求に応え、国別研究を行い、非公式な地域会議、そして公式の専門家会議を開きました。日本を含む計39カ国についてなされた国別研究の結果、総会で指摘された問題の存在が確認されました。国別研究では労働者保護制度の基礎になっている雇用関係の概念の全世界的な重要性が確認される一方で、この関係を司る規則の対象者に係わる範囲の面での欠陥が強調されました。

 2000年5月に開かれた政労使三者構成の「保護を要する状況にある労働者に関する専門家会議」は、この国別研究を元にまとめられた討議資料を用いて話し合いを行い、共通声明文を採択しました。声明は、働くことの性質における地球規模の変化によって、雇用関係の法的範囲が労務関係の現状に合わない状況が創り出されている事実を指摘し、各国は雇用の現状に沿って国内法制における雇用関係法規の範囲を適当な頻度で見直し、必要であれば明確化や適応を行うような国内政策を採用または継続すべきとしました。そして、総会における関連文書の採択を含む、ILOが行い得る一連の活動を提案しました。

 ◎2003年総会一般討議

 そこで、2003年の総会で雇用関係の範囲というテーマで、従属労働者の労働者としての保護に関する一般討議が行われました。討議では、雇用関係という概念は、あらゆる法体系で伝統的に共通の概念であり、労働者が特別の権利や資格を得る際の基礎となっている事実が確認されました。そして、労働市場構造、作業編成の変化、法の適用における不備に関連した影響として、実際には労働者(従業員)であるものの雇用関係に基づく保護を受けていない状況にある労働者が増えている事態が指摘されました。そして、労働法規が雇用関係にある人々に適用されること、そして働く上での様々な取り決めが適切な法的枠組みの中に置かれるよう確保されることが政労使共通の関心事項であるとし、ILOはこれに関する国際的な対応をすることを検討すべきとされ、そのためには勧告がふさわしいとされました。

★雇用関係に関連する問題点
 ◎雇用関係と法

 多くの国の労働法に雇用関係、特にその範囲に関する規定が含まれ、雇用契約や労働者・使用者といった雇用関係当事者についての定義が規定されています。日本の労働基準法では、労働者を「職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」(第9条)、使用者を「事業主または事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」(第10条)と定義しています。

 雇用契約とそうでない契約を区別する要素として用いられているものには様々なものがありますが、最も一般的に見られるのは、従属性、他人のために働くこと、そして指揮命令関係といった要素です。

 しかし、雇用関係の存在を立証することはなかなか難しく、労働者の立証責任を緩和し、裁判官の負担を軽減するため、様々な代替策が用いられています。この中で最も重要なのは、事実優越性の原則で、その関係の名称や形態に関わりなく、当事者が実際に合意し、遂行している事実をもとに客観的に判断するというものです。一歩進んで、例えば、プロスポーツ選手に関するスペインの規定のように、論争の余地がある状況や不明瞭な状況を雇用関係と見なす規定が法に盛り込まれている場合もあります。

 関連する要素の存在を確定するためにいくつかの指標を用いている法体系もあります。これには、組織に組み込まれている度合い、誰が労働条件をコントロールしているか、材料や道具・機械などの支給、訓練の提供、報酬の定期性とそれが当事者の収入の相当部分を構成することなどといったものが挙げられます。英米法諸国では、こういった組織統合度や実際の経済状態、金銭的リスクの負担などといったいくつかの試金石を用いて判断を行っています。

 ◎雇用に基づく保護の欠如

 労務を提供する方法には、雇用契約に基づくものと、民事・商事関係に基づき、独立して仕事を請け負い、支払いを得る方法があります。後者は対等な力関係に基づく契約と見なされますが、前者の場合、力関係は圧倒的に使用者に有利で労働者は特別の保護を必要とすると考えられています。そこで問題になってくるのが、雇用関係の存在がはっきりしない場合や実際には存在する雇用関係が隠蔽されており、保護に値する労働者が保護されていない状態です。

 ◎客観的に曖昧な雇用関係

 労働者に与えられた裁量の余地があまりにも広く、その雇用上の地位に疑いを抱かせる関係が存在します。これは例えば、コンピュータ・プログラマーや電気工のような通常は自営である人々が、特定の顧客と次第に恒常的な関係を持つようになった場合のように、労務提供者と労務提供先との複雑な特別の関係とその関係の時間的経過の結果、発生する場合があります。あるいは、特に作業環境が大きく変化している分野で、伝統的な雇用関係の枠に収めるのが難しい、柔軟で流動的な就業の取り決めがなされることがあります。例えば、インターネット経由で採用され、インターネットを使って働き、銀行から給与が振り込まれ、会社に足を踏み入れたことのない労働者がいるかもしれません。しかし、会社から支給された機器を使い、会社の命令と指揮(たとえわずかながらでも)に従っているとすれば、会社はこういった人々を自社の従業員と見なすかもしれません。

 雇用関係と自営の中間に、正式には自営ですが、少数の「クライアント」にその収入源を頼っている「経済的に従属している労働者」が存在します。

 ◎偽装された雇用関係

 これは法の提供する保護を無効にするか、緩和する目的で、もしくは税金や社会保障上の義務を免れる目的で雇用関係を現実と違うように見せかける場合を指します。偽装された雇用関係は使用者の隠蔽を伴う場合もあり、真の使用者を雇用関係から生じる義務から免除する目的等で、実際には仲介業者の立場にある者が見かけ上の使用者になる場合もあります。

 最も極端な方法は、雇用関係に見かけ上、民事、商事、協同組合、家族関係などといった別の法的性格に基づく関係を与える方法です。また、例えば、一定期間または特定の業務用の契約を結びながら、それを何度も更新するといったように、それが確立される形態を通じて雇用関係を偽装する方法もあります。

 例として、幾つかの国で見られるトラック運転手のケースが挙げられます。運輸会社に雇われていた多くの運転手が、請負業者に労働を提供するよう「移行」させられたり、自分で車両を保有するかリースして自営業運転手として働くよう「転換」させられている例があります。この場合、労働者は法的には企業から分離しますが、本質的には同じ仕事を、実質的にはまだかつての使用者に従属する立場で遂行し続けることになります。違いは、運転手が今は自営になったことにより、車両の維持費を自分で負担し、労働者としての保護を受けられなくなったことです。

 ◎三角形の雇用関係

 これはある人(「供給者」)の従業員が他の人(「ユーザー」)に労務を提供する場合に発生する関係です。これには建設業における下請けや仲介、デパートにおける派遣販売員など様々な形態があり、供給者の従業員には就業の機会、経験、専門性といった点で利益がある場合もあります。ただし、法的観点からは、このような契約は当該従業員が伝統的な使用者の機能の一部を有する複数の相手とやりとりしなくてはならないという技術的な困難を示す可能性があります。

 また、客観的に曖昧なまたは偽装された三角形の雇用関係も存在します。三角形の雇用関係は、通常はユーザーと供給者の間に民事契約または商契約が存在することを推定させるものですが、実際にはそのような契約が存在せず、労働者供給者がユーザーのブローカーである可能性もあります。

 三角形の雇用関係は昔から存在しましたが、最近は増大の傾向にあります。最も有名なのは請負人や派遣会社を用いる方法で、そのほかにフランチャイズの取り決めなども挙げられます。

 三角形の雇用関係においては労働者は誰が真の使用者か把握することが難しく、労働者の権利についても、供給側とユーザー側のどちらと交渉すればよいのか迷う場合があります。このような状況では誰が使用者で、自分たちの権利が何であり、誰がその責任者であるかを知ることが必須になります。供給企業の従業員に対するユーザーの立場を明らかにすることも重要です。

 ILOの条約の中には、このような状況を扱っているものが複数あります。例えば、1949年の労働条項(公契約)条約(第94号)は公契約に従事する請負業者が雇う労働者に対する幾つかの保障を定めています。1986年の石綿条約(第162号)は、同じ職場に複数の使用者がいる場合、それぞれの使用者が雇っている労働者の安全と健康に対する使用者としての責任を損なうことなく、協力して防護措置を実施すべきことを定めています。1988年の建設業における安全健康条約(第167号)も同じような義務を定め、使用者間に義務と責任を割り振り、使用者の定義を含んでいます。1997年の民間職業仲介事業所条約(第181号)は仲介事業所の労働者に対するこれらの事業所と利用者企業との責任を扱っています。

 ◎ギャップを埋める

 雇用関係の法と現実の間の格差が広がりつつあるため、これを縮小する手段を講じる必要があります。これには法の範囲の明確化、法の限界の調整、公平と柔軟性のバランス、遵守の確保といったものが挙げられます。

★総会で審議される勧告案

 2003年の総会における提案を受け、今年の総会では一回討議で雇用関係の範囲に関する勧告の採択に向けた審議が行われます。

 2003年の総会では、将来検討される勧告案は偽装された雇用関係と、雇用関係にある人々が国内で当然受けられる保護を確実に受けられるメカニズムの必要性に焦点を当てるべきとされました。また、
◇雇用関係の中身を一律に規定せずに、加盟国に手引きを提供するものであること、
◇経済・社会・法・労使関係における様々な伝統を考慮に入れ、ジェンダーの側面にも対処できるような柔軟な文書であること、
◇純粋な商契約や独立請負取り決めに干渉すべきでないこと、
◇国内で問題に対する解決策を見いだす手段として団体交渉や社会対話を促進するものであること、
◇雇用関係における最新の動きを考慮に入れるべきことが求められています。

 このような要請に沿って、さらに加盟国政労使の意見も聞いて起草された勧告案は、雇用関係にある労働者を保護する国内政策、雇用関係存在の決定、モニタリングと実行、国際的な情報交換の4部18項からなり、加盟国に国内政策の策定や雇用関係決定などの際の手引きを提供するものとなっています。


2006年の第95回ILO総会(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/standards/relm/ilc/ilc95/reports.htm
2006年の総会で審議される雇用関係の範囲に関する勧告の背景情報(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/dialogue/ifpdial/ll/er.htm
2003年の第93回ILO総会(英語)----->
http://www.ilo.org/public/english/standards/relm/ilc/ilc91/index.htm
ILO条約・勧告----->
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/standards/list.htm



最終更新日:2006年4月24日 作成者:EU 責任者:SH