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2004 World Day for Safety and Health at Work emblem

仕事における安全・健康文化

ILO労働安全衛生マネジメントシステム・ガイドライン
(ILO-OSH 2001)

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世界における労働安全衛生管理の新たな潮流

ILO労働安全衛生専門家  町田静治

◇ 労働安全衛生マネジメントシステム(ILO-OSH 2001)

 1990年代から、国際標準化機構(ISO)品質マネジメントシステム(ISO9000シリーズ)及び環境マネジメントシステム(ISO14000シリーズ)が世界各国で脚光を浴びてきています。こうした中、ISOによる労働安全衛生マネジメントシステム(OSH−MS/OHS−MS)の標準化に関するワークショップが1996年にジュネーブで開催され、ISOではなく政労使三者構成のILOによる国際文書の策定が望ましいとする意見が 大勢を占めました。これを受けて、ILOは各国でのOSH−MSの取り組みについて調査等を踏まえ、原案を策定し、2001年4月に開催された三者構成専門家会議で労働安全衛生マネジメントシステム・ガイドライン(ILO-OSH 2001)を採択しました。 ガイドラインはその後、ILO理事会による出版承認を経て2001年12月に出版されました。この日本語版は中央労働災害防止協会から出版されています(英語PDF版はオンラインでご覧になれます)。

 一方、ISOでも1999年末に独自の標準を策定するための技術委員会設置の提案がなされメンバーによる投票が行われましたが、世界各国の労使団体の反対にあい、多くのメンバーが反対投票をする結果となり実現には至っていません。

◇「PDCA」手法でレベルアップ

 ILOのガイドラインは、第1章「目的」、第2章「国のOSH−MS推進のための枠組み」、第3章「事業場のOSH−MS」の3章からなっています。まず、第1章では「危険有害要因及びリスクからの労働者の保護や労働災害の根絶等に寄与する こと」、「国レベルでのOSH−MSの枠組みの確立に使用されること」、「事業場のOSH−MSの各要素についての手引きを提供すること」などを目的として明示しています。第2章ではOSH−MS推進の中心となる権限ある機関の指定、政労使三者協議に基づく国の方針の策定、国レベルでの枠組みの構築をあげています。第3章 では、事業場におけるOSH−MSの要素を示し、その構築と実施について述べています。まず前文で、労働安全衛生の確保は、使用者の責任であり、使用者は、事業場 における安全衛生活動に強力なリーダーシップを示すとともに、OSH−MS確立のための適切な仕組みづくりを行うべきことを強調しています。このILOガイドライ ンの示すOSH−MSは、既存の多くのマネジメントシステムと同様に「計画・実施・評価・改善(PDCA)」を基本概念としており、重要な点としては安全衛生方針の 策定から継続的改善に至るまで労働者の積極的参加、リスクアセスメント、システム監査などがあげられます。

◇ ヨーロッパでの取り組み―規制から自己責任へ

 1980年代からその活用を推進してきたイギリスのように、多くの国々でOSH−M Sの導入が推進されてきました。イギリス安全衛生庁(HSE)は1991年に、OSH−MSのガイド "Successful health and safety management"を出版しています が、これは後に策定されたBS 8800のベースとして使われています。HSEのマネジメントシステムの考え方のベースは、1972年のローベンスレポートに遡ることができ ます。このレポートでは、労働に係るリスクはそれを創造する者(事業者)とリスクの中で働く者(労働者)によって管理されなければならないとの基本原則を述べると ともに、事故後の原因除去に依存するのではなく、体系的防止対策の重要性を指摘しています。体系的災害防止対策とは、職場におけるハザード(危険要因)を特定し、 それによるリスクをコントロール(最少化)することであり、こうした思想はヨーロッパにおける重大災害(インドのボパールで1984年に起きた化学物質漏洩事故のような 公衆を巻き込むような大災害)防止のためのセベソ指令にも反映されています。このアプローチはILOが1993年に採択した大規模産業災害防止条約(第174号)でも取り入れられています。

 最近の欧米における規制では、事業者によるリスクアセスメントと管理の原則が前 面に出てきています。そして、事業者にとっては管理手段の選択の自由度が増す反面、結果としての安全衛生を確保しなければならない責任がより重くなっています。また、プロセスや活動の透明化、責任の明確化及びアカウンタビリティーが求められており、OSH−MSの構築が不可欠となってきています。こうした中、ノルウェー、スウェー デンではリスクアセスメントを核とする8項目からなるOSH−MSの構築を1991年から法令をもって全事業場に義務づけています。これは国の安全衛生対策の大きな転 換を図ったものであり、労働安全衛生監督官の役割をも大きく変える結果となっています。特に中小企業に対しては根気強い指導と時間を要し、10年を経過する現在でも マネジメントシステムの導入と実施は進行中で、望ましい結果を出している企業はまだ限られているようですが、注目に値する取り組みといえます。

◇ アジアでの取り組み―OSH−MSの積極的活用

 OSH−MSについては、ヨーロッパだけでなく、実はアジアでもシンガポール、タイ、インドネシアなどが日本より早く法令化・標準化しています。ILOガイドラインは既に、日本語、中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語、マレー語、ヒンズー語に翻訳されていることから分かるように、アジア各国で高い関心を集めています。特に、中国では国家労働安全局が2001年12月にいち早くILOガイドラインの翻訳版を公式のガイドラインとして示すとともに、認証のためのシステムを策定しています。2003年末現在、63の認証機関が存在し、1,450の企業がOSH−MS適合認証を取 得しています。また、すでに中国全土で6,522人の外部監査員と5万人の内部鑑査員が養成されています。ILOもアジアにおいて、2001年にアジア地域セミナーを開催したほか、インド、中国、ベトナム、タイにおいて政労使三者構成のワークショップを開催するなど、各国において実際的な取り組みに協力をしてきています。

◇ 日本的アプローチ―災害ゼロからリスクゼロへ

1992〜93年に行われた前述の第174号条約の審議過程における日本の主張は、日本では様々な法律・規則によりボパール型の災害防止対策が十分とられているので条約案が要求している新たなアプローチは必要ないというものでした。確かに、日本では法令が主要な防止対策を定めており、多くの事業場がそれを遵守しているため、かなりの安全レベルは確保されていたと思われます。しかしながら、リスクアセスメントを核とするシステマティックな安全衛生管理の必要性を否定する理由にはなりません。また角度を変えてみれば、いわゆる日本的アプローチは、法令がある程度詳細な対策を定めているので、事業者にとってはリスクアセスメントをせずにすみ、ある程度の規模の事業場ではその実施は比較的容易、あるいは対策樹立に際し苦慮しないですむといったメリットがあると言えます。しかし、最近日本でもOSH−MSが注目されているように、全般的に災害率が減少している中、さらに高いレベルの安全衛生水準 を確保するにはよりシステマティックなアプローチが必要となっています。その際、4S(整理、整頓、清掃、清潔)、5S(4S+躾)、KYT(危険予知訓練)といった優れた日本の手法も有効に活用していくべきことは言うまでもありません。

◇安全衛生分野での日本への期待と役割

 経済のグローバル化が進む中、日本の企業もアジアをはじめ多くの国々へ生産拠点を移しています。アジアでの日系企業の安全衛生活動・対策について現地から聞く評判は、必ずしも芳しいものばかりとは言えません。例えば、現地の日本人管理者が日本の同種工場と比べ安全衛生水準がはるかに遅れていると認識していながら、現地法人のトップに対して何らの助言もしていないという例もあるようです。いずれにしても、企業の見識が疑われるとともに企業の存続にも影響を与えかねません。すべての日系企業が、操業する国にかかわらず企業トップのリーダーシップと全労働者の積極 的参加の下、OSH−MSを構築し、高い安全衛生水準を品質、環境とあわせて確保する努力を続けることが望まれます。



最終更新日:2005年1月7日 作成者:SM 責任者:TT