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2004年「仕事における安全と健康のための世界の日」の た め のI L O 報 告 書 |
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セーフ・ワークと安全文化2004年ILO「仕事における安全と健康のための世界の日」報告書 |
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ILOの「仕事における安全と健康のための世界の日」は毎年4月28日に実施される。 歴史は1989年にさかのぼる。アメリカとカナダの労働者が死傷した仲間たちのメモリアルデーとして取り組み始めたのが発端で、その精神を受け継いだのが「世界の日」である。ICFTUがこのメモリアルデーを世界に広げ、持続可能な労働と職場という概念を包含する取り組みへと発展させた。「労災被災者国際追悼デー」は現在、世界100カ国以上で実施されている。 ILOは2001年と2002年にこの取り組みに参加した。2003年、ILOは、価値観を共有することによって三者協議を促し労働安全衛生を推進しようという考え方に立って、死者を悼むという概念から世界中の労働災害や職業病を防止するためには何が可能かを強調する日へと歩を進めた。 「仕事における安全と健康のための世界の日」は2年目を迎えるわけだが、ILOは従来と同様、安全文化、三者協議、社会的対話に引き続き重点を置いていく。これにより、ILOは2003年6月のILO総会で与えられた使命(以下)を果たしていく。
この重要な「世界の日」を促進するために皆さん方の参加を呼びかけます。 |
目 次 |
は じ め に
安全で健康的な労働環境を築くことは、ILOが1919年の設立以来ずっと取り組んできた課題である。事実、ILOが定めたごく初期の国際基準を見ると、そのいくつかは労働者を職場の危険から保護することに目的をおいたものであった。世の中が進み新しい技術や新しい労働形態が誕生するにつれて、ILOの課題も変化してきた。様変わりした課題に対処するためには、これまで長年にわたって発展させてきた多くの条約や活動に加えて、政府・使用者・労働者が一体となって強力な「安全文化」を築くことが不可欠であると、ILOは考えている。
では安全文化とは何か?
2003年6月に開かれたILO総会の結論によると、国の予防的な安全・健康文化というのは、安全で健康的な作業環境に対する権利がすべてのレベルで尊重されていることを言う。さらに、権利・責任・義務が明確な制度を通じて政府と使用者と労働者が安全で健康的な職場環境づくりに積極的に参加する文化を言い、また予防の原則に最も高い優先順位を置いた文化を指す。予防的な安全・健康文化を築き維持していくためには、あらゆる手段を利用して、有害物質や危険という概念、そしてどうすればそれらを阻止し管理できるかということについて社会の意識を喚起し知識や理解を高めていく必要がある。
安全文化というものを発展させていくダイナミックで進歩的なプロセスは、効果的な組織づくりに必要なプロセスと非常に似通ったところがある。安全文化を発展させ推進していくための明確な処方箋がないことは広く認識されている。しかし一方で、文化づくりを目指す組織が採用する特徴や行動にいくつか共通点のあることが明らかになっている。本報告書では、健全な安全文化づくりを支援していく上で特に価値があったと証明された行動について、いくつか紹介する。
企業はいわば継続的改善ということに焦点を当てねばならない。現在のやり方がいかに良くても、もっと成果を上げるにはどうすればよいかを、企業は常に見つめていかねばならない。たとえば現行システムやプロセスの改善策、そして日々変化する新しい技術をみんなの利益に役立てる方法などを探っていく必要がある。継続的改善は、企業のあら?ゆるレベルで労働者が生み出す改善に焦点を当てるとき、最も効果的に維持される。先頃開発されたILOの「労働安全衛生マネジメントシステム・ガイドライン(ILO-OSH 2001)」(注1)にある通り、企業レベルでの安全衛生管理にシステム的なアプローチを用いることが、こうした継続的改善をもたらす鍵となる。ILOはこの継続的改善をグローバルなOSH戦略の柱の一つに据え、これを基に全国レベルで安全衛生の予防的文化を築き維持し、OSH管理にシステマティックなアプローチを導入していきたいと考えている。
どうすれば達成できるか?
まず政府の責任として、労働安全衛生に関する一貫した政策を策定し実施する。さらに安全文化を教育の開始と同時に幼少期から国民のあいだに浸透させる。
使用者の責任としては、ILOガイドラインILO-OSH 2001に従って管理システムを設け、これによって安全で健康的な職場環境づくりに取り組む。ガイドラインは次のように指摘している。
| 労働安全衛生は、国内法で定められた安全衛生規則を順守することも含めて、使用者の責任であり義務である。使用者は企業内の安全衛生活動に対する強力なリーダーシップと取り組み姿勢を示すとともに、安全衛生管理システムの確立に向けて適切な対策を講じるべきである。 |
労働者には、使用者と協力しながら職場に安全文化を確立し維持していく責任、さらには企業内の安全衛生管理システムに積極的に参加していく責任がある。労働者は労働安全衛生の全側面について相談を受け、情報提供を受け、教育を受けるべきであり、またたとえば安全衛生委員会などに積極的に参加する時間と資源を与えられるべきである。ILO-OSHガイドラインは次のように述べている。
| 労働者の参加は、組織内の労働安全衛生管理システムにとって、不可欠な要素である。 |
ILOは、政府と使用者と労働者が同等の立場で相対する世界でも稀な場所である。ということは、OSHへのグローバルな取り組みに影響を及ぼせる格好の位置にあると言える。国連のアナン事務総長は次のように述べている。
| 労働者の安全と健康は人類の安全保障の本質部分である。労働者の権利を守る指導的国連機関としてILOは、仕事における安全と健康を促進すべく擁護と活動の最前線に立ってきた。安全な労働は健全な経済政策のみならず、基本的人権でもある。 |
労働災害や職業病による怪我、病気、障害、死亡を防止することが絶対的命題であることは、政府・使用者・労働者のいずれを問わず、誰もが認めるところである。従って、企業目的を達成する不可欠な一部として安全文化を築くという予防的活動は、誰にとっても最も高い関心事である。われわれがこの目的に向かって進むためには、仕事関連の怪我や疾病が世界でどれぐらい起きているのか、それを正確に把握する必要がある。ILOは、労働災害や職業病の発生件数について世界レベルでの調査を行っている。
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労働災害と職業病を調査する
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以下の表は、ILOが調査した、職業による死亡者数をジェンダー別に示したものである(図表1)。男女間の差は、危険な職業の分布状況で説明される。つまり男たちの職業の方が、アスベストやその他発癌性物質による危険、事故による危険、循環器系や呼吸器系の疾患などに多くさらされる。いっぽう、途上国では多くの女性が農業に従事しており、こうした女性たちは農作業に関連するマラリア、肝炎、住血吸虫病(水中の寄生虫によって感染)などの伝染病、その他バクテリア、ウイルス、媒介動物による疾病に罹りやすい。
図表1:労働災害及び仕事関連疾病による死亡者数の世界推計−ジェンダー別(ILO 2000)
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資料出所:www.ilo.org/safework
経済発展に伴ってすべての国で労働安全衛生に関する国家プログラムを策定すべきであり、その基盤として労働関連の災害や疾病の本当の数を示した信頼できるデータベースを構築すべきだ、というのがILOの主張である。こうしたデータベースが整えば、それが防止計画、基準設定、支援と促進のためのスタートラインになる。
伝えるべきメッセージは、安全文化を確立することによって多くの作業関連の死亡災害や疾病は防げるということである。毎年4月28日に実施される「仕事における安全と健康のための世界の日」はこのメッセージを拡大するためのチャンスを我々に与えてくれる。
ILOは、2003年6月の総会で「労働安全衛生のためのグローバル戦略」を採択した。このグローバル戦略には2つの柱があって、その1つが安全文化の促進である。安全文化の下では、安全で健康な労働環境に対する権利が政府、使用者、労働者によって尊重される。安全文化を積極的に支えていくためには、すべての当事者による努力が必要だ。それぞれが、それぞれにふさわしい価値や態度や行動を基盤に据えて適切な権利と責任と義務をすべてのレベルで果たすよう求められる。「仕事における安全と健康のための世界の日」は、安全文化を推進しようとするILOの努力の不可欠な一部である。
グローバル戦略の2つ目の柱は「システム思考」によって安全衛生を管理していく重要さである。労働安全衛生をシステム的に管理する(国内レベルでも国際レベルでも)ことは、国の計画、制度、行動手段の効果を高める最も有効な方法である。目的は、仕事関連の死亡、負傷、疾病を継続的に減少させていくことであり、仕事人生の最初から最後まで健康で生産性の高い労働者を生み出すことであらねばならない。
ILOグローバル戦略は、加盟国が目標を実現していくための手助けとして「ツールボックス」(道具箱)を用意している。主なツールとして2003年6月のILO総会が定めたのが、安全衛生が加盟国のアジェンダの上位に位置づけられるよう設けた「促進のための枠組み」である。この「枠組み」によって、安全衛生分野に関連する既存のILO基準への関心を高めると共に、安全衛生はすべての当事者がシェアすべき責任であるという事実を社会的パートナーに喚起していく。国の労働安全衛生システムを強化するのにも役立つ。
もう一つボックスに入っているツールは、技術支援・協力である。各国が、ILO条約や価値の促進と平行させつつ、それぞれのニーズを調べ、自国の安全衛生システムを改善するために段階的かつ継続的に適切に行動していけるよう支援する。支援の重点は、政府が使用者、労働者、その団体と緊密に協力しながらセーフ・ワーク(労働安全衛生)のプログラムを練り実施していくことに置く。ターゲットを絞り数値目標を盛り込んだこの種のプログラムが、最近、数多く開始されている。
3つ目のツールは、擁護・促進キャンペーンである。仕事関連の死亡災害や疾病を減らすために安全・健康文化推進の旗を掲げた世界規模のキャンペーンの一つが、「仕事における安全と健康のための世界の日」である。各種レポート、ポスター、メディアを駆使しながら、毎年4月28日を中心に各国で、理想を言えば政労使の三者を巻き込んで、イベントを展開する。ILOの目的は、世界中の出来るだけ多くの職場で安全文化を確立することの必要性を訴え意識を高めていくことにある。
◇ 2004年4月28日「仕事における安全と健康のための世界の日」
ILOグローバル戦略に沿って、今年、「世界の日」のテーマとして掲げられたのが仕事における安全文化の確立と促進である。このテーマの下、労働安全衛生の注視すべきたくさんの領域から、その影響とタイムリーさゆえに選ばれた問題が3つある。本報告書ではこの3つの問題、即ち有害物質、職場の暴力、職業性呼吸器疾患の問題を取り上げる。そしてこの分野で安全文化を促進するためにILOが何を行っているかについても述べる。
第1章は職場の有害物質を取り上げる。職場で化学物質が不適切な扱われ方をすると、労働者の健康に驚くべき影響が及ぶ。さらに驚くべきは、大災害が起きると、職場周辺の地域社会や環境にまで死亡や負傷の潜在的危険がもたらされる点である。今年はボパールのガス漏れ事故が起きて20年になる。この悲劇的事故によって工場周辺の住民数千人が死亡した。この事故を振り返って、化学物資の管理を誤るといかに恐ろしい結果を招くか、そしてみんなのために職場の安全文化を築くことがいかに大切か、を思い起こすべきである。
第2章は、今日的な現象と思われる問題:職場の暴力を取り上げる。職場の暴力は決して目新しい問題ではない。しかし近年になって、これを防止することの重要性が、労働者の健康と企業の生き残りの両面から一段と認識されるようになっている。互いの尊敬をベースにした安全文化は、職場の暴力を阻止する重要な要素である。
第3章では、世界中で仕事関連の疾病と死亡の大きな原因となっている職業性呼吸器疾患について述べる。職場で粉塵を吸った人々がガンや肺疾患で死ぬ。いったん罹れば不治の病だけれども、予防は簡単だ。途上国では発病率が特に高い。従ってILOは現在、こうした病気による死亡を阻止しようと、安全文化の推進を目指して国際的な努力を展開している。
安全な仕事がないところにディーセント・ワークはない。上記3つの問題はいずれもがディーセント・ワークの障害になる。「世界の日」の目的は、職場の安全衛生にスポットライトを当てることにある。そして問題に対する意識を高め、仕事による死亡や負傷を除去し、減らし、予防するためのフォローアップ活動を推進し、結果的にディーセントで安全な仕事の促進を目指すことにある。
有 害 化 学 物 質
化学物質はわれわれの生活の重要な部分を占めるようになった。われわれの活動の多くを支え、たくさんの病気を阻止し抑制し、農業の生産性を高めた。しかしわれわれにとって無視できない事実がある。それは、これらの化学物質の多くが、特に正しく使用されない場合に、われわれの健康を害し環境汚染を招きかねない、ということである。
これまでの推定によれば、毎年約1000種の新しい化学製品が市場に流通し、地球全体で約10万種の化学物質が使用されている。通常これらの化学物質は混合物として商品の中に含まれている。最先進諸国では、こうした製品や商品が100万から200万存在する。化学物質が増え生産量が多くなればなるほど、化学物質の貯蔵、輸送、取り扱い、使用、廃棄も増えるということになる。
職場で定期的に使われる多くの物質には、もし取り扱いを間違えば害になる化学物質が含まれている。ILOの推計によれば、毎年、仕事関連の死亡者200万人のうち化学物質が原因で亡くなる人が43万9000人、作業関連疾病の発生1億6000万件のうち、化学物質によるものが3500万件ある。商業ベースで使用される化学物質の種類が急増していることを受けて、化学物質による死亡や作業関連疾病に対する関心は幅広く、特に適切な管理がなおざりにされがちな途上国での関心が高まっている。図表2は、世界中で仕事中に有害物質にさらされたことが原因で死亡した人の数(年平均)を症状別に推計したものである。
図表2:職場での有害物質への暴露による死亡者数(年平均)の世界推計―死因別
| 死亡原因 | 死亡者数 | 推計比率 | 有害物質への 暴露による死亡者数 |
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| 男 性 | 女 性 | 男 性 | 女 性 | ||
| がん総計 | 314,939 | ||||
| 肺がん・中皮腫 | 996,000 | 333,000 | 15% | 5% | 166,050 |
| 肝臓がん | 509,000 | 188,000 | 4% | 1% | 22,240 |
| 膀胱がん | 128,000 | 42,000 | 10% | 5% | 14,900 |
| 白血病 | 117,000 | 98,000 | 10% | 5% | 16,600 |
| 前立腺がん | 253,000 | 1% | 2,530 | ||
| 口腔がん | 250,000 | 127,000 | 1% | 0.5% | 3,135 |
| 食道がん | 336,000 | 157,000 | 1% | 0.5% | 3,517 |
| 胃がん | 649,000 | 360,000 | 1% | 0.5% | 8,290 |
| 大腸がん | 308,000 | 282,000 | 1% | 0.5% | 4,490 |
| 皮膚がん | 30,000 | 28,000 | 10% | 2% | 3,560 |
| すい臓がん | 129,000 | 99,000 | 1% | 0.5% | 1,785 |
| 他のがん不特定のがん | 819,000 | 1,350,000 | 6.8% | 1.2% | 71,892 |
| 心臓血管疾患(15〜60歳) | 3,074,000 | 1% | 1% | 30,740 | |
| 神経系統の異常(15歳以上) | 658,000 | 1% | 1% | 6,580 | |
| 腎臓疾患(15歳以上) | 710,000 | 1% | 1% | 7,100 | |
| 慢性呼吸器系疾患(15歳以上) | 3,550,000 | 1% | 1% | 35,500 | |
| 塵肺症(推計) | 36,000 | 100% | 100% | 36,000 | |
| 喘息(15歳以上) | 179,000 | 2% | 2% | 3,580 | |
| 合 計 | 438,489 | ||||
資料出所:ILO SafeWork(ILO労働安全衛生・環境国際重点計画)
化学物質による労働災害のほとんどは被害が比較的少人数にとどまるため、報告されないことが多い。ただし場合によっては、不幸にも甚大な被害が出てたくさんの命が失われ、環境に著しいダメージを与えることがある。今年は、史上最悪の化学薬品製造事故の一つであるボパール事件が発生して20年になる。1984年12月2日の夜、有毒ガスが漏出して恐ろしい死の雲がインド中部ボパール市の上空を覆った。数時間のあいだに2,500人が死に、負傷者は20万人に上った。事故の原因は、イソシアン酸メチル(MIC)が貯蔵されているタンクの一つで暴走反応が起きたためだった。この化合物(殺虫剤の製造に使われる)42トンが入ったコンクリート製の貯蔵タンクが爆発してMICや他の分解物が空気中に拡散した。今日に至っても尚、事故の悲惨さを実感する。生き残った人々も大半が長期的な健康問題を抱えており、この地域の水と土壌は今も広範囲に汚染されたままだ。
ボパール事故後、激しい抗議が起きて有害化学物質の危険性に対する関心は高まったものの、大事故の可能性はいまも消え去っておらず、今日、途上国だけに限った問題ではなくなってきている。最近では2001年9月にフランスのツールーズで肥料工場が爆発した。31人が死亡し、2,400人が負傷した。強力な安全文化には、化学物質全般について安全な使用方法を普及させることに加えて、こうした大規模災害の予防に向けたシステム強化が含まれねばならない。
職場での化学物質の安全な取り扱いに関して、ILOは、1919年の設立当初より積極的に活動してきた。ごく初期の条約(批准されると法的拘束力を持つ条約、そして勧告)のいくつかは化学物資の安全に関するものだった。近年、化学物質の安全に関して2つの重要な条約が採択された。現在この領域におけるILOの活動は、大半はこの2条約を基盤とし、加盟国向けの技術支援と化学物質の安全に関する情報システムの開発を組み合わせて行われている。
1990年の「職場での化学物質の使用における安全に関する条約」(第170号)は、職場での化学物質の安全と使用に関する一貫性のある国家政策の上に立って、化学物質に関する情報を供給者からユーザーに確実に提供する、国としてのシステムを確立するよう求めている。情報は職場における予防的行動を成功させる重要な要素である。なぜなら危険回避の第一歩は危険を認識することにあるからだ。条約は、化学物質の供給者と使用者の両方が使える化学物質の分類とラベル表示制度というチャンネルを通じて情報が確実に流布されるよう、求めている。また使用者に対して、労働者を教育することと、職場における化学物質への暴露状況を監視するなどの管理対策を講じることの責任を課している。
1993年に採択された「大規模産業災害の防止に関する条約」(第174号)は、危険物質関連の大規模災害を防止することに加えて、そうした災害による結果を縮小することも目的にしている。条約は批准国に対して、国内のその他関係当事者と協議した上で、大規模危険施設の登録・届け出の実施、及びそうした施設の設置場所に関して責任ある意思決定を行うためのメカニズムの設置、などを盛り込んだ一貫性のある国家方針を策定するよう求めている。さらに、国民と労働者に対する情報提供、危険管理システムの確立と維持に対する使用者の責任も同じく重要な要素であるとしている。
ILOはこれまで、条約(批准されれば法的拘束力を持つ)や勧告とあわせて、数々の行動規範やガイドライン、情報提供システムなどを作成してきた。化学物質の安全に関する分野でILOが出した最も新しい取り決めの一つが「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」である。これは、第170?号条約が国内の分類システムづくりを求めているのを受けて、既存の国際的ツールとして条約批准国が使用出来るよう開発されたものである。2002年12月にGHS最終案が採択され、2003年に国連6カ国語(注2)で正式発表された。GHSは世界的な適用を目指して策定されており、純粋な化学物質と混合物の両方を対象としている。また現に化学物質を扱っている職場や危険物質の輸送など数多くの場面も範囲に含めている。今後GHSは消費者や環境のニーズにも応えていく。
「国際化学物質安全カード(ICSC)」は、化学物質の安全に関する情報を国際的に収集・検証しているシステムである。化学物質の安全性に関する基本的情報が簡潔にまとめられており、作業場の労働者や職場の安全衛生の責任者による利用を意図している。「カード」は現在、GHSとの調和が図られている。現在1300種のICSCに関する情報がネット上で16カ国語で掲載されており、無料で閲覧できる。ICSCからのダウンロードは年間150万件を超えると思われ、これはかなりの影響力と有用さの証拠と解することができる。
GHSは、有害化学物資に関する一貫性のある情報共有の基盤として機能するグローバルな枠組みである。化学物質の分類とラベリングの制度が発達していない国にとっては、化学物質に関する条約が求めるこれらの仕組みをGHSが提供してくれることになり、条約の採択が比較的容易になる。既に制度を備えている国にとっては、GHSを速やかに導入しまた条約に定められた他の予防措置を検討することによって、国内制度の強化が図られるし、化学物質の安全を目指すグローバルな同盟づくりにも寄与することになる。国境を越えて取り引きされる化学物質が一段と増えていく中で、GHSの導入は国際レベルで簡単に共有できる適切な情報の提供を可能にするものであり、化学物質の安全対策を改善する上で役立つ。化学物質関連の条約やGHSに関する政府の取り組みは、国内法の制定や効果的な実施へとつなげていく必要がある。実施の実務に当たるのは通常、労働監督官である。労働監督官に対しては、業務を行い法令遵守の方法について助言と情報を提供できるだけの十分な資源を与えるべきである。
危険な化学物質が関係する大規模産業災害は今も世界中で起きている。この事実を踏まえて、途上国も先進国も、防止対策を一層強化する観点に立って、大規模危険を管理する既存システムを再検討する必要がある。そのために、ILOは多くの条約やツールを策定しており、その一部については本報告書でも取り上げた。これらの活用こそが、安全は重荷ではなく無意識に反応すべきものという安全文化に向けた良き一歩となる。
職 場 の 暴 力
職場の暴力が仕事生活の一面を占める状況は変わっていない。しかし職場の暴力が労働者の健康にとっても企業の生き残りにとっても脅威であるとの認識は次第に高まっている。職場の暴力によって、結果的に政府、使用者、労働者のすべてが経済的その他損失を被ることもあり得る。過去にも職場の暴力は起きていたかもしれない。ただ、問題視されなかった。しかし今日、人権尊重が叫ばれる中、暴力は職場でますます許されなくなってきている。
職場の暴力に対処する安全・健康文化を築くに当たって、政府、使用者、労働者が使用できる行動手段はたくさんある。その一つが近頃発表された「ILO行動規範」である。内容的には、社会対話を活用しながら職場内暴力などの社会心理問題に政策レベルと職場レベルの両方から対応していくための教育プログラムと、暴力を防止するためのプログラムや政策に関する出版物の刊行に重点が置かれている。
最近の文献によると、アメリカ合衆国では、2002年、約200万人の労働者が職場の暴力の犠牲になった。イギリスでは、成人労働者の1.7%(35万7千人)が職場での暴力を1件以上経験している。職場の暴力は、その発端が職場の中にあることもあれば、職場の外にあって起きることもある。あるいはクライアントや顧客によって職場に暴力が持ち込まれることもある。従って、安全文化を背景に据え、そして社会対話を通して、問題に迅速且つ効果的に対応するための包括的政策と行動を用意することが不可欠である。
ILOの一番新しい行動規範の一つは職場の暴力を取り上げている(注3)。地域・国・産業・事業所・団体・職場の各レベルで特に様々な文化や状況やニーズに焦点を当てそれらにふさわしい国内法や政策そして行動計画の開発を促していくため、その基本的ツールとして役立つことを狙って策定された。
| 規範のベースになっている原則は、最善の身体的・精神的健康づくりのために採択された労働安全衛生条約(1981年、第155号)の規定と、ディーセント・ワークと相互尊重を促進?し職場における差別と闘う目的で制定された差別待遇条約(1958年、第111号)の規定である。 |
行動規範(注4)の中で職場の暴力は次のように定義されている。「仕事の流れの中で、または仕事の直接的結果として人が攻撃され、脅され、傷つけられる、といった適切な行為から逸脱したなんらかの行動、事件、もしくは行為。」ここでいう直接的結果とは、仕事と明確な関連性があること、また、その行動、事件もしくは行為なりが仕事後の妥当な期間内に発生したこと、と解釈される。職場の暴力は、労働者同士のいわば内輪の場合もあるし、労働者と職場に居合わせた外部の人間との間の場合もある。
職場の暴力は、発生場所である事業所なり団体なりに大きな影響を与える。行動規範は、事業所や団体で職場内暴力が問題化しているかどうかを見極めるためのいくつかのものさしを提案している。そこには欠勤、病気休暇、事故発生率、人事異動などのファクターが盛り込まれている。
これらのファクターは生産性を測る典型的な尺度でもある。欠勤などの発生率が高ければ資源の再配分をして不足部分を補わねばならない。職場の暴力を防止することは、少ない資源で生産性を高め、よりよいサービスを提供していくことに通じる。
職場の暴力は、労働者の健康と幸福に重い犠牲を強いる。攻撃され肉体を傷つけられると、健康が脅かされる。身体的な痛みだけではない。原因はどうあれ、心理面にも苦痛を与える。暴力や個人的攻撃によって肉体的苦痛が生じたとき、それが安寧や心の健康に与える影響を無視することはできない。ただ、個人への攻撃は、そこに至るまでの積重ねがなくて起きることはまずない。
行動規範は、職場の緊張を高め、職場の暴力へとつながりかねないサインとして次を挙げている。
威嚇、言葉による虐待その他の嫌がらせが先行する場合であれ、これらと一緒に行われる場合であれ、労働者は職場の暴力にさらされると、誰もが身体的・精神的苦痛を受ける。
職場での暴力防止は、国・産業・職場・事業所の各レベルの取り決めに必ず盛り込まれるべきであり、また職場における相互尊重と尊厳を促進するための人事政策と慣行が不可欠である、と規範は述べている。社会対話を通じて築かれた安全文化は、暴力防止を目指す政策と慣行を包含する有効な手だてである。
政府の役割は、仕事関連の暴力に効果的に対応する政策を推し進めること。通常は、労働監督官を通じてこれを行う。労働監督官は労働安全衛生マネジメント・システムの採用を促進して、使用者が職場関連暴力のリスクをチェックできるように、さらにこうしたリスクに効果的に対処できるようにすべきである。労働監督官が使用者団体や労働者団体とパートナーを組んで行動すれば、ローカルレベルで優れた行動が導かれるだろう。行動規範はまた、政府がリーダーシップを発揮して、職場での暴力に対応するための調査、立法措置、財源確保、さまざまな協力体制づくりに当たるべきだとしている。
使用者には、(暴力の)リスク軽減とリスク管理を行うとともに、適切な苦情処理・懲罰手続を整備する責任がある。労働者も参加して適切な政策や協定を結ぶべきである。情報・教育の提供も必要である。
労働者とその代表は、職場の暴力に結びつくようなリスクを防止、減少させ、除去するために適切なあらゆる配慮を払うべきである。そのためには、安全衛生委員会を通じて、適切なリスク査定の戦略や防止政策を開発・実施する、職場の暴力防止に関する情報を提供する、使用者と協力して暴力防止に関する研修コースを全労働者向けに開発する、といった領域で活動を進めるべきである。
安全文化が機能している事業所や団体では、職場内暴力の頻発に苦しむといったことが比較的少ない。職場の緊張が高まって暴力へとエスカレートする前に、その兆候を見逃さずに防止できるからである。
職場での暴力に対処する効果的な安全文化を築くために、行動規範は次のように勧告している。
| ディーセント・ワーク、労働倫理、安全、互いに対する尊敬、寛容、機会均等、協力、質の高いサービスなどを基礎にした建設的な職場文化の発展に、優先順位が与えられるべきである。 |
そしてそこには次のことが含まれるべきだと述べている。
行動規範は、経営トップに対して、職場の暴力を排除するための努力が重要であると認識し、その意志を明確な政策文書として発表し伝達すべきである、と強く求めている。
実践に関しては、職場の暴力に対処するマネジメント・システムづくりを勧告している。そしてそこには、職場の暴力と闘うための戦略、啓蒙活動、広報、作業慣行や作業環境の調査、そして必要ならば職場の暴力を防止するための改善策などを盛り込むべきだとしている。
◇SOLVE:職場の暴力を防止するための社会対話、政策、そして行動
建設的な職場文化をつくる助けとして、ILOはSOLVEと呼ばれるユニークな教育プログラムを提供している。行動規範を補完するこのプログラムは、職場の暴力のような問題を含めて職業安全衛生上のニーズに焦点を当てた事業所全体としての一つの方針を立案する必要がある、と強調している。
| SOLVEは、ILOのセーフ・ワーク部の運営の下、職場の暴力問題への対応策を提供する。産業と労働者の両方のニーズを満たす、互いにプラスになって、低コストで現実的な解決策を重視することによって、経済目的と社会目的を統合させている。SOLVE活動の実践を通じて、暴力、麻薬、アルコール、ストレス、たばこ、エイズといった諸問題を、労働安全衛生と産業開発計画の枠組みの中で総合的に取り組んでいく能力が培われる。 |
政策アプローチは、職場での行動につながってこそ有効となる。SOLVEは、労働者向けの自律的で個別的な労働者教育のための教材も提供している。残念ながら従来のアプローチを見ると、社会心理学的な問題のネガティブな影響を緩和するための政策や行動に必ずしもつながっていない。
ILOは、使用者団体、労働者組織、政府、諸機関と連携しながら、途上国・先進国を問わず世界中のさまざまな国でSOLVEを発展させ実施するための能力を確立しようと、目下努力を重ねている。SOLVEは現在、英語、フランス語、タイ語で出版されていて、さらに他言語への翻訳作業が進められている。またSOLVEは、国レベルでプログラムの編成・実施に当たるコース・ディレクター(監督者)や全国ファシリテーター(推進者)も養成している。現在、SOLVE実施能力を備えているのは世界25カ国で、あわせて150人のコース・ディレクターがいる(注5)。
どうすれば職場レベルの防止計画や防止策を体系的に立案し実施できるか、ILOの新刊書『職場の暴力を防止し、対処する』(注6)はこの点に関する情報とガイダンスを提供する。
この書は、これまでにさまざまな社会的パートナーが開発したガイドラインや政策を整理・検討し、またベスト・プラクティス戦略に関して効果的な分析を行うとともに、個々の職場に即した暴力防止と対応のプログラムを開発するための確実で効果的な方法を明らかにしている。この方法を通じて、リスクをどのように捉え解釈するか、適切な対策をどのように計画し実践するか、そして取った対策をどのように監視し見直していくか、といったことを経営者に教える。ACTRAV(労働者活動局)も季刊のレビュー『レーバー・エデュケーション』の1巻全部を費やして職場暴力の問題を取り上げようとしている。これには、暴力のさまざまな側面、特殊部門が抱える特殊問題、暴力のコストと影響、労働組合の対応や法整備などに関する記事が盛り込まれる。2004年半ばに刊行の予定。
行動規範の中に次のような言葉がある。職場の暴力は「健康と安全、サービスの効率、生産性、均等待遇、ディーセント・ワークのいずれにとっても大きな脅威」である。すべての社会的パートナーが職場の暴力防止に取り組むならば、われわれは効果的な安全文化の享受に向かって一歩近づくことになる。
職業性呼吸器疾患(ORD)
職業病の特殊なグループとして職業性呼吸器疾患(ORD)が浮上してきた背景には、経済発展との深いつながりがある。産業革命によって都市部の労働人口は急増した。同時に、産業用や暖房用の石炭が広範囲に使用されるようになって、職場も過密都市の空気も汚染された。その結果、ORDによる死者が激増した。その後、鉱山、トンネル工事、採石、建設、鋳物製造、造船、冶金、繊維、化学の産業が急速に発展するのに伴い、アスベスト、シリカ(2酸化ケイ素)、天然鉱石、人工の有機・無機化合物、ガラス、セラミック、研磨剤などの使用が拡大した。しかし産業の発展と平行して、労働者を保護するための効果的な予防措置や防塵対策技術が講じられることはなかった。そのためORDが世界中に蔓延する結果となったのである。
職業性呼吸器疾患は現在も作業関連疾病全体の15-30%とかなりの割合を占める。特に職業性の喘息が、過去10年で着実に増えている。われわれが推測するところでは、毎日数百万人の労働者が産業や農業で汚染された空気にさらさ?れ、高度障害や重病に陥る危険がある。すべての職業病のうち、永続的な就労不能や早過ぎる死を招く最も重要な原因が職業性の肺疾患である。政府、産業、安全衛生専門家らがあらゆる努力を傾けているにもかかわらず、毎年新たに数百万件が発生している。しかもその多くは、国内の労働安全衛生インフラが限られた予防能力しか持たないため、診断されないままであったり報告されなかったりする。
職業性肺疾患は労働者本人とその家族を苦しめることはもとより、病気欠勤、労働時間の損失、障害、補償給付、そして質の高い労働の損失などの形で国家経済や労災補償制度の上に重くのしかかる。病気になった労働者当人の苦痛をできるだけ減らし、また経済コストを減らすためにも、もっと多くの努力が必要である。
仕事で線維形成性の粉塵(肺にダメージを与えて線維症を引き起こす粉塵)にさらされ、結果、塵肺症という肺疾患に罹る問題は、国レベルでも国際レベルでも長期にわたって懸念されてきた問題である。すべての職業性肺疾患のなかで珪肺症、石綿症、それに石炭労働者の塵肺症などが最も広範囲なうえに治癒しにくく、就労不能を起こしやすい。この中では恐らく珪肺症が最も古く、また世界中に最も蔓延しているのもこの珪肺症である。国際がん研究機関の分類によれば(注7)、仕事中に吸い込むシリカ(2酸化ケイ素)は発癌性物質(グループ1)と認識されている。アスベスト繊維が引き起こす病気も、最も深刻でコストのかかる職業病の一つである。西ヨーロッパ、北米、日本、オーストラリアなどの工業先進国で、毎年、アスベスト原因の肺ガンが2万件、中皮腫(別のタイプのガン)が1万件発生していると推測される。これまで40年以上にわたって防塵対策や健康診断が実施されてきた先進国では、塵肺症は大幅に減少した。しかし相変わらず新たな発生が報告されている。
すべてのOECD諸国で、ORD防止、特に珪肺症やその他塵肺症に的を絞った国内活動が行われている。これまで、アメリカの職業安全衛生局(OSHA)や国立安全衛生研究所(NIOSH)、イギリスの英国安全衛生庁(HSE)など多くの国立の専門機関が珪肺症撲滅の戦略、技術資料、文献などの開発に当たってきた。これらは他の国々が自国のプログラムを開発する際のモデルになる。フィンランド、スウェーデン、スイスは、数十年のたゆまぬ努力を経て、珪肺症の撲滅に成功した。しかしこの成功も粉塵対策の継続があってこそ長続きする、とこれらの国の専門家は指摘する。
途上国や市場経済移行国の場合、先進国に比べて問題はもっと深刻だ。これらの国では共通して数千万の労働者が建設や鉱山といった第一次産業に従事していて、塵肺症や珪肺症へと発展する危険を抱えているからである。2つ例を挙げる。ラテンアメリカでは鉱山労働者の37%が珪肺症で、50歳以上では50%に達する。インドでは石筆労働者の54.6%、石切工の36.2%が珪肺症患者である。これらの国では、今後20-30年の間に今度はアスベストが健康を脅かす「時限爆弾」になると危惧されている。
職業病全体についても言えることであるが、職業性呼吸器疾患の発生と分布について信頼できる世界統計をまとめるのは難しい。大多数の国で報告制度がなく、また報告の標準化がなされていなかったりするからである。他にも、特に途上国で常習的に過小報告される理由として、労働災害や職業病の記録・届出制度がないか、効果的に機能していないことがある。また労働者の大半がインフォーマル経済で働いており、当然のことながらほとんどデータがないという事情もある。
多くの国で、用いられている技術や方法が旧式で、それ自体が危険であることも少なくない。また防塵対策は不十分だし、吸気に適した粉塵濃度が一般に容認されている限度より高いケースも多い。労働者の健康診断制度は効果的に機能していないか、全く存在しない。防止を阻む最も大きな壁として、線維形成性の粉塵にさらされている労働者のかなりの割合が小規模産業に雇用されていること、特に途上国ではしばしば防止努力の枠外に置かれている点などが挙げられる。
防止能力の差はさまざまな実態に現れている。たとえば、制度上でも企業レベルにおいても問題に対する全般的な意識が低く、適切な情報がない。適切な教育が施されておらず、教育や安全衛生情報を中小企業の経営者やそこで粉塵にさらされている労働者に提供するのが困難である。きちっとした規制のないことが多く、仮にあっても、効果的に実施されていない。旧式な技術が使われている場合、危険はもっと増大するにもかかわらず、資源はほとんどが粉塵の防止よりも暴露結果への対応に当てられている。しかし、予防の第一歩として粉塵の発生を技術的に抑えたり防護用具を労働者に配ることは可能である。途上国では、防止対策向けの資金、あ?るいはもっと清潔な生産工程を採用するための資金が全般的に不足している。
ILOの職業性呼吸器疾患への取り組みは長く、歴史は1930年に南アフリカのヨハネスブルグで開かれた「第1 回珪肺症国際会議」にまで遡る。ILOのORDプログラムはこれとほぼ同時期に確立された。「職業性呼吸器疾患に関する第10回国際会議(10th ICORD)」は2005年に中国の北京で開催される(注8)。
上述の諸問題に応えるべく国際社会は、世界中の職業性呼吸器疾患を防止するための包括的な「テクニカル・ツールボックス」を開発してきた。ここでそのツールのいくつかを紹介する。
1990年代、ILOとWHOは、OSHの専門家、使用者団体、労働者組織など国の意思決定機関を対象に、意識高揚のワークショップを実施した。目的は、各国がORDを防止し珪肺症撲滅計画を立案できるよう支援することに置かれた。ILOが開発した特別教育プログラムにILOの「塵肺症のレントゲン検査に関する国際分類」を使ったプログラムがある。塵肺症の早期発見を目指す途上国の専門家がその実践的技術を向上させるうえで大きく貢献している。このプログラムには途上国と先進国の専門家らが参加している。
さらにILOとWHOの合同プログラムに「珪肺症撲滅のためのグローバルプログラム(GPES)」がある。1995年に、労働安全に関するILO/WHO合同委員会の発案でスタートした。GPESは、珪肺症に取り組む各国の活動を支援する技術協力プログラムで、世界が抱える安全衛生問題として珪肺症と闘い根絶していこうとする各国の活動を支援する。またGPESは、珪肺症その他関連のORDの根絶に役立つ知識、専門的技能、教訓、好事例などの交換を強化し促進するための枠組みを提供する。
GPESの枠組みに基づく行動として、先ず、国と国、政府間機関どうし、使用者団体と労働者組織のあいだ、そして非政府の専門機関どうしで長期の協力関係を築く。次に「国家行動計画」の開発を進め、「国家プログラム」の策定と実施を目指す。最終的には、珪肺症の根絶に的を絞ったプログラムに着手・実施していく上で必要な技術援助を、各国に提供する。
GPESは急速に成果を上げている。中国、ブラジル、インド、タイ、ベトナムでは国家行動計画が開発されて国家プログラムの実施も始まった。また、中国、インドネシア、ブラジル、チリ、メキシコ、トルコ、レバノン、ロシア、ポーランド、ウクライナ、セネガル、南アフリカ、ブルキナファソでは国の啓蒙キャンペーンが進行中である。他にも多くの途上国がGPESへの参加をはじめ、ILOの技術協力援助による前向きな経験に強い関心を示している。
政府には、職業性呼吸器疾患を効果的に減少させて最終的な撲滅に至るための国家政策や行動を推進していく重要な役割がある。目的達成の要となる戦略は、すべてのレベルで安全文化を促進し実施することである。達成に向けて法律をつくり、さらにそれを効果的に実施しなければならない。そのための労働安全実務や労働監督制度に課せられた責任は重く、従って適切な教育と併せて、十分な人的・財政的資源の投入が必要である。
労働安全業務や労働監督業務を司る政府機関は、政策の促進と危険への取り組みに対する社会的パートナーの支持を取り付けるためにも、使用者団体や労働者組織と連携すべきである。連携をして該当する部門にできるだけ広く危険を知らせ、病気の削減と最終的な撲滅を果たすために可能な限りの防止対策を講じるよう奨励していかねばならない。
科学と技術の進歩によって、職業性呼吸器疾患は最も防止しやすい病気の一つになった。フィンランド、スウェーデン、スイスといった一部の国では珪肺症の完全撲滅に成功している。これらの国で実施されたプログラムを、労働環境から危険な粉塵を閉め出し人体への脅威を除去するためのグローバル戦略のモデルとして活用していくことができる。
危険物質の吸入は、労働環境で遭遇するたくさんの危険の一つに過ぎない。たくさんの問題に対応するのは国の労働安全衛生機関であるが、各機関の間でうまく調整が取れていないことが多い。「労働安全に関するWHOグローバル戦略」、もっと最近ではOSHへの統合的アプローチに関するILO総会決議(2003年6月)で勧告されているとおり、職業性呼吸器疾患をうまく防止していくための一貫したアプローチは、労働安全システムも含めた国のOSHインフラを強化するという全体的な枠組みのなかで発展させていかねばならない。国の安全衛生プログラムの間でうまく調整を図りながら、珪肺症の根絶に向けた行動計画の策定を最優先にすべきである。そして、効果的な安全文化づくりに寄与するために職業安全衛生に関するILOの国際基準(注9)を促進することも併行させなくてはならない。
| 注1) | 次のウェブサイトに掲載している。 http://www.ilo.org/public/english/protection/safework/managmnt/index.htm |
| 注2) | 英語、スペイン語、フランス語、中国語、ロシア語 |
| 注3) | この刊行物の正式名称は"Workplace violence in services sectors
and measures to combat this phenomenon"。次のウェブサイトに掲載している。 http://www.ilo.org/public/english/dialogue/sector/techmeet/mevsws03/mevsws-cp.pdf |
| 注4) | 行動規範は、政労使三者の審議により作成された文書であり、指針となるものである。条約・勧告と違い、批准手続や法的拘束力を伴わない。この行動規範は文言上公務部門における職場の暴力のみを扱っているが、その指針の多くはあらゆる職場において適切なものである。 |
| 注5) | 詳細は、次のウェブサイト参照。 http://www.ilo.org/public/english/protection/safework/whpwb/solve/index.htm |
| 注6) | Rodgers K.A. and Chappell D.(2003) Preventing and responding to workplace violence, ILO: Geneva |
| 注7) | IARC Monograph: Silica, Some silicates, Coal Dust and para-Aramid Fibrils (Vol.68), 1997 |
| 注8) | http://www.icord2005.com |
| 注9) | 特に、1974年の職業がん条約(第139号)、1981年の職業上の安全及び健康に関する条約(第155号)、1985年の職業衛生機関条約(第161号)、1986年の石綿条約(第162号)並びにこれらの条約に付随する勧告及び関連する行動規範・ガイドライン |