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ILO駐日事務所(旧ILO東京支局)再開設50周年記念シンポジウム

ILOに期待すること

中嶋 滋 日本労働組合総連合会 総合国際局長

中嶋連合総合国際局長写真(挨拶、自己紹介の部分は省略)

 連合は、赤松氏から御指摘があったように、ジェンダー、特に参加の問題ではILOに先行しているICFTUに加盟している。ICFTUは昨年の12月に宮崎で大会を開催したが、代議員は男女同数でなければならないという規約があり、連合の代表団も男女同数としている。地域組織のICFTU−APROにも同じ規約があり、ジェンダー問題には大きな進展をみた。しかし、実態は、ILO総会の労働側の代表団は男女同数ではなく、ようやく3割を確保できたにすぎず、この面ではますますの努力が必要である。

 今年のILO総会における事務局長報告で、「我々は労働の世界における急激な変化の時代に生きており、変化は政府および労使団体に多くの新しい組織的、政策的課題を投げかけている。次の10年間のためのILOの役割ならびに多国間組織の発展にとって非常に重大な時代が我々の目前にある。問題になっているのは我々の同時代社会における労働の価値と尊厳である」という問題意識が示された。
 私は、激しい時代の変化に対応しうる新しいILOの役割を如何に充実させるかという問題意識としてこれを受け止め、この問題意識を共有し、その実現のために共に努力したいと思っている。
 いわゆる新自由主義的な経済政策で主導されている現在、グローバル化により貧富の格差が拡大している。世界のいたるところで「ディーセント・ワーク」が実現していない。ILOが果たすべき役割は非常に大きく、「すべての人々にディーセント・ワークを」という標語で示されている活動を如何に強化していくべきかという観点から、いくつか申し上げたい。

 第1は、新しいILOの基本的な役割についてである。
 ILOが果たすべき最も基本的な役割は、時代に適合した基準設定とその着実な適用・実施の促進である。この役割の中には、時代に適合させるための大胆な改革を含めるべきである。役割を終えたもの、現在の状況に適応していないものを新しい社会状況に適応したものに変革をする努力が求められる。
 グローバル化の進展は、雇用の確保、賃金・労働条件の維持・改善という最も基本的な事項ですら、最早、一国内で自律的に決定することが出来ない相互依存関係を深めている。この状況は、これまで以上に国際労働基準の設定と実施の必要性・重要性を高めていると思う。このことは、外国人労働者問題や国境を越えたアウトソーシング問題を思い浮かべれば明らかである。
 近年、基準設定の役割が疎かにされる傾向が、総会議題の決定に関する理事会討議などで見られることは、この意味から残念といわざるを得ない。基準設定活動よりも技術援助を重視すべしという二者択一的な議論が時折されるが、技術援助は適用・実施を可能とする社会的な環境・条件をつくりだすためのものであり、この基本的役割の一環ととらえるべきである。
 国境の壁があらゆる分野で、低くかつ薄くなっており、例えば、国境を越えた生産拠点の移転の問題は、移転元、移転先双方の国において、雇用の質・量、賃金・労働条件、労働安全衛生、社会保障、さらには環境、消費生活など国民生活全般であらゆる面で直接的な影響を与えあう関係を作り出す。
 社会的な側面とりわけ労働を巡る諸課題において当事国双方に共通するルールつまり国際基準と、その的確な適用・実施がないと、移転元における雇用喪失、移転先におけるディーセントでない職の蔓延という、双方の労働者にとって不幸な事態が進行することになる。結社の自由委員会への提訴案件数の急増が示すように、極めて短期的な視野からの利益確保を追求することに優先価値をおき、国際競争力強化の名の下にコスト削減を至上命題にする企業が多い中で、人権・労働組合権を侵害するケースが急増している。
 公正さを確保する基礎となるルールの不在あるいは不実施は、許容しがたい格差を、あらゆるところに、あらゆるレベルで生み出し、社会的な不安定さを深化させている。この状況が進行・拡大すれば、搾取と被搾取、収奪と被収奪、支配と隷属という、むき出しで粗野な敵対的関係は、前世紀の遺物として克服済みの問題ということにはならなくなる。この意味でILOの役割は大きい。

 第2は、活動推進の基盤となる予算に関する問題である。
 日本のILOの分担金は全体の20%弱という説明があった。これは事実であるが、ILOの活動推進の中心課題は、「ディーセント・ワークを全世界の目標とする」である。ディーセントな生産的雇用の確保を軸とした、目標の達成のため「グローバル化の社会的側面に関する世界委員会」報告で明らかにされたように、ILOは他の国際機関との連携を密にしつつ国際社会の中で的確な役割を中心的に果たすべき存在である。その達成に向け、高度な専門的知識と経験に裏付けられた能力が発揮できる人材が必要で、そのためにも財政は確保されねばならない。
 基準設定にしても、その適用・実施に向けた技術支援にしても、その成否は、人的リソース特にその質の高さに依拠せざるをえない。そのための予算拡充は必要である。もちろん効率的運用は必要であり、冗漫な支出は許されないが、財政確保の重要性も指摘したい。
 1日当たり10数億ドルといわれる超大国の軍事支出に比すると、ILO予算はささやかなもので、しかも、ILOは平和的な活動を通じて、軍事的な対応が不必要となる社会的状況を作り出していくことに貢献するのであり、その崇高性において、予算的価値は軍事費とは比較にすら値しないほど高いことを共通の認識にしたいと思っている。
 その観点からすると、今年の予算審議の過程で分担金比率の高い諸国の政府がとった態度は残念であると言わざるを得ない。

 第3は、三者構成主義の重要性である。
 多くの方が指摘したように、三者構成主義はILOの特徴である。時代の急激な変化に適合するための大改革が求められ、それを推進していくためには、これまで以上に三者構成メカニズムが実質的に発揮されねばならない。具体的な業務遂行の中で、労使の意見が、ACTRAVとACTEMPを通じて、最高責任者である事務局長に直接届けられ政策に反映出来るように、機構上の改革が検討されてしかるべきだと思う。同様なことは、あらゆる活動の場面で実現すべきである。地域総局においても、ここ駐日事務所においても、活動が三者構成主義にもとづいて遂行されるように、事務局体制も含め改革が求められていると思う。時代の状況変化に適合したILOの活動とそれに向けた変革が求められている時代にあって、ILOの大胆な改革を含めた活動の推進を期待したい。労働組合もその活動の一役を担い、すべての人にディーセント・ワークを実現できるよう努力していきたい。



最終更新日:2005年12月19日 作成者:AT 責任者:MH