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ILO駐日事務所(旧ILO東京支局)再開設50周年記念シンポジウム

ILOに期待すること

矢野弘典 日本経済団体連合会 専務理事

矢野日本経団連専務理事写真はじめに

 先ほど、赤松良子氏より男女雇用機会均等法成立当時の経営者の意見が紹介されたが、この20年間で大きく変わったと思う。毎年の変化はごくわずかでも20年経つとかなり変わっており、これからの10年でもっと変わるであろう。
 今年はILO駐日事務所の再開設50周年であるが、その前史も含めれば、日本のILOへの関わりはさらに長いものがある。区切りの時であり、お祝い申し上げる。
 本日は、ILOを構成する政労使の一員として、ILOが将来にわたって意義のある存在であり続けることを期待して、3点についてお話したい。@環境変化への迅速な適応、Aオーナーシップ発揮の支援、B他の国際機関との差異化の3点について述べ、その後で駐日事務所への期待について申し添えたい。

1.環境変化への迅速な適応

 ILOは1919年の設立以来、労働の問題に焦点を当てながら、環境変化に合わせて、活動も柔軟に変化させてきた。例えば、多くの途上国の加盟によるメンバーの多様化に対しては、労働基準作成に加えて技術協力という活動領域を加え、地に足のついた加盟国の支援を行なうようになったことを挙げることができる。
 労働の世界は今日めまぐるしく変化している。グローバル化、サービス化、技術革新、人口動態の変化など、こうした環境変化によって生じる労働の課題に各国が的確に取り組んでいくことができるように、ILOもテーマの選択やスピードの面で後追いではなく、先行して対応していかなければならない。最近の良い例としては、1998年の「仕事における基本的原則及び権利に関するILO宣言並びにそのフォローアップ」の採択が挙げられる。これは世界各国に大きな影響を与え、国連のグローバルコンパクトの中にも反映されている。
 既に理事会において、総会や理事会の改革が議論されているが、IT化が進み、経済社会の変化のスピードが加速している時代にふさわしい会議の持ち方を考えることが必要であろう。特に総会の議題を2年も前に決めるのは、早すぎるのではないか。

2.オーナーシップの発揮の支援

 ソマビア事務局長が就任以来、ILOの活動目標として掲げているのはディーセントワークの実現である。改めて説明する必要はないが、ディーセントワークとは特定・固定の概念を指すものではない。各国がより良い労働のあり方を求めて、克服すべき課題を定め、その達成に向けて努力をしていく、そして、一つの目標が達成されれば、さらにその次の目標・課題を定めて取り組むというような、一つ一つステップを上がっていくプロセスがディーセントワークへの取り組みとなる。各国が直面している課題は当然のことながらそれぞれ異なり、様々であるから、プロセスも変わることは当然である。
 グローバル化の社会的側面に関する世界委員会では、グローバル化への対応について、"Beginning at home"、「国内から始めよう」と述べているが、ディーセントワーク実現についても、課題の発見や解決の手法の選択は、各国がオーナーシップを発揮して自ら行なうべきものであろう。こうした取り組みにおいては、それぞれの国で政労使の協力が欠かせない。ILOが、今後とも三者構成主義という仕組みづくりを支援し、各国の自主的な取り組みを支えるという重要な役割を果たすことが大切である。
 各国の取り組みにおいては、他国の事例などが大いに参考になる。誰もが一から試行錯誤を繰り返すよりも、既存の智恵を活用することが効率的である。こうした意味で、ILOは、加盟国に相互学習の機会を与えたり、情報の集積の上に各国が描くべき処方箋のメニューを提示し、ディーセントワーク実現のプロセスを速やかに、効率的に進めることを支援するべきである。
 このような観点から、ILO活動の柱である労働基準作成について、もう一度そのあり方を考えることが必要である。ILOを構成する加盟国の多様性を前提とすれば、条約は普遍的に適用しうる原則のみを掲げることとし、それ以上の細かい施策についてはメニューとして勧告で提示し、各国が自国の状況に応じて、相応しいものから採用していくことができるようにすることが望ましい。

3.他の国際機関との差異化

 今日、社会開発に関わる国際機関はたくさん存在する。ILOがこれらの中で、存分にその使命を達成するには、他の機関との差異化に努めることが必要である。その強味を生かして、他の追随を許さない成果を出すべきである。ILOが有する一つの強味は、労働分野における専門性を有していることと、それに基づく三者構成主義である。
 仕事・労働というものは、生計を営むためだけではなく、個人の尊厳や生きがいを生み出し、また、個人が社会との関わりを形づくる上での基本となるものである。仕事や雇用を創出するのは、企業の重要な働きであるが、その企業と働く人自身が参画しているという意味で、ILOは貴重な存在である。ディーセントワークを追求するにあたり、企業のメカニズムや役割を改めて認知し、ILOの活動の中に正しい位置付けを与えていくべきである。雇用や労働条件の向上を生む源泉となる生産性や競争力という考え方が、使用者側から語られるだけでなく、ILOにおいてものごとに取り組む際に自然に語られるようになって欲しいと思う。
 もう一つのILOの強味は地域組織の存在である。ディーセントワークの中身は一様ではなく、各国がそれぞれに一つ一つ解決していくものであるとすれば、地域内での情報交換や共有といった、より現地に近い対応が有効となる。このように雇用創出と労働条件の向上をより確実に行なうためには分権的なアプローチが求められる。他方で、情報やデータの集積は集中して行なうことが効果的であり、質も高くなる。活動の種類によって分権的なアプローチと集権的なアプローチを使いわけていくことが必要である。

4.駐日事務所への期待

 さて、本日はILO駐日事務所の再開設50周年を記念してのシンポジウムであるから、駐日事務所への期待についても述べさせていただきたいと思う。

1)ILOのビジビリティの向上

 今日の日本においては、ILOという国際機関は一般の人にはやや見え難い存在となっている。私は、ILOはそのミッションからして、主役である働く人達にもっと身近な良く知られた存在であってよいと思う。年輩の人には、「ILOへの提訴」というような活字が新聞をにぎわせた時期もあり、まだ馴染みがあるかもしれないが、若い世代にとって、ILOは遠い存在であろう。ILOの出先機関として、駐日事務所にはILOの活動や果たしている役割を日本社会に伝えていくこと、ILOのビジビリティを増していくことが求められている。積極的なPRが重要である。同時に日本から優秀な人材が数多くILO事務局で働くようになってもらいたいと思う。

2)日本の情報の世界への発信

 他方で、日本の労働経済に関わる情報をILO本部も含めて世界に発信することが重要である。ILOが世界の情報センターとしてその役割を十分に果たすためには、最新の情報、有益な情報がILO本部に集まることが必要である。日本の労働経済に関する情報が、ILO加盟国や事務局本部が直接活用するに十分なものとなっているかどうか常にチェックする必要がある。ILOの日本における情報のアンテナとして、駐日事務所に期待するところ大なるものがある。
 もちろん、今述べた二つの役割は、日本の構成員である政労使も協力して担っていくべきものであり、我々も寄与していきたいと考える。
 なお、ビジビリティの向上に関し、日本には日本ILO協会という世界にも数少ない組織があり、他国でも創設されたところもあるが、これを各国に広げていけばいいのではないか。協会は、ILO思想の普及のみならず、途上国の人材育成も行なっており、多くの国で評価され、独立した団体として活動していくことが有効ではないかと思っている。

以 上



最終更新日:2005年12月19日 作成者:AT 責任者:MH